当方小五ロリ   作:真暇 日間

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 連続投稿30話目!今回はこれでおしまい!あー疲れた!


02 私はこうして鬼と出会った

 

 さとり様の逸話は数多い。その中にはさとり様の身体的な能力について話されたものは一つも無いが、かわりにさとり様の能力───『思考を操作する程度の能力』によって行われたものが多く残っている。

 もちろん能力の関係上大っぴらに言われることは無いが、その事を知る者は口を揃えて言うらしい。

 

 曰く、一種の『最強』である、と。

 それを言うのが、かつてさとり様と戦い、引き分けたと言う鬼の星熊勇儀であり、そこからこの話が広がっていったのは間違いない。

 

 あたいはその話を聞こうと思い、あの鬼がよく酒を飲みに行くと言う飲み屋に手土産にいい酒を一樽運んで行った。

 地上ではまだ昼間だろうが、地底に昼も夜も関係ない。昼と夜を分ける象徴とも言える太陽も月も、地底じゃ見えやしないんだから。

 

 行ってみれば、どうやらちょうどいい時に出くわしたらしく、勇儀姐さんはかなりの人数を酔い潰して笑っていた。周囲には酒瓶だけでなく、幾つもの樽まで転がっている。

 そんな中に降りていくのはちょっとばかり勇気が必要だったけれど、あたいは好奇心に背を押されるようにしてそこに降りていく。

 すると、途中で勇儀姐さんの視線があたいを捉え、あたいの運ぶ酒樽を見て、笑いながら手招きしてきた。こうなったらもう引くことはできない。どうせ初めからそのつもりだったのだから、憂いがなくなったと前向きにとらえることにした。

 

「よう、燐。酒樽抱えてどうしたよ」

「ちょいと姐さんに聞きたいことがあってさ。とりあえず手土産持ってきた」

 

 からからと笑いながら姐さんはあたいに大きな杯を手渡し、並々と酒を注ぐ。

 

「まあ飲め飲め。宴に来て素面で帰るなんて許さんからな!」

「あー、はい、頂きます」

 

 鬼の飲む酒はやっぱり馬鹿みたいに強かった。まあ、あたいはこうやって飲まされることにも慣れてるからお空ほど弱くはない。あんまり量を飲めば当然潰れちまうけど、このくらいならなんとかなる。

 勇儀姐さんに干した杯を返し、かわりにあたいが持ってきた酒を注ぐ。それを姐さんが干してから話が始まった。

 

「……で、何を聞きたいんだい?」

 

 まっすぐに聞いてくる姐さんに、あたいもまっすぐに返す。

 

「姐さんが昔、さとり様と戦った時の話を聞きたいんだ」

 

 

 あたいの言葉を聞いた勇儀姐さんは驚いたような顔であたいを見つめる。信じられないものを見たような、そんな顔をする理由があたいにはわからなかったけれど、ただ無言で勇儀姐さんの答えを待つ。

 

「あー……もしかして、あいつから聞いてないのかい? 一回も?」

 

 こくり、と頷くと、勇儀姐さんはまるで『最高に美しいと思っていた宝玉に傷がついたのを見た』かのような残念そうな表情をしつつ、杯を持っていない方の手でその顔を掴むように隠してしまった。

 

「……あー……まあ、あいつだったら考えられることだったか……本人に直接聞いてみたことは?」

「なんだかはぐらかされるばっかりで……」

「やっぱりか」

 

 勇儀姐さんは苦笑いのまま杯を呷る。勇儀姐さんにしては珍しく、ゆっくりと時間をかけて杯を干して……口を開く。

 

「……わかった。教えてやるよ」

 

 その笑みはとても楽しそうで、愉快そうで───なんだか少し羨ましく思えた。

 

 

 

 ■

 

 

 

 あれは、私らが地底に移り住んで来てすぐのことだった。人間と合わなくなって移り住んだ私らは……なんと言うか……少し荒れててね。喧嘩が強い奴が居ると聞けば喧嘩吹っ掛けに向かい、酒が強い奴がいたら飲み勝負に向かい……そんで、そいつら全員に勝って来たんだよ。

 そんな時さ。覚妖怪が治めている地があるって聞いたのは。

 

 覚妖怪ってのは、知っての通りに心を読む妖怪だ。心を読むことに特化しすぎているせいで、実際の戦闘となると一段も二段も劣る。いくら人間よりも身体能力に優れている妖怪とは言え、私らみたいな鬼なんかと比べちゃそれこそ人とそう変わらない。心が読まれたからといって、身体が反応できない速度で殴れば死んじまうしね。

