当方小五ロリ   作:真暇 日間

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60 私はこうして情報を出す

 

 想起する。時を巻き戻すように、小人族の姫の記憶を逆行し、必要な場所を抜き取って行く。

 そして、抜き取ったそれらの記憶を、今度は時系列順に並べてこの場にいる多くの存在たちの頭の中に流し込んでいく。

 彼女達は小人族の姫の記憶を読み、記憶の中に旅に出る。

 それでは、始めよう。小人族の姫、少名針妙丸と、悪辣なる天邪鬼、鬼人正邪の物語を。

 

 

 

 ■

 

 

 

 彼女達の出会いは数か月前にまで遡る。当時はただ、静かに暮らし続けていた小人族たちに、天邪鬼が接触してきた。小人族の中でもある程度歳を食っている者達は天邪鬼に関わると言う意味を多少なりとも理解していたが、年若い彼ら、あるいは彼女らはその意味を知らないままに鬼人正邪と言う天邪鬼に関わりはじめてしまった。

 それは、小人族の姫である少名針妙丸もそうだった。他の者達と違ったのは、彼女が他の子供達と違って我慢強く、かつとても純粋だったことだろうか。結果的に彼女は天邪鬼に嘘の情報を教え込まれ、幻想郷の転覆のために行動を始めることになる。

 

 だが、ここで問題のシーンとなる。つまり、『鬼人正邪が悪い奴ではない』と言う可能性が現れたのだ。 そうかもしれないと小人族の姫が思った理由は、天邪鬼の毎夜の行動だったらしい。昼間とはうってかわって優しい口調で語りかけ、優しく自身を撫でる。昼間の天の邪鬼ならば間違いなく起きない程度に痛い目を見せるだろうが、そうしている間の天邪鬼はそんなことはしないでただ謝り続けていた。

 それは彼女には真剣なものとしか感じることはできず、本心からなんらかの事を詫びているように感じていた。

 だが、そうしている天邪鬼は具体的な言葉を口にすることはなく、ただ何かを謝るばかり。このままではいったい何についての謝罪なのか全くわからない。

 

『……おい、覚妖怪。無茶なのはわかるが、記憶の中のこいつの心の中は読めないのか?』

『無茶苦茶なことを言わないで下さいよ。私が当時この場に居て、しかもしっかりと心の声を聞き取っていたなら話は別ですが、当時全く気にしていなかった相手の知らない場所でのやり取りにおける心の中身なんてわかるわけないでしょう。あれですよ、貴女は自身の記憶の中で能力を使って火を出していなかった場所に火を新しく出して過去を改変できますか?』

『…………あー、そりゃ無理だ』

『貴女のような人外染みた方ですらできないのですから、極普通の覚妖怪である私がそんなことができるわけないでしょう』

 

 ……一部から『お前が普通とか無いわ』と言う思考が流れてきますが努めて流す。私は普通の覚妖怪です。異論は聞きますが認めません。

 それと、私に敵対的な意思を向けている吸血鬼のお嬢さん。あまり続けると隣のメイドと混ぜますよ? 運命も時も操れなくなると思いますが……まあ、実際に手を出してこなければ構いませんがね。いくら考えていたとしても、実行に移そうとしなければ私はどうこうしようとは思いません。

 ……私は、ですが。私以外にそんなことができる者と言えば、薬を作れば八意思兼神永琳、能力でなら八雲紫くらいでしょうか。私はあまり触れあわない存在に興味がありませんので、他にもできる存在はいるかもしれませんが、とりあえず現在私が知っている相手ではこれだけですね。

 実際にはそんな大御所の方がわざわざ本当に混ぜたりはしないでしょうがね。わざわざそんなことをするくらいならさっさと殺害するでしょうし。

 

 記憶の中の小人族の姫と天邪鬼は、昼間はそれまでと何も変わらないように振舞っていた。相変わらず天邪鬼は小人族の姫をよくいじっていたし、小人族の姫は天邪鬼の言葉に振り回される。しかし夜になれば天邪鬼は小人族の姫の元に向かい、そして何かを謝罪し続ける。いったい何がどうしてこうなったのかはわからないままだが、これが小人族の姫、少名針妙丸が天邪鬼、鬼人正邪を一方的に悪だと決めつけることができずにいる原因であった。

 

 記憶の再生が終わり、その場にいた全員の意識が元の場所に戻ってくる。そして、小さく声が上がった。

 

