そら色ワルツ   作:高槻翡翠

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ってわけで後編。としか言いようがない。


スピンオフ:ケラウノス 後編

イタリアにある研究施設で緑色のとがった髪にメガネをかけ、白衣を着た赤ん坊、ヴェルデは巨大モニターの画面を眺めていた。

赤ん坊の姿をしているが彼は元々は大人だったが、呪いによって赤ん坊となってしまっ た。

彼のような赤ん坊は他にも六人居て、その七人は裏社会では『アルコバレーノ』と呼ばれている。

いくつものウィンドウが開いては消え、データーを出していく。薄暗い部屋にはヴェルデしか居なかったのだが、自動ドアが開き、一人の少女が入ってきた。

 

「ヴェルデ、寝ないの……」

 

「レアか。ディオとの連絡が取れなくなった。狂気の血の怪物を狩っていた最中だ」

 

右手にメガネを持ったローズピンクの髪にウェーブがかかった十代前半の少女が左手で目をこすっていた。

パンダの着ぐるみパジャマを着ている。

レアはヴェルデとも交流のある研究者だ。寝ていたのだが、不意に目を覚ましたのだろう。

 

「……閉じ込められたの? 狩られた?」

 

「閉じ込められたなら良いが、……玖月の者が迎えに行ったときにディオもディオと行動を共にしていた奴も消えていた」

 

レアの目が開く。

ディオは玖月と連絡を取るようにはしているがその連絡をヴェルデは玖月機関に回すように言っていたのだ。待っていたはずのディオが消えていた。

狂気の血の力ならば能力にも寄るが、人を二人、消すことぐらい造作もない。

 

「私が作ったモノ、持ってるなら何とか……使用データーが欲しいけど、アイツ、容赦なく分解するわ。カタチ変えるわ。戻ってこないわ」

 

「ディオは優秀だ。優秀ではあるのだが、衝動を利用しすぎる時がある」

 

衝動は狂気の血を引く者たちにとっては忌み嫌うものではあるが、リスクは高いが、利用する方法もある。

ヴェルデは専用のキーボードに手を伸ばすと、タイピングを始めた。

 

「手伝おうか」

 

「寝ていろ。こちらは夜だが、向こうはまだ昼過ぎだ」

 

「横にはなってる」

 

眠れそうになさそうだったが寝かせておくことにした。

ヴェルデはディオのことを考える。

所属していた壊滅して、当てもなく彷徨い、衝動に支配されかけていたディオを拾い、実験対象兼雑用係として雇ったのはヴェルデだ。戦闘員としても優秀だが、家事もしている。これからも働いて貰わなければ困るのだが、そのこれからは、長いスパンで見た場合のことである。

 

(衝動……侵蝕の問題か……)

 

マッドサイエンティストとして知られているヴェルデは様々な研究をしている。狂気の血の研究もその一つだ。

ディオのデーターを出しながらヴェルデは、先のことを予測しだした。

 

 

 

仁王は視界の歪みを感じた。

美術でやらされたマーブリングが眼前でやられたような光景だ。マーブリングは水を張った器に比重の軽い絵の具や墨を入れていき、その中に紙を入れて絵の具や墨を

着色する技法だ。モダンテクニックとか美術教師が話していたところまで思い浮かべた。

目を閉じる。

息が苦しい。

マーブリングの絵の具や墨が入った水の中に沈んだような感覚だ。

「仁王」

 

ディオの声がして、右手が握られ、軽く弾かれる。

静電気が起きたような……電流を流された。目を開けると、視界が戻っていたが、空気はまだ重い。

 

「どうした……」

 

「敵にやられた。敵の空間にされてる。敵の……ボス? 系の衝動はやっぱり【解放】っぽい……」

 

ディオが気持ち悪そうにしながら、しゃがみ込んだ。手が小刻みに震えている。右手で額を押さえていた。

 

「おい」

 

「衝動が襲ってきただけ。治すから」

 

「……さっきの女は【加虐】で敵が【解放】……ってのが衝動か」

 

