そら色ワルツ   作:高槻翡翠

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この話はクロスオーバーですが、一部作品は設定変更と
一部作品は設定をちょっと借りているだけと一部作品は非常に古い
とかだったり。


コンビニおにぎり 後編

財前光が見たルシエラ・ガートルード・ジンガレッティの印象というのはお嬢様だ。

漫画やドラマで見ているお嬢様である。

これは他のテニス部員もそう想っているのだろうと財前は考えている。物腰は柔らかいし、振る舞いもそうだ。

そんなお嬢様と財前は二人で裏山の道を歩いている。道は緩やかな坂だが、上に行くにつれて段々と傾斜が上がっていく。

左右は森であり、道の幅は二人が通っても少しの余裕があった。

 

「お嬢様が四天宝寺に通うってのも、妙な感じするっすけど」

 

「学校には通ったことがないから……知っている人が居る学校が良かったの。貴方はどうして四天宝寺を選んだの?」

 

ルシエラの話は謙也から聞いている。病弱でイタリアの屋敷で過ごしてきたとか、学校には通えなかったことなどだ。勉強の方は屋敷でしていたらしい。

四天宝寺と言えば? と問われて中身を知っている者が解答に出すのは、お笑いがメインの学校であるということだ。

ルシエラに問われ、財前は答える。

 

「家から近かったんっすわ。事前情報知っとれば、別の学校選んどったかも知れんけど」

 

人によっては小学校、幼稚園から受験をしたりしている者も居るが財前はそう言うことはなく、家から近いという理由だけで、四天宝寺中を選んだ。特に調べもしていなかったので四天宝寺中が、お笑いの学校だなんて知らなかったが。

 

「公立の学校は受験しなくても入れるみたいね。イタリアの学校も中学校まではそんな感じ」

 

(……学校、通いたいとか想っとったんやろうな)

 

微笑するルシエラの横を財前は歩いている。ルシエラの歩くペースはゆっくりめだ。

携帯電話で時間を確認すると、部活が始まるまで時間はまだあった。裏山は携帯電話のキャリアによっては電波が届かない。

財前が使っている携帯電話はアンテナが立っているが、銀が使っている携帯電話は裏山では電波が通じない。

 

「四天宝寺は常識が違うって言うけど、他とどう常識が違うの?」

 

「何でもお笑いに結びつけるのが一番の特徴っすわ」

 

四天宝寺と言えばお笑いで、お笑いと言えば四天宝寺という方程式が成り立っているところがある。

学校内ではお笑いの大会をやっていたり、入学式からお笑いがあり、卒業式だってお笑いがある。たまに大食い大会が混じる。

 

「笑いが大事な学校なのね」

 

「当初はノリに着いていけんかったんで」

 

「ほどよい距離を取るべきみたいね……」

 

日本で生活を始めたルシエラの買い物も一緒に付き合ったことがあるが、こうして長めの会話をするのは始めてかも知れなかった。

電気屋の買い物の時にしろ、家具を買いそろえる買い物にしろ、彼女は白石や謙也や彼等の弟妹と話していたからだ。

財前が会話を避けていたわけではなく、白石達の方が積極的ではあった。

 

「ここで六割ぐらい。もうちょっとで師範の居る滝に着くんで」

 

「……これは……こけし? 日本の置物……よね」

 

財前とルシエラが着いたのは裏山にある広場のような場所だ。先に道は続いているが、それよりもルシエラの目を引いたのは、道の側に置かれている巨大なこけしであった。全長は二メートル以上であり、それが坂の側に置かれている。

 

「こけし様っすわ。元々はテニス部の部室に置かれてて」

 

「……どうやって部室に入れたの?」

 

「オサムちゃんが西日本大会優勝記念に持って来て……入れ方はあの人がどうにかしたんやろうけど、

出すのも大変で……出したはええけど、置く場所にも困ってとりあえずここに」

 

「お供え物が置かれているわね……」

 

至極真っ当なツッコミが聞こえてきた。

こけし様と呼ばれている巨大こけしには幌金縄が撒かれていたりお供え物だって置かれている。

四天宝寺中の生徒や教師が供えたのだ。

 

「あの人、こけし渡すでしょう」

 

「……お前が正式なマネージャーになったらやるわみたいに言われたわね……謙也が言うには、笑点で言う座布団と同じって」

 

「……イタリア人が解りづらい例えを」

 

