当方小五ロリ   作:真暇 日間

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 スッパテンコー出張中……


地霊殿
04 私はこうして異変に挑む


 

 地底に太陽が現れた。上を見上げても地盤があり、星も月も当然日も見えないはずのその場に突然太陽が現れると言うのは間違いなく異常なことであり、地上で言う『異変』であることは間違いない。

 太陽に焼かれて旧地獄の天蓋が焼き切られ、怨霊が灼熱の湯と共に噴出する。無限に等しい時の中、ひたすらに灼熱の責め苦を与えられていた旧き神代の罪人達の怨霊は、責め苦より逃れうる時を逃しはしない。

 かつて地獄と言うものが生み出されて以来、廃棄されるまでの数十億年の間に死んでいった罪在りし者達は、狂うことも浄化されることもなくひたすら行われ続ける責め苦に耐えた強者。強靭な精神力と地上への妄執に捕らわれた魂の群れは、奔流となって地底世界を駆け巡る。

 そしてその怨霊と怨念の奔流は───

 

 

 

『静まりなさい』

 

 

 

 ───たったひとつの言葉によって、即座に終わりを迎えた。

 

 火の粉が一つ溢れるだけで地上を全て焼き払うことができると言う灼熱地獄の炎に耐えてきた怨霊の精神は、小さな妖怪の一言によって千々に引き裂かれた。

 へし折られ、砕かれ、潰された多くの魂は、虚ろな人形のように灼熱地獄へと自ら戻っていく。僅かに声が届かなかった魂もあるが、それらは彼女のペットであるお燐達が拾い集めて地獄にまで戻していく。

 地上に間欠泉と共に溢れてしまった怨霊の収集は後回しにされたが、それでも広大な地底世界の全ての怨霊を灼熱地獄跡に戻すのに大した時間はかからなかった。

 

 しかし、当然ながらそれで終わるわけではない。地上に溢れ出した怨霊は数多いし、怨霊と言う邪気に満ちた霊力が大量に流れたことでできてしまった地脈の事など、打たなければならない手はまだまだある。

 それに、地底の太陽……さとりのペットである霊烏路空の事もなんとかしなければならない。やることは無数に並んでいる。

 

 そこでさとりは虚空に向けて呟く。

 

「───八雲紫。博麗の巫女を連れてきてください。今回のこれは十分異変に匹敵するでしょう?」

 

「……あら、珍しい。貴女から私に話しかけてくれるだなんて」

 

 さとりが視線を向けた先……その空間そのものが奇妙な形に切り開かれ、一人の女が顔を出した。

 彼女の名は八雲紫。地底の上に存在する幻想郷の製作者にして管理者を自称する大妖怪である。

 その身に保持する妖気は妖怪の中でも最強の位置にある鬼に匹敵し、神算鬼謀にて地上の妖怪達を掌の上で弄ぶ、物事の境界を操作する能力者。

 ……ついでに、さとりと同じく多くの者からあまりいい感情を向けられていない、所謂『嫌われ者』であった。

 

「何が起きたのかは知っているでしょう? 根本はこちらで何とかするからさっさと呼んできてもらえませんか?」

「あらあら、地底の支配者たる古明地さとりが私のような者を頼りにすると?」

「御託はいりませんよゆかりちゃん」

「ぶふぅっ!? ちょ、それをここで言う!?」

「必要なら言いますよ。かつて地底にもスペルカードルールを敷こうとして私に直接話をつけようと戦いを挑んで来た時と同じようにね。……何を土下座しているのですかゆかりちゃん? 泣きますか?」

「もう許してくださいお願いします」

 

 もしも、普段の八雲紫の事を知っている者がここに居れば目を疑っただろう。あの八雲紫が、必死になって頭を下げているのだから。

 

「『想起・ゆかりちゃん10さい、はじめてのちれいでん』」

「やーめーてぇーっ!」

「何故です? 可愛らしいと思いますが……」

「いいからやめて!お願いだから!なんでもするから!」

「そうですか。では貸しておきますね。さて、これは幾つ目の貸しでしたかね?」

「うぐぅ……」

 

 紫は……ゆかりは涙目になる。気のせいかゆかりの背は縮み、本当に10歳くらいの少女に見えてくる。

 それを待っていたのか、さとりは小さくなったゆかりを抱えて膝にのせる。さとりにとっては予定調和、そしてゆかりにとっては災難でしかないが、端から見る分には平和な空気が流れている。

 

