そら色ワルツ   作:高槻翡翠

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長くなっていたので前後編から全中後編に
なってしまいました。


でんせん 中編

【でんせん 中編】

 

白石とルシエラは談話室に待機となった。談話室にあった文庫本をルシエラは手に取っている。

書店のブックカバーが付いている表紙を捲る。

 

「燃えよ剣の上巻ね。司馬遼太郎」

 

「新撰組の話やったかな……」

 

燃えよ剣と言われても、タイトルぐらいしか知らない。座っていたソファーにルシエラは再び座ると、ページを捲り始めた。

 

「千歳さんだけど」

 

「どないした?」

 

「中三で一年だけ四天宝寺に来たって、珍しいわね」

 

読みながらルシエラが白石に言う。

四月になれば白石も千歳も中学三年だ。来年は高校になるが、つまり一年だけの転校と言うことになる。

 

「お前に話しとくけど、千歳、西日本大会の後で部活中に右目にボールが当たってな。獅子楽中のテニス部、辞めとるねん」

 

「……テニス選手としては、致命傷じゃないかしら?」

 

文庫本から目を離し、ルシエラが白石の方を向く。興味が向いたのだろう。

千歳はテニスから離れていた時期がある。離れる原因となったのは部活中にテニスボールが右目に当たったことだ。

人間は左右の目で物体の距離や位置を把握する。片目だけだと判断は上手くいかない。

左サイドが死角になってしまう。

 

「大阪の眼科に来とったときに俺やオサムちゃんと出会うて聞いたんや」

 

秋口に千歳が大阪の有名な眼科に行こうとしていたときに白石や監督であるオサムと出会った。そのことで交流が生まれ、二月の終わりぐらいに千歳がやって来ると言うことを聞いた。

 

「対決するの?」

 

「明日には対戦してみたいけど、シングルスで試合はしたことなかったし」

 

「性能は確かめないと行けないわね」

 

「実力とか言おうや……」

 

性能とか言うと機械になったような感じだ。ルシエラは苦笑する。

 

「癖かも……貴方の前だからいうのかもね。普段は発言は気をつけてるわ」

 

体が傷つくと言うことはテニスプレイヤーでも致命傷になりうることがあり得るが、怪我が何らかの致命傷になると言うのは、生きていれば誰にでもあり得る。

 

(少しは打ち解けて来たんかな……)

 

白石はルシエラの雇い主とはなっているが、雇い主と殺し屋では壁がある。ルシエラは文庫本を再び開こうとして止める。

 

「眼のことは私も気を配っておくわ……それと、蔵ノ介、ふと気になったんだけど」

 

「気になったこと?」

 

「貴方の左肘の包帯」

 

ルシエラは白石の左肘に眼をやる。白石の左肘には包帯が巻かれていた。

 

「包帯? 気にしとらんかったんに、今頃か」

 

「那岐は日本の大人はたまに中二病とかいう病気にかかるらしくて、怪我もしてないのに包帯を巻いてるとか、やるとか聞いたの。……貴方は速めにかかったのかと想って」

 

(中二病って言われても何やその中二病って……でも解る。誤解が生まれとる)

 

「私も良く聞かなかったんだけどね。中二病……今度、起きた那岐に聞いておくわ」

 

ルシエラは文庫本をテーブルの上に置くと白石の方に近付いた。

 

「……包帯の中身、見たいんか?」

 

「見たいわ。動きからして、左腕自体は問題無く機能してるんでしょう」

 

「問題は無いんや……包帯の中身やけど……見せるけど、包帯の中身については言わんといてな」

 

白石は誰も居ないことを確認すると左腕の包帯を解いた。ルシエラは解かれていく包帯を眺めていて、左腕も眺めていて、表情を固めた。

 

「蔵ノ介……こんなところに隠し財産を……お金持ちじゃない」

 

「俺のやないで。オサムちゃんのや。一年の時にオサムちゃんに頼まれてつけろ言われてつけとるんや」

 

白石の左腕の包帯の下には黄金のガントレットがはまっていた。純金である。

オサムが競馬で当ててきたとかで彼の全財産だ。

 

「渡邊監督のだったのね。てっきり蔵ノ介、頭がちょっとおかしいのにさらにおかしくなったかと」

 

