当方小五ロリ   作:真暇 日間

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37 私はこうして鬼を雇う

 

 勇儀さんの身体を塵にして、それでようやく喧嘩は終わった。鬼の身体はあまりに頑丈で、物理的な攻撃、つまり炎や水や風や大地、温度変化などにも非常に強いと思われる。だからこそほぼあらゆる存在に効果のある時の神の権能……クァチル・ウタウスなどと言う反則級の存在を『憑依』させたのだ。これでだめだと言うのなら、最終手段としてトルネンブラ、アザトースとの三重憑依での力技で押し込む以外に方法が無かったところだ。

 そんなことをしたら流石に反動だけでも死にかねないし、地底もただでは済まなかっただろうけれど……そんなことにならなくて本当によかった。

 

 さて、後始末と行きましょう。風化させてしまった勇儀さんの身体を時間を巻き戻すことで再生させ、気を失ってしまった勇儀さんの頭を首の上に戻す。それで再生を始めてしまうあたり、本当に鬼と言う存在は肉体的に反則極まりない性能を持っているとしか言いようがない。

 まあ、再生を阻害する因子さえなければ首だけの状態からも傷を治し、生き延びることができると言う鬼ならではの異常な生命力もありますし、肉体と首をつなげるところまでやってしまえば治っていくのも当たり前なのでしょうかね。

 それからこの場において存在していた生物たちの時間を戻し、戦闘開始前のまっさらな状態にしておく。観戦者は多くが神の火と硫黄に焼かれて死にかけていたのでとりあえず自力で立って歩くことができるくらいまでは戻しておく。まったく、本当に面倒なことになった。

 

 クァチル・ウタウスを憑依させたままでは勇儀さんに触ることもできないので解除し、首に両断されたような引きつれたような傷痕が残ってはいるものの呼吸もしているし心の臓も動いている勇儀さんを背負って運ぶ。正直かなり重いが、それはもう仕方無いものだと諦めることにした。

 私達の立っていた場所を中心に熔岩やクレーターが存在しているが、地底の外れにはこういったクレーターは数多く存在している。それだけ鬼達が本気の喧嘩をしていたと言う証ではあるけれど、流石にクレーターが熔岩に埋められて一枚の岩盤にまでなってしまったような場所は多くない。恐らくこの場所は少しの間有名になるだろう。この際、地面が殆ど岩になってしまったのをいいことにここに闘技場のようなものでも建ててみるのもいいかもしれない。大きな喧嘩をするならそこと決めてしまえば、地底の家屋が喧嘩に巻き込まれて潰されてしまうようなことは少なくなるだろう。

 ……問題は、突発的に起きる喧嘩でそんなところまで移動しようと思う者はそう居ないと言うこと。作れば使うものは間違いなく居ると思うけれど、それは今までの喧嘩とはまた別に決闘の類いの争いが起きると予想できる。まあ、鬱憤晴らしとしてでも使えるのならば少しは大喧嘩というものが減るだろう。

 

「……しかし、この服はどうしましょうか。この姿は力も少し強くなってますし高いところにも手が届くしで便利ではありますが、いつもの服を着てると伸びて着られなくなっちゃうのが問題です」

 

 ちなみにその被害が一番大きく出るのは下着であったりする。いくらさとりが成長してもスレンダーな体形だと言っても、人間でいえば12~3程度の頃と20に届くかどうかという頃ではウェスト周りはどうしても太くなるし、胸も大きくなる。胸に関してはそもそもが下着をつけなければいけないほど無いので服が一部分伸びてしまうくらいで済むのだが、パンツの方はどうにもならない。伸びてしまったり切れてしまったりと色々大変なのだ。

 それを何とかしようと思えば、よく伸縮するものを素材とした物にするかそもそも穿かないといった方法がとれるが、ズボンではなくスカートをはいているさとりが下着をつけないと言うのは大いに問題がある。さとり自身からしても恥ずかしいと言う感情はあるし、妹の教育にもよろしくない。故に、古明地さとりの勝負(物理)下着は伸縮性の高いものとなっている。本人としては気にするようなことでもないが、身体の大きさに合わせてサイズそのものを変えることのできる服があればいいなと考えていたりもする。