「狂気の血がもたらす負担みたいなもんでさ。狂気の血が発症すると能力と衝動が出る。怪物に完全になってしまうと、衝動が赴くがままに行動する。

理性的なようで、そうじゃない。おれは【飢餓】の変異暴走だから……」

 

「その衝動は三種類だけか」

 

「もう九種類有る。……【吸血】【破壊】【殺戮】【闘争】【嫌悪】【妄想】【恐怖】【自傷】【憎悪】。感覚として、おれの血とか衝動を【解放】しようとしてるし、

【妄想】ならもっとねっとりしてる」

 

十二種類の衝動があるようだ。敵の方は完全にディオを殺しにかかろうとしているようだし、仁王は巻き込まれた。

しかし、ここで逃げても、ディオの敵に殺される。マシなのはディオの側に居ることだ。

 

「もっとねっとりってあれ以上ねっとりされても……【飢餓】やからあんなに食うんか」

 

「関係ない。おれ、食べる方だよ。それに衝動は食ったところで収まらない」

 

ディオはまだ怪物になっていないらしいが、敵は怪物になってしまっているようだ。仁王は、懸念していることを問う。

 

「お前も怪物になるんか」

 

「ならないようにしてるけど、血が支配して怪物になることが止まらなかったら、自殺する。おれは人間のままで死にたいんだよ」

 

細いが、決まり事のように言い切っていた。

ディオが立ち上がり、伸びをする。青かったはずの空が赤みがかかっていて、マーブル模様だ。来て、とディオが仁王を促した。

街には人が一人も居ない。

道路の真ん中に二人は立った。

 

「人間のままで死にたいんか」

 

「能力を使っていて化け物に見えるかも知れないけどさ。狂気の血における人間の範疇には入ってる」

 

多機能情報端末をディオは取り出していた。仁王も自身の携帯電話を取り出すが圏外だ。

 

「通じるか?」

 

「無理。おれの端末は衛星とか使ってるから、……調子が悪くて一部の能力が使えない」

 

「一部?」

 

「おれは自分が電波塔代わりに電波調整が出来るから、圏外の場所でも携帯とか通じさせられるし、これは色々組み込んでるから、孤島に行っても通信が可能なんだよ。

出来ないのは能力的に遮断されたからだね。カード化も下手に畳んだら戻せそうにないかも」

 

あっさりと受け入れているのは慣れきってしまっているからだろうか。自分の能力や組み込んだものが使えなくても慌てていない。

ディオは表情が読みづらい。自分も飄々としているところがあると言われるが、ディオはぼんやりとしている。

 

「悪いんか」

 

「気絶させないと人間は畳めないけどさ。……下手に畳んで戻せないと危険だし、仁王を畳んでおこうとしたけど。前の時みたいに」

 

「畳むな。安全なんは、お前の側じゃな」

 

前の時というのは仁王が怪物に脇腹を貫かれたときだろう。担いでいくにしても重労働だったから畳んだのだ。

コイツは仁王家に不法侵入しただろう仁王は考える。彼ならば楽勝だろう。

 

「……守るように善処はするけど守り切れなかったらごめんね」

 

どの質問もディオは的確に答えているが、コレは仁王雅治の生命の危機、及び人間として居られるかの危機であった。

一番の安全圏はディオの側であるようだ。感情の読み取れない声でディオは言う。コートのポケットに手を入れると小型のケースを取り出した。

仁王はそのケースがなんなのかを知っている。ダーツケースだ。ディオは仁王の前に差し出す。

 

「何じゃ」

 

「中にダーツが四本入ってる。雇い主とレアが作った対抗血統から抽出した……以下略で怪物に刺せばちょっとはダメージが行く」

 

「省いたぞ。お前」

 

そこは以下略では駄目ではないだろうか。

仁王はダーツケースをズボンのベルトにセットした。

 

「お守りとして持っていなよ。刺さるとかは期待してないからさ。乗って」

 

ディオが銀色のカードを取り出すと放り投げる。

出てきたのは中型バイクだった。ディオが前に乗り込む。中型バイクの上に置いてあるフルフェイスヘルメットの一つを持ち、

仁王の方を見ずに投げた。仁王が受け取り、被る。

ディオもヘルメットを被った。

 

