当方小五ロリ   作:真暇 日間

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56 私はこうして日常を謳歌する

 

 今日の私のご飯はフランの狂気。自分もそれ以外もなにもかもを破壊し尽くそうと言う破滅的な狂気の味は、実に刺激の強いものだ。例えるならそれは限界ギリギリまで二酸化炭素を溶かし込み、砂糖を加えて凍る寸前まで温度を下げられたコーラの一口目のような強烈さ。何も知らず、ある程度の心の準備ができていなければ間違いなく吹き出してしまっていただろうと確信するほどの痛烈な刺激に、破滅へ向かうに当たっての大きな大きな多幸感。それはまるで麻薬のようで、一度口にしてしまえば止まることがない。

 破滅に身を任せてしまえという甘い誘惑。それに乗れば得られる一時の快楽に溺れてしまえば、待つものは己だけでなく周囲すらも巻き込んだ破滅。

 ……こんなものを何度も味わい、しかし理性で狂気を抑えようとできるとは……フランの精神力は凄まじい。そこらの人間よりも遥かに上をいっている。素晴らしい精神だ。美しい。

 しかし、フランの能力はそれを加味しても扱いづらい物だった。あまりにも強大すぎるその能力は、確実にフランの精神を蝕んでいた事だろう。

 まあ、私が見ている時に限ればそんな感情に堕とされたりはさせないが、もしもの時のためにしっかりと見ているべきだということは言うまでもない。可愛らしい妹分なのだから、大切にしてやらなければ。

 ……甘やかしてばかりではいけないということはわかっているつもりなのだが、可愛いのだ。仕方無いと思いたい。

 さて、それはそれとしてフランの能力制御練習だが、概念に入る前にステップを踏んでいく事になっている。

 初めは物質を壊すところから始まる。物質を全て壊すのではなく、狙った部分だけを正確に壊す。それができるようになってから次の段階に入る事になっている。

 ちなみに壊しているのは基本的にその辺りに転がっている石。それが立方体になるように壊してもらっている。綺麗な立方体はまだ出来上がっていないが、とりあえず平面を作ることはできるようになっている。

 始めてからまだ数時間程度。平行世界の経験などが入っているため感覚がわかると言うアドバンテージがあるにしても上達が早い。これまで全てを感覚でやっていたとは思えないほどの出来だ。

 種族的に能力が高く、練習をずっと続けることができるのが利点となっているのだろう。また、これまで何か一つの事にぐぐっと集中し続けると言うことがなかったせいだろうけど、能力制御を楽しくやっているようだ。

 嫌々やるよりも楽しくやった方が普段からの上達は早い。それより早いのが命が懸かっていたりするものだけれど、流石に命まで懸けさせるつもりはない。フランが死んでしまったら私は恐らく泣くだろうしね。

 

 ……肉体が綺麗に残っているのならば死者蘇生の呪文を使うことも辞さないレベルだ。と言うか普通にやる。

 まあそう言うことで、フランは健全にかつ堅実に努力を続けている。きっとその努力はしっかりと実を結ぶことだろう。フランはまだまだ子供だと言うのにかなりの努力家だ。自分が納得するまでは続けるだろう。

 

 ……そんなフランを見ながら私は仕事と趣味の魔導書製作を平行している。仕事として現地獄から罪の清算にやって来た動物達の罪を削ぎ落としながら、そうして得た『濃厚な罪を纏う人間の血』と言う概念を持つ真っ赤なインクで文を書く。

 ちなみに今書いているのは『カルナマゴスの誓約』の日本語訳。ただし、人間が触れるとそこから老化し、最終的に塵になるので注意が必要だ。

 そこでこの本は触れるのではなく視界に入れるだけで発動するプロテクトを用意しておく事にした。

 

 まず気絶する。もちろんこれは耐える者も居るだろうが、精神の弱い者ならばまず間違いなく気絶するようにできている。最近知ったTRPGで言えば、POW対抗ロールで20との対抗だ。ちなみに探索者たちは2D6+6がPOWとする。

