当方小五ロリ   作:真暇 日間

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03 私は家族が大切なのだ

 

 古明地こいしは無意識を操る妖怪である。かつては姉であるさとりと同じく心を読むことができていたが、今ではその能力の根幹を為す第三の目を閉じ、無意識に棲み無意識を操り無意識の中を無意識に移動する存在となっていた。

 無意識に棲むがゆえにその行動は誰にも読むことはできず、無意識であるがゆえに誰にも気付かれることがない。それどころか、自信が無意識から浮き上がるには他者からの接触、あるいは無意識であろうと意識してしまうような衝撃が必要なのだ。

 

 例えばそれは鬼達の喧嘩の余波であったり、例えば無意識に飲んでしまったお酒の味だったり、例えば不意に出てきた大切な姉の名前であったり……あるいは───

 

「お帰り、こいし」

「!」

 

 無意識に存在しているがゆえに自分の存在を認知できないはずの姉からの言葉であったりする。

 

「ただいま、お姉ちゃん。……いつものことだけど、お姉ちゃんはよくわかるよね」

「心が読める範囲内なら私はすべて意識できるわ。そこに人型の『意識できない場所』ができればすぐわかるでしょう?」

「普通はそれも意識できないと思うんだけどなぁ……」

 

 私はお姉ちゃんにそう返す。お姉ちゃんがある言葉を言ってくれることを期待して、この話になる度繰り返す。

 そして、お姉ちゃんは私の期待した通りの言葉を言ってくれた。

 

「だって、私はこいしのことが大好きだもの。帰ってきたら一番初めに私が気付いて、一番早く『お帰り』って言ってあげたいのよ」

 

 お姉ちゃんは真剣な目で私に言う。いや、本当にお姉ちゃんは男前だと思う。こんなことを恥ずかしげもなく言い切れるなんて、ちょっと私にはできそうにない。

 だから、私はただ一言だけ返すことにしている。

 

「ありがと、お姉ちゃん」

「私がやりたいからやっているだけよ」

「うん、ありがと」

 

 にこりと私が笑って言うと、お姉ちゃんもほんの少しだけ笑顔を浮かべて私の頭を撫でる。こうして私を見つけてくれるお姉ちゃんが、大好きだ。

 お姉ちゃんは優しい。頭を撫でてくれる手や、普段の言葉遣いからもそれがわかる。面倒なことは嫌いだといつも言っているのに、主に鬼達が持ち込んでくる面倒事をさっさとかたづけてしまったり、どれだけ忙しくても一日に最低一度はペット達に顔を見せに行く律儀さとか、そう言うものを当たり前のようにできると言う時点で悪い人であるわけがない。橋姫だって人柄を知れば問答無用でぱるぱるし始めるだろう。

 その事は地霊殿の皆と、あとは鬼の勇儀くらいしか知らないと思う。お姉ちゃんはまだ心を読むことができる覚妖怪だし、地霊殿の外では嫌われていることを知っているはずなのに、まだ心を閉ざそうとしていない。

 お姉ちゃんは自分の事を弱い妖怪だと言うけれど、私はそうじゃないことを知っている。

 心を読み、他者の心の奥底にある悪意や狂気にいつまでも触れ続け、それでも折れることのない強い心を持っている。精神的な強さで言えば、きっとお姉ちゃんに勝てる相手なんてどこにもいないと思う。私のように心を閉ざしてしまったりすることなく、全てをあるがままに受け止め、受け入れられるような強さがあるからこそ、地底はお姉ちゃんの力で治められているんだろう。

 そして、そのことはあの鬼も知っている。だからこそその強さに触れたいと願い、何度でもお姉ちゃんに勝負を挑みに来るんだろう。

 ……今のところ、その願いが叶ったことは無いみたいだけどね。

 

 よしよしと撫でてもらっているうちに、なんだかすごく眠くなってきてしまった。お姉ちゃんのなでなでは動物をめろめろにするだけじゃなく、私までめろめろにしてしまう。

 お燐なんて、撫でられると気持ちがよすぎてちょっと大変なことになるし、変化まで解けてしまう。まあ、それもお姉ちゃんのなでなでなら仕方ないと思えちゃうのが不思議なところなんだけど。

 