「何処に向かうんじゃ」

 

「敵が仕掛けてくるから、敵の本拠地だよ。相手は十番目の血だから、この世界全てがアイツの”領域”だ。防御をきるよ」

 

バイクに乗り込むディオに仁王は後部座席に乗るとディオの腰に手を回した。

何の防御をしていたのか、問う前にディオはバイクのエンジンを起動させる。フルフェイスヘルメットしていなけば、耳が割れそうな轟音が聞こえた。

仁王はバイクに乗ったことはあるがそれ以上の音だ。

 

「……地割れ?」

 

バイクを発進させたと同時にアスファルトで舗装されていた地面が割れ、そこから黒い 巨大な手が伸びて、ディオと仁王を捕まえようとするが電撃に阻まれた。

道路の端に止まっていた灰色の軽自動車が勝手に動き出すと、バイクに向かって走るが ディオはそのまま隙間を抜けていく。

逃げられた軽自動車が追いかける中、街路樹が葉を飛ばしてきた。

 

「狂気の血の中で、最も謎とされる十番目の血、自分の因子を周囲の空間に浸透させることにより、空間を自由に操れる。その空間を領域というんだ」

 

話しながらディオは電撃で葉を防御する。

 

「領域、使えるんか」

 

「使えないけど、同胞が領域使いでね。勝手は知ってる。相手の干渉を感じつつ防ぐようにしてるから、……読みやすい領域だ」

 

領域に読みやすいも読みにくいもあるのだろうか。仁王には不明だ。

バイクは非常に速いスピードで走り抜けていく。途中で車が正面から突っ込んできたり、街路樹が倒れたり、ビルの窓ガラスが勝手に割れてコチラに降り注いでくるが、

ディオは電撃で防いだり、コースを変えたりして対処をしていく。

言い方が感覚的であるのだが、最も謎とされると言われているため、感覚頼りになってしまうのだろう。

 

「お前の同胞ってどんな……」

 

「性格がとんでもで悪い。後方支援向けの能力のくせに、領域で相手の血も封じて攻撃できないところを大剣を叩きつけたり関節技を決めたりしてたから」

 

「……ゲームで言うと魔法使いが肉弾戦しとるようなもんか」

 

「そうなんだよ。……リニアヴィーグル、持ってきて良かった。これ普通のバイクだったら壊れてるよ。五番目の血の電力で動くんだ。レアと雇い主が作ったんだけど」

 

世間話をしながらもディオはバイクことリニアヴィーグルを走らせていく。五番目の血は電気能力のことを言っているのだろう。

発電能力がある自分だから動かせるとか、思考を読み取るとか、リニアヴィーグルは近未来的すぎる。改造が加えられているのか、リニアヴィーグルは特撮番組で出てくる乗り物のようだ。

マーブル模様の空の下、世界の全てが、仁王とディオを攻撃してくる。

今度は電柱が倒れてきたが、ディオはリニアヴィーグルを動かして電柱の上に乗り、走って行く。進むべき場所まで、進んでいく。

 

「現実か。これ」

 

「夢にしたいならコレが終わってからね」

 

淡々と返される。現実のようだ。

仁王はディオにしっかりと掴まっていたし、ディオは仁王を守っていた。周囲が攻撃をしてくるだけで、怪物は居ない。数分、走り続けた。

 

「ディオ」

 

空気が、濃い。

ディオが中和をしてくれていた空気が、攻撃を加えてくる。

昨晩、仁王の脇腹を貫いた怪物と酷似した怪物達が十人は居た。二足歩行で、顔が獅子やら、大猿やらどれもこれも、人間のなれの果てだ。

頭痛がしてくる。

 

「しっかり、掴まってて」

 

一体目が消えたがディオはそのまま走り出す。電撃を周回に展開させて目の前に現れた獅子の怪物に叩きつけ、そのまま轢く。

電撃は地面に落ちていた塵を巻き込み剣を構成。雷で発射され、半分轢ていた怪物に突き刺す。

仁王はディオの背中だけを見るようにした。

怪物達をディオはリニアヴィーグルで半分は轢き殺していく。

 