オサムはよいことをしたりするとこけしを渡す。こけしがある程度貯まると特典が付いてきたりするのだが、西日本大会を優勝したときに部室に鎮座していた巨大こけしには困ったものだ。どうにか部員でこけしを外に出して、置き場所を考え、部室の前に置いたら不気味すぎると裏山に置いておくことにしたのだ。

巨大こけしはこけし様と呼ばれるようになり、願掛けに来る者が居る。

二人はこけし様を通り過ぎて、また坂を上り始めた。

 

「こけし様を手に入れた西日本大会って? こけしが貰える大会?」

 

「商品はこけしやないっすわ! 一、二年生が中心で……西日本大会は秋頃に行われる大会で、去年は俺等が優勝したんや」

 

西日本大会は関西、四国、中国、九州の覇者が集まって戦うテニスの大会だ。四天宝寺は西日本大会で優勝している。

 

「四天宝寺中は強いのね」

 

「去年はベスト四で……立海に負けて終わったっすけど、今年は優勝したいし」

 

財前の話を興味深そうに楽しそうにルシエラは聞いていた。部活動なども新鮮に聞こえるのだろう。

昨日、財前はインターネットのスカイプでネットの友人と会話してお嬢様の対策やフィギュアについてを話した。

的確なアドバイスが返ってきたのでそれを参考にしながら話を進めている。

 

「大会っていつからやるの?」

 

「五月に地区大会で、六月に府大会、七月に関西で八月に全国で……」

 

運動部の大会はどこも似たような時期に開催されるが、五月に地区大会をしてから、府大会、関西大会、全国大会となる。

三年生は何処かの大会で負けてしまえば引退だ。秋になれば関西大会や新人戦があり、冬になればジュニア大会がある。

 

「……大会ばかりね」

 

「負けたらそこで終わり……四天宝寺がいくら関西で一番強いからって、負けたらアカンし」

 

「油断は駄目ね。ちょっとしたことで狂うこともあるんだから」

 

歩くペースを少し速めた。滝の音が微かだが聞こえてきて、歩いて行くにつれて大きくなっていく。

 

「すれ違うことはないから、滝に打たれとるはず」

 

「……師範、何か言ってる……ぶっせつかまはん……」

 

止まったルシエラが聞こえた通りに言う。財前は何を言っているかまでは聞き取れなかった。二人は滝の方へと着く。

滝は裏山の開けた場所にあった。滝から流れた水がたまり、泉を形成している。

白装束を着た頭を剃った男が滝に打たれながら目を閉じて、般若心経を読んでいた。

 

「師範――!! そろそろ部活始まるんで!」

 

「滝に打たれるのは止めて」

 

財前が呼びかけ、ルシエラも呼びかける。その声を聞いた石田銀は目を開けて、滝から出た。泉の側にはテニスバッグや着替えが置かれている。

 

「財前にルシエラはんか。呼びに来てくれたんか」

 

「ええ。今言っていたのはお経かしら」

 

ルシエラが聞くと銀が頷く。

 

「般若心経や」

 

「暗唱出来るなんて凄いわね。私は聖書を少し言えるぐらいよ」

 

「イタリア人やから聖書か……」

 

「a sanguine Abel, usque ad sanguinem Zachariae, qui periit inter altare et aedem. Ita dico vobis……とか」

 

日本語を話していたルシエラが聞いたことがない外国語を紡いだ。イタリアはカトリックの国ではあると聞いていたが、聖書も暗唱出来るらしい。財前は英語かと考えたが、使用言語はラテン語であり、日本語に訳すと、” すなわちアベルの血より祭壇と神殿との間に倒れしザカリアの血に至るまで現代はその罪を問われん、われ誠に汝らに告ぐ、現代はかくのごとく罪を問わるべし”と言うルカ聖福音書の一説である。

 

「ルシエラはんはキリスト教か。イタリアのお人やからな」

 

「聖書は小さい頃から慣れ親しんだから、師範は家がお寺なの? 日本人は信仰心が薄いって聞いたけど」

 

イタリアといえばキリスト教で、カトリックだ。財前からしてみればカトリックやプロテスタントの見分けは曖昧である。

信仰心が薄いとルシエラが言っていたが、財前も神は信じていることには信じている。しかし日本人と言えば、初詣に行き、お盆を祝い、クリスマスを祝う人種だ。様々な宗教をごちゃごちゃにして自分達なりに変えてしまっている。

