『次はダブルスポイラーだ』と言ったな?
あれは嘘だ。(ズドン!)
はい、前に二話連続で数無しのを書いたので、その分を書いた方がいいかなと思って先に作りました。次回からはちゃんとダブルスポイラーのはずです。
それと今回、やや残酷(?)な話があります。嫌な人は今回は読まずに次回からどうぞ。
また、昨日は投稿が遅れてしまいました。九月二十一日の六時ごろにその分が投稿されていますので、まだ見ていない方はそちらからどうぞ。
仕返しを終了させ、防犯用の対策を済ませた。次は、既に私に何かしでかしてくれた相手への反撃を始めよう。
お相手は天邪鬼。本名を『鬼人正邪』と言う彼女。つい最近、私の意識をやや荒事を好む方に向けてくれやがりました嘘吐きの鬼。とりあえず―――勇儀さんと萃香さんに居場所を見つけたと報告し、ついでに私の現状を伝えて討伐願を出しておきましょう。
それから、彼女はどうやら幻想郷を崩壊させようとしているらしい。八雲紫にもそのことを話しておくとしよう。きっとそれなりに痛めつけてくれるだろう。勿論こちらにも私の現状……つまり、私は今少しばかり嗜虐思考に寄っていて、その原因があの天邪鬼にあると伝えておこう。
よし、考えたなら即実行。殺ろう。……まちがえた。やろう。本格的に私の思考が嗜虐寄りになってしまう前に。
…………嗜虐的になってしまっても、いいんじゃないだろうか? と思ってしまうのは、恐らく手遅れになりかけているのだろうな。ははははは!
■
鬼人正邪は逃げ回っていた。存在しないはずなのにその場に間違いなく存在する何者かから、全速力で。
見渡す限りの場所に存在する、人に近い形をしながらけして人にはなれないそれ。その姿も様々で、まるで獣のような姿を持つ腐敗した姿の人間。魚と混ぜ合わされたような形の人型。まるで子供のような体格の黒い肌の人間のような存在。そんな者たちが周囲に数多く存在している。
空には馬の顔をした蝙蝠のような翼を持つ鳥と、黒い肌で顔のない怪物。そしてぬらぬらと緑色に鈍く輝く液体を纏った菌類のようなものが大量に飛び回って自分を探している。
川には黒々とした粘液のような肉塊のような存在が混じって監視され、時に自分の足元には人間の顔をしたネズミが這いよっては大声をあげて自分の居場所を周囲の怪物達に教える。
数は力。自分がやろうとしていたように、弱者に力を与えて数で押しつぶそうという策を、強者が率いる敵に先にやられてしまう。あまりに多い敵の数に自分は隠れるのが精一杯。なんとか逃げ回り、相手の向かう方向を逆転させ、隠れ潜む。
『ミツケロ』
『コロセ』
『サガセ』
『コロセ』
『ドコダ』
『ドコニイル』
『コロセ』
『ミツケロ』
『サガシダセ』
『イナイ』
『サガス』
『コロセ』
『ドコダ』『コロセ』『ダガセ』『ミツケロ』『ドコニイル』『コロセ』『ハヤク』『ドコダ』『コロセ』『コロセ』『イナイ』『ハヤク』『イナイ』『ミツケロ』『ドコニイル』『ドコダ』『コロセ』『ハヤク』『コロセ』『サガシダセ』『コロセ』『ドコダ』『ドコダ』『コロセ』『ミツケロ』『ハヤク』『コロセ』『ミツケロ』『コロセ』『ドコダ』『サガシダセ』『イナイ』『ミツケダセ』『コロセ』『ドコニイル』『ミツケロ』『ハヤク』『ドコ』『サガセ』『サガシダセ』『コロセ』『ドコニ』『ミツケルノダ』『サガシダスノダ』『ナニヨリハヤク』『ハヤク』『イナイ』『コロセ』『イナイ』『ミツケロ』『コロセ』『ハヤク』『サガセ』『ハヤク』『コロセ』『ミツケロ』『ハヤク』『コロセ』『ドコニ』『ハヤク』『ミツケロ』『イナイ』『ハヤク』『ドコダ』『ミツケダセ』『ドコニイル』『イナイ』『サガセ』『コロセ』『コロセ』『ハヤク』『コロセ』『ドコニイル』『ハヤクシロ』『イナイ』『コロセ』『サガセ』『ハヤク』『コロセ』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤ―――――
『『『『『『『『『『
ぎょるん、と奇妙な擬音と共に、自身に無数の視線が向けられているのを感じ取った。直後、周囲から人間が出せるはずのない奇妙な音で構成された人間の言語が聞こえてくる。
『ミツケタ『ミツケタ『ミツケ『ミツケタ『ミツ『ミツケ『ミツケタ『ミツケ『ミ『ミツ『ミツケタ『ミツケタ『ミ『ミ『ミツ『ミツケタ『ミツ『ミツケ『ミツケタ『ミ『ミ『ミツケ『ミ『ミツケタ『ケタ『ミツ『ツケタ『ミツ『ツケタ『タ『ミ『ミツ『ミツケ『ケタ『ミツ『ケタ『ツケ『ミ『ケ『ツケタ『ミツケタ『ミ『ケタ『ツケタ『ミツケタ『タ『ミ『タ『ミツケ『ツケ『ミツケタ『タ『ミ『ミ『ミツケ『ミ『ミツケタ『ケタ『ミツ『ツケタ『ミツ『ツケタ『タ『ミ『ミツ『ミツケ『ケタ『ミツ『ケタ『ツケタ『タ『ミ『ミツ『ミツケ『ケタ『ミツ『ケタ『ツケ『ミ『ケ『ツケタ『ミツケタ『ミ『ケタ『ツケタ『ミツケタ『タ』
