当方小五ロリ   作:真暇 日間

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ダブルスポイラー
32 私はこうして天狗を迎える


 

 今日は騒がしい一日になりそうだ、と言うのが起きたばかりの私が感じた感想だった。

 天狗がネタを探して飛び回り、様々な場所を回っている。つい最近の私を思い出すその行動に少し面白みを感じて笑みが浮かぶ。

 今回は、どうやらこれまでの異変に出てきた場所に赴いてはその場にいる者達の写真を取っているようだ。あの新聞記者は本当に色々と駆け回るのが好きらしいが、もう一人。動いている新聞記者がいるようだ。

 

 姫海棠はたて。引きこもり気味な念写記者。『花果子念報』と言う新聞を発刊しているようだが、念写と言う形態をとっているが故に発刊が遅く、新聞を出すころにはもう誰もがそのことを知っているという状態になってしまっているようだ。

 勿論そんな新聞を取ろうと思う者がいるわけもなく、本当に零細の新聞となっているらしい。

 

 それで、なぜ騒がしい一日になるだろうと思うのか。それは、私のもとに射命丸文と引きこもり気味な念写記者の二人がやってこようとしていることを感じたからだ。

 私の能力は制御していてもそれなりに広い範囲の心の声を聞き取ることができる。地霊殿だけでなく、地底全土。そして地上にまで私の能力は効果を及ぼし、そうして得た心の声から面白そうな内容を集めることができている。

 集めた心の声からそうした情報を得たので、とりあえずおもてなしの準備を整えておこうと思う。内容自体はそこまで大したものではないのだが、はっきり言って煙たがられている新聞記者を相手にするならこのくらいでも十分だろう。

 まずお茶。それから彼女たちの好きなお菓子。人里のとある店で出される羊羹が好きだったはずだけれど、もう片方の天狗の好きなものは私は知らない。と言うか、引きこもり天狗の好きなものは基本的にいつでも買えるものばかり。用意しておく意味もない。

 と言う訳で、もう片方にはお茶だけ用意しておこう。引きこもり仲間ではあるけれど、向こうはそのことを認識していないようだし、それにどうやら色々と『面白い』写真を撮っているようだし。

 

 さて、そう言う訳で準備は整った。お燐に二人の案内をお願いして、私はしばらくのんびりとしておこう。お酒を用意していないのは私なりの気遣いなのだけれど、気付くだろうか。気付こうが気付くまいがどちらでも構わないのだけれど、正直に言って少し眠い。昨日まで白黒の泥棒鼠への対策として作った魔導書の四冊目を書き上げていたから精神的に疲れた。やはり写本と言うのは疲れる作業だ。

 そしてできあがったこの本……螺湮城本伝は今まで書いた三冊と同じように金庫に大切そうにしまっておこう。大切かどうかと聞かれれば実のところそうでもないのだが、まあとりあえず写しとは言え自分で書いた初めての本だ。こうして大切そうに取っておいても問題らしい問題はないはずだ。問題があるのならば聞こう。何が問題だ?

 

 ……四季さん辺りには普通に怒られそうだ。私にも自覚があるから白黒はっきりつけられたらまず黒になるだろうし、しっかり隠しておかなければいけない。

 最悪四季さんに想起して一時的に常識あるいは認識を書き換えて問題の本を問題ではないものだと思ってもらう事もできる。四季さんの能力は四季さんの認識が元になっているはずだから、まず問題なく誤魔化せるだろう。本当に誤魔化していい物かは知らないが。

 本当は知っているだろうと? さて、何の話やら? ここで『知らない』などの言葉は言わないこと。そうしないと白黒はっきりつけられた時に()だと知られてしまう。曖昧こそが彼女に対して最も有効な策なのだ。

 勿論四季さんが本気になれば簡単に白黒はっきりつけられてしまうのだけれど……そういう時こそ言葉遊びが重要になってくる。嘘ではなく、間違いでもない。事実を言っているとは限らず、真実かどうかもわからない。そんな言葉遊びはやっぱり彼女のように能力に頼ってばかりいる閻魔には十分な効果が見込める技術だったりする。

 

 ……どうやらそうしている間に来たようですね。幻想郷最速の文屋、射命丸さんが。

 さあ、しっかりきっちりおもてなしいたしましょう。大したものはありませんけどね。

 

 

 

 ■

 

 

 

 あらゆる場所を飛び回り、ネタを拾う。今日もまた様々な場所を飛び回る。今までは地底に来てもあまり深くまで行くことは無かったのだけれど……今日の私は一味違います。

 目的地は地霊殿!取材の相手はその主である古明地さとり。……ちょっと色々あったせいで苦手な相手ではあるけれど、あの時の声の記録は消してもらえたからそこまで悪い関係ではない……はず。少なくとも、相手をする時にいつまでもいつまでも同じ貸しについて口に出したりはしないだけの理性と言うか、限度をしっかりと弁えることができる相手だ。気のいい……と言うか、強欲過ぎないがしっかりしている商人のような気質で、信用するには十分だ。信頼するにはまだ時間が足りないが、それは何事においても同じだろう。信頼するのにはいろいろと必要なものがあり、大概の場合はそれを持っているわけもない。

