当方小五ロリ   作:真暇 日間

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55 私はこうして日常に戻る

 

 とても精巧な人形を作り、様々な仕込みをしておいた。あれの感じたことや見たこと聞いたことは全て私に理解されるし、場所もわかるようにした。考えることは当然わかるし、非常時には私の方から動きを止めたり動かしたりと言うこともできるようにしたし、正気を失うきっかけとなった知識の内容を囁くことで他の誰かの正気を削ることもできる。実に便利な人形を作ったものだ。

 欠点として、たまに整備をしなければ薄く貼り付けた正気の仮面が剥がれてしまうと言うことだが、それなら整備しておけば問題ない。離れていても整備はできるし、整備自体は実に手軽。

 魔法の森に住む七色の魔法使いは無機物で作り上げた人形を完全なる自立人形としたいようだけれど、やはりそういうものを作るならば生体を使った方が楽だ。木偶人形になってしまいますけれど、木偶人形には木偶人形なりの良さと言うものもありますしね。悪くはないですよ?

 

 ……やるべきことは終えた。これからは、またいつものようにのんびりと過ごしていこうと思う。

 

「……お姉ちゃんが最近私のことをしっかり捉えてくる件について」

「……さとりお姉さまが作る料理がどんどん美味しくなってきている件について」

「……さとりのなでなでと耳掃除が気持ちよすぎて意識を保てない件について」

「「それはいつも通り」」

「そうなんだ……」

 

 妹達との時間が最近取れていなかったということもあるし、それ以外にもペット達との時間も作りたい。友人達のところにも遊びに行きたいし、妹達を紹介もしたい。こいしはいまだに無意識のままだけれど、感情は豊かになった。より子供のようになったといえばいいのかもしれない。

 それにつられてフランもただの子供のように遊んでいるし、こころも控えめながらこいしとフランに引っ張りまわされつつ楽しく遊んでいるようだ。

 たまに『感情を学びたい』と言い色々な所に出かけて行っては戦いを挑んだり、飲めないお酒を飲まされておんぶされて帰ってきたり、幽香さんの所でお茶をごちそうになったり、にとりさんの所で感情についてだけでなく色々なことを教えてもらって来たり、人里に行って半獣教師に聞きたいことを聞きまくっていたりとかなり自由に過ごしているようだ。

 ただ、どれだけ外にいても、最後にはしっかりと地霊殿に『帰って』来てくれている。この場所を帰る場所だと認識してくれている。それはとても嬉しいことだ。

 そもそもこころは感情を持っている。だと言うのに感情を学びたいと言うのは、恐らくだがこころの表情が変わらないと言うことにも原因がある。精神は肉体に引っ張られるとはよく言われることだが、肉体が笑顔や怒りを見せないでいれば精神の方もそういった感情が育ちにくいと言うことがあるかもしれない。

 流石にこころのような存在がそこらに居るわけもないのでかなりの割合で推測が含まれているが、絶対にあり得ないことではないだろう。

 確率で考えれば存在はする。一人いるのだから確率が0と言うわけではないことが証明されてしまっている。

 だが、可能性として絶対にあり得ないと言うわけではないからと言って、それがあるかと言われればわからないとしか答えようがない。世界の全てを知り尽くすことができなければ不可能だ。

 ……そして、私は今のところこころのような存在はこころしか知らない。一時的にこころのように表情が動かず、内心と外見が解離していた存在ならば居たが、あそこまで純粋で、何もないのに表情が変わらず、他人の事を思いやることができる存在などはいなかった。

 つまり、こころは世界に一人しかいない掛け換えの無い存在だと言うことだ。

 勿論こいしやフランも同じように掛け換えの無い存在であり、もしも傷つけられ、失うことになるようなことになれば……私は恐らく神に喧嘩を売りに行くだろう。

 

「お姉ちゃーん」

「こいし? どうかしたの?」

「うふふふ……呼んだだけ~♪」

 

 ……こころが地霊殿に来てから、こいしは一時的にではあるけれど感情を得て、より感情的に、まるで子供のように行動するようになっていた。そんなこいしはとても可愛らしくて、ついつい甘やかしてしまう。