「浮く……」

 

全てを轢き殺すわけではなく、ディオは仁王を抱えるようにして、リニアヴィーグルから離れた。

電撃の力で、浮き上がる。浮き上がりながら仁王はディオに掴まっていた。

 

「ケラウノス、追加」

 

ディオは右手でヘルメットを取りながら前に放り投げ、大量の短剣にすると雷撃で加速させて撃ち込む。

仁王のヘルメットを手に取ると、二本の鎖がついたダガーのような武器にする。片手に一本ずつディオは握った。仁王と同時に着地する。

 

「アイツが……」

 

「主犯みたいだね」

 

リニアヴィーグルは勝手にディオの側に高速で戻ってくる。八割方をディオとリニアヴィーグルは倒していた。

白髪に法衣らしきモノを着た六十代から七十代ほどの老人が立っていた。ディオが倒しきれなかった怪物が大人しく、老人の側に居る。

 

「私の邪魔をするのは、貴方ですか。邪教徒が」

 

「そうなるかな。日本は宗教に寛大だよね」

 

リニアヴィーグルが仁王の側に動いた。老人は見た目は人間だったが、威圧感が、違う。

大幅に外れてしまっているのにそれを人間というカタチに無理矢理押し込めているような、男だった。

 

 

 

イタリアはカトリックの国であるが、ディオはキリスト教を余り信じていない。

日本は神道の国になるはずだが、民族性などから宗教には寛容ではある。那岐が送ってくれたデーターを読むと目の前の男は新興宗教の教祖で経歴も書いてあったがすっ飛ばした。

どこかの会社の重役でリストラされたとか書いてあった気はする。

 

「我が内なる神が与えた力を使い、人間という楔から解き放っているというのに次々と刈り取っている」

 

「狩らないと鬱陶しいんだよ」

 

「お前、面倒そうすぎるぞ」

 

仁王が言う。

説得などはしない。すでに相手は怪物だからだ。

衝動に呑み込まれ、衝動に支配され、衝動が満たされることはないのに、満たすために動くモノ。男の衝動は【解放】だ。

定義としては、さらなる力を欲しがり、より高次の存在になりたいと思う衝動だ。

 

「高みへと昇るために信徒を増やし,邪魔をするモノを神の力で屠る。犠牲になりなさい。邪教徒」

 

「これは定義で言うと血の力なんだけどね。……おれも出来るだけ守るし、リニアヴィーグルに守らせる」

 

圧迫感が増えて、血が騒ぎ出した。

衝動が起きかけるが血を制御して抑える。意識を集中させるようにして、ここで暴走をしてしまえば不利すぎる。

咆吼が聞こえ、怪物が四体増えた。数えて六体と教祖が一人だ。

薬品のにおいを感じる。怪物達に散布された薬品は怪物達の力を大幅に上げた。

 

「九番目の血と十番目の……典型的な指揮官タイプか」

 

「ゲームで言うと支援系ってことかい」

 

ディオは首肯しつつ、仁王にヴィーグルに乗るように促した。

指揮官タイプは自分がさほどの戦闘力を持ってないことが多いのだが、その能力を使い、配下や仲間の力を大幅に上げられる。

九番目の血は薬品生成だ。自身の体に薬品生成プラントを持っていて、作り出した薬品を自分や他人に送り込む。

後衛タイプだ。

前衛が出来るタイプではない。例外を除いて。

怪物の一体が自らの体を引き裂き、血を流して、血から大剣を作り上げた。片手に握った大剣を腕を伸ばしてディオに振り下ろす。

仁王がリニアヴィーグルに乗る。ヴィーグルを電力操作で搭乗者を守るように置いておく。

来るより先にディオは右手のダガーの鎖部分を持ち、腕に絡めそこから電流を流し込み、相手を止め、焼き焦がすように電流を入れた。

最後に殺すように電撃を入れてから、ダガーに力を流し込み、怪物ごと変化させて、巨大な鎖鎌にしてしまう。

 

「ダインスのアレみたいだけど」

 