「ちょっとおかしいとか……ルシエラちゃんも……ルシエラちゃんはルシエラちゃんやから、治していけば……黄金とか、売れたら金になるとか想う時もあったけど」

 

ルシエラも頭がおかしいと言いそうになったが彼女は裏社会の人間だ。裏社会は表とはルールが違うところがある。ずれても仕方がないと白石は納得しておく。

 

「値は高く付くけど宝石とか金とかアシが着きやすいから換金が大変なのよね」

 

「金とかルシエラちゃんも持っとるんか」

 

「ジンガレッティの財産の一部にはあるわね。腕には巻かないわよ」

 

換金が大変と言っていたので持っていることには持っているが使ったりはしていないのだろう。白石は包帯を巻き直す。

 

「包帯の下についてはは秘密やからな」

 

「念を押されなくても守るわ。貴方が雇い主じゃなくてもさすがに……」

 

「引いとるやろ。ルシエラちゃん」

 

「……大阪は恐ろしい土地だわ」

 

ルシエラは視線をそらせ、呟いた。

 

「おう。白石にルシエラ、お前等二人きりで、仲ええな」

 

「渡邊監督」

 

包帯を巻き終わった白石と席に戻ろうとしていたルシエラに声がかかる。噂をすれば影と言うべきだろうか、オサムが来たのだ。

上機嫌である。

 

「競馬、当たったんですか?」

 

「当たったで! 今日の分を埋め合わせて……千歳は来たんやろ?」

 

「来たんですけど……」

 

白石は起きたことを話す。オサムは話を聞いた後で被っているチューリップハットを抑え、笑う。

 

「そら、引くわ。寮も来年に立て直す予定やし、一年は耐えてもらえば……銀も千歳も卒業か」

 

「立て直すのは本当なのね」

 

「ルシエラ。みんなをここに集めてくれんか? 呼んできて欲しいんや」

 

「解りました」

 

ルシエラが速く立て直すべきよ、と視線で言っていた。彼女はオサムに言われて、他の面子を呼びに行く。

携帯電話を使って謙也か誰かにかけて呼んだ方が速い気がしたが、監督命令だ。

 

「四月になったら新入部員も入ってくる。千歳が入ったことで戦力の補給になったが、先のこともある」

 

「まずは地区予選を勝ち進まないことには、一つずつ堅実にやっていきますよ」

 

白石はオサムから信用を受けて二年の時からテニス部部長をしている。今年こそは全国大会で優勝したい。

勝ったモン勝ちが信条の四天宝寺テニス部だ。やれることはしておくし、やらなければいけないこともする。

 

「にしてもお前、助けたからもあるけど、ルシエラと仲ええな。青春って感じやで。デートとかしとるんか?」

 

「デートとか……アイツと俺はそう言う仲じゃ無いですし……ただ、アイツも青春とか経験できてええかなと……」

 

オサムにからかわれて白石は考えてみる。

ルシエラのことをどう想っているかと言えば、発言が物騒すぎるところもあるが、人間だとか想っている。

好きだと言えば好きだが異性として好きかというと別だ。ルシエラからすれば白石を雇い主だと、答えそうである。

話から聞いてみるとルシエラは学校生活などを経験したことが無い。白石にとって当たり前のことは彼女にとっては当たり前ではない。

深く考えすぎると思考の迷路に入りそうなので白石は曖昧に答えておき、考えることを止めた。

 

 

 

ルシエラは音を余り立てずに階段を上ってから、血に意識を軽く集中させて、領域設定をしてから音を集めた。

上に居る者達を探すためだ。領域内の音をルシエラは拾える。やりすぎると耳が痛くなるが、軽くならば、負荷はかからない。軽く声を聞いたが千歳と小春とユウジと謙也、財前と銀と小石川で別れているようだ。財前達が居るのはルシエラが壁を壊してしまった千歳の部屋になるはずだった場所だった。

先に千歳達に逢っておこうとルシエラは声のする方向へと行く。

音を立てないように歩いた。能力を使わなくても重心移動で出来る。

千歳達が居る部屋は元の部屋ではない別の棟にあり、掃除が終わろうとしていた。

白石とルシエラが拡張しようとした部屋と同じ広さをしている。

 

「掃除は、終わったの?」

 

「終わったわよ。ルシエラ。千歳クンの荷物も運び終わったし」

 

