当方小五ロリ   作:真暇 日間

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25 私はこうして閻魔を攫う

 

 永夜異変の犯人たちからの話を聞き終えた。となれば次の異変の首謀者を探すことになるのだが……その『次の異変』とはそもそも異変ではない。

 幻想郷中の花が季節を無視して狂い咲いた異変ということになっているのだが、私はこのことについて幻想郷の閻魔から話を聞いていた。

 曰く、およそ六十年ごとに起きる魂の増加による自然現象であり、異変ではない。原因は不明だが、死神たちがしっかりと溢れた霊魂を回収してくれば原因となる霊魂の憑依が解かれて元通りになるという。

 ただし、その年のそれ以降の花は諦めた方がいい。無理矢理に咲かされた花に英気を養わせるために、一年くらいは時間を置いておいた方がいいそうだ。

 

「……と言う訳で、年がら年中仕事ばかりで休みを取ろうとせず、上から『いい加減有給使ってください四季さん、地獄の人事課に毎度毎度文句言われてるのは私なんですからね』と言われていたにもかかわらず、仕事に精を出そうと仕事場に出ようとしていた四季映姫さんを攫ってきました」

「……」

「え? 解きませんよ? 解いたら逃げてしまうでしょう? 小町さんからも『有給取らせないとまずいって上からも言われてるのに休まないんで何とか休ませることってできませんかね?』と頼まれているのです。それに、もう小町さんからあなたの有給の申請書類も提出され、受理されています。諦めて休んでください」

「……!」

「しっかりと休んでいただけるならば」

「……………………」

「はい、それでは解きますね」

 

 私は目の前にいる幻想郷の閻魔……四季映姫の猿轡を外す。動けず、しゃべることもできない状態での誘拐であったが、実力を考えればこうして縛り上げておいたところでその気になれば簡単に逃げられるはず。それをしないのは、自分が休みを取らなさ過ぎたことが原因でこうなっているという自覚が負い目となっているからだろう。

 

「……で、いつになったら縄は解かれるのです?」

「ああ、この縄にグレイプニィルを概念ごと『想起』したせいで切れない上に、堅結びのまま暴れるものですから結び目が締まって取れなく……」

「なんという無茶を……と言うか先ほどから体に力が入らないのはそのせいですか」

「恐らくは。四季さんの実力を鑑みた結果、このくらいは用意しなければだめだろうと思いまして。用意させていただきました」

「……なら、その『想起』を切れば元に戻るのでは?」

「概念という形で世界に認識させた以上、それはグレイプニィルの贋作であり本物であります。勿論伝承に沿った作り方などしていないただの縄に概念をくっつけただけの簡単な物なのでそこまで力は出ないと思いますが、仏であると同時に神としての一面も持つ四季さんには余計に効果が出たのかもしれませんね。本来これで捕らえるべきフェンリルも悪神とはいえ神の子であり神気を持つ者。まあ、獣でない分十全な効果は発揮しないでしょうし、性別も違いますから……はい、解けました」

「……」

 

 四季映姫は無言で立ち上がると、乱れた服装を整える。『白黒はっきりつける程度の能力』を使って皺がない状態を白として服についてしまっていた皺を消し、帽子を被ってしまえばいつもとほとんど変わらない四季さんの姿がそこに出来上がる。

 

「……それで、なぜこんなところにまで私を連れてきたのです?」

「簡単な話ですよ。小町さんに『四季様がまた頑張りすぎてるからあのかったい石頭がトロトロになるくらい癒してやってほしい』と頼まれましてね。そうするなら地霊殿にご招待した方が効率的だと思いまして、誘拐ついでに招待させていただきました。今日はたっぷりと癒させてもらいますよ。私もあの花の咲き乱れる異変扱いされた自然現象の時の話を聞き終えていませんから、その話を聞くのと並行してですけどね」

 

 私がにっこりと笑顔の形を作ると、四季さんは不審そうな顔で私を睨む。

 

「……では、その手は何ですか」

「私の手です」

「それは見ればわかります。なぜ奇妙にワキワキさせているのですか」

「まず地霊殿の湯殿で疲れを流していただきます。それからしっかりと食事をとっていただき、身体から必要無い物を全て排除します」

「ちょっ……なんで私がそんなことを……!?」

「小町さんから聞いていますし、心を読めばわかりますよ、四季さん。最近仕事漬けで、ここ三か月で取った睡眠時間がほんの二時間程度。ずっと机に向かっているせいで運動不足で足もむくみ、食事も一日に一回しかとらないせいで体重も身長から見た健康体の最低値を大きく下回り、その食事も栄養剤のようなものを水で流し込むだけという生活をしているそうではないですか。いくら閻魔であろうと、地蔵菩薩であろうと、死ぬ時は死にますよ? 地獄にいる限りは簡単に蘇るのでしょうが、それが良くないと言うことは貴女が一番よくご存じでしょう? ご存じないわけないですよね?」

