当方小五ロリ   作:真暇 日間

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 ちょっと短め


28 私はこうして門を叩く

 

 守矢神社での話は済んだ。色々と面倒な話し合いであると同時に、なかなかに面白い時間でもあった。

 少なくとも現状私が洩矢に敵意は抱いていないと言うことを理解してもらえたし、最後にはお土産も渡すことができた。危険な相手であると言う認識を全て覆すことはできなかったけれど、それでもああいったやり取りに面白味を覚えてくれる程度には近い存在になれたようだ。

 とりあえず、洩矢の祟り神と軍神が今すぐ本気で殺しにかかってくることは無いだろう。軍神の方は来るかもしれないが、祟り神の方が押さえようとするだろう。それでも来たなら……ちょっと私の事を忘れてもらう。深い深いトラウマと私の存在を密接に絡み付ければできなくはないし、そこまでのトラウマがなければ作ればいい。

 幸い、あの建御名方と言う神はかつて日本神話の天津神において最強の武神と呼ばれ、同時に海の守護神、雷の神、剣の神と言う複数の面を持つ建御雷神に両腕を切り落とされたと言う逸話がある。

 それをどうにか私の記憶と繋げれば記憶を封じることができる。どう繋げるかは私次第、と。

 

 ……まあ、今はいい。次に行くべきなのは……命蓮寺だ。

 実際には博麗神社を潰した天人の異変があるのだが、私のような妖怪が天界に行ったら間違いなく面倒すぎることになる。そんなところに行くつもりはないし、天界まで行くとなると時間がかかりすぎる。何日も連続して地霊殿を空けることはできない。色々と不安すぎる。主にお空とその中にいる太陽の化身が。

 そんなわけで天界には行かない。向かう先はさっきも言った通りに命蓮寺。できたばかりのお寺なのだから、お土産を持っていったところでおかしいことは何もないだろう。

 この事については私は間違っていない。その自信がある。私は間違っていない。

 

 ……さて、寺と言えば基本的に生臭物は持っていってはいけないはず。本当なら『自分達のために殺された肉を食べてはいけない』や『殺された所を見た肉を口にしてはいけない』と言うように決まり事さえ守れば肉を食べようが魚を食べようが問題ないのだが、その辺りの事をあの魔法使いの尼僧がどう感じているのかわからないので控えておこう。

 そう言う訳で今回持っていく物はお米にしておく。植物類なら問題なく食べることができるはずだし、お米は大体どんな存在でも食べられるものだ。人気のある寺に持って行くのはちょっと気が引けなくもないが、問題になるわけでもないし構わないだろう。

 そう言うことで、命蓮寺に向かう。距離としては結構遠いので、歩くのではなく飛行して。作られたばかりなので道を知っているものもあまり多くないけれど、そこに住んでいる方の記憶を探れば大体の位置は把握できる。

 人里からあまり離れた場所ではない。博麗神社に比べて近い場所にあり、これなら博麗神社に向かう人間たちをこちらに集中させることができるだろう。中々に考えられている。

 ……本人にはそんな考えは全くないのだろうが、事実としてそうなってしまっているのだからそう言われても仕方ないだろう。私だって凶悪だなんだと言われれば『違う』と返すが、多くの存在にそう思われ、そう感じられているという事実自体を否定することはしないし、幽香さんだってそれは同じ。否定するもしないも本人たち次第だということになる。

 否定したところでそれまでの認識が一度に変わることはないのだから、まずは態度でゆっくりと噂や思い込みではない私自身を認識していってもらうことにする。私が自分でまずできることと言えば、それくらいしかない。

 さあ、今日も頑張っていこう。

 

 

 

 ■

 

 

 

 命蓮寺に暮らす正体不明の妖怪、封獣ぬえは突然背筋に走った寒気に身体を抱え込んだ。土間の方では料理の支度をしていた一輪が同じように突然の恐怖感に身を丸くしている。

 

「ちょっと、二人ともどうしたのさ!?」

 

 船幽霊、村紗水蜜がそう問いかけるが、ぬえにも一輪にもそれに返答するだけの気力がない。一瞬にして気力も意思も根こそぎ消し飛ばされてしまっていた。

 

「だ……だい、じょうぶ。ちょっと、いやなよかんがした……だけ……」

「いやいやいやいやそんな真っ青通り越してもはや青黒い顔で『大丈夫』とか言われてもそれ絶対大丈夫じゃないし信用できないからね!?」

「で、でも―――」

「でもじゃない!ほら、二人とも今日は休んで!食事は私が代わりに作っとくから!」

「でも……」

「いいから休めっ!雲山!この二人運んで寝かせといて!」

「――――――!」

 

 雲山に軽々と運ばれる二人。どうやら暴れる余裕もないようで、ぐったりとしたまま運ばれていく。

 そんな二人を見送り、村紗は土間で一輪が途中まで進めていた料理の準備を見て作りたかっただろう物を予想して代わりに進めていく。

 船幽霊として、多くの船に乗っていた船乗りたちを海に沈めてきた彼女は、その船乗りたちの記憶も僅かにではあるが持っている。その記憶の中から自分に作れるものを材料から料理へと変えていく。

 結果として一輪が作りたかっただろう料理からは外れてしまっただろうが、それでも一輪の用意した材料を無駄なく使いきることはできた。

 調理が終わると村紗は包丁やまな板などの調理器具を水で洗う。腐ったり錆びたりしたら大変だし、先に済ませておけば後で楽ができることをよく知っているからでもある。

 それが終わって一息ついたところで、村紗は先程の二人の様子を思い出した。

 

 どちらも身体を丸め、ガタガタと全身を震わせていた。

 まるで絶対的な捕食者に恐怖する被捕食者のように。目の前にある不可避の絶望から目を背けようとする子供のように。絶対強者に襲われないようにと身を隠す小さな虫けらのように。どちらもそれなり以上の実力者であるはずのあの二人が、全く同時にああなってしまっていた。

 

 何か原因があるのかもしれない。けれど、その原因がわからない。あの二人以外に何かを感じ取った者はおらず、残りの全員が何でもないようにいつも通りの生活を続けている。彼女たちより力の弱い妖怪もいるこの命蓮寺で、彼女たちだけが怯える理由。村紗にはそれが見当もつかないでいた。

 しかし、朝食時にその話を聞かせたナズーリンにはその原因が理解できるようだった。彼女たちにのみ共通する何か。それの正体を知っていたのは、ナズーリンだけであったからだ。

 聖が知るのは片方のみ。一輪のことを操っていたと思われる妖怪のこと。しかし彼女はぬえも同じように操られていたということを知らないし、ナズーリンも聖には話していない。

 だからこそ、彼女たちの認識には大きな差異があった。

 

 ナズーリンは考える。『古明地さとりと言うやつがどれだけ危険な奴なのかはわからないが、この場所に近づけることは避けなければならない』。

 聖白蓮は考える。『古明地さとりと言う相手のことはわからない。一度会って話をしてみたい』。

 村紗水蜜は考える。『よくわかんないけど、原因が誰かわかったらとっちめてやんないとね』。

 

 三者三様の思考。これがいったいどのような結果を生むのかは、まだ誰も知らない。

 だが、その結果の可能性を誰よりも多く認識しているのは―――

 

 とんとん

 

「朝早くに申し訳ありません」

 

 ―――今、命蓮寺の門前で門を叩いている、小さな小さな大妖怪である。そのことだけは確かであった。

 

 


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