小春が答えてくれたが小春は割烹着に頭には三角筋をつけてハタキを持っていた。日本のおばちゃん風である。

 

「掃除用の服に着替えたのね。似合っているわ」

 

「似合ってるって言われたわ! ルシエラちゃんもメイド服とか着てみない?」

 

「小春、ルシエラはメイドに仕えられる方なんやで」

 

(屋敷の方、メイドは居ないんだけどね……)

 

謙也が言う。

本拠地として使っている屋敷にはメイドは雇っていない。他の屋敷には掃除だけなどで雇っていることもあるが、メイドは単に自分でやれてしまえるからいらなかっただけだ。

かつての同胞が今、とあるファミリーでメイドとして仕えていることをルシエラは想い出す。

あの狙撃好きなメイドは元気でやっているだろうか。

 

「白石はどないしたんや?」

 

「私、呼びに来たの。みんな、渡邊監督が談話室で待っているわ」

 

「渡邊監督には挨拶しとかんと。今日は後は布団とか買うぐらいにしとくったい。真鶴が物を選んで詰めてくれたから、楽出来たけど」

 

「千歳さんには大きな布団がいりそうね。私は小石川さん達にも伝えてくるわ」

 

真鶴というのは妹か誰かだとルシエラは想いつつ、千歳を見上げる。この部屋に運ぶのはベッドよりも布団だろう。

ベッドを運ぼうにも運ぶ前に床が沈みそうだし、日本の寝具は布団だ。

 

「ルシエラ、お前が行くと部屋が壊れ……」

 

「壊さないわ。貴方が行った方が部屋が壊れるわよ」

 

謙也はせっかちなところがある。壁が壊れたのだって壁の耐久力が低かったからだ。

 

「ケン坊にはアタシが携帯で知らせておくわ」

 

「談話室はさっき居た部屋やね。千歳クンや謙也クンは先に行っていて」

 

「俺は小春と行くで」

 

小春が携帯電話を出して小石川達にも連絡を取っていた。ユウジと小春を部屋に置いて、千歳達と談話室へと向かう。

 

「小石川さん達は私と蔵ノ介が壊した部屋を直しているのね」

 

「妥協案として段ボールとか寮にある板とかでどうにかするとかな」

 

「あの部屋は確かめたけど壁とか耐久力はあったと。安心ったい」

 

部屋を選んでいたときに日当たりも考慮するほかに住んでも平気か確認したようだ。階段を下りて談話室へ行く。

少ししてからすぐに他の者達もやってきた。

 

「全員揃たな。知っとると想うけど改めて言うとくわ。熊本、獅子楽中の千歳がウチに転校するで。テニス部や」

 

「監督やテニス部や学校には一年間、世話になります」

 

千歳は標準語に近い言葉で話していた。挨拶だからだろうか。

 

「でや、本格的な祝いは四月の新入部員が入ってきてからにして、この祝いにはルシエラが来ることと千歳が来ることも入る。今日はその前祝いってことで、ルシエラ、料理作ってや」

 

「……私が?」

 

「料理は出来るって前に話しとったやろ。白石も手伝ってやれや。二人とも壁を壊してしまったし、前祝いの料理で、挽回ってことで」

 

「やってもいいけど……材料費とかは」

 

「競馬で当たった分がある。今回は前回の負けを取り返した上に一部取っといてもまだ余裕あるんやで!」

 

オサムは自慢げに言っているが賭け事は余りしない方が良い気がするのがルシエラだ。

挽回はしておかなければならないというのは賛成ではある。

 

「イタリア料理やと、ナ……」

 

「地方によってバラバラや聞いたことあるけど、ルシエラはイタリアの何処の出身なんや?」

 

ユウジが言いかけた言葉を財前が止めて、別のことを聞く。ナポリタンと言っていたら笑顔で それは日本料理と言ってやるつもりであった。

 

「北よ。だから、ブラザート・アル・バローロとかリゾットとか作るわ」

 

「……ぶらざーあるばろー……」

 

「牛肉のワイン煮込み、イタリアはワインが有名なの」

 

北イタリアは米を食べるし、牛肉もよく食べる。

財前が言うようにイタリア料理と言っても、イタリアはずっと都市国家として存在してきて統一されたのは最近だ。

日本よりも食事のバラエティは飛んでいるし、各都市で料理の特色がある。

 

「お嬢様でも料理とかするんか」

 

