大変なことが起きた。いつものようにお姉ちゃんの部屋に入ってみたら……
「にゃあ」
お姉ちゃんがにゃんこっぽくなってました。かわいい。
見えている限り、耳がにゃんこのものになっている。かわいい。
それから、腰からしっぽが生えているみたいで布団が内側からくいくいと持ち上げられている。かわいい。
髭は生えてないみたいだけれど、その分なのかどうなのか髪が少しだけ長くなっているみたいだ。かわいい。
お姉ちゃんの意識は残ってないみたいで、私のことをじっと見て首を傾げたり、手でくしくしと顔を洗っていたりもした。かわいい。
結論。とりあえずかわいい。
そう言う訳でお姉ちゃんのいるベッドに座ってじっと私を見つめているお姉ちゃんを撫でてみた。いつもお姉ちゃんが私にやってくれているみたいに、髪を撫でたりほっぺを撫でたり。耳はあんまり内側は触らないようにして、縁や外側を重点的に撫でる。するとお姉ちゃんはとっても気持ちよさそうに目を細めて、小さくか細く「ぅにぃ……」と鳴く。かわいい。
あ、どうしようお姉ちゃんが可愛すぎて正気を保つのが本当につらい。このままお姉ちゃんに抱き着きたいすりすりしたいモフモフしたいはむはむしたいああもうかわいいなあお姉ちゃんってば。
……と、思ってたら、なんと今度はお姉ちゃんの方から抱き着いてきてくれた。私に甘えるように、胸にほっぺを擦りつけて、私の胸に両手を添えるようにくっつけて下から私の目を見上げてくる。超かわいい。
それから私を押し倒して、ほっぺどうしをすりすりさせてきたり、耳をぺろっと舐めてきたり―――普段のお姉ちゃんじゃあ絶対にやってくれないと言い切れるようなことを平気でやってくる。なに? お姉ちゃんは私をどうしたいのかな? このままだと私うれしすぎて壊れちゃうよ? 今でも頭が沸騰しそうなのにこれ以上とかほんとに私暴走しちゃうよ?
「……はぷ」
「ふゃゃゃゃっ!?」
首筋!? お姉ちゃんに首筋かぷってされちゃったよ!? なんと言うか凄くぞくぞくしてあー無意識がー!無意識が駆逐されていくー!? 第三の眼が開いちゃうよぉー!内側に閉じ込めている感情が瞼を無理矢理に押し広げて……らめぇぇぇっ!
……ふう。瞼を縫い付けてなかったら本当に開いちゃうところだったよ。恐るべしお姉ちゃんのかわいさ……まさか縫い付けていた私の目を開かせようとするなんて……。
でも、残念だったねお姉ちゃん!私の眼はそう簡単には開かれないよ? ほっぺにちゅっちゅされても首筋かぷかぷされても耳をぺろぺろされてもぎゅぅって抱き締められてもすりすりされても甘えるように耳元でにゃあにゃあ鳴かれたってダメなものはダメなん───らめぇぇぇぇ!!第三の眼をちゅっちゅするのは反則なのぉぉぉ! 第三の眼開いちゃうぅぅぅぅ!!
