当方小五ロリ   作:真暇 日間

48 / 129
 
 更新が遅くなりましたことをここにお詫び申し上げます。ちょっと眠気で死にそうだったので。


31.6 私はこうして対策を立てる ○

 

 さて、ちょっとした仕返しは済んだ。けれど、次はこのようなことが起きないように攻勢防御を作っておくのは悪いことではないでしょう。

 博麗の巫女や守矢の風祝は異変の解決に赴くことが多いのでここに来た時に強制的に追い返すというのはあまりよろしくない。できれば話し合いの上で、穏便に帰って行ってもらいたい。

 対策する相手はほぼ決まっている。地上で最も有名な泥棒。『死ぬまで借りていくZE☆』と言う言葉が決め台詞の、白黒の泥棒。この地霊殿にはいろいろなものがあるということを彼女は知ってしまっているし、もしかしたらここにまで色々な物を『借り』にくるかもしれない。そうされると本当に困るものもあるのだけれど……そうならないために何か考えておかなければならない。

 

 …………無名祭祀書と屍食教典儀、水神クタアトの写本でも作って本棚に適当に入れておけば勝手に気付いて勝手に覗いて勝手に帰って行くだろう。人間としてどうなってからかは知らないが。

 廃人になったりする前に読むのを辞めるなり本を閉じるなり他の魔女に助けを求めに行くなりするだろう。本当に廃人となってしまったら……それは私の責任ではない。危険物の場所に入れておくつもりだし、読んではいけないと言う注意書きも張り付けておけばそれを読んで起きた何らかの出来事は私の責任下から離れることだろう。と言うか、そんな馬鹿のやることにまで責任を取りたくはない。私は苦労人である自覚はあるけれど、できる限りの予防線は張っておくタイプだ。

 こいしが見ることのできないようにちゃんと封印を仕掛けておくようにするし、その封印は博麗の巫女に頼んでおくつもりでもある。封印や結界に関してはやはり博麗の巫女に頼むのが一番だ。次点は八雲紫。

 

 さて、そういうことで今日から私は頭の中に存在する魔導書の写本を始める。人間の鞣し革で作った本に怨念に塗れた人の血で書くのがいいとされているが、私はそんな猟奇的な本を作るつもりはさらさらない。精々人の血液が燃え上がって雲となり、地に降り注いで沼となった場所に生えた地獄の霊樹で作った紙を、地獄の炎ですら焼き尽くすことができなかったらしい人間の髪で装飾し、怨霊となった幽霊から搾り取った霊力をたっぷりと込めた朱墨で書き上げるくらいのものだ。

 結果的に相当猟奇的なものになってしまいそうだ……と言うか、霊樹を紙にした時点で薄黒い染みが浮き出したし、燃え残った髪と爪はまるで初めからその形であったかのように表紙に縫い込まれ、朱墨は血のように赤黒くなってしまったけれど……これはあくまでも材料が悪いのであって私が悪いわけではない。

 そんな猟奇的な本など持って行くこともないだろうけれど、それでも『そういう危なっかしすぎる本が存在する』と言う点だけでも警戒させる材料くらいにはなるだろう。

 ……あの白黒魔法使いがそれに気付くことができれば、だが。

 

 それではこれより、製作に入る。本を自作するのは大変だし、持って行かれるわけにはいかない、と言うか持って行けないような本を作る以上それなり以上に頑丈で力のある本を作らなければいけない。

 『無銘祭祀書』では、手に取った瞬間に奇妙な儀式を行う異形の怪物どもの姿を。『屍食教典儀』では、自身が友人の死肉を貪り食らい、その死体を犯している姿を。『水神クタアト』では、自らの肉体をその存在の召喚材料にして途中で息絶え、今でも完成させるために他者を引き込もうとするナニカの姿を。それぞれ幻覚として見てもらうことにしよう。力があるということを示すためにこうして『持ち主にまで害を与える』系統の呪いのようなものは有名だし、私がその気になって作ればよほど上手な防壁でも張らなければ逃れることはできなくなる。問題はその『よほど』以上の腕を持っていそうな魔法使いがこの幻想郷に何人か居そうだと言うことなのだけれど……それはそれ。実際に読もうとするとさらに強烈になるようにしておけば問題はない。殺意を満載にしておきましょう。