「少しはしていたわ(……屋敷じゃ私がしないと誰もしなかったのよ)」

 

「それなら美味しいイタリア料理食わせてくれや。寮は調理場もあるし」

 

小石川が珍しそうにしていたのでルシエラは微笑で応対しておく。ルシエラは料理が上手い方だ。

 

「……調理場を確かめてからにしておくわ」

 

話し合い、白石とルシエラ、千歳と謙也と小石川で布団を買ったり前祝いの食材を揃えることにして、他のメンバーは寮の補強と片付けをすることになった。

調理場を確かめたが、料理は出来そうだ。ガス台や包丁やまな板も確かめておいた。鍋なども揃っている。

玄関から寮を出てスーパーやホームセンターへと行くことになった。

 

「イタリア料理はそんなに種類あるんか?」

 

「日本で言うと……長崎の料理とか、沖縄料理とか熊本料理とか纏めて日本料理とか和食とか言ってるみたいなもの」

 

「南ばっかやで」

 

「テレビで見たの。九州沖縄特集。熊本も見たわ。辛子蓮根」

 

「辛子蓮根はうまか。俺は馬刺しも好きや」

 

イタリアと日本は似ているが周囲を海に囲まれている日本と違い、イタリアは近隣諸国の侵略も何度も受けたりしたため、料理が地方によっては混ざっている。地域によってはアラブや東欧と料理が混ざっているところもある。

白石がつっこんでいるが、昨日、適当に見た番組の影響だ。

 

「イタリアも馬肉は食べるわね。馬肉の燻製とかサラダにかけると美味しいわ」

 

千歳が馬肉が好きならば探して調理してみようかとルシエラは考える。

 

「先にまずは千歳の布団を買ってからにするか。春先に布団が無くて寝られんのはアカン」

 

白石の意見には全員が賛成だ。あの寮は寒い。あちこちが壊れているせいもあるだろうが、すきま風が厳しい。

 

「……ところで千歳さん、その下駄なんだけど……かなりの重さがない?」

 

「これは鉄下駄で重さが片方が六キロあるったい」

 

「俺も負けられんな……」

 

「……謙也、妙なところで勝負をしなくても良いわ」

 

音からして千歳の下駄は重そうだったが、六キロもあった。両方で十二キロである。下駄のせいで千歳の身長は二メートルを超えていた。この中で二番目に高いのは小石川だが小石川よりも十センチ以上は高い。

 

「四月に祝いをする言うとったが、その前にボーリングとかもしたいな」

 

「小石川はボーリング好きやしな」

 

「それやったら、小春とかはカラオケとか行きたいとか言いそうやで」

 

小石川、白石、謙也は四月の祝いについて話していた。入部パーティと言うらしい。

ルシエラと千歳がテニス部に入るのは、もう決定事項だ。四天宝寺に入学したり転校したりした後で、入部届を書けば良い。

 

「俺はボーリングもカラオケも余りしたことはないったい」

 

「それならどっかで行こうや。ルシエラは……」

 

「どっちもしたことがないわよ……イタリアにもあることにはあるけど」

 

謙也に話しかけられてルシエラは答えるが、カラオケは日本発祥だし、ボーリングはアメリカか何処か発祥だ。

イタリアにも伝わっていることには伝わっているが、どちらも聞いたことがあるだけである。

やろうとは言ってもルシエラは日本の歌はろくに知らない。

 

「カラオケとかルシエラは難しいかも知れんな。ボーリングはでも出来るやろ」

 

「聞いたことはあるわ。固いボールをピンにぶつけて破壊する」

 

「破壊せんで!? 倒すだけや」

 

「ピンを壊していくのがボーリングやったらレーンの掃除が大変ったい」

 

「千歳、そこは違うやろ!」

 

ルシエラの言葉に小石川が驚いていた。千歳も会話に加わるがボケだったので謙也がツッコミを入れた。

千歳はこの辺りに土地勘が無く、ルシエラも住んではいるがまだ把握していないところもあり、

店の選択は白石達に任せていた。まず白石達が立ち寄ったのはホームセンターである。

ホームセンターはそれなりの大きさをしていて、ペット用品や木材、DIY用品、インテリアも揃っていた。

 

「布団は……あそこに売っとるな」

 

「これ、日本の暖房器具のコタツね」

 