「ふむ……ああ、これですね……『八雲藍、ご主人様がまた縮みましたよ』……と」

「?」

「ああ、何でもありませんよ。もうすぐ迎えが来ますから、それまでこのぐんだりくん人形で遊んでいるといいですよ。お仲間のふどうくん、ごうさんぜくん、こんごうやしゃくん、だいいとくくん、あいぜんくん人形もあります」

「こわい!」

「よしこれで新たな八雲紫のトラウマを開発できましたね。次はこれで貸しを作りましょう」

 

 古明地さとりは半眼のままにニヤリと笑う。一番始めに貸しを作ってから、いったい幾つのトラウマを植え付けてきたか。さとりはその内容を当然覚えているし、そういった方法で植え付けたトラウマをより強化するように能力で無意識領域に恐怖の感情を何度も何度も刷り込んでいるため切り札として十分に通用するようにしていた。

 力の無い妖怪らしい、実に効果的な搦め手。精神的に弱れば現実に弱くなってしまう妖怪に対してはほぼ無敵とも言えるトラウマ作成と増幅能力であった。

 

 そうしてさとりがゆかりちゃんを泣かせていると、地霊殿の入り口から高速で何者かが突入して来るのを感知した。

 一瞬身構えるさとりだったが、その相手の思考から誰が来たのかを理解した瞬間にいつも通りのジト目になった。

 そしてその場にいくつか転がっている明王人形の一つを拾い上げると、その人形に視線を注いだ。

 

 突然、さとりのいる部屋の扉が勢い良く開かれる。そこに立っていたのは九本の金色の尾を持つ妖狐───八雲藍であった。

 

「古明地さとり!紫様はぶj───」

「『想起・なんか物凄い勢いで駆け寄ってくる笑顔の明王達』」

「───ぴゃぁぁぁぁぁぁあああ!!?」

 

 絶叫である。尻尾の毛を思い切り毛羽立たせ、悲鳴をあげた。

 まあ、狐に属するものが明王を見てしまったときにする行動と考えれば実に妥当なものである。狐は稲荷、ひいては稲荷と同一視されるダキニ天の眷属である。ダキニ天は大日如来と同一視されることもあるが、同時に明王に調伏させられた存在であり、ダキニ天と言う自分達の親玉を調伏した明王と言う存在は狐にとっては恐怖の対象でしかないのだ。

 そのため、藍は『凄まじく良い笑顔を浮かべながら武器を持ったままの手を規則正しく振りながら感動すら覚えるほどの美しいフォームで駆け寄ってくる明王の群れ』を見せ付けられ、一瞬にして精神を粉々にされた。

 

 ───そして、粉々になった藍の精神の影から、また別の存在が顔を出した。

 

「……ふぅ!ようやく封印が解けた!まったくあの駄狐め。ちょっとゆかりんが寝ている時につむじに鼻を埋めてくんかくんかしただけであそこまで気違いじみた封印をかけてくるか普通? まあ、今回はその封印のお陰で精神攻撃を受けずにすんだのだがな」

「……今日も無駄に元気ですね、スッパテンコー」

「!その声はさとりん!プリティーチャーミーガールさとりんではないか!久しぶりでござるよぉ。くんかくんかしてよろしいか?」

「良い訳無いでしょう。さっさとゆかりちゃん連れて博麗の巫女を連れて来てください」

「つれないですなぁ……。でも、その呆れたようなジト目がまたキュートだぉ!だぉだぉ!ぺろぺろしてよろしいか?」

「ロリコンもオキュロフィリアも間に合っています。最近も目が好きすぎて自分の胸に大きな目玉を埋め込んだペットがいますしね」

「本当につれないでござるな。まあ、今回はゆかりんのお迎えで満足しておくでござるが、是非とも今度温泉でも一緒にいかがか?」

「……」

「グフフフフフ、ジト目ごちそうさまですぞ~!───それでは紫様。戻りますぞ?」

 

 それだけ言い残して、スッパテンコーは嵐のように去っていった。

 そこで、古明地さとりは頭を抱える。

 

「……『ジト目さとりん友の会』とか……馬鹿ですか?」

 

 さとりの言葉が、誰もいない部屋の中に小さく響いた。

 

 




 
スッパテンコー「このあと無茶苦茶hshsした」
ゆかりちゃん「帰ってすっごくもふもふした!」
スッパテンコー「あぁゆかりんかわいいでござるよぉぉぉ!」







 スッパテンコーとゆかりちゃんに関しては『東方旧暦短編集』をご覧ください。

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