 

「師範の家は寺じゃなかったっすよね」

 

「うむ。東京の下町で、父は大工をしている」

 

銀は仏道に帰依しているようなものだ。

父親が大工なのにと財前は思っているがルシエラもそう想っているらしく、そうなの、と呟いただけであった。

ルシエラは携帯電話……財前が見たところによると最新のスマートフォン……を出した。

 

「部活、もうちょっとで始まりそう」

 

「着替えて……ルシエラは、その辺を散策しとって欲しいっすわ」

 

「終わったら呼んでね」

 

財前の指示を察したのかルシエラは首肯し、滝から離れて、森の中へと入る。銀が着替えないといけないからだ。

折りたたまれている着替えを財前は銀に渡す。銀は着替えを始めた。

 

「落ちついとる方やな。ルシエラはんは」

 

「俺のネットの友人は、お嬢様は適応能力を身につけなあかん言うとったから、そのせいかも知れませんわ」

 

相談したときに聞いたところに寄ると、お嬢様で高飛車というのも居ることには居るのだが、金持ちというのは金持ちなりの付き合いがあり、家の面子などにも関わってくるため、落ち着いた振る舞いなどを求められることがあるという。

財前のような一般人でも、自分が何かしてしまえば場合によっては近所の者が噂を立てたりして母親に愚痴られたりもするのだが、金持ちにもそういうことがあるらしい。

 

「大人びとるな。異人さんは年齢よりも年上に見えると言うことがあるが」

 

「(……師範も大人びとるっすわ)俺と同じ年ですけどね。彼女」

 

「白石はんと同じぐらいにも見えたが」

 

「あの人、エクスタシー! とか言うて突然脱ぎ出したりするんで、比べたらルシエラが可哀想っすわ」

 

外面だけで判断すれば大人びているのは銀であり、巨大な壁を挟んで、小石川、白石、壁がまたあって謙也や小春やユウジと言うのが財前の見解だ。ルシエラは本当ならば十七歳ほどであるが、そのことを知るのは白石ぐらいである。

銀が着替え終わったのを見計らい、財前はルシエラを呼んだ。ルシエラがやってくる。

 

「見て回っていたけれど、落ち着けそうで良い裏山ね」

 

「ネタ出しとかに使われてたりもするっすわ。行きましょう。遅れるとみんなが煩いんで」

 

財前がルシエラと銀を促し、裏山を下りていく。こけし様を通り過ぎた。

 

「午後からは千歳さんが来るって聞いたわ」

 

「寮の部屋は掃除がおわっとる。荷物が来たら運んだりすれば完了やな」

 

「……九州二翼の千歳千里、二翼やのうて、九州は一翼になったっすね」

 

「もう片方も秋口には転校してしまっている。獅子楽中は去年は脅威やったが、今年は昨年の勢いがあるかは解らん」

 

千歳が来ることは銀も知っていたようで、迎える準備は出来ているようだった。九州二翼の二人は九州にはもう居ない。

だからと言って安心は出来なかった。

 

「情報とか掴んでないの?」

 

「うちは情報は小春先輩がしてるっすけど……当たって砕けろみたいなところが六割ぐらいあるんで」

 

「六割でも多いわよ。せめて四割ぐらいで」

 

降りるときは登るときよりもペースを速くした。裏山から出て、四天宝寺の敷地内へと入る。

テニスコートへ近付くに津入れて賑やかな声が聞こえてきた。

 

「間に合ったかな」

 

「師範の白装束の干さないといけないわね」

 

水を絞った白装束は銀が持っているが、干して乾かさなければならなかった。部室の扉前に三人は来る。

 

「おはようございま……」

 

財前は部室のドアノブをひねるとドアを開けた。

 

「あら、財前クン。ルシエラは?」

 

「師範がおるってことはルシエラが居るは……」

 

「財前?」

 

財前の後ろにはルシエラが居た。

ルシエラの身長は財前よりも低い。彼女は財前の後ろにいたために部室の光景が見えなかった。

部室にいたのはバレリーナの服を着た小春とタキシードを着たユウジだ。白い縦長の習字用紙に墨字で『白鳥の湖』とか書かれている。

バレリーナの服を着ている小春だが、白鳥のオブジェもつけていた。

 

