当方小五ロリ   作:真暇 日間

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EXステージ シーン4 「これが怒りの感情か」 秦こころ ○

 

 突然、危険を感じ取って私は眠りから一気に覚める。しかし既に目の前には弾幕が迫り、このままでは直撃は避けられないだろう。

 ……だが、それは『私が何もしなければ』の話だ。今のように弾幕が目の前に迫っているのに何もしない奴は、よほど自身の力に自信を持っているか、でなければただの馬鹿くらいなもんだろう。

 当然、自信も余裕もない私は全力で迫り来る弾幕を回避する。私の身体の重心を中心に身体の上下をひっくり返し、即座に足の裏を中心にまた上下をひっくり返す。身長一つ分上に移動した私は、そのまま空に飛び立った。

 

「……チッ。逃げやがったか」

「あん? ……なんだよ、道具が何の用だ?」

「答える必要は無い」

 

 桃色の髪に無表情。スカートには顔を思わせる形の穴がいくつも空いていて、面を一枚被っているそいつは、最近大きな異変を起こしたって言う奴だった。確か……面霊気、とか言う種族だった筈だ。

 ただ、天の邪鬼である私にはわかる。そいつはなんでかわからないが、無茶苦茶に怒り狂っているようだ。

 

「貴様を殺す」

「お前が? いやいや、私は死なねえよ。今までだって逃げてきたんだ。これからも今まで通りに逃げ回ってやるよ!」

 

 新面『インスマス村民の面』

 

 面霊気の周囲に魚と混じったような人の顔の面がいくつも浮かぶ。その面は空中を泳ぐようにこちらに飛来し、口から高圧の水流を吐き出してくる。

 と言っても一発一発の威力は高くないし、範囲も広くない。面が自由に動いているからその事に注意する必要はあるが、面から吐き出された水はある程度飛ぶと重力に引かれて落ちていく。

 そうやって制御から離れた水を呼び寄せ、私の盾として使うことができる。

 

「チィ……」

「はははは!水の使い方は私の方が上手いみたいだなぁ!」

 

 水の盾を使って攻撃を防ぐと、普通なら水は千切れ飛ぶなり蒸発するなりして体積を減らす。

 だが、今回はそうして減った分を相手の方からどんどん追加していってくれる。この戦闘では未だに一度しか呪文を唱えてないのに、私は傷一つ負う気配がない。

 相性、と言うものがある。戦い方には様々な存在により得意不得意があり、その組み合わせ次第ではかなりの弱者が強者を倒す大判狂わせ───下克上が存在する。

 今回に限って言えば、私とこいつの相性は最高だ。こいつの攻撃の殆どは私に通じず、同時に私の攻撃を避けることしかできない。

 ……いや、正確に言えば避けきることはできていない。何度も私の操る水の鞭を受けて、頬や腕、脚、背中と様々な場所に赤い蚯蚓腫れができている。

 それでも諦めは無いようだが……それもいったい何時まで持つのやら?

 

 どうせやるなら水を使わない方がいいだろうが、スペルカードってのは面倒なものだ。一度発動させたら最後まで続けなければいけないし、発動して効果がなくても別の攻撃に変えられない。

 ある程度削ってやると当然服が破れて肌が見えるわけだが、今回はそれで済ませてやるつもりはない。珍しく私が余裕をもって遊べる相手だ。

 わざわざ時間いっぱいにまで戦いを引き延ばして、水を貰えるだけ貰っておく。そしてわざと身体には当てないように弾幕を撃ってグレイズさせ、その余波で一部服を削っていく。

 破れた服から覗く白すぎるくらい白い肌と、線状に走る赤い痕。私の行動で弱い奴をいたぶるのは、楽しくて楽しくて仕方無い。にやにやと笑いながら鞭打ち、いたぶり───気が付くと既にスペルカードは終わり、面霊気はボロボロになった服を手で押さえながら私を睨み付けていた。

 

「くぅっ……!」

「はははは!よわっちい癖に口だけはでかいな!もっと虐めてやりたいところだが……」

「な、やめっ、んんぐっ!?」

 

 顎を無理矢理引き上げ、面霊気の唇を奪う。じたばたと暴れようとするが、四肢を水で押さえつけているためこちらには被害はない。

 どうもこの面霊気は、道具の分際で惚れた相手がいるっぽいからな。こう言うのが一番効くだろう。

 

 時間もあまり無いからこのくらいにしておくが、本当ならもっと……と考えたところで、辺りに転がっていた魚と人間を混ぜたような面が目に入る。確かこれも水を撃つ能力があった筈だ。

 

「!か、返せ!それは私のっ!」

 

 そいつを拾うと、愕然としていた面霊気は突然元気になって暴れ始めた。残念だが手足は動かないしのでこっちには何の影響もないけどな!