 まあとにかく、それなりに信用でき、ついでにこちらが無茶をしなければあちらも無茶なことはしてこないだろうと言う信用くらいは互いに持ち合わせているつもりだ。

 私が妙な内容の記事を書けば、恐らくそれを知った彼女は私にそれなりの報復をしてくることだろう。どんな内容になるかはわからないが、かつて鬼の四天王である『力の勇儀』を真正面から下し、伊吹萃香さんに『できれば霧の状態では二度と近付きたくない』とまで言わせる存在。そんな相手を怒らせるような愚かなことを私はしないだろうと、さとりさんも理解しているはずだ。

 だからこその、信用。お互いにある意味で相手を尊重し合っているからこそ行うことができるやり取り。舌戦や交渉を円満に終わらせるためには、お互いにある程度の前提条件のすり合わせが必要となる。その前提条件を理解しないまま自分の求めるものだけをどんどんと要求していっては、その関係はあっという間に破綻してしまうことだろう。

 それは恐らくお互いに望まない。私はある程度の面白さを犠牲にしてでも彼女の記事にでたらめを載せることはしないようにするし、彼女は多少面倒でもよほどのことがなければ私の取材を受けてくれるだろう。

 

 ……問題は、取材をしようとしてそこに鬼がいた場合なのだけど……お酒を勧められて酔い潰される未来しか見えない。それを回避するにはスニーキング……つまり隠れて移動する技術が必要になってくるわけですが……なんとかやってみるしかありません。

 先に鬼の皆さんがどこにいるかを確認できればいいのですが、探して飛んでいる時に先に見つけられてしまっては元も子もない。

 お酒は好きですし、結構飲む方ではあると言う自覚はあるのだけれど、鬼の皆さんと比べると……比べるのが間違いではある程度には弱い。

 有名な所で言えば、先ほども挙げた伊吹萃香さんや星熊勇儀さん。かつて妖怪の山において四天王と呼ばれた四体の鬼は、そのうちの一体しかいなくとも天狗の殆どを殺し尽くすことができる。それだけの実力があるからこそあの四体の鬼は四天王と呼ばれるに至った訳で、そもそも強く存在することが当然の鬼の中で、四天王などと名乗ることが許されると言うだけで、他の鬼との力の格差が知れるというものだ。

 

 ……そんな鬼に勝てている覚妖怪に会いに行く……これは確かに相手を最低でも『信用』していなければできない行動だろう。数居る鬼の中でも頑丈さにおいては鬼子母神に次ぐとすら言われた星熊童子を、真正面から無傷で倒すことのできる相手。覚妖怪とは確か心を読む以外は人間とそう変わらないか、秀でていても下級の猿妖くらいの身体能力しか持っていないはずなのに……彼女は本当に覚妖怪の枠組みに入れておいていい相手なのでしょうかね?

 それにしても、鬼の四天王のうち力の星熊、酔の伊吹に勝利して見せた彼女ですが、残りのお二方との戦いは無いのでしょうか? もしも戦ったことがあるのでしたら、是非ともその時の様子を聞いてみたいものです。

 星熊様や伊吹様は古明地さんとの勝負について語ろうとはしてくれません。理由について『約束だから話せない』と笑いながら言ってくださると言うことはしっかりと鬼の好くような卑怯なことの一切ない戦闘をしたのだろうけれど、内容についての細かいところは一切話してくれませんし、勝敗自体も話そうとはしません。まあ、勝敗と実際に戦ったかどうかは鬼の方々が約束だから喋らない、と言っている時点でわかってしまうのですが。

 

 と、考えている間に、どうやら到着したようです。風を使って声を聴いてみましたが、中には鬼の誰かがいたりはしないご様子。これはチャンスですね!

 私は扉の前に降りて服を正す。礼儀をしっかりとするには、まずは服装から正さなければいけない。

 そして呼吸を整え、髪を撫でつけカメラなどの取材道具を一度懐にしまってから扉を叩く。

 

「はーい、どちらさん?」

 

 そんな声と共に開かれた扉から覗く火車に、私は全力で作った笑顔を張り付けていった。

 

「こんにちは!清く正しい射命丸です!ちょっと取材させていただけませんか?」

「あ、はいどうぞ。さとり様から『多分そろそろ来るから通しておいて』と承っています」

「そうでしたか。それはどうもありがとうございます!」

 

 ……昔に聞いた話では、彼女の能力の効果範囲はそう広くなかったはず。いったい、今はどこまでその能力の有効範囲は広がっているのだ?

 そう考えながらも、私は笑みを崩さず、地霊殿の中を歩む火車の後について歩くのだった。

 


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