「ぐぬぬ……」

「なにがぐぬぬですか。反論できないならさっさと服を変えますよ。湯浴み着は必要ですか? 必要ないならこのまま全部剥いて―――」

「ちょっと待ちなさい!なんで人間とそう変わらない力しか出せないはずの貴女がここまで……?!」

「グレイプニィルが手首足首の動きを阻害しないように輪のようになってくっついているせいでは?」

「解くと言っていませんでしたか!?」

「解いた後にもう一度縛らないとは言った覚えがありません。それに動きは阻害されていないはずです。観念して全身磨かれるといいですよ」

「わかりました!わかりましたから自分でやらせてください!」

 

 初めからそう言ってくれればよかったのに、と言う言葉はこっそりと内に秘めておき、私と変わらず人間の少女とそう変わらない程度の力しか出せなくなってしまった四季さんの手を引いて温泉に向かう。まずは彼女の身体をほぐすところから始めなければ……。

 

 

 

 ■

 

 

 

 まずはお風呂。熱め(人間基準)のお風呂でがっちりと固まった身体を解しておく。裁判官として身なりは整えておかなければいけないからしっかりと汚れは落としていたようだけれど、疲れまでは落とせていない。髪を洗ったり身体を磨いたりするのを手伝い、湯船に肩まで浸かってもらう。

 お風呂から上がったらマッサージ。時間だけは有り余っていたから覚えてみたこれだが、どうやら四季さんは本当に身体が全体的に疲れていたらしく足裏マッサージで何度も悲鳴を上げるほど痛がっていた。ちなみに私はそういったことはない。健康第一ですからね。

 しばらくマッサージを続けていくと悲鳴が上がることも少なくなり、揉む場所も足裏から少しずつ上がって足首、ふくらはぎ、太ももまで登っていく。そのころになると四季さんもすっかり力が抜けてよだれをこぼしながら眠ってしまっていた。              パシャリ

 眠ってしまったのは仕方がないので眠っている間にお尻から腰、背中、肩、首まで解し、腕の筋肉も同じように。場所によっては押すばかりでなく掌の全体を使って掴むようにしてみたりすることもあってマッサージと言うのは本格的にやろうとすると結構疲れるものだ。

 けれどそうやった甲斐はあるようで、四季さんの身体はしっかりと解されていた。これで起きた時には疲れもしっかりと飛んでいるだろう。

 

 勿論それだけでは終わらない。四季さんが眠っている間にご飯の準備をしてしまう。

 お米は炊き上がっているし、おかずも下拵えは済んでいる。あとは実際に調理すれば出来上がると言うところまで進めてあるので時間はかかっても30分といったところだろう。

 四季さんの身体に触れ、記憶を読んだところ30分程度では起きることはないだろうと予測。暖かい方がおいしい料理と冷めてからの方がおいしい料理とがあるが、これなら両方作ることができそうだ。

 ……しかし、普通に移動させるだけならともかく料理で他人の身体を使うのは少し大変だ。私の身体とは大きさや長さが違うから距離感が掴みにくいし、動かそうと思うのと実際に動かすのとの間にどうしてもタイムラグができてしまうから、もし誰かと戦うことがあってもこの方法は使えなさそうだ。

 

 料理を終えたら某メイドさんから能力を借りて料理の時間だけを止めてもらう。そうすることで作り立てで熱々の料理を食べてもらえる。お空やお燐をはじめとするペット達のご飯も作って運ばせると、そこに残るのは私の分と四季さんの分、そして帰ってくるかもしれないこいしの分しか残っていない。のだけれど、それでいい。必要以上に作ってダメにするよりは。

 

「……しかし、起きませんね。よほど疲れが溜まっていたのでしょうか」

 

 四季さんの頭を膝に乗せ、最近地上で買ってきた竹ひごで作られた耳かき(新品)で四季さんの耳の中まで綺麗にしてしまう。お風呂で綺麗にしたつもりになっても、やはり少しは残ってしまうものだ。

 耳かきがたてるかすかな音。それだけがこの部屋に響いていt

 

「うにゅにゅ……こまちもできるではないですか……にゅふふ」

「……」                                     ●Rec

 

 ……まあ、仲が良いのは知っていましたしね。構いませんとも。

 さて、あとは梵天で耳の中に残ってしまったものを優しく払い、耳の外側を微かに湿った柔らかな布で拭き上げればそれでおしまい、と。寝ている方なので、息を吹きかけたりはしませんよ。

 では次は逆の耳、と。

 

 ……しかし、本当に起きませんね。ぐっすりです。

 




 
 さとりんの耳かきCDを発見してしまったのが原因。だから俺は悪くねぇ!

 ちなみにこの後、さとりんは無意識で寄ってきたこいしにも耳かきをしてあげたようです。
 しかし、映姫さまは起きない、と。

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