「コタツは中に入ると出られなくなる魔性の道具ったい」

 

白石が布団売り場を発見する。

コタツは日本の暖房器具だ。物珍しそうにルシエラがコタツを眺めている間に男性陣は布団を選んだ。

柄もそうだがまずは千歳が寝られるだけの大きさがあるかどうかが重要だ。

大きめのカートを小石川が持って来てくれたのでカートに布団を乗せる。千歳がカートを押した。会計に布団を持って行くときに小石川がルシエラに話しかけた。

 

「ルシエラは何を作るか決めとるんか?」

 

「考えてるわ。代用できそうな食材は代用していくけど、……日本のスーパーにカステルマーニョとか売ってないだろうし」

 

「……カステラ抹茶?」

 

「横文字の食べ物ったい。カステラの親戚……」

 

「チーズ。チーズの一種よ」

 

カステルマーニョはイタリアのピエモンテ州で作られているチーズだ。生産量が少ない。イタリアはチーズも様々な種類がある。

謙也や千歳は知らないようだが、日本はイタリアよりもチーズの種類が少ないらしい。

 

「探せばあるやろうけど……探すんはきついやろうからな。カステルマーニョっての、俺はチーズやとゴルゴンゾーラやな」

 

「ゴルゴンゾーラも良いけどヴェリツィンも美味しいわ。ブルーチーズ好きよ」

 

日本でも探せば一部の店ではカステルマーニョは売っていそうだが、その一部の店を探すのが大変だ。

ゴルゴンゾーラはブルーチーズの一種であり、世界三大ブルーチーズの一つだ。

 

「ブルーチーズって、青いんか」

 

「青カビが生えてるの」

 

「カビ食うんか!? ブルーベリーとかじゃなくてカビなんか」

 

「ブルーベリー入れてどうするのよ。チーズは発酵食品よ……」

 

謙也はブルーチーズについて知らなかったらしい。ルシエラは嘆息する。嘆息しながら作るメニューを決めていた。

話している間に千歳と小石川が布団を買ってしまっていた。

 

「これで眠るときに寒くない」

 

「熊本は大阪よりは暖かいのよね」

 

「南やから。沖縄よりは寒いけど」

 

千歳が買ったのは布団セット一式だった。掛け布団と敷き布団が入っていて、シーツも別売りのものを買っていた。

シーツも必要だと小石川が勧めていた。布団が手に入ったことで千歳の買い物はひとまずは終わりで、

後は前祝いのための食材を買うだけである。

布団やシーツはホームセンターの宅配サービスがあったので、そこに頼んでおいた。一足先に寮に届けてもらっている。

 

「大きいスーパーに行こうか。ルシエラの欲しい食材が揃うかもしれん」

 

白石が教えてくれたスーパーは最近出来たばかりの二十四時間営業の大きいスーパーだった。

駐車場も広いが、店内も広い。入り口で籠とカートを取り店内に入る。ぶつからずに悠々と買い物が出来る通路に多種多様な食材や少しのスペースではあるが本も置いてあり、花屋やクリーニング店もある。

 

「……こんな大きなお店が二十四時間営業とか日本はおかしいわね」

 

「夜中に働いとる人も多いから開いとると便利なんやろうけど」

 

「熊本に居るときにこの手の店あって助かったと」

 

夜に働いて朝に帰る者も居れば夜中に唐突に買い物に来る者だって居る。そう言った者達にとっては二十四時間営業のスーパーというのは便利なようだ。イタリアに住んでいたルシエラからすれば夜中に店を開けているのも地域によっては危険だ。

中に入ると大きめのカートにプラスティックのカゴをを二つほど置いて、店内を散策する。

カートは白石が押してくれた。

最初に選び始めたのは野菜だが、ルシエラは真剣に野菜を眺めては籠の中に入れていく。タマネギやニンニク、ハーブも入れていた。

 

「私、蔵ノ介、千歳さん、小石川さん、謙也、財前、師範、小春さんに一氏さんに渡邊監督で十人分作れば良いわね」

 

ルシエラは人数を数えた。

イタリアで暮らしていた頃は五人分作ればすんでいたが、今回は倍だ。おかわりもあるかもしれないので、少しは多めに作って置くべきかと考える。

 

「寮やろ、寮やったら……お好み焼きとかたこ焼きとか作っといた方がええな」

 