「ルシエラ笑かすにはどうすればええか考えてこうなったんやけ……」

 

どうかしらこれ! と言う小春の声が聞こえ、ユウジの声も聞こえたが財前は無視して部室の扉を勢いよく閉めた。

 

「見たらあかんっすわ」

 

「……死体でもあったの?」

 

「死体よりもある意味おぞましい精神汚染されるもんが……」

 

真顔でルシエラは死体と言っていたが財前はそれよりもお笑いダブルスコンビの非常にずれきっている、四天宝寺の面々なら慣れてしまっていることからルシエラを遠ざけるのに思考が行っていた。

 

「小春はんとユウジなりのルシエラはんへのコミュニケーションやと想うぞ。財前」

 

「そんなコミュニケーションは、日本が誤解されたらあの二人のせいっすよ!」

 

財前は体でドアを押すようにして立つ。あのおぞましい何かは部室に封印しておくことに限る。

 

「誤解……日本については大阪はお笑いの地方と言うのは聞いているけど」

 

「お笑い、違う。もっと別の……大阪の特徴……通天閣とかを、それやとイタリアと言えばパスタみたいなのになるんで」

 

大阪と言えばお笑いだがお笑いだけで解決されると財前としては心外だ。ルシエラは納得する。

 

「……イタリアと言えばマフィアとか言われるみたいなものね。マフィアは分類の一種でもっと細かく言うと……」

 

「財前! 師範! ルシエラ! おかえりー。部活始めるで! せめてパスタやー!」

 

白石がそこに走ってきた。

財前は背中にドアを何度もノックされる音を感じつつ、彼のツッコミを聞いていた。

 

 

 

ルシエラとしては大阪は日本の第二の都市であり、関西に属する他とは違っている場所という認識をしていた。

都市に個性があることは知っている。イタリアだって、フィレンツェもヴェネツィアもローマもナポリもみんな違う。雰囲気としてはナポリに似ていた。似ているだけで違うところもあるが、ルシエラはイタリアでも北イタリアをメインに活動をしていたので南は余り行かなかった。

 

「別に調べたら一般人でもイタリアのマフィアが細かいことぐらい解ると想うけど」

 

「パスタの方がええんやて。お前はお嬢様なんやから」

 

「以外と金持ちは裏社会にも関わりが」

 

「……それなりにまともで居ってや」

 

イタリアのパスタは非常に細かい区分がある。それに比べたらマフィアは大まかに四つしか種類がない。

部活が始まった。フリーの練習試合と言っていたが、これは試合形式で対決をしてみるというものであった。

白石はまだ出番が無く、待機状態で、ルシエラはマネージャーとしての仕事を覚えていた。オサムが元気を取り戻したので、生徒を見るのはオサムに任せて白石はルシエラと話していた。

 

「一氏さんと小春さんはステージで漫才をしていたわね。私をそんなに笑わせたいの?」

 

「馴染ませるようにはしたいんやろ」

 

「財前は馴染んで欲しくないみたいだけど」

 

「お笑いの空気に染めたくないんやな」

 

部室の中は見ることが出来なかったが、お笑いに関わるものではあったらしい。ルシエラがテニスコートに視線をやると財前と謙也がダブルスを組んでいて、小春とユウジとテニスをしていた。お笑いテニスをしているようだ。

 

「蔵ノ介はお笑いはしないのね」

 

「俺は距離とか考えとるところもあるかな……お笑いにルシエラを入れるとギャップあるっつーか」

 

この中で唯一、白石はルシエラの正体を知っている。殺し屋兼復讐屋であることをだ。

 

「イタリアにもお笑い番組とかはあるし、私もたまに見るわ。ただ、日本と違って正確な時間にやらないことばかりだから……」

 

「……やらんのか? 日本やとスポーツ放送やったら多少はずれるけど」

 

バレーボールや野球などをしていたら延長などで長くなってしまい、ドラマやアニメなどがずれることは

日本ではたまにあった。ルシエラはそれを聴くと少しだけ考え込む。

 

「唐突にずれるわね。ドラマとか見ようとしたら三十分はずれるとか、しまいには明日放映しますとか」

 

「ざっぱやでイタリア……」

 

「白石、ルシエラを馴染ませるために話かけるのはええけど、他の部員も気にかけてやってや」

 

