当方小五ロリ   作:真暇 日間

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47 私はこうして人気を集める

 

 派手に暴れれば人気が集まる。それは人間から希望という感情が失われ、刹那的な快楽に浸るようになってしまったのが原因だ。

 その根源ともいえるのが、私の持つこの希望の面。この面が残る六十五の面から離れてしまったのが、この状況の根源。いったい何が起きてこんな風に離れてしまったのかはわからないけれど、できることならもう少ししっかりと保管しておいてほしかった。

 

「……もしかして、あんたも?」

「はい、私も参加することになりそうですね」

「うげ、できればあんたとは戦いたくないんだけどなぁ」

「私も、できることなら戦いなどお断りですよ。ですが、現状から考えればそうすることはできないのでしょう?」

「……まあ、ね。ここで止めたりしたら大ブーイングよ」

「生きていればそれだけで儲け物だと思いますけどね……やれやれ、彼女も面倒な落とし物をしてくれるものです」

 

 目の前にいるのは、博麗の巫女。八百万の代弁者にして、この宗教戦争における神道の代表格。

 ちなみに神道は彼女一人だけだが、仏教からは尼入道と白蓮和尚が。道教からはTS神子さんと放火魔が代表として出てきている。また、その他に無宗教が四人ほど参加しているらしい。うち一人はわざわざこんな戦いに参加したいと思ってはいないようだけれど、一度参加してしまえばどんどんと引きずり込まれて逃れられなくなるのが戦争というものだ。諦めなさい。

 さて、それでは神道の代表格、信仰を復活させ、自らの神社の立て直しを図ろうとする彼女との戦いを始めよう。

 私は覚妖怪。使う力は相手のもので、使う術も相手のもの。今回の私は神道系だ。覚妖怪であるがゆえに、そうあらなければならないというのが種族としての在り方とはいえ、やりにくい。

 なぜ私が神道の本職の博麗の巫女を相手に神道系で戦わなければならないのか。まったく、世の中とは実に不公平にできている。勇儀さんと戦った時にも、勇儀さんに合わせて殴り合いや真正面からの高威力攻撃ばかりで得意の搦手などは使おうという気になれなかったし、覚妖怪とは本当に難儀で不便な種族だと思う。

 

 ……嘆いてばかりでは進まないことはよく知っているはずなのに、それでもつい嘆いてしまう。救い難いが、それもまた私だ。仕方がない。

 では始めるとしよう。希望を待ち望む観客達も居るし、彼らをいつまでも待たせていては今の面の持ち主を引き寄せるのに必要な希望の感情も集まらない。

 彼女の移動は早い。私の三倍近くある。だから私が彼女のあとを追いかけても追いつかないし、彼女が逃げようとしていれば残念ながら逃げ切られてしまう。

 そこで、彼女が逃げ切れないように、逃げようと思わないように、希望をこの身に集積する。彼女が私の顔を面として持っていきたくて仕方無いと思うように、状況を作り上げる。

 勿論覚妖怪と言うけして強くない種族である私は、負けたときの事もしっかりと考えてある。元々私が持っている希望の面をこれ見よがしにチラ見せすれば、私ではなくそちらに意識が向くだろう。元々彼女はこの希望の面を自身の持つ六十五枚の面と一緒にするために行動しているようですしね。

 そんなことより、とりあえず勝負ですね。一般受けしそうな技……スペルカード以上の大技の場合は人気が減りそうだし、ある程度の小技と後はコンボ、そしてかっこいいポーズで何とか凌ぐとしましょう。こんな時のためにジョジョ立ちというポーズ集がありますしね。

 

 まず、霊夢さんが撃つ射撃に合わせて意識の一部を乗っ取って軌道を逸らして当てさせない。その際、意味はなくとも指で『クンッ』とかやっておけばいい。それだけで僅かに私に注目が集まり、希望の感情が私に……正確には、私の懐の希望の面に集う。

 希望と言う感情が失われ、均衡を崩して移ろいやすくなっている感情のなんと操りやすいことか。私と言う希望などとはほど遠い存在に向けて、これだけの希望の感情を向けてくる。まるで狂信者のようではないか!