三体に叩きつけて、一気に三体倒した。

手を離すと武器がただの砂になり崩壊する。開いた右手を戻そうとすると銃弾が何発もディオに撃ち込まれた。

淡く輝いている光を銃にしている主婦らしい女性が居る。この空間に居る者は仁王と自分を除いて皆、怪物だ。

教祖が【解放】した者は怪物として覚醒してしまう。ディオのように理性を保ったままでいることは、ない。【解放】の衝動を持つ怪物が使える力だ。

 

「撃たれて……」

 

脇腹や胸を撃たれている。一般人なら死んでいそうだが、ディオは狂気の血の保持者だ。

 

「……血、まだ本気で乗ってなかったんだよね」

 

狂気の血の覚醒者は血の力を使うたびに血に侵蝕されていく。一定レベルまで侵蝕されないうちは瀕死の怪我を負っても、血が自動的に治す。

完全に治すわけではないが、動けた。

コートのポケットから自動銃を取り出すと右手で握り、主婦の脳天と心臓を撃ち込む。対抗血統の血で作り上げた銃弾は主婦に撃ち込まれた途端、

内部を壊していく。残った弾をディオは教祖に撃ち込んだ。

胸に当たったが、ダメージが行っていない。

 

「こんな銃弾で、私を傷つけようとは……」

 

「【解放】すぎるね……」

 

銃弾がまだ残っているのでディオは銃を捨てずに残った銃弾を生きているほかの怪物に撃ち込み、全滅させたが、また空間に二体の怪物がやってきた。

 

「貴方も、彼も抗っているようだが、貴方も【解放】されれば彼も目覚めることでしょう」

 

「お前に【解放】されたらみんな怪物だよ。でも百人に血を移植したとして、全員覚醒したとしたら理性が保てるのはせいぜい十人ぐらいなんだよね」

 

「……残りは」

 

「五十人は覚醒のショックに耐えきれずに死ぬ。残りの四十人は怪物になる。残りの十人はかろうじて理性を保てるけど、衝動との戦いだ」

 

仁王が聞いてきたので、ディオは答えた。

回答したのは全員覚醒したらであり、実際は百人に血をいれても覚醒するのはそれよりも少ない。結社や玖月機関が割り出した確率だ。

耐え切れているのは、奴のようにはなりたくはないと言う想いだ。

血を測る。

一定レベルとして、百パーセントを超えた。再生は出来ないが、その代わり血が乗り、衝動も乗る。パーセンテージで活性化率を測るのは分かりやすいからだ。

銃を捨て、カードを取り出し、畳んでおいたものを戻す。作った剣も捨てた。

 

「ガン……」

 

ディオが出したのは巨大な銃だ。

黒い七十センチほどの巨大なレーザーサイトが着いている。挟む式のクリップを縦にして奥に銃弾を入れたようなそんな武器だ。

 

「レールガン。でもって、ケラヴノス・ファンタジア」

 

レールとレールの間に弾丸を乗せて発射する武器だ。物体を電磁誘導により加速させる。ディオの血である第五の血はこの手の兵器を開発しても、

問題である電力を自分自身で供給できるため、重宝されている。ディオは体内電力を集めて、引き金を引いた。能力も込めて発動させる。

高速で飛んだ弾は周囲の怪物達を吹き飛ばして、教祖にも当たる。

 

「効きません、この程度の攻撃など」

 

教祖には傷がついていない。レールガンは当たれば人間一人ぐらいは軽く破壊できるのだが、また怪物が来た。

切りがない。ディオが歯がみしたところで、血が揺れた。

 

「この野郎……」

 

「抗うことを辞めなさい。そうすれば……貴方とて、私と同じでしょう」

 

「宗教家は嫌いなんだ……アイツを想い出す……し……同じじゃない……同じにはなりたくない」

 

教祖がディオを眺めるとディオが着ているコートが溶けた。ディオが膝を突き、レールガンが落ちる。酸を作られてそのまま塗布された。

戦えるぐらいじゃないとこの血のタイプではないとディオはぼんやりと考える。教祖を消すと想いながら、体制を整えようとする。

 

「貴方を消せば、私は高みへとさらなる高みへと」

 