オサムに呼ばれ、白石が気付く。周囲には白石は倒れているルシエラを助けた恩人であり、日本で暮らすことにした彼女を構うようにはしているという印象が広まっているが彼は部長であり、他の部員も気にかけないといけない。

 

「私は平気だから」

 

「解らんことあったら小石川とかにも聞いてや」

 

白石と別れてルシエラは仕事に戻る。この体での生活も慣れた。

仕事をしながら試合を眺める。テニスボールが当たりそうになるようなこともなく、その日も無事に部活は終わる。

テニスコートの片付けはルシエラも手伝った。

 

「千歳が今日は来るからな。午後ぐらいとか聞いたんやけど」

 

「連絡は?」

 

「……連絡先知らんわ……」

 

「聞いておきなさいよ。午後ならもう、午後じゃないの。お昼過ぎたし」

 

午後には千歳が来るというのは聞いていたが細かい時間は白石は聞いていなかったらしい。

 

「待ち合わせは……駅ぐらいで」

 

「千歳なら顔は知っとるし、俺が迎えに行くわ」

 

「謙也さんだけやと不安やから、俺も着いていきます」

 

「アタシも行くわ!」

 

「小春が行くならオレも行くで」

 

駅としか聞いていない白石だったが、千歳の迎えに謙也、財前、小春、ユウジが名乗りをあげた。四人で迎えに行くのも、どうかとは想ったが、寮の準備は銀と小石川が先に仕上げをしてくれていた。

皆、特に今日は用事が無く千歳を迎える準備を手伝っていた。

 

「ルシエラ。昼飯やけどコンビニで買ったおにぎりとか余っとるからそれ食えや。他にも食べたかったら買ってくるし」

 

「これだけあれは十分よ」

 

謙也に言われてルシエラは持っているコンビニの袋を上げた。中にはコンビニのおにぎりが三個とペットボトルのジュースが入っている。オサムのために買ってきた食事の残りだ。残りとは言え、謙也が勢いで買ってきてオサムが、食べきれなかった分である。白石もコンビニの袋を持っていた。

四人が部室から出た後で部室にはルシエラと白石が残された。

 

「食べ終わったら、寮の方に行こか。おにぎりとか好きか?」

 

「好きね。ご飯系もいけるわ」

 

器用にルシエラはコンビニのおにぎりのパッケージを外すと引っ張って海苔をつけて、食べていた。

中身は梅干しだ。ルシエラは梅干しも好きな方だ。忍足家で食べたことがある。

食べていると、持っている携帯電話が鳴った。ルシエラは左手でおにぎりを持ったまま、右手で右ポケットの中にある携帯電話を出す。

 

「誰からや?」

 

「デューね。どうしたの?」

 

携帯電話を通話状態にするとルシエラは耳に押し当てた。ディスプレイにはディオニージ・ドゥリンダナの名がある。

ルシエラのかつての同胞であるが、彼は今どこにいるのだろうかとルシエラは考える。

雇い主の命令で世界中飛び回っている奴だ。

 

『どうしたの? って、朝に電話をかけたら通じなかったんだよ。アン。おれはまだ日本にいる……蔵は?』

 

アンと言うのはルシエラのかつての呼び名だ。ルシエラの本名はルシエラ・フラガラッハであり、フラガラッハは別名をアンサラーと言い、そこからアンだ。デューも似たようなものであり、ドゥリンダナをデュランダルと英語風に言い換えて、そこからデューである。

 

「蔵ノ介はすぐ側に居るわ」

 

『それなら彼にも聞かせて。おれも日本で生活することになったんだ……お前と同じ中学生になって、学校に通うことになった』

 

「……アンタも中学校に通う? 何処の学校よ。並盛中とか……?」

 

並盛の名を出すのはそこが彼等にとってはある種の重要な場所であるからだ。声に出して白石にも聞こえるようにしたので、白石も反応する。ルシエラは携帯電話を握りしめた。音がして、携帯電話が周囲に音を聞かせるようになった。

 

『神奈川県の立海大付属中、四月から中学三年だよ……おれ、しかも男子テニス部のマネージャーすることになった』

 

「立海大付属中やて!? ディオ君、テニスするんか?」

 

「マネージャーって言ってたじゃない」

 

この言葉に驚いたのはルシエラよりも白石であった。神奈川県というとルシエラからすれば東京都の隣にある県ぐらいの認識しかない。

 