 ……たまには私だって、苛々することくらいある。そういった時などの憂さ晴らしにはちょうどいい。感情はすべてこの本にぶつけ、私自身には残さない。昔はそういった対象がなかったため、夢で色々な相手を襲撃してきましたが……そう言えば、夢で誰かを襲うと次の日には決まってその相手が家から出てこなかったり死んでしまっていたりしたような気もしますが、所詮は私の見る夢。そんな力などあるわけもない。

 とりあえず内でいつまでもぐずぐずと煮えていた感情の多くを作る本に叩きつける。まるで呪詛のような大気が本に向けて吹き付けられ、同時に白時に黒の斑点が浮き出ていた程度の本の表紙が墨に放り込まれたのかと思ってしまうほどに濃い黒へと染まっていく。

 完成すると本から妙な圧迫感のような物が発されるようになった気もするが、恐らくそれも気のせいだ。私がこんな圧迫感を受けたのは世界で最も大きな本を読んでみたいと思って探してみた結果に見つかった巨大な石の本から受けたものくらいだ。あの大きさには驚いたし、上の方は霞んで見えないほど大きかったために妙な圧迫感を感じたものだった。

 だが、私の書いた本は小さい。そして軽い。倒れた時に読んでいたら潰されて死ぬとかそんな心配もなく、いちいち読むために空を飛ばなければならないなどの問題もない普通の本だ。圧迫感など感じるはずもない。

 では次の本だ。『水神クタアト』。雨の日にはなぜか湿り、それでいてカビなどが一切生えない魔導書らしいが……わざわざそんなギミックを仕込む余裕も技術もないのでここはかなり適当にやらせてもらうことにする。原本では人の生革らしいがそんなものを作るつもりは以下略。と言う訳で材料を再利用して、少しだけ水のエッセンスを加えるだけで十分だろう。

 用意した道具を並べ、それらに含まれる水分の一つ一つを媒介に『深き海の神(ダゴン)』を想起して固定する。雨が降っていなくとも湿り続けているのに何故かカビが生えることもなく、しかも普通に文字が書ける上ににじまないという不思議な魔導書が出来上がってしまったが、魔導書ならそれはいつもの事だろう。水に濡れて読めなくなる魔導書と言われると少々笑いが止まらなくなってきてしまう。

 そして最後。『屍食教典儀』。本当ならば以下略。と言うことでこれも一応似せるために紙の繊維の一本一本に『執着』『狂気』等々負の方向に生産的な感情を植え付ける。旧地獄と言うのはそういった感情を持つ存在が多くて助かりますね。

 ただ、これらの本を見られると地獄の閻魔様には怒られてしまうでしょうから保管その他は厳重に。何しろ魔導書で、内容がアレ。プライベートな時、つまり自分の感情に白黒はっきりつけていない時はかなり初心な彼女でも、この本を見たら慌てるより先に仕事モードに入るでしょう。明らかに邪教の儀式書ですしね。屍食教典儀は。

 

 けれど私は気にしない。本棚の近くにある金庫にぽいっ!鍵をかけてそれでおしまい。まあ、罠なのだから問題はない。後で返しに来てくれるのならもっといいけれど、触れたくもないほど怖がるようなら私が直々に取りに行かないと。お燐やお空に取りに行かせるわけにもいかない代物だし、その辺りはもう仕方ないと諦めるべきだろう。便利ではあるけれど別の面から見ると使い勝手が悪いというのは基本的にはどんなものでも同じ。本当にありとあらゆる場所から見て常に便利なものなど存在しない。危険であったり希少であったり、問題点は少し考えるだけでいくらでも出てくる。今回は溜まりに溜まっている怨念を少しばかり使っただけですし、また新しい物を作ろうとすれば作れないことは無いでしょうが……そう言えば、ネクロノミコンを読みたいと言っている方もいましたか。

 ……絶対に作らないようにしましょう。外の世界に存在する不完全な訳本で我慢してくださいな。

 




 
 ※次回からダブルスポイラー始まります。短いですが。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。