 けれど、そうしてこいしばかり甘やかしているとむくれる子もいる。それはフランがそうだし、表情が変わらない上に自身の感情の正体すら理解していないがこころもそうだ。愛情に飢えているフランはとにかく愛されていると実感したがるし、こころは地霊殿に来たばかりでやや不安だと言う気持ちや落ち着かないと言う様々な感情の混ざった複雑なそれを理解できていない。

 感情を司ると言う面霊気だが、感情を定義することができていない。これではしばらく演技を続けていたら自身の正体を忘れてしまう可能性もあると思うけれど……そうなってしまったらちゃんと私が元に戻してあげるつもりだ。

 それに、立派な面霊気になれるようにと感情の擦り合わせも行っている。こころが感じた感情を私が読み取り、その感情の名前を教える。喜怒哀楽といった大雑把なものから、そこから更に分化した非常に細かいものまで一つずつ。

 ただ、都合よく知らない感情ばかりが出てくるとは限らない。同じ感情の強弱が違うものや、違う感情に見えるけれどいくつかの感情を混ぜ合わせたもの。それこそ無数に存在する感情の中から、こころの持つ六十六枚の面に会ったものを探し出すと言うのは骨が折れる作業だ。

 それに、最近いつの間にか『無感のこいし面』等と言うものも増えているし、もしかしたらこれからも増えてくる可能性がある。

 ちなみに、こいしの面があるなら私の面もあるのかと聞いてみたのだけれど、顔を真っ赤にしつつ黙っていても無駄だと知っているので教えてくれた。まあ、私は本気で隠そうとしていることを無理矢理に掘り返すようなことはあまりしないし、するとしても相手を選ぶからこころは答えたくなければ答えなくてもよかったのだけれど……まあ、教えてもらえるならば教えてもらう。

 

 ……名前は『恋慕のさとり面』と言うらしい。この時点でどんな感情を宿しているのかは察することができたが、止めるよりも早くこころは内容を話してしまった。

 要するに、恋愛感情を表す面であるらしい。こころ自身の初恋の相手である私がこころの面に現れたのは……まあ、そう言うことなのだろう。

 恥ずかしいと言う感情を振り撒きながらの説明を受けて、ついついこころを可愛がってしまう。身体を抱き寄せ、髪を撫で、優しく耳元で囁く。

 

「こころは可愛いね」

「こころが一緒に来てくれて私は幸せだよ」

 

 と、そのようなことを囁き続けたわけだが……頬にキスをした時点で真っ赤になって気を失ってしまった。いきなりの事に頭の中身がオーバーヒートしてしまったらしく、どうにも元に戻るまでに時間がかかりそうだ。

 

 その間に私はフランの相手をする。フランは三人の中では一番まともな子供だと言える。一番大人びた子供なのがこころで、一番子供らしくない子供なのがこいし。こいしの場合は子供と言うより怪物なので間違ってはいないはずだ。

 そんなフランだが、最近は能力を使いこなすための特訓をしている。能力を使いこなすことができれば今回のこいしの火傷をどうにかすることができたのに、使いこなせないからなにもできなかった。そう考えたフランは自分にできる方法で自分の能力を鍛え始めたのだ。

 幸いなことに私がいれば能力から来る狂気は無視できる。それどころか、狂気に打ち勝つ精神をも作り上げることが可能だ。それに、平行世界において物質だけでなく概念や現象すらも破壊することができるようになったフランの精神や感覚、知識などをこちらのフランに想起することで向かうべき方向性を見つけやすくすることもできる。

 ただ、そうして得た経験は自身の物ではなく借り物だ。しっかり努力しないと真の意味で成長させることはできない。

 証拠に、以前一度に凄まじい量の記憶を想起して欲しいと言われて実行した結果、その想起された記憶や経験に呑まれて自意識が消えそうになってしまったペットもいる。流石に本当に飲まれてしまう前に救出して処置はしておいたので問題はなかったが、そう言った危険もないわけではない。

 そう言った危険もあると言う話しはしたし、フランも納得した上でやっているとは言え……勇気ある行動だと誉めておきたい。それに、私のことを信じると言ってくれたのだし、その信頼にも答えなければ。

 

 私はこうして、少しだけ忙しくなった日常を過ごし始めた。

 

 


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