「剣に貫かれて死んだ者は、飢えに貫かれた者より幸いだ。刺し貫かれて血を流す方が、畑の実りを失うよりも幸いだ……」

 

浮かんだ言葉を口にした。

ディオニージ・ドゥリンダナが最も嫌う男が好きだった書物。口にしてしまうことで苦笑いと自嘲が重なる。血が、騒ぎ続けた。

 

 

 

絶体絶命のピンチだと言うのに仁王の頭は逆に冷静になっていった。人外通しの戦いで、こちら側は危機だというのに、ディオは死んでしまいそうなのに、

服が溶け、顔色を悪くしながらもディオは何かを抑えながら戦っていた。

 

(奴は【解放】って言うとった)

 

「……アイツは……神父の服が好きだったくせに宗教自体はそんなに好きじゃなかった……何でも出来た。何でも殺せた……おれ達を殺すことだって楽勝だっただろう……

”あの”レーヴァを殺せたのに、なのに……どうして……おれのことに気づいていたくせに……コードを打ったくせに笑った……何で……殺された」

 

ディオの呟きは教祖のことではないし、仁王のことではない。教祖を見て想い出したことを言っているだけだが、その言葉には怨嗟と疑問が込められている。

まだディオは戦えるがこれ以上戦わせてはいけないと仁王は想った。

だが、攻撃が届かない。

教祖は仁王には注意を払っていない。仁王などすぐに殺せるのだろうし、その通りなのだろう。

 

「この世界とこの力は無敵なのですよ」

 

怪物を呼び出した。ディオはレールガンを捨てる。ポケットから適当に変換できそうなチラシを出してまた使っていた。

今度の怪物は雄叫びを上げていて、仁王は耳を塞ぎたくなってきた。

ディオの攻撃は当たらないとしている。

 

(……やるしかない……)

 

仁王の側に少しだけ浮いているリニアヴィーグルにはメーターがあり、ガソリン部分に当たるところは半分はあった。

まだ動けるのだろう。スピードメーターの上部分に小型モニターとコンソールが着いていた。

モニターの言語はイタリア語だったが、下に言語ボタンらしきものがついていたので試しに押してみると日本語モードがあった。

作った相手はこんなところまで気遣っているのが場違いにありがたい。

仁王が触れて操作すると『”緊急事態ですか?”』と出た。

 

「……緊急事態じゃ。なんじゃこれ、人工知能?」

 

『”人工知能にして電子信号変換装置です。制作者:レアの手により、ディオニージ様の思考を電子信号として受け止め、サポートするために組み込まれています”』

 

文字が仁王の声に返答する。現在の命令は護衛者の側に待機と書いてあり、イオノクラフト効果で浮いているとも補足説明が書いてある。

イオノクラフトは電気の力で受けるぐらいに仁王は受け止めていた。

 

「制作者は呼び捨てかい」

 

機械的な日本語文章だ。リニアヴィーグルはディオとその仲間の中ではディオにしか動かせない。仁王が触れたことで緊急事態としたのだろう。

制作者については様付けではないがディオについては様付けである。

 

『”あの方は自身が作った人工知能を自身と対等として扱います”』

 

「ディオが怪物と戦っとる。人工知能、装備品とかないんか」

 

『”ありません。以前、レアがプラズマケインを組み込もうとしましたがそれは五番目の血の領域と却下されました”』

 

プラズマケインの説明が律儀に日本語で出てくる。プラズマを利用した切り裂くと言うよりも焼き切る武器であり、組み合わせればプラズマカノンが撃てるらしい。

見た目自体は長方形の板を組み合わせたような武器だった。

仁王はダーツケースのダーツを確認してから、考えた作戦を人工知能に向かって小声で話した。

 

「やれるか」

 

『”緊急事態ですので命令には従いますが、何故そうするのです”』

 

人間的か機械的かは不明だがこれから仁王がやろうとすることを受け入れてはいるが疑問に想っているという問いだった。

 

「あの教祖に一泡吹かせたい。ディオも面白い奴じゃ、アイツみたいにならせたくない」

 

