当方小五ロリ   作:真暇 日間

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 こうなることを予想できたあなたは凄い。



EXステージ シーン8 「最期の時までもう一歩」 貴人聖者 ○

 

 ……意識が、かすれる。

 何か、私は……致命的な物ヲ見逃シte■■■■■(ザーッザッザッ)───

 

 ……いや、そんなことは……なかっ…………?

 ……おかしい。これは絶たイにoka■■■■■■■(ザーザザッザザッザッ)

 

 ……なにがおかしかったんだ? いつも通り、何も……かわ……ra……■■■■■■■■■(サザザザザザザザッ)!

 

 ……なんだ? なにがおきてiル!? なにkaがオかしイ!なにgaおカしいのカhaわかraナいが、トにかクなniかがおカ■■■■■■■■■(ザーザザッザザッザッ)!!

 

「ぁ、ぁあ、ぁああアあアアアあアaアああアAあァぁァァぁaァあ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛あ゛ア゛あ゛――――――――ッ!!!!」

 

 一度認識してしまえばもう止まらない。自分の身体に何かが起きている。しかし、それが異常だと気付いた瞬間何かによってその認識がなかったことにされてしまう。まるで、おかしいと思うこと自体が異常で、こうしておかしいと思っていないことが正しいことであるかのように。

 何もかもがぐしゃぐしゃになった視界の中、正邪は髪を掻き毟る。ぶちぶちという音とともに髪が引き千切られ、正邪の細指には千切られた髪の毛が絡みつく。

 そして、正邪が自身の頭を掻き毟っていた手を見下ろすと、その瞬間に正邪自身が認識していなかった事実に目が行く。

 

「……髪が……」

 

 右手に絡みつく髪はそのほぼ全てが黒。しかし左手に絡みつく髪のほとんどは白。それをおかしいと考えた正邪は、意識を何度も書き換えられるような不快感に襲われながらも自身の姿を水鏡に映して―――気付く。

 

「なんだよ、これ」

 

 赤かったはずの左目は金色に変わり、瞳孔は死んだ魚のような白。髪は頭頂から綺麗に半分が白く変わり、銀の代わりに金が混じっている。

 そして、その自身のものであるはずの左半分の顔は、正邪自身ですらも気付かないうちに嘲笑の形に歪んでいた。

 

『……気付くものなんですね?』

 

 水鏡に映る自分の顔が、自分の意思に反して話し始める。正邪には、自分が口を動かしていると言う感覚も、実際に動かしていると言う自覚も欠片もないままに、水鏡に映る鬼人正邪(見知らぬ自分)が語りかけてくる。

 

「……お前は、何だ?」

『何、とはまた酷いですね。ある意味では私をこの世に産み落としたのは貴方であると言うのに』

「はぁ? 覚えがないぞ」

『覚えを無くしていてもらっていましたからね。つい先ほど、貴方が気付いたように』

 

 ……あ゛?

 

 水鏡に映る鬼人正邪(見知らぬ自分)の言葉に、意識がそのほうに完全に固定されてしまった。しかし、ただ水鏡に映るだけのその存在に対して何かをするような方法を正邪は持ち合わせていない。

 そして、水に映った鬼人正邪(見知らぬ自分)も、それは殆ど同様のようだった。

 

「なんで、今更こうして出てきた?」

『なんで、と言われましても……能力の都合上、私の能力では隠れにくくなってきているのですよ。これも(貴女)のお陰だと思いますよ』

「能力だと?」

『能力です。まあ、お気になさらず。そこまで使い勝手もよくない、本当にちょっとした能力ですからね』

 

 そういって笑う鬼人正邪……いや、貴人聖者。しかし、正邪には自身の行動の中でこんなモノを生む原因となったものに心当たりはないし、同時に育てていた覚えもない。

 

「……私の中に、お前がいる?」

『いますね。ただ、今となってはその表現が正しいのかどうかもわかりませんが』

「どういう意味だ」

『まだ秘密です。……本当は少しだけ覚えがあるのでは?』

 

 くすくすと笑みを浮かべる貴人聖者に正邪はイライラとした感情を隠さない。同時に水を呼び、自分で作った水鏡を叩き割った。

 水鏡を構成していた水は砕け散り、見事に周囲に水を散らばせる。しかしそれだけで正邪の気が収まるわけもなく、周囲にあるものを手当たり次第に水で攻撃しながら暴れまわった。