『玖月の手伝いで仕事したりしてたらいつの間にかね。雇い主の命令だから……マネージャーはそうじゃないけど』

 

「選手としては出ないでしょう」

 

『出ない出ない。フェアじゃないからね』

 

フェアではないとディオは苦笑いをしている。

 

「フェアじゃないって殺し屋やからか?」

 

『おれは殺し屋と言うか何でも屋かなー?』

 

「……デューは六番目の血よ。体内電流の操作が可能になるから……加速かけたり力上げたり出来るんだけど、

アイツ、痛覚鈍くしてるのよ」

 

それをいうとルシエラの能力である薬物精製でも似たような事が出来る。フェアではないというのは能力で底上げが出来るからだ。

二人は種類が違えど、ドーピングが出来てしまう。

狂気の血に目覚めた時点で一般人が送るようなまともな生活などやれないことをルシエラもディオも知っている。

 

『消しはしてないけどね。消したら消したで危険だから』

 

電話越しに聞いて解るがディオは笑いながら話している。

 

「立海ってな……ディオ君は聞いとるかも知れんけど、全国大会二連覇しとるんや。去年、ウチはストレートで立海に負けとる」

 

『二連覇は聞いてるけど……そっか。皇帝とか、サーリとか強い人ばっかりだしね』

 

白石は何かを押し込めるような表情をしてから言った。ストレートで負けていることを気にしているのだろうかとルシエラは考える。白石は二年連続で部長をしているのは聞いていた。二年生の時も部長だったのだ。

 

「中学三年生って、私は事情で仕方がないにしろ、アンタは高校二年か三年でしょうに」

 

『協力者が中学二年なんだ。蔵と同じ年。学校はどっちにしろ通ったことはないから中学でも高校でも良いけどね』

 

「ディオ君も学校は通ったこと無いんか」

 

『無いよ。アン、それと那岐から伝言。一回連絡が欲しいんだってさ』

 

「那岐が? 解ったわ……今からかける」

 

『イタリアは午前四時ぐらい何だけど……』

 

「起きているわよ。アイツ」

 

那岐と言う名を聞いてルシエラはすぐに予定を決める。イタリアにいたときの協力者であるが、イタリアと日本の時差を考えると昼の日本に対してイタリアは夜と朝の間ぐらいだ。季節からしてまだ夜である。

 

『補佐がしやすくなったということだけは伝えたかった。伝えることは終わり。これからおれ、病院に行くから、部長さんに逢いに行くんだ。入院中だって。花を買いに行かないと駄目らしくて』

 

「日本だと鉢植えは持って行っちゃ駄目よ。シクラメンや赤いバラも駄目。白い花はかすみ草ぐらいなら他と混ぜればいいし、小菊も駄目。本とかが良いわね」

 

『了解。本は適当に買ってくる』

 

細かいことをルシエラは言うがこれは忍足医院で聞いたことだ。鉢植えだと根付くという意味があり、縁起が悪く、シクラメンも死や苦を連想するし、赤いバラは血を連想するから駄目であり、白い花は淋しげで入院患者の気を滅入らせ、小菊は仏花であり、外国では不幸の象徴だ。通話を終える。

 

「……ルシエラちゃんは世間話とかせえへんな……どうして学校に通うことになったとか聞かんのか」

 

「アイツの雇い主がそう言ったから」

 

「経緯とかあるやん」

 

「……職業病ね……最低限のことしか言わないというか、世間話もするときはするんだけど」

 

裏社会には様々な事情を抱えた者達が居るし、細かい経緯などは聞くときと聞かないときがある。ディオの雇い主についてルシエラは少しは知っているのでいつもの気まぐれだろうと言う感じだったのだが、

白石からしてみれば会話が乾燥しすぎていたらしい。

ルシエラは通話を終えた携帯電話から登録してある番号を呼びだした。

 

「那岐って……?」

 

「デューと同じ結社の出身なんだけど、細々としたことをさせるのに借りてるのよ」

 

耳に携帯電話を押し当て、ルシエラは出るまで待つ。出なかったら出なかったでまたかけ直すだけだ。

イタリアは午前四時を過ぎた頃だ。反応は期待していなかったが、コール音が途切れた。

 

 

 

『――お前、時差って言うものを知ってるか? これから寝ようとしていたのに平然とかけてくる』

 

「知っているわよ。これから寝るなら寝る時間を少し伸ばしなさい。電話かけろって言ったからかけたのよ」

 