納得するようにリニアヴィーグルが地面に降りた。教祖は自分の力に酔っている。ディオのように理性で使いこなしていない。出来ることを叩きつけているだけだ。

油断している。

仁王はリニアヴィーグルにまたがる。ヘルメットもつけていないが運転と身の安全は出来る限り保証するとある。

右手でハンドルを握る。

利き腕の左で預けられたダーツを一本、持った。

リニアヴィーグルが走り出す。

 

「え?」

 

「当たれ!」

 

驚いたのはディオであり、仁王は教祖にダーツを投げつけた。

ダーツが、一本当たった。教祖の右肩だ。突き刺さったダーツは、対抗血統の力を存分に発揮させ、教祖の右肩を崩壊させた。

 

 

 

ディオの思考が徐々に冷えていく。

 

「そっか……仁王は一般人だから……」

 

謎に満ちている狂気の血だが、分かっていることもいくつかある。その中の一つは血は宿主の思いに反応して力を作り上げ、与えると言うことだ。

覚醒したときに基礎能力が入っていることもあるが、血がどんな能力を得ていくかは本人次第だ。

それに関しては行きすぎた怪物も、同じであり、怪物が使える能力は人間だった頃の想いのなれの果てとされている。

教祖はまさか、一般人の仁王が【解放】されていなければディオのように血を使っていない者が攻撃をするなんて、想っていなかっただろう。

見くびっていたのだ。

ディオもそうだ。当てるとは、想わなかった。

 

「武器に電撃を乗せる以外には出来んのか。いっつも武器ベースじゃのう。お前に関してはよお知らんし、昔のことも知らんが、

落ち着け。呪文唱えとるって中二病?」

 

からかうようにして言われた。

 

「ケラウノスが一番やりやすいんだよ。それとさっきのは旧約聖書の哀歌だ」

 

「ただの人間が。選ばれても……」

 

「その選ばれとらん人間が投げたダーツで大ダメージとは神も落ちとるな」

 

対抗血統は狂気の血でありながら、狂気の血を持つ者にダメージを与える血統だ。ちなみに一般人に同じダーツが刺さっても痛いだけである。

教祖は崩壊し、なくなってしまった右肩をにらみつけながら、残った怪物に命令を下す。

残っているのは二体で、教祖含めて三人。仁王もターゲットに入る。

 

「一撃で決める。馬鹿の一つ覚えみたいに言われたのが癪だ」

 

「それ以上、戦えるんか」

 

ダメージは大分残っているし、また瀕死になって起き上がったりすれば血はさらに活性化。人間で居られるか不明なところだし、

仁王はそのことを心配していたが、ディオは笑う。

 

「戦えるさ。――ぎりぎりで」

 

ディオは電撃を発生させる。

自らの血に語りかけるように能力をくみ上げるようにして意識を集中させる。血の他に衝動にも手を伸ばした。

自身の衝動は【飢餓】だ。

満たされることのない飢え。

あえて飢えに身をゆだねることで電撃の力を上げる。

 

「天使は言った。地の創造の初め、世界の門が建てられる前、風が集って吹く以前、 雷鳴がとどろき稲妻がひらめく前、楽園の基がまだ固められず

美しい花も見られぬ前、星の運行も定まらず数知れぬ天使の軍勢が集結される前……」

 

気分が高揚しているときは知らないうちに聖書を引用していて、落ち着いた後で言われてアイツのようだとなったことがあったが、

今は開き直る。引用をしたのはエズラ記、ヘブライ聖書の中にある歴史書だ。

ケラヴノスは武器を電撃で発射するが今回は逆にした。落ちていた武器や銃や死体を巻き込み、砂を武器にして鋳型にしてから、雷を流し込む。

雷自体を武器にするのだ。

飢えを受け入れながら、怪物ではなく人間で居るように自分の思い出や守るべき仁王についてを考えつつ能力をくみ上げる。

 

「空の高い所はまだ引き上げられず大空の区分も名付けられぬ前、まだシオンは神の足台とされず 今の年月が測られる以前、

そして、今罪を犯している者たちのはかりごとがまだ退けられず、信仰の宝を積む者たちが印を受ける以前に、

わたしはこれらのことを考案し、これらすべては成った。他の者によってではなく、わたしによってなされたのである」

 

