当方小五ロリ   作:真暇 日間

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 神霊廟です。


神霊廟
43 私はこうして聖人と会う


 

 神霊。その存在にはいくつかの種類がある。

 

 例えば、精霊の上位種であり力ある精霊。聖霊であろうと邪霊であろうと力さえあれば至ることのできる、強大な力の塊ともいえる存在。それは時に神と呼ばれ、あるいは宗教の力によって悪魔と貶められるそれのこと。

 

 例えば、人の欲の顕現。生きているもの、死んでいるものを問わずに発される無数の欲望の塊。それが数多く集まることによって一時的に形を得たそれのこと。

 

 例えば、神そのもの。私が呼ぶ『神格』にあたるもののうち、肉体を持っていないものに多くつけられる呼称のこと。

 

 今回の異変に出てきた『神霊』とは、この場合では二つ目の物を指す。無数に表れる神霊。それらがなぜ突然この幻想郷中に現れたのか。それを知るには地上に存在するとある寺の地下に眠っていた、古き時代の聖人に会いに行けばいい。恐らく、道教の布教のついでに教えてくれることだろう。

 とは言っても、もうそのことについて知ったとしても、天狗の新聞を作る手助けくらいにしかなりはしない。なにしろもうその異変は終わってしまっているし、異変を起こした犯人……いや、正確には少し違うのだけれど、この存在がなければ今回のようなことにはならなかっただろうと思われる存在に、豊聡耳神子と呼ばれる宗教家がいる。

 彼女は古代の聖人であり、『十人の言葉を聞く程度の能力』を持つ。その能力によって他者の欲から生まれた神霊を呼び集め、吸収して自らの力に変えることができるのだ。

 正確には能力でできるのは呼び集めるところまでであり、吸収するのはまた別の能力体系によるものなのだけれど、その辺りは割愛させてもらおう。説明が面倒臭いし、知っていようが知らなかろうがあまり変わらないことだ。

 

 さて、聡い方なら気になったかもしれない。まるで今回の異変はもう終わっているようではないか、と。

 その通り。もう終わっている。豊聡耳神子は新たに仙界のようなものを作り上げてそこに移住し、道教を広め始めている。白蓮和尚はそれを知り、いつか彼女たちとぶつかり合う時が来るやも知れないと自らを鍛え続けている。その異変を解決に導いた博麗の巫女は、今日も変わらず神社でのんびりと薄い茶をすすり、掃き掃除をして暮らしている。

 私からの報酬で得たお金があるだろうに、なぜそんな薄いお茶を飲んでいるのかと聞いてみたことがあるけれど、どうやら単に彼女はこのくらい薄いお茶が好きなだけであるらしい。ずっと貧乏暮らしをしてきた弊害か、それとも単なる好みの問題かは知らないけれど、とりあえずあまり薄すぎる味付けを続けていては身体に良くない。確かに塩分などの取りすぎは身体に悪いけれど、その塩分だって身体に必要な栄養素であるということには間違いない。外の世界の研究では、人間の生きていく上で絶対に必要な栄養素の一つに塩……塩分は含まれている。それだけ大切なものなのだ。貧乏だからとそれを削ってばかりいたら、いつかと言わずすぐ死んでしまうかもしれない。実に悲しいので、ぜひ止めてもらいたい。

 せめてもう少し贅沢を覚えてもらいたいのだけれど……お味噌汁がお湯とそんなに色が変わらないという時点でどうかしている。それはもはやお味噌汁ではない。お吸い物ですらない。お湯だ。

 

 ……それはそれとして、私はどうすればいいだろうか。

 目の前には一人の女。先程も心の中で紹介したばかりの、古代の聖人である豊聡耳神子。彼女がなぜここにいるのかは知っているし、何を目的としているのかもわかっている。なにしろ私は相手の心が読めるのだし、読心に関しては多少の妨害は楽に貫通できてしまう。故に隠しているつもりの彼女の心も記憶も読めてしまうのだ。

 

 私が触れた命蓮寺の地下の空間。そこに眠り続けていた彼女たちは、私が触れたことをきっかけに自分達が必要な時期が来たのだと判断して目覚めたらしい。実際にはそんなことはなかったのだけれど、本人たちがどう感じるのかというのは私にとっては管轄外の出来事だ。誘導することはできても強制することはできない。それが心というものだ。