 

 霊夢さんの放つ札の軌道をねじ曲げ、自動で追尾する巨大な札の対象を私から霊夢さんへ変更。回避しようと上に飛ぼうとした霊力を暴発させ、追尾する札に突っ込む形で使わせる。なんとかグレイズして避けるも、目の前には拳を構えた私。

 

「星熊右拳」

「ぐがふっ!?」

 

 鳩尾にめり込む私の拳。正直なところ殴った私の拳も少し痛かったりするのだけれど、今回はちゃんと準備をしてある。自分の拳を痛めないように、布を巻いてあるのだ。

 ちなみにこの布はお燐とお空が作ってくれたもの。お燐が作った方は几帳面にしっかり縫われていて、しっかりもののお燐らしい出来。お空が作った方は一つ一つの縫い目が粗かったり前後していたりしていてお世辞にも綺麗とは言えないけれど、それからフランとこいしが手伝ったようでなんとか形にはなっている。

 フランはどうやらお燐に習ってお裁縫を頑張っていたようだ。お空とこいしの粗い縫い目のなかで、一列だけきちんと縫われているのがわかる。

 こいしは相変わらず無意識で───けれど、無意識の中でも私のためににこうして縫い物をしてくれたのが嬉しい。

 そんなもののお陰で、勇儀さんの筋力を憑依させて殴り付けてもお互いに『痛い』で済んでいる。勿論、完全再現完全憑依なんてことをしていないからと言う理由もあるのだけれども。

 

 吹き飛び、意識が千々となっている霊夢さんに肉薄し、意識が戻ると同時に今度は左拳。振るおうとした打撃をすり抜けて霊夢さんにカウンターとして入り、顎を揺らす。

 そして、踏みつける。これでようやく、普段で言う『通常段幕が終わった』と言うところですかね。

 

「っぐ……げっほ、ごほ……なんって威力よ……あんたそんな力強かったっけ?」

「一応妖怪ですからね。人間の内臓を揺らすくらいはできますよ」

「無茶苦茶な奴め……」

 

 そんなことを言いながらもスペルカードを発動しようとしている貴女の抜け目なさが大好きですよ。実に人間らしくて素晴らしい。

 けれど、残念なことがある。通常の弾幕ごっこならばともかく、弾幕格闘にはスペルを発動するまでに致命的なまでの隙ができる。この隙にある程度以上衝撃の通る攻撃を叩き込み、スペルカードをブレイクさせれば───

 

「……ちょっと、そんなのありな訳?」

「できるだけ痛くないように優しく動きを止めて削りきったと思いますが」

「だから、そんなのありな訳?」

「さあ? とりあえず、隙が大きすぎる技が使われそうならその隙のうちに叩き込めるだけ叩き込むと言うのは間違っていないと思いますが?」

「……ちっ」

 

 そう言う隙をついてどうにかするのは人間の技じゃないの、等と思われても困りますね。私だって弱いんです。人間と同じくらいの(筋力)しかないんです。人間と同じような技を使ったっておかしくはないでしょう? 少なくとも私はこれまで使ってきましたし、これからも使っていく気でいます。

 私に言わせれば、人間だと言うのにあれだけ強いと言う方がおかしいんですけどね。

 白蓮和尚はまだ良いです。彼女はあくまでも元人間であり、今では大魔法使いとも言えるベテランですから。

 白蓮和尚の所に居る尼入道も、昔は人間でしたが今では妖怪。人間以上となるには十分な理由がある。

 最近復活した聖徳太子も構いません。彼女も元人間であり、今では仙道に身を置いている仙人。ついでに元男だと言うこともありますがその辺りは放置と言うことで。

 守矢の風祝だって問題はない。なにしろ彼女は神の血を引いている人間で、今となっては現人神。全く問題はない。

 

 しかし、霊夢さんは違う。魔法使いでもなく、妖怪でもなく、仙人でもなく、ましてや神ですらない。ただの人間が、その才の導くままに育った結果が人ならざる者たちと同格の存在になると言うことは、ある意味ではとても恐ろしい。

 人間とは妖怪を恐れる存在でなければならない。

 だからこそ、人間が妖怪を支配すると言う可能性を見せてしまう彼女達は危険な存在だ。

 危険は今のうちに排除しなければならない。

 

 ───と、言う感情は私にもある。端くれとはいえ私も妖怪ですしね。

 それを実行しないのは、少なくとも今は彼女たちがそうしないと言うことがわかっているから。心が読めるからこその信用ですね。

 

「……あのさ」

「はい? 何ですか霊夢さん」

「…………私の技の出をひたすら潰し続けるのは楽しいかしら?」

「痛くない上に人気を稼げると言う点で非常に美味しくはありますが、楽しくはないですね。あ、夢想天生します?」

「無駄撃ちになるのわかってて誰が……まったくもう。降参よ、降参。ほんとに面倒な相手と当たっちゃったわ……人気をまた集め直さないと」

「あ、ついでに道教の……ちょっと抜けてるところがある方の放火魔さんの居場所はご存じですか?」

「……え、あいつあんたん所にまで火つけたの?」

「この騒ぎに乗じて着けないように、と言うお話をしに行こうかと。決してこいしが火傷させられたから自分の筋力で頚が千切れるまで捻り折ってやろうとか考えてませんよ? ホントウデスヨ?」

「……あ、そ」

 

 怖いとはなんですか怖いとは。私いまいい笑顔じゃないですか。

 




 
 布都ちゃんはまだこいしに火傷をさせてはいないといいですね。(断言はしないスタイル)

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