白石が聞いたのは若い声だ。非常に不機嫌そうである。自分と同じ年か、もしくは少しだけ上のような声だった。

少年の声である。彼が那岐だろうと白石は想った。

 

『最後の電話が事情の説明に金振り込んでくれって用件だけだし』

 

「……蔵ノ介にも言われたわ。会話が世間話がないとか」

 

『する気になったら出来るけどしないときはとことんしないからね……しばらくは日本に滞在するんだろう』

 

「私が帰ったら帰ったで不味いし、今、攻められたりしたら勝てないわよ」

 

『情報撹乱はしておいてるからばれることはほぼ無いけど油断はしないで。蛇足だろうけど』

 

「心配してくれてるの?」

 

『僕以外のみんながね』

 

ルシエラは電話越しにおかしそうに笑っていた。那岐が心配していないと言っていることを聞いて嬉しそうにしている。

 

「考えたいこともあるから……そっちはどう?」

 

『出来そうな依頼はノイにやって貰ってるけど……君の悪名、凄まじいからね。消えたら消えたで騒ぎになってる』

 

「悪名だなんて――」

 

『……解ってて笑うな。依頼者が偽ってたりしたら殺すし、やるなら徹底的だし』

 

(ゴルゴ13……ゴルゴ13や……)

 

白石の脳裏には日本有数の最長漫画が浮かんでいた。笑いながら話すルシエラによりも、ネタの方が浮かんでしまったのは、逃避なのか、白石が大阪人なのかは不明だ。

 

『コネとか使うに使うし、今まで色々と殺しておいて良かったね』

 

「貸しとかも作りまくったけど、この界隈、人情よりも義理が大きいんだから……シチリア系は別だけど」

 

『資金の問題は無い。情報屋としての基盤もあるし、ジンガレッティの基盤も足せばやっていける』

 

「……電気代が酷いなのよね……アンタのネット代とか、やって貰うと助かるから良いんだけど……連絡系統は?」

 

世間話を二人はしていた。日本語でだ。イタリア語ではないのはルシエラが日本語も使えるからだろうか。

 

『連絡だけど……ディオにタブレット端末を調達して貰って君の所に送って貰う。あると便利だし、表向きの連絡は、エアメールを出すよ』

 

「タブレット、板?」

 

『ノートパソコンにしておく』

 

速攻で那岐は答えを変えてきた。まるで答えが通じなかったのですぐさま別の意味が通じるものにしたような……実際、そうなのだろう。

 

「みんなは元気?」

 

『元気だよ。セナやキョウも、トートやノイも……声、聞かせられるときには聞かせてあげて』

 

「イタリアにいる癖にみんな日本語使うんだから」

 

『だって日本人ばっかりだし……何かあれば連絡はする。僕は寝る』

 

「おやすみなさい。那岐」

 

会話が終わり、ルシエラは通話をまた終えた。

 

「那岐って日本人?」

 

「直江那岐、日本人よ。コンピューター関係とか情報に強いの。戦闘力はないんだけど、私が居るから問題無かったわ」

 

那岐についてルシエラは簡潔に教えてくれた。ルシエラは借りたと言っているが補佐をさせるために借りたようだ。

ルシエラは食事に戻っている。

 

「仲間、居ったんやな」

 

「……仲間と呼ぶべきかは不明ね。同胞と呼ぶなら他の剣王だけど、成り行きで一緒に居るぐらいだから」

 

おにぎりをルシエラは一つ食べきっていた。成り行きと言うがどのような成り行きでそうなったのか、

那岐は借りているようだが、白石はルシエラに対しては知らないことばかりである。

守秘義務とかもあるだろうし、聞いたところで教えてくれ無さそうだが、一つだけ教えてくれそうなことがあった。

それは。

 

「ルシエラちゃん、機械、そんなに好きやないんか? コンピューターとか苦手?」

 

「……好きじゃないだけよ」

 

(苦手なんか……)

 

ルシエラはコンビニおにぎりを白石の顔面に投げつけた。白石は額に三角おにぎりの角が当たる。

聞かれたくないことばかりのようだが、どうやらこのことも聞かれたくはないことの一つだったようだ。

 

 

【Fin】




ルシエラは機械操作が苦手なので那岐雇ってます。
能力で機械操作は出来るこっちゃ出来るんですが
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