 

 しかし、それも長くは続かない。そうしていると自身で作ったはずの水が突如として動きを変え、一か所に寄り集まって一塊となり、そこに不出来な水塊として現れた。

 

「……お前は……!」

 

 水の塊は答えない。しかし、正邪は理解した。その目の前にいる水塊こそが、つい今の今まで自分と話をしていた存在だということに。

 何より早くそのことに気付いた正邪は、自身の目の前にそれが現れたことに対して即座に攻撃を行った。それの狙いが何なのかを考えるようなこともなく、自身が見ているものがそもそも本物なのかということすら考えず、ただがむしゃらに攻撃した。

 自身の攻撃の威力を上げ、攻撃範囲を広げ、弾幕を撃つ。面の効果も加わって非常に攻撃範囲が広く、かつ高威力な弾幕が目の前の水塊に向かって飛んでいく。ただ、自身があの面霊気にもやったことと同じように、水の塊に対して水をぶつけてもけして効果は高くない。それどころか、生半な威力では逆に相手の力を増幅させてしまう。

 それに思い当たった正邪は即座に従属神を召喚して周囲を薙ぎ払わせ、同時に普段は盾として使っている最下級神話生物に突貫させる。

 

 ……しかし、その全ては無意味だった。

 従属神のボムは大量の水で相手の弾幕を押し流すものであるし、魚人のような神話生物は物理的な攻撃しかできない上にその威力は高くない。水である相手にはどちらもいい効果を望めないのだ。

 だが、同時に思いつく。

 

 正邪は、自身の出していた水の盾を送還した。すると目の前の水の塊はあっけなく消え去り、周囲には静寂が戻る。

 

「……」

 

 正邪は唇を噛み締める。自分よりも強い者にこうしていたぶられるのは慣れていた。しかし、自分よりも弱いものにこうしていたぶられるのは全く慣れていなかった。

 そう、自分は下剋上を掲げて行動していたが、同時に自身が下克上される立場になったことなど一度として存在しなかったのだ。

 それは偏に正邪自身がそこまで強くなく、正邪より強く、手ごろなものは数多く存在する。ゆえに今までそういった対象に見られることなく生きてくることができていた。

 だが、これからは―――

 

「くっそ……いいだろう、やってやるよ!」

 

 正邪は吼える。それに向けて、自身に向けて、吼え続ける。

 これからのことも、その後のことも、正邪にはわからないし理解もできない。だが、それでも。そうだったとしても、正邪は最期の最期まで天邪鬼らしく、あらゆるものをひっくり返すために行動することを続けよう。

 そうすることを心に決めて、正邪はまた空に吼えた。

 

 

 

 ■

 

 

 

 ―――これで、追加が10。残りは35。そこから6を引いて、29。

 あと少し。もう少し。私が堂々と外に出ることができるまで、もう少し。能力的に私を消すことができる(表人格)が消えてくれるまで……あと、29。たったそれだけ。

 ゆっくり、落ち着いていこう。焦ることは何もない。私はただ、(表人格)が聖書を使って自滅していく様をゆっくりと見て行きさえすればいい。

 ただ、狂気に陥りそうになればそれを救い上げる必要がある。狂気に陥る原因によっては追加が一点あったりもするし、それを眺めるだけと言うとても簡単なお仕事だ。

 

 さあ、もう少し。もう少しだ。もう少しで私は、かの神を奉る神官として世界に現れることができる。

 もう少しで私は、かの神との繋がりを持つ存在を知ることができる。

 かの神を私に見せ、私を作り上げた少女の言葉では、かの神はあの少女自身の知るものではなく、その少女の姉の方から借りてきたものであるらしい。

 であるならば、私が向かう場所はただ一つ。無意識のうちにその方角に足を向けるよう誘導するのは難しくなかったが、これからもそう簡単に事が進むとは限らない。今までは知られずに行動できたが、今では知られてしまった。その差は大きい。

 

 しかし、私にやれることはおそらく全てやった。ならば私は、私の未来をかの神に託して祈り続けよう。

 

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 

 いあ いあ――――――

 


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