「お好み焼きとかたこ焼き? 私、作られないわよ」

 

「俺が作るわ。壁のためにいるんや。防御やな」

 

「……お好み焼きを顔に叩きつけるとか……?」

 

「それは防御やのうて、攻撃やろ」

 

「謙也、何か違うぞ! 他の寮生が食いたい言うかもしれんからその分か」

 

小石川が解説を入れてくれたのでルシエラにも解った。料理は四天宝寺の寮で作ってそこで食べる予定だが、他の者が来て食べたいとか言ってきた場合、食べさせる分がないのだ。

 

「寮はOBとかも来るし」

 

謙也の言葉に白石が預かった金を確認している。

 

「ルシエラが買ってからでええか?」

 

野菜を選び終わったので次はワインを選びに行く。ルシエラはワイン煮を作るつもりだ。ワインで肉や野菜を煮込む料理である。

イタリアはワインの産地であり、フランスとも近いためその料理法が伝わっている。

 

「どっちが好き? 赤ワインと白ワイン」

 

「……き、聞かれても解らんったい」

 

「俺等、未成年や。飲めんし」

 

酒売り場の近くでルシエラは聞いてみたが、千歳も白石も困っていた。彼等は未成年だしワインは飲めない。

 

「お前の好きな方にすればええで。ワインで煮込むとかオシャレやな」

 

「別にそうでもなくてね。昔は水がそう安全でもなかったの。でもワインは沢山あったから……」

 

日本人からすればおしゃれに見えるかも知れないが、イタリアにしろフランスにしろ、ワインは多くあったが、安全な水が少なかった。安心して肉を食べるにはワインで煮た方が良かったのだ。

 

「安全の問題か……ルシエラはワインとかは料理に使ったりとかして、飲んどらんよな?」

 

「……ワインがあったら……」

 

「小石川、謙也、お前等はお好み焼きとたこ焼きの材料先に集めてきてや。ルシエラのは時間かかりそうやから」

 

「俺、お好み焼きとかたこ焼きとか本場のに興味ある」

 

「千歳もそれなら行ってきてや。終わったら集合な」

 

小石川に聞かれてルシエラが答えを言いかけるが、白石が防いだ。謙也と小石川に指示を出している。

千歳は本場のお好み焼きやたこ焼きに興味があるのか、材料集めが見たいのか謙也達の方に着いていくことにしたようだ。

ルシエラと白石だけになる。

 

「ワインは美味しいわよ?」

 

「ルシエラ。未成年や。お前は未成年やで」

 

白石はルシエラの答えを察したのか、止めたようだ。

 

「イタリアは十六歳からお酒が飲めるんだけど」

 

「十六……今のルシエラちゃんは十二歳ぐらいやで」

 

「……十三歳よ……」

 

大きな声で言うと目立つので小声で白石は言っていた。

ルシエラは会話をするときは僅かに領域を調整して会話が聞こえないようにはしている。日本では十三歳として通した。

イタリアの飲酒年齢は十六歳からである。ルシエラは以外と酒好きで、ワインはよく飲んでいた。

 

「酒とか強いんか」

 

「九番目の血は薬品精製プラントが体に出来るんだけどそのお陰かとても強いわ」

 

(でも、力落ちた言うから……酒にも弱くなったんや……)

 

「ワインは飲みたいけど、耐えるしかないわね……お酒、買える?」

 

薬品精製プラントは作るだけではなく薬品を分解したりすることも出来る。このためルシエラには毒は種類にもよるが、効かないも同然だ。ルシエラが目をやったのは、プレートだ。内容は未成年には酒は売らない。買うとしても、証明書が居ると言うものであった。

 

「料理用の酒なら買えるんや。未成年でもな。飲むんやないんやから。前におかんが友香里に頼んどった」

 

「それなら買えるわね。赤ワインと白ワインだと、赤ワインにしておきましょう」

 

調理用の紙パックワインをルシエラは何本か籠の中に入れていた。調理用のワインならば未成年でも購入できる。

飲む目的で買うのは良くないが料理目的として買うならばいいのだ。

白石がカートを押してくれていた。ルシエラは次にパスタを買うことにした。

 

 

【続く】




ルシエラは酒好きで強かったです(過去形)。
後編は近いうちに書けたらなとは

「グリューワインなら……」

とか呟いていそうなルシエラ
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