 ……ちなみに、一番驚いたのは勇儀になでなでをしていた時だったかな。勇儀自身もかなり驚いていたのに、お姉ちゃんってば酔ってたのか無意識なのかなんでもないように撫で続けちゃってさ。あれは色んな意味で驚いたよ。

 お姉ちゃんがそんなことをするってことでも驚いたし、勇儀が大人しく撫でられっぱなしになってたことにも驚いた。ついでに順番待ちでもしているかのように綺麗に列を成して並ぶ動物達の最後尾にお空が居たことにもね。

 私は目を閉じる。ソファに座っているお姉ちゃんの膝に身体を凭れ、私の意識を無意識へと受け渡した。

 

 

 

 ■

 

 

 

 こいしが私の膝の上で眠りに落ちた瞬間、一気にその存在が私の無意識に入り込もうとしたのがわかった。こいしが目を閉じてしまってからと言うもの、こうして能力が暴走することがままあるため色々と大変だったりするのだ。

 しかし、私はそのうちにある解決策を見付けることができた。なぜそれを見付けることができたのかは……まあ置いておくとして、内容自体はとても簡単なそれを私は実行した。

 

「……よしよし」

 

 ただ、こいしを撫でる。それだけのことだ。

 しかし、こいしに触れるには無意識でなければ難しい以上、私は片手で本を読むことに集中しながら無意識にもう片方の手でこいしの頭を撫でることを要求される。その時に撫で方が下手ではこいしはいなくなってしまうし、私もただ疲れるだけになってしまう。

 だからこそ、私はこいしを撫で続けることができるようにペット達で練習を繰り返している。無心に相手を探り、反応を探り、そして気持ちがいいように撫でることができるように。

 そういった努力の結果、私の撫でテクはかなりの高水準にある……筈だ。私自身は無意識だし、ペット達の反応や記憶も途中から曖昧になっていくからよくわからない。本命のこいしの心は読めないし……。

 まあ、私が撫でるのをやめるまでこいしが逃げていない事から考えて高水準なはずだから、それで満足しておこう。

 

 ……しかし、昔は撫でる時にも相手の心を読みながら求める所を撫でていたのに、いつの間にか心を読まずともわかるようになってしまった。もしかしたら能力が派生して『相手の望みを察する程度の能力』になっていたりしないだろうか?

 

 ……。

 

 違和感が凄い。どうやらなってはいないようだ。よかったのか悪かったのかはわからないが、少なくとも個人的には面倒が無くて助かった。『察する程度の能力』なんてものを本当に手に入れたとして、基本的には『心を読む程度の能力』の下位互換くらいにしか使えなさそうだ。

 正確には、相手が何も考えずに闇雲に行動してきた時にその動きを察することくらいはできるかもしれないが、元々無意識を操ることはできなくても無意識に干渉することくらいはできるから必要か否かで言えば必要ない。あるだけ無駄とまでは言わないが、無くても問題はない。

 それに、無意識はこいしの領域であって私の領域ではない。私がするのはあくまでも意識から間接的に行う干渉であって直接いじることまでできるわけではないし、本当にそれをやるなら第三の目だけではなく全ての目を使って相手と目を合わせなければ実用性が低い。合わせなくても一応干渉自体はできなくもないけれど、干渉力は極端に落ち込む。

 とはいえ、一瞬でも私と目を合わせてもらえればある程度効果は持続するし、必要な時に使えるように潜伏させておくことだってできる。使い勝手はいいのか悪いのか。個人的には最低限の身を守る方法としてしか使いたくはない。相手が誰であろうと、私の言葉一つでその場に直立不動のまま首だけを自力で一周させたような変死体なんて見たくはないでしょうしね。

 ……いや、お燐は喜ぶかもしれないわね。死体収集が趣味のあの子なら、嬉々としてその死体を拾いに行くかもしれない。

 火車としての本能ならば仕方ないと思うし、悪意があってやっているわけでないなら私は大体のことは許容するつもりではあるけれど……まあ、いい趣味とは言えないわね。人のことが言えるような高尚な趣味を持っている訳でもないけれど。

 

 膝の上に居る無意識の顕現を撫で、私は思う。

 大きな幸せなんてなくていい。

 私の望みが叶い続けなくても構わない。

 せめて。せめて、もう少しだけこうしていられる時間をください。

 

 私はそう想いながら、ゆっくりとこいしを撫でていた。

 

 


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