 そして彼女は、自分達を目覚めさせるきっかけとなった私に興味を持ったためにここ、つまり地底の奥底に存在する地霊殿にまでやってきたというわけだ。

 そのついでに、私達が使える存在ならば道教に勧誘しようとしているようだけれど、その点については十分に合格ラインに達しているらしい。特にお空は素晴らしい力を持っていて期待できるということらしいけれど……宗教の強制は私は許しませんよ? 強制的に改宗させようというならば、そんな傲慢な感情を持てないようにきっちりかっちり始末してあげます。そんなことが必要にならないのが一番ですが、必要になってしまうことも十分に考えられるのが現在の幻想郷の在り方。昔と違って命の取り合いになるようなことはほとんどなくなったということは私にとっては良いことですが、代わりにこう言った面倒事も降りかかってくるようになりましたね。やれやれ、です。

 

「(ふむ……欲の声が聞こえませんね……)」

 

 どうやら彼女は私の欲の声を聞いてそこから切り崩してくる作戦だったようですが、私の欲()実に平凡なものです。死にたくない、とか、ずっとみんなで幸せに過ごしていたい、とか、そんなどこにでもある大したことのない願い。そして私はもうその願いはほとんど解決してしまっているといってもいい状態にありますから彼女の手を煩わせるようなことにはならないんですよね。

 ……ただ、欲の声といわれると気掛かりなものが一つ。私の欲は大したことはないのだけれど、私の記憶に存在する彼らの欲は凄まじいものがある。特に強いもの……と言うより、特に酷いものでは悪行と背徳を司る邪神であるイゴーロナクや自らの暇を潰すためならば人間や他の神を、それどころか自分の命すらも掛け金として遊びに使って弄ぶ燃える三眼と呼ばれる邪神すらも存在する。

 彼女が私の欲の声だけを聴いているのならばまだ問題はない。けれど、彼女がもし私の内側に存在する彼の存在たちの欲の声を聞き始めようとしたのなら、私はそれを止めなければならない。なぜならそれは間違いなく破滅へと誘う声であり、敵対もしていない相手にそんなものを聞かせるというのは間違いなくまともな精神を持つ存在がやっていいことではない。

 もしも私がそれを知る術を持たなければ。もしも私が彼女たちがそれを聞いたことがわかるような能力がなければ、私は彼女達を見捨てていただろう。けれど、私は彼女が何を聞いたのかを察することができる能力がある。そういう能力があるのに、敵対してもいない相手を見捨てるのは後味が悪い。

 例えそれが私のことを利用しようとしている性悪聖人であろうとも、敵対を考えただけでどうこうしようとするほど狭量ではない。実行に移すための準備を始めたら即座に潰したりはするだろうけれど、実行していない妄想にそこまでのことはしない。妄想には妄想で返すくらいだ。

 

 ……とは言っても積極的に守ってあげるつもりは毛頭無い。何度も何度も死に近づこうというのならば、少しくらい脅かしてみるというのも悪くない。教育というものはそういった経験を積み重ねることによって行われることもあるのだし、一種の実践授業のようなものだと思ってもらおう。私は別に彼女たちの教師ではないけれど、それはそれ。自分から危険に飛び込んできたくせに責任を他人に押し付けるようなものには罰を与えてしまったところでおかしくはない。それもまた教育だ。

 教育ならば何をしてもいいとは言わないけれど、この相手にならば私はいろいろとやってしまいそうだ。あまり関わり合いになりたくはないのだけれど、それはそれで仕方がないと諦めるしかないこともある。

 とりあえず、彼女のお付きの者とも言える古代の豪族たちがこの場にいないことを喜ぶとしよう。不幸中の幸いともいえるけれど、もしも彼女が気絶してしまった場合には元居たところまで送り返すのは面倒極まりない。彼女自身の足で帰ってもらいたいところだけれど、私が操っていった場合は途中で何が起きてもとりあえず進めてしまうだろう。それは少しばかり問題だ。

 

 やれやれ。本当にこの豪族たちは面倒なことばかり運んでくるものだ。少しくらい落ち着いたらどうなのだろうか?

 

 




 
 神霊廟でした。

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