 

 そんなことを考えながら、地霊殿へと向かう。身体の成長したさとりは普段よりも早く空を飛ぶことができるが、急がなくとも死ぬことはないだろう相手をわざわざ急いで運ぶことに意義を見出せなかったのでのんびりと空を飛んでいた。

 

「……ああ、そうだ。忘れてた」

 

 ぽそりと呟き、勇儀の姿を見る。……はっきり言って全裸と変わらない。最盛期の体がつい先ほどの神の火と硫黄を退けた後のそれなのだから仕方ないといえば仕方ないのだけれど―――流石にこのまま返すのはどうかと思うわけで。

 私は勇儀さんを地霊殿まで送り届けた後、向かう場所を決めた。とりあえずぼろぼろの体に治療を施してから、勇儀さんの記憶から行きつけの服屋に行って服を買う。そうしないと本人を家に帰してあげることもできなさそうだ。勇儀さんはあれで結構ピュアなところがあるし、こんなあられもない姿を戦闘中以外で見られるのは嫌なはずだ。

 ちなみに戦闘中は神の火と硫黄に巻き込まれて見物客もボロボロだったため見られてはいなかったりする。それが良いことだったのか悪いことだったのかはわからないけれど、とりあえず勇儀さんの尊厳は守られたと考えていいだろう。

 

 さて、急ぐ理由ができてしまった。誰かに見られる前に、地霊殿に急ぐとしよう。

 

 

 

 ■

 

 

 

 私が目を覚ますと、そこには何度か見たことのある景色が広がっていた。

 具体的には―――さとりの所で宴会を開いて酔いつぶれると見ることになる天井。つまりここは―――

 

「……地霊殿、か?」

「おや、起きたようですね。首まで刎ねたと言うのに本当に頑丈なこと」

 

 声の聞こえてきたほうに顔を向けると、そこにはさとりが座っていた。手にはりんごと小さな包丁を持ち、くるくると器用にリンゴの皮を剥いていた。

 

「なぜここにいるか、という思考には『ちゃんと起きるかどうか見張っていたら予想以上に早く起きそうだったためお見舞いついでにリンゴを剥いているから』と答えましょう。ちなみにあなたは死んでいませんよ。さっきも言ったとおりに首は刎ねましたし、ついでに身体も塵にしましたからね」

「……たしか、満足して意識が消えたと思うんだが」

「それだけで死ぬなら貴女方はお酒をお腹一杯飲んでおいしいものを満足するまで食べて眠れば死にますね。ちゃんと身体を治して首とくっつけたので死にそうでしたけど死にはしなかったんですよ」

「……じゃあ、喧嘩は終わったのに何でまだその姿なんだ?」

「急に身体を変化させるのを何度も繰り返しても大丈夫なほど頑丈ではないんですよ、私の身体は。まだ彼の時神を憑依させた反動は残っていますし、それが癒えるまではこの姿です。まあ、短くて三日、長くて一週間くらいですかね」

 

 剥いたりんごを楊枝に刺して、さとりは勇儀の口元に運ぶ。

 

「はく……ん、このリンゴ美味いな」

「たっぷりと蜜が入っていますからね。地霊殿で高級リンゴとしてお土産用にも販売していますよ」

「手広くやるねぇ。ほかにはどんなもん売ってたっけ」

「おうどんの乾麺タイプと生麺タイプ、おそば、そうめん、ラーメン、ビールや日本酒、焼酎などの酒類に何種類かの果物、それと概念的に人肉の味のするお肉や人の血で育てたことで概念的に人肉となったお野菜なんかですかね。あと一部宝石」

「予想以上に手広いね」

「やり始めてみたら意外と楽しくて止まらなくなってしまったんですよ。今では人型に変化できるペットたちが頑張って手伝ってくれていますし。……そうだ、勇儀さんもたまにでいいので手伝ってくれたりしませんか?」

「ん? まあ、さとりが手伝えってんなら手伝うけど……何をやればいいんだ?」

「可愛い服着て女中やるのと力仕事ではどっちが」

「力仕事でお願いします」

 

 私は動かない身体を何とか動かして頭を下げた。

 


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