 だから、そんな覚り妖怪が力で治める地があるとなったら……行きたいと思うのは当然だったのさ。

 

 行ってどうするかは考えてなかった。喧嘩を売るのか、酒を酌み交わすのか、敵対するのか……そんなのは実際に会ってから考えりゃいい、ってのが鬼の基本だからな。

 で、実際に行ってみたらまるで私がそこに行くのがわかっていたかのようにここに招かれて、しかも私が飲むと丁度満足する程度の酒まで用意されていて、料理もできていた。

 そこで、聞いてみたんだよ。『なんでこんな準備ができてるんだい?』ってさ。

 そしたらあいつは、当たり前の事を当たり前に言うように答えたよ。

 

『来るのが解っていれば準備くらいするでしょう』

 

 ってよ。

 

 いやぁ、あん時は驚いたね。いったいいつ頃から来るのがわかってたのかと聞きゃあ、私が覚り妖怪の話を聞いてそこに行こうと決めたその日からわかってたって言うんだ。そりゃつまり、私の考えを読んでその上で当たり前に受け入れたってことだ。力では明らかに自分を上回っている相手が、もしかしたら喧嘩を吹っ掛けてくるかもしれないとわかっていても、それでもあいつは鬼を受け入れた。

 こいつはもう、気に入るしかないだろ? その度胸が気に入ったのさ。

 

 ……ん? 実際に戦っちゃいないのかって? すまんがそれについてはあいつに口止めされててな。私としては話したいんだが、あいつにお願いされちゃあ仕方無いからね。

 ……そうさ。秘密、さ。勝ったのか負けたのかも、その内容も、さわりも、半ばも、結末も、そもそもそんなことがあったのかも、みんな秘密なんだよ。どうしても聞きたけりゃあいつに直接聞くんだね。残念だろうけど私はこの話だけはしちゃならないんだ。

 ああ、一応言っとくけど他の奴等に聞こうとしても無駄さ。あいつらも同じように秘密にするようにしてるからね。私らは悠々自適に酒でも飲みながら暮らし、あいつが頑張って色々やってるのを肴に宴会さ。

 つー訳だ。お前も飲んでいきな、燐。潰れてもちゃんと地霊殿まで運んでやるから安心していいよ。

 

 よし、杯は持ったな? 酒もなみなみ注がれてるな?

 そんじゃ、乾杯!

 

 

 

 ■

 

 

 

「……ってことがあってよ」

「臨場感たっぷりの思考で中々楽しめましたよ。少し腹立たしくもありますが」

「おいおい、ちゃんと秘密にしたろ?」

 

 勇儀さんがそう言いながら笑う姿に苦々しいものを感じるが、しかしわざわざ口にも表情にも出しはしない。この鬼との付き合いも大分長いし、一番楽な付き合い方もよく知っているからだ。

 

「そんでさ。燐に話しながらあの時のこと思い出したら身体が火照ってきてよ……」

「やりませんよ」

「つれないねぇ」

 

 勇儀さんは残念そうに笑うが、私としてはあんな綱渡りはもう二度とやりたくないしやる理由もない。だからそんな秋波を送られても困る。

 

「あんたも不思議なやつだねぇ……あんだけ強いのに、戦いを楽しまないのかい?」

「私にとっての戦いは手段であって目的ではありませんからね。できることならば争いなど一つも無いままに平穏無事に暮らしたいんですよ。……前にも言いましたよねこれ?」

「あの頃と意見が変わってるかもと思って聞いたんだが、やっぱ駄目か?」

「駄目です」

「駄目か。それなら仕方ないね。また誘わせてもらうよ」

 

 ……こうして喧嘩を売られたり酒を無理にすすめたりしてこなければ、この星熊勇儀という鬼は付き合いやすい相手ではあるのだけれど……鬼の本能とでも言うのだろうか、毎回こうして誘いをかけてくるのだ。

 ……溜め息をひとつついて、近日の予定を思い出す。自分の記憶を自分で覗けば忘れることがないと言うのはこの能力の一番使い勝手のいいところだろう。

 

「……では、三日後でも良ければお酒の方になら付き合いますよ。あまり量は飲めませんけどね」

「お!言ってみるもんだね。それじゃあ楽しみにしてるよ」

 

 楽しそうだった笑みをさらに深めながら、勇儀さんは歩き去っていった。

 

 ……まったく、どうしてこうなったのやら。

 それもこれも、私が趣味で少量作っていた酒のせいなのだけれど……それがなければ私はあそこで死んでいた可能性もあるわけだし、良かったのか悪かったのかは差し引きして0と言うことにしよう。

 


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