やや長いよ。
【でんせん 後編】
千歳は謙也と小石川がお好み焼きの材料を集めているを眺めていた。眺めるしかなかった。
最初に彼等は真剣に野菜売り場のキャベツを選んでいた。お好み焼きに入れるキャベツは忍足謙也が言うには、粉以上に大事であるらしい。隣のおばちゃんもキャベツ選びが真剣だったので嘘ではないのだろう。
(真鶴やかくさんはお好み焼きの粉で作っとったが)
かくさん……母親の熊本弁の言い方……達は家でお好み焼きを作る時はお好み焼きの粉を買ってきて
作っていたが彼等は小麦粉を買っていた。ベーキングパウダーは寮にあったのを使うようだ。卵も入れている。
その他必要な材料を入れていた。
「こんだけあれば足りるやろうな」
「本場は、よお買うったい」
「白石とルシエラと合流せんと」
「千歳、お前、無言やったけどお好み焼き嫌いか?」
カートは小石川が押していた。謙也に聞かれて千歳は苦笑しながら頭を掻いた。
「大阪のノリに慣れん……」
「そら、しゃーないな。千歳は大阪には来とった言うても、住んどるわけやないし」
「俺等はちょっとしたことでも、ええことなら祭りにしてしまうんや」
騒いでしまうのは大阪の、あるいは四天宝寺の校風らしい。説明の中には千歳に対する気遣いが感じられた。
賑やかではあるが相手のことを考えてはいる。
「嫌いではなかとよ」
「何かあったら俺とか白石や監督に言って貰えれば……俺、副部長やから、俺でもええわ」
「解った」
白石が四天宝寺中テニス部の部長であることを知っていたが、小石川が副部長であることは知らなかった。
存在感が薄い副部長だと千歳は想う。
「蔵ノ介、千歳さんが居たわよ」
「買い物は終わったんか」
店内を歩いているとルシエラと白石と合流が出来た。カートの中に老いてある籠には食材が多種多様に入っている。
離れている間に選ぶに選んだようだ。
「そっちも買い込んだみたいやな。買って寮に戻るで」
「焦らないでよ。買い物は長く並びそうだし、ゆっくりで」
ルシエラが謙也をなだめている。レジは何処も列になっていたが、比較的列が着いていないところに謙也達はカートを押した。
その後ろにルシエラと白石がカートを着ける。小石川が食材を入れるための段ボール箱を何箱か持って来ていた。
店員がレジを初めて、食材が通されていく。
通された食材は籠がいっぱいになれば別の籠になる。段ボールに手際よく謙也や小石川は食材を詰めた。
食材はぎりぎりで買えた。
「全部買えたし、これを寮に運ぶだけったい」
「お前、主役やけど、持ってくれるんか」
「主役やから、準備は手伝わんと」
千歳は段ボールの一つを運ぶことに協力した。段ボールが四つと、スーパーの買い物袋が一つが、買った量だ。
「男四人で持って行ける量やな」
小石川が比較的重そうな段ボール箱を持った。ルシエラがスーパーの買い物袋を一つ持つ。
「ワイン煮とか、楽しみにしていて」
「……ワインって美味いんか? おとんはよお、飲んどったけど」
「好みがあるけれども……」
「帰るでー」
白石が皆を促した。
謙也がワインについて言っていたが、千歳はワインよりも日本酒や焼酎の方が慣れている。千歳の父親は陶芸家で、知り合いの者がよく日本酒を持って来ていた。
段ボール箱を抱えて、寮へと戻る。大阪の空気は熊本よりも寒い気がした。
空を見上げると、電線に雀が何羽か止まっている。
「寮は無事かしら」
「俺等が帰ってきたら寮が潰れとったー、とか、ありえそうやな」
「初日から部屋が壊されて、驚いたけど寮が潰れるとか、否定出来んったい……。恐」
「無事やろう。壊れたりしたら、携帯に連絡来るやろうし」
「白石……。それは安心出来る言葉になっとらんで」
寮は一年間住まなければならないが、何とかなると言う気持ちでいかないと駄目そうだ。いざとなったら真鶴を説き伏せて、彼女と共に両親を説得し、アパートでも借りればいい。いきなりアパートを借りたりしないのは、自業自得だと、言われそうだからだ。
辿り着いた寮は、無事だった。
「おかえりなさい。みんな、千歳クンのお布団、届いてるわよ」
出迎えたのは小春だ。割烹着が汚れてきているのは掃除をしていたからだろう。
「私は調理に入るわ」
「誰か、手伝いはいるか?」
「蔵ノ介、手伝ってくれる? 小石川さんでも良いけど、謙也はせっかちそうだから手伝い向いてないし」
「手伝い向いとらんとか言うな!! 手伝いぐらい出来るで」
「俺が手伝う。小石川はオサムちゃんに指示とか聞いてや」
ルシエラが調理の準備に入ろうとしていた。白石が手伝うことにしたようだ。千歳達は食材を台所に運んだ。
お好み焼きはもっと後に作っても間に合うので、千歳は自室に運ばれていた布団を引いたり、寮の案内をしてもらった。
白石はルシエラが調理をする光景を眺めていた。
手伝おうとはしたが、殆ど彼女は一人で調理を済ませてしまっている。あらかじめ、厨房の中に何があるのかを確かめておいたからか、手早い。タマネギを切るのも速い。
「一人で料理しとったんか?」
「手伝いは居たわよ。……ワイン煮も二日ぐらい野菜を漬け込んでおくと美味しいんだけど……」
「二日やと歓迎会は終わっとるからショートカットで」
「……これは、二時間以上は煮込むから」
料理番組では二日前につけ込んだものがここに、とかやるだろうが、今回は出来ない。
ルシエラが買ってきたものにはパスタもある。チーズがクリーム状になり真空パックになったものもあった。
「お前も、馴染んできたな。四天宝寺に」
「このことは喜ぶべきかしら……?」
疑問を口にしながら、ルシエラは紙パックのワインを手に取る。封を切り、側にあるコップについだ。
「飲むな」
「舐めるだけよ」
人差し指をワインの表面に軽く浸してルシエラは舐める。
「美味いんか……?」
「調理用ワインだから飲むことで言えば余り美味しくはないけど、危なかったら薬品で誤魔化すし」
「誤魔化すな」
ルシエラなりに調理用ワインで妥協することを改めて納得したらしい。
「四天宝寺は面白いわ」
「学校始まったら、もっとオモロいで」
ルシエラが笑う。
彼女が学校生活を気に入るかは不明だが、四天宝寺は面白いと言ってくれた。面白さや楽しさが少しでもルシエラに伝染して欲しいと白石は願う。
「千歳さんの歓迎会、成功させるわ」
「主役にも楽しんで貰わんとな」
気合いを入れたのかルシエラは右手の拳を握る。白石はルシエラの料理を楽しみに、歓迎会が成功するように自分も努力するつもりで居た。
【Fin】
ルシエラは料理好き。
家事全般こなすタイプ