■
こいしがさとりお姉さまの部屋からなかなか戻ってこない。これはきっとさとりお姉さまに甘えてるんだと思い、私もまたさとりお姉さまに甘えにいこうとお部屋に向かう。
ドアをノックして部屋に入る。そこに広がっていたのは───
「えへへへへへ……お姉ちゃぁん……♪」
「にゃ……にゃとりさまぁ……」
「うにゅう……うにゅぅぅぅ……」
───なんと言うかもうすごい光景だった。
こいしはさとりお姉さまのベッドの上で自分の身体を抱き抱えながらくねくねと身体をよじらせているし、お燐は蕩けた笑顔を浮かべながら口の端から涎を垂らし、二本の尻尾で器用にハートマークを作っている。
そしてお空は、今まさにさとりお姉さまに抱き抱えられている。はむはむと首筋を甘噛みされ、片手でお腹を押さえられてもう片方の手で翼を片方ずつ梳かれていた。
だれもがとろんと蕩けた表情を浮かべ、幸せそうに身を震わせる。そんな中でさとりお姉さまは、いつから続けていたのかわからないお空の翼の手入れを終わらせ、ゆっくりとお燐のとなりに転がすと……私に視線を向けた。
「……さとり……お姉さま?」
「……にゃう?」
なんだか一瞬でどうでもよくなった。さとりお姉さまがかわいくてどうしよう。食べちゃいたい。むしろ食べられたい。はむはむしながらはむはむされたい。ぺろぺろしながらぺろぺろされたい。
こいしがどうしてあんな風になっているのかよくわかった。さとりお姉さまがこんな風になっていたら、そりゃああなるのもあたりまえ。普通はああなる。私だって多分ああなる。
「にゃぅ……はむ」
「ほらなったー予想通りすぎー」
猫っぽくなったさとりお姉さまにはむっとされて、私はもうダメになりそうだ。さとりお姉さまに耳はむした時にさとりお姉さまがぱたぱたと暴れていたけれど、その理由がよくわかった。確かにこれはぱたぱた暴れたくもなる。なんと言うかすごくくすぐったくて、普通人に見せるような場所じゃないところを見せるどころか口をつけて優しく揉みしだくようにはむはむされるなんて、恥ずかしい。見ず知らずの相手だったら絶対にきゅっとして壊しちゃってるね。
でも、さとりお姉さまなら大丈夫。恥ずかしいけど、なんだかくすぐったくて暖かい。そしてぞくぞくしちゃうけど、それもちょびっと気持ちいい。今まで感じたことのない変な感覚だけど、―――悪くない。
耳をはむはむされながら床に押し倒されて、今度はぺろぺろされる。なんだかさとりお姉さまに食べられてるみたい。ほっぺや首をぺろぺろされて、鼻と鼻がちょんと当たって、やっぱりちょっと恥ずかしい。
だけど、私もただやられているだけじゃない。私のほうからもさとりお姉さまを捕まえて……捕まえ……捕ま……全然捕まえられないのはなんで? この距離だよ? 腕をまわせば絶対その中にさとりお姉さまは入るよね? なんで捕まらないの!?
「にゃ~ぅ」
「あ、もう捕まらないでもいいや」
さとりお姉さまがかわいいからもう全てを許すことにした。さとりお姉さまが捕まらなくてもさとりお姉さまがかわいいからそれでいい。さとりお姉さまのかわいさはもう本当に天下一品だとおもう。だってかわいいもん。
ぺろぺろされてはむはむされて、もうなんというか意識が保てなくなってきた。ああもうなんでもいいや、と思うと同時に、私の意識は世界の果てに消え去ってしまったのだった。
■
……どうやら能力が暴走したらしい。私が自分の意思でなく意識を失うとこういうことが起きるからああいった方法で気絶するのは嫌なのだ。
ただ、今回はあまり酷い事は起きていないようだ。
……けれど、どうもおかしい。こいしやフランはまあいい。よく私の部屋に来るし、私のベッドで眠ることも日常だ。それはいい。なぜお燐やお空まで私の部屋で、しかも妙に蕩けた笑みを浮かべて眠っているのだろうか?
記憶を読んでみればすぐにわかるのだろうが、何となくこのことについては読まないほうがいい気がする。私のこういった直感はよく当たるから、今回のことに関しては読まないでおこうと思う。怖いし。
そう言うわけで、私は眠っているお空たちの身体を操って私のベッドにまで運ぶ。そしたらみんなで一緒にベッドに入って、みんなで一緒に眠ってしまおう。今の今まで眠っていたはずなのに身体はだいぶ疲れているようだから、恐らく今回の暴走では何らかの神話生物が私の身体を使っていたのだろう。現状から考えるとあまり暴力的であったり存在そのものが危険であったりはしないようだが、そもそも神話生物に出会うだけで精神が削られる存在も多い。精神的な存在である妖怪ならばそう言った精神的なストレスにも強いだろうからあまり壊れてしまうようなことはないと思うが、また今度しっかりとカウンセリングでも行っておこう。
フランはちょうどいいしその時に狂気のことも何とかしてしまうのもいいかもしれない。もちろん本人にそのことを話して、それで本人からの了承を得てから、ということになるだろうが。
……ああ、眠い。もう寝てしまおう。考え事は次に起きたら、ということで。
ちなみに今回のさとりんの能力の暴走の内容はこちら↓
『旧神バステト不完全憑依
効果:さとりんに猫耳と猫しっぽが生え、行動が猫っぽくなる。ちょっと髪が伸びる。
また、心許す相手に甘え、それ以外の相手に対する排斥がやや強くなる。
』
こんな感じでした。