 

「なんだ、お前はそんなにこれが大事なのか?」

「当たり前だ!さっさとそれを───」

「そうかそうか、大事なのか……

 

 

 返す訳ねえだろ、馬鹿が」

 

 何枚も転がっていた面のうち、半分程度を踏み割った。一枚割る度に悲鳴が上がり、声が涙混じりになっていく。

 八枚あった面は、残り四枚。私はその面を綺麗に重ね、面霊気に差し出した。

 

「か……返して……返してよぉ……」

「ああ、かえしてやるよ」

 

 私は笑顔を浮かべたまま───面霊気の目の前で、面を一度に砕いてやった。

 

「あ」

 

 面霊気の声が間抜けに響く。初めは無表情に見えたその中に、確かな感情が見てとれる。

 

「な……なんで……」

「おいおい、ちゃんとかえして(・・・・)やったろ?

 

 土に、還して(・・・)、やっただろォ?」

 

 私の言葉を聞いて、ゆっくりと面霊気の感情が一色に染まっていくのがわかる。

 

「……て……る」

「あぁん? なんだってぇ?」

「殺して……やる……!」

 

 燃えるような。爆発するような。全てを消し去るような激しさを持つその感情。

 

「殺してやるっ!」

 

 ───殺意。

 

 しかし、殺意に囚われていようがなんだろうが、私の水の檻を破れていないという事実は変わらない。四肢が水の壁に埋め込まれ、ボロボロの服の端々から肌と傷が見えているってのに、それを隠そうって事すら頭に浮かばないらしい。

 ただ、それでも表情は変わらない。頭に着いている面は黒一色に染まり、目の部分が赤く輝いているが、そうなったところで何も怖くはない。

 

「まあ、落ち着けよ。どうせお前じゃ私には勝てないんだ。何度向かってきても構いやしないが、面倒なんだよなぁ」

「ふゥーッ!ふゥーッ!」

 

 興奮のあまり息が荒くなっている面霊気の頬に舌を這わせる。髪を押さえているため、暴れる幅が小さいのがいい。

 

「まあ、あれだ───ご し ゅ う し ょ う さ ま♪」

 

 ─────────ッ!!!!!!

 

 面霊気の口から咆哮とも言えるような叫びが溢れる。これを聞いてまた追手がかかるかもしれないと、私は余裕を見せながらもさっさと逃げ出した。

 後ろの方で面霊気が暴れようとしているみたいだが、水の壁に埋まったまま全く動くことができていないらしい。

 ……ああ、食った食った。やっぱり怒りの感情は美味いね。

 

 膨らんだ腹を撫でながら、私はまたその場から逃げ出した。

 

 

 

 ■

 

 

 

「……こころ」

「っ! ……さとり、さん」

 

 水に捕えられたまま暴れ続け、疲れ切ってしまった頃に突然かけられた声で、私は殺意に呑まれていた意識を取り戻した。そして目の前には、私の思った通りの姿があった。

 しかし、私はさとりさんの視線から逃げるように顔を伏せた。私はあれに汚されてしまった。まだ、感触が残っている。あの気持ちの悪い感触が、嫌というほどに。もうさとりさんの前にいられない。こんな汚れた私を、さとりさんに見られたく―――

 

「何を言っているんですか、まったくもう」

 

 ふわっ、と私を何かが包み込む。さっきまで深海を思わせる冷たい水に覆われていたのに、いきなり感じる温かさに身体が驚いている。

 そして感じるこの匂い。さとりさんの匂いだ。

 さとりさんは私をやさしく抱きかかえ、頭を撫でる。さとりさんに手伝ってもらって作ったあの面を割られてしまうような私に、さとりさんが優しくする理由なんて無いのに。

 

「いえいえ、ありますよ。だって貴女は私の家族じゃないですか」

 

 ……心が、温かくなる。私の中に、何かが満ちていく。そんな感覚。

 ―――ああ、そうか。そうなのだろう。きっとこの感覚こそが、『喜び』と言う物なのだ。

 

「ええ、そうですね。やっとこころもそういう機微がわかるようになってきたみたいで、私は嬉しいです」

「……さとりさん」

「こころ……」

 

 

 




 
 ゲスロリさん本領発揮。


 スペル解説。

 新面『インスマス村民の面』

 その名の通り、インスマス村に住む人たちの面。もちろんインスマス面。
 インスマスだけあって口のところから非常に冷たい海水を噴出して攻撃してくる。ビットみたいなもの。
 ただし、弾幕格闘ゲー出身のこころにとってスペカはある程度連発するものだったせいで密度は非常に薄い。今度はそのあたりもしっかり改良されてくることだろう。

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