 もちろんこれは人間の話であって、妖怪ならば遥かに強靭な精神を持つ者も少なくない。そんな者達にはこの気絶を乗り越えてくるだろう。

 その次に、ある程度の時間この本を見つめ続けた場合に起きるのが幻覚。自分の知り合いの中で一番貧弱だと思う者が現れるが、何故か全身の筋肉と言う筋肉が隆起し、つやつやと光を反射して輝いている中で顔だけがいつも通りと言う幻覚が現れ、クラウチングスタートのポーズから凄まじい加速で追いかけてくる。

 幻覚の作用として、自身が出せる最高速度で暫く逃げればなんとか逃げられるように作ってあるが、速度を緩めたり止まったりすればあっという間に追い付かれてしまうことだろう。

 その後に幻覚に何をされても私は関知しない。そこから先の動きは幻覚を見ている本人が『こいつならこうするんじゃないか』と思うことや『こんなことはされたくない』と言う思いを反映して動くからだ。

 普段から苛めている相手がそうなっているのを見て『やり返される』と思えば実際にやり返されるだろうし、『殴られる』と思えば殴られる。要するに、本人の意識によって内容が変わるのだ。

 ちなみにだが、応用すればちょっとした夢を叶えることもできる。白黒シーフ辺りなら、初恋が叶った世界を見ることができたり、幽香さんなら友達が沢山できる幻覚が見えたりすると思います。

 なお、この幻覚を見せる能力は私には効きません。製作者ですしね。無効化する方法はいくつかありますが、私はそのうちの一つである『真正面から無視する』方法をとっています。TRPG風に言えばPOW対抗ロール自動成功といったところでしょうか。

 これは私が製作者であり、同時に元から魔導書の内容が頭に入っていて、かつセキュリティの存在と効果を熟知しているからできること。私のPOWが530000あるとかそんな理由ではないと思います。ないはずです。多分ないです。

 ですが、元々この幻覚を見せるというのは私でも可能なこと。つまり、幻覚の中で色々と夢を叶えて差し上げることも不可能ではない。

 ただ、そうして見せた世界も結局は幻覚。残念なことに現実ではない。幻覚による幸福な世界と現実の間にあるギャップに苛まれ、気を狂わせた存在は多くはないが少ないとは言えない。まあ、それなりにいると思ってもらえればいいだろう。

 もちろん今回のセキリュティでそうなる可能性は存在しないと言っていい。何しろ相手が相手だ。いくら私でもこいしの顔をした全身筋肉の身長二メートルを超える相手を見てしまえば一瞬固まってしまうことは避けられないし、それが原因でその世界に残りたいと考えることはない。私がそれを見た場合、そのこいし(?)はきっと何も変わらず抱き着いて来ようとするだろうから被害も凄いことになるだろうし。

 

 まあ、そもそもここに泥棒に入ろうとするような相手は早々いないのですけれどね。なにしろ私がいますから。

 今更ですが私は嫌われ者。心を読まれ、それを暴露されて喜ぶ存在はそういない。つまり、私が心を読めているうちは私が多くの存在に好かれるということはないと言うことだ。

 勿論私のことを嫌いにならない存在がいないとは言わない。実際に勇儀さんや幽香さん、にとりさんあたりは私のことが嫌いではないようですし。ですが、それは結局マイノリティ。どこまで行っても少数派。少数派はいつの世も多数派に呑まれて消えてしまうものです。

 だから私はできるだけ外との交流を断ってのんびりと暮らしているわけですが……まあ、たまに幽香さんのところに遊びに行くようになって外出の機会も増えましたが、それでもまだまだこいしのように大概外にいるというところまではいっていません。そんなことになったら仕事ができなくなってしまうのでなるつもりもありませんが。

 仕事は大事。私たちがここに大きな屋敷で静かにに暮らしていられるのも、閻魔である四季さんの影響があることは間違いない。それのおかげでそれまでに比べて襲撃者がガクッと減ったことは間違いないですし、地獄に足を向けて寝られませんね。地獄は地下なので立ってると勝手に足は地獄を向いちゃうんですけど。

 

 ……どうやらフランが立方体を作ることに成功したようだ。自分で作ったそれを抱えて、嬉しそうににこにこと笑顔を浮かべているのがわかる。

 では、今日はそのお祝いとしよう。フランの修行第一段階突破おめでとう、ということで、腕によりをかけて料理しちゃう。

 さて、メニューは何にしようかな……。

 

 


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