「……地底の。この記憶、信憑性はどのくらいだい?」

「さて、正直なところわかりませんね。記憶違いや本人の感情による様々な補正が入っていますし、事実とどれだけ違うのかはその場において直接それを何の感情もなく見ることができた存在でもいなければわからないことです。

 ただ、これだけは言えます。『私は彼女の記憶をそのまま再現しました。一切の改竄、重要な情報の意図的な隠蔽などは一切行っていません。』」

「誓えるかい?」

「結果として違う可能性はありますが、現在少名針妙丸の持つ記憶と先ほど見せた再現の間に相違はないという点については誓いましょう」

「……そうかい」

 

 私の言葉に納得したのかしていないのか、洩矢の祟り神はそれだけ言って目を閉じた。

 実際には、納得していようが納得していなかろうが私が言葉を違えていないという契約を結べた時点でこの話にある程度の信憑性を持たせることに成功している。契約を結ぶことができるということは、そこから少しでもこちらに干渉できるということ。そのことを確認できて、洩れ矢の祟り神としてはもう十分に満足のいく結果といえるだろう。

 その思考が、こちら側に漏れていなければの話ですけどね。

 

 さて、そう言う訳である程度の信憑性の確認をしたところで、なぜ天邪鬼、鬼人正邪は今回のような事件を起こそうとしたのか。あれだけ夜には謝っていたと言っても、それでも幻想郷を揺るがしかねない大事件を起こしたということは間違いない。では、なぜそんなことになったのか。

 私はその答えを、知っている。原因は私にはわからないが、あの天邪鬼の使っていた道具に宿った残留思念を増幅し、解析し、読み取れば、その時に何を考えていたのかはすぐに理解できる。

 鬼人正邪は間違いなく心の底から幻想郷の転覆を望んでいた。しかし、もう一人の鬼人正邪とでもいうのだろうか。天邪鬼の中に存在していたもう一つの人格は、幻想郷の転覆など望んではいなかった。

 

 ……要するに、鬼人正邪は二重人格だった。それがいったいいつからのことなのかは知らないが、以前私が彼女のことを見つけて軽く頭の中身を覗いた時にはこんなことにはなっていなかったはずなので、その後のことだろう。

 ただ、生まれたのは最近だが天邪鬼として生きてきた記憶のほぼ全てを持っている。たとえ今すぐに天邪鬼の中に二人の立場が入れ替わったとしても、周りへの態度はともかくとして普通に生きていくには何ら困ったことにはならないだろう。

 ならば、私に一つ考えがある。

 

「どうやらあの天邪鬼は二重人格のようですよ?」

「……なるほど。そう言うこと。危険度は?」

「能力自体が変わっている上に、性質がどう見ても善ですからね。能力は『正位置にする程度の能力』。物を正しい形にしたり、歪んだ空間を正しく直すような能力ですね。結界系統は相性が悪そうですし、意識的に悪用すれば結界と言う形で遮られて独立している幻想郷を世界と繋げ直したりもできるでしょうから……まあ、幻想郷の成り立ち的には極高、人間的には極低、妖怪的には……最悪ただの現象にまで戻されますから極高、と言ったところでしょうか。精神構造的に実行に移したりはしなさそうですが」

 

 ……しかし、この能力は中々に私の特技のメタ能力だと言える。精神をいくら狂わせようと、能力を使えば壊れる前の正しい状態にまで戻されてしまう。軽く狂わせるだけでなく、根本から粉々にしてしまえばなんとかなるだろうけれど……それは手間がかかって仕方無い。

 それと、天邪鬼の裏人格が恐れている『自身に能力を使うと表人格に戻ってしまう』と言う予想だが、あの裏人格はあの状態で一度完成した物だ。元の天邪鬼に能力を使ったなら可能性はまあ無くはないが、自身に使った場合は表の人格になったりはしない。たとえ表の人格に使ったとしても、実際に消滅したりすることは恐らく無い。しばらくの間意識が表に出てこれないくらい疲労するかもしれないが、ああいった能力で無茶をしようとしても大概の場合無茶の途中で息切れして中途半端になる。能力とはそういうものだ。

 

「そう言う訳ですので……どうせなら、あの天邪鬼には消えてもらい、新しく生まれ変わってもらうというのはいかがです? 恐らく裏人格の方は静かに過ごせればいいようですし、ついでに何かあった時のために『幻想郷の正しい形』に戻して見せたり、蓬莱人を『人間として正しい形』に戻して見せたりできるようになるかもしれませんし」

 

 ……乗り気になった方は、まだ一人。私としてもあの能力は便利なので残せるのなら残しておきたいんですよね。どう説得しましょうか……。

 

 

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