電撃が剣や槍を形作る。

集めたありったけの電撃に砂を溶かす。仁王が残ったダーツをディオの足下に投げた。分解しやすい対抗血統を砂でくるむようにして雷に押し込む。

教祖の干渉は効かない。それ以上にディオは能力を強めているし、仁王を守っている。

 

「人間の形をした怪物が……」

 

「――そして、終わりもまた、他の者によってではなく、わたしによって来るのである」

 

世界そのものがディオと仁王を圧迫しようとするがディオは構わず電撃を教祖や怪物に向かって撃ち込んだ。

電撃は教祖を呑み込み怪物を呑み込み、分解していく。飢餓によって変質した能力は跡形も残さない。教祖が何かを言ったが、

 

「そうかも。でも、人間のつもりだよ。――お前と違って」

 

律儀に返したと同時に電撃が全てを包んだ。

 

 

 

「……れ、連絡。玖月機関に連絡しないと」

 

新興宗教のアジトらしい場所に来たが、そこで怪物が居たので狩っていた。背中に光の翼をはやし、右手に光で出来た剣を握り、圧倒的な力で叩きつけていた少女、塩野谷カズサはバイクらしい乗り物と倒れているコートが酸で溶けている少年と見たことがあるブレザー姿の少年を見つけた。

朝に部活をしていたら玖月機関が人手が足りないと連絡を入れてきたので受けたのだ。 カズサと玖月機関の関係はギブアンドテイクである。

狂気の血を引いた者は訓練次第では一般生活は出来るものの、補佐はあったほうがいい。

携帯電話で連絡を入れた。

 

「コート上の詐欺師、だよね……」

 

カズサは東京都にある青春学園中等部のテニス部マネージャーだ。昔はテニスをしていたが、小学校六年生の時に狂気の血に覚醒してしまい、テニスが出来なくなった。血の力を使えば血の能力に寄るが狂気の血の者たちはスポーツで圧倒的な力を残せる。それはフェアではないとカズサはテニスを辞めた。

自分が狂気の血に覚醒していることを知っているのは玖月機関の関係者とカズサを助けてくれた者たちぐらいで青学には居ない。

 

「……戻っ……」

 

仁王が起きそうだった。

正体についてカズサはバレるわけにはいかなかった。仁王が起きようとする前にカズサは超手加減をして、仁王の脇腹を殴っておいて気絶させておく。

 

 

 

仁王が意識を取り戻したときにはディオは軽く右手をあげて挨拶をして、酸で焦げたコートを治したいが、血がもっと落ち着かないと無理だと言った。

多機能情報端末で他に連絡を入れている。

 

「怪物には、なってないよ」

 

二人が居る場所は町外れの新興宗教の教祖が使っていた建物だ。廃ビルで、仁王の携帯電話にくづききかんはよんだのでまっていて、とひらがなで打たれていた。

誰だとなったが、ディオは手伝ってる人じゃないかとも話していた。

 

「いつもこういうことをしとるんか」

 

「毎日じゃない。たまにだ。玖月機関ってのは……言わなくて良いか。処置して貰うし」

 

さらっと言われた。

空が青い。

歪んだ世界に居続けた仁王はアスファルトの上に座り込んだままである。居た場所から離れすぎていたがそれも狂気の血の力だと言われた。

何かを言おうとしたら携帯電話が鳴った。

 

「……誰じゃ」

 

どうだったかな? という件名。

内容は一行だけ。

 

『君はこれからもこちら側、もしくは境界線に関わりたいと想うかな?』

 

日本語のメールでの問いかけだ。仁王は画面を眺め、返信を打つ。

 

「玖月機関、来たな。色々消しちゃったから……」

 

ディオの声を聞きながら、仁王はメールに返信する。

 

(関わるのも、面白い)

 

答えは、決まっていた。

 

 

【Fin】




後については本編の方の会話が出てるというか立海編も三月パートは
残り一話分書かないとはとは。

BGMはハイパーファンタジアのファンタジア

その前にルシエラ編(西の本編)後編だけどな
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