ざわざわと周囲に音が満ち、全方位が異形の軍団に囲まれる。蛇の頭をした人間のようなもの。腐っている歩く死体。魚のような顔の人間のようなもの。黒い肌の矮躯の人型。ブンブンと虫のような音を出しながら飛ぶ鋏を持った奇妙な生き物。黒く泡立つ粘液のようなもの。硝石の結晶を全身に張り付けた馬面の鳥。翼竜と蜂を掛け合わせたような奇妙な生物。冷気を振りまく小さな蛭のような物の群れ。人の顔を持つ鼠。青みがかった脳漿のようなものを纏う犬。顔のない黒い肌の悪魔のようなもの。吹雪を纏った純白六腕の獣。十の足を持ち黒光りする毛を持つ虫。眼のない烏賊のようなもの。
妖怪として今まで生きてきて一度も眼にしたことのないそんな怪物たち。そしてわかるのは、そうして今目の前にいる存在はすべて妖怪ではないということだった。
神でなく、妖怪でなく、悪魔でない。しかしこのような異形の存在がまともな存在であるという事こそあり得ない。現実に存在しないはずのものが存在するという事実に、正邪は心の底から恐怖した。
そして、異形の一つがその手に付けた奇妙なものを正邪に向けると―――何かがそれから発射され、正邪の腹部を貫いた。
そこからはまさに一瞬のこと。その出来事が開始の合図だったかのように、集った異形が正邪のその体を食らい尽くさんと襲い来る。
幾筋もの閃光が四肢を貫き、腐った異形が肉を食み、虫がその鋭利な刃で肉を削ぎ落とし、無数の怪物がそうしてできた肉を食らう。
しかし、正邪に終わりが訪れることは無い。何度四肢を捥がれようと、何度首が胴と別れようと、まるで時間が巻き戻ったように、あるいはその場で身体が新しく作り直されたかのように、何度でも元の形に戻り、何度でも化物にその肉を食われてしまう。
その光景はまるで地獄の責め苦のよう。幾度死のうと蘇り、幾度壊れようと直され、幾度も幾度も幾度も幾度も責め苦を味わわされる。まさに、今の正邪の状態を的確に表していた。
そんな中で、一人の少女が現れ、正邪の髪を乱暴に掴んだかと思うと髪が千切れるのも構わず乱暴に頭を引き上げた。
『……まだ、意識があるんだ? 早く全部無意識に堕ちちゃえば楽になるのに』
少女は乱暴に正邪の頭を地に叩きつけるように押し付け、指に絡まったままの何本もの髪を穢らわしい物を触れたと言うかのように何度も近くにいた純白六腕の獣の毛で拭う。
『もっと』
その少女の言葉で異形による残酷極まりない調理と食事が再開される。いつの間にか蛍のように輝く炎の精が現れ、正邪の身体を一部焼き焦がす。そんな光景を視界に入れながら、白の混じった黄緑色の髪をした少女は、そこに居た蜂と翼竜を混ぜたような異形の背に座って足をぶらぶらと揺らしていた。
『ほんと、お姉ちゃんの思考をあんな方向に弄るとか、害しかないことを平然とやってくれるよね。面倒なことばっかりしてくれてさ。
……まあ、そういう時のために私はこうしているんだけどね』
無意識を操る少女は、姉の記憶の中に存在しながらも現在は意識されていない怪物を使い、姉が正邪に意識を向けると同時に正邪の無意識領域に異形の怪物を流し込んでいた。正邪が逃げ回っていたのは自らの意識の中であり、逃げ場など初めからどこにも存在していなかった。
『大丈夫だよ。ちゃんと記憶には残らないようになっているし、ここでは何回壊れちゃってもすぐに直るから。でも、怖い思いはいつまでもいつまでもいつまでもイツマデモイツマデモ残るから、警告にもなってるの。便利でしょ?』
可愛らしく笑いながら、少女は嗤う。
そして、その笑みを変えないままに囁いた。
『次はないよ。お姉ちゃんは優しいから許しちゃうかもしれないけど、私は絶対に許さないから』
果たして、その言葉が正邪に届いたのかはわからない。未だに肉を削ぎ落とされ、四肢を捥がれ、焼かれ、刻まれながら食われ続けている彼女は、そんな声を聞き取る余裕もなかったかもしれない。
その結果は、後の異変で現れることになるかもしれない。だがそれは、今はわからぬ未来の話。古明地こいしのひっそりとした姉孝行は、こうしてひっそりとおこなわれたのだった。
■
「おねーちゃーん♪」
「あら、こいし? どうしたの?」
「ん~? えへへ……♪」
「……相変わらずよくわからない子ね。ほら、おいでこいし。撫でてあげるわ」
「わーい!」