知れないです。
テニスはしていません。
【そら色ワルツ 第一話 壊れた時計 後編】
ルシエラは街中を歩いていた。
この辺りの地図は憶えてしまっている。歩きながら肌に感じるのは自分を追ってくる気配だ。複数に増えている。
白石ではない。同級生らしい二人と会ったときに撒いてきたし、記憶も操作しておいた。
襲ってこないのはここが街中であることとルシエラの実力を知っているからだ。追われる振りをしながら、
再開発地区に誘い込む。買い物をしながら情報を集めたが、再開発と言っておきながらも数年間、放置されている
廃ビルが建ち並ぶ場所へと向かう。
「ようやく来たのか。アドラスティア」
「……ミレーディ……じゃ、無いわね」
開けた場所へと出る。廃ビルに囲まれていた。ルシエラの前に居たのはすみれ色のワンピースを着たうす桃色の髪をした
二十代に入ったばかりの女性だ。取り巻きの様に何人もの黒服の男達が居る。
最初の判断をルシエラはすぐに打ち消した。
ミレーディと彼女が呼んだ女性は笑う。
「解るか。お前が殺した私の娘の身体を借りた」
娘、と聞いてルシエラは彼女の正体を察する。
「借りたじゃなくて奪ったが正しいでしょう。ドン・ファルソ。エストラーネオファミリーの憑依弾かしら? それとも、
エヴォカトーレファミリーの秘術? 貴方も私が焼き殺したはずよ」
驚く様子もなく、ルシエラは言う。
裏社会は場合によっては他の肉体に転移するなど造作もない者も居る。エストラーネオファミリーもエヴォカトーレファミリーも
その手の秘術を所持しているマフィアの一派だ。
「我がファルソファミリーを滅ぼしにかかるとはな。やられたよ。イタリアの基盤も全て消されている」
「大変だったの。ボンゴレを動かしたりとか、知り合いに頼んだりとか」
「アドラスティア、お前は殺す。私はまだ終わっていない。ファルソファミリーもだ」
質問に向こうは答えなかったが答えは期待していなかった。
ファルソファミリーは一週間もあれば、完全に終わってしまう。
各地の基盤はボンゴレファミリーを上手に動かして、潰しておいた。
ミレーディの声と共に周囲に黒服のファルソファミリーの構成員が現れた。十人はいる。
ルシエラはトランクを左手に、白い日傘を右手に持った状態のままで改めてミレーディを見据えた。
「いま、あなたの終りが来た。わたしはわが怒りをあなたに漏らし、あなたの行いに従って、
あなたをさばき、あなたのもろもろの憎むべき物のためにあなたを罰する……と、言っておくわ」
かつて彼女が目標としていた人物のように聖書の一節を口にした。
黒服の男二人がルシエラに拳銃を向けて来たが、ルシエラは日傘の柄を操作してから地面に突き刺し、
トランクを薄く開けて中身を取り出すと、わずかに蓋を開けてから投擲した。
投擲したのは液体の入った長方形のボトルで、真ん中から上が細くなっていてそこから中身が出せるようにになっている。
液体は爆発し、男二人の射撃を止めて、血まみれにした。
日傘を地面から抜き取ると、三人目の男のナイフを持っている右手首に尖らせた日傘の柄を突き刺すと蹴る。
四人目がPDWを撃ってきたが日傘を広げて防御した。何十発もの弾もルシエラの白い日傘を通さずに弾かれて落ちる。
パーソナルディフェンスウェポン、短機関銃とアサルトライフルの中間に位置するその銃器は投げられたボトルを
撃ってしまった。また爆発する。
「あのホテルの戦いで深手を負いながらもこれだけの戦いを……」
「……面倒だわ……」
五人目がナイフを投擲してきたが、指先で刃先を受け止めて逆に投げ返して喉に突き刺した。
ミレーディは離れた場所に居る。ボトルも数が少ないので乱用したくはない。残りの半分を認識しながらルシエラは
自分の血に呼びかけた。
「一斉に攻撃すれば――」
リーダー格らしい黒服の男が言おうとしたとき、身体が熱くなっていた。足下が、自分の腕が火に包まれている。
「自前の液体火薬よ」
五人が燃えていく。炎に囲まれながらルシエラは日傘を閉じて、ミレーディに向かって真っ直ぐに投げた。
ミレーディの心臓に尖った白い日傘が突き刺さる。さしたる抵抗もなく、ミレーディは倒れた。
呆気ないとルシエラは想う。
「ル、ルシエラちゃん……」
「……白石さん……? どうして?」
「どうしてって、それはこっちの台詞や。いきなり居らんくなったから、探しとって……これ、何や。ルシエラちゃん……
人を……」
振り返ると、置いてきたはずの白石蔵ノ介が居た。驚いている。それは無理もない。彼の前では傘が突き刺さって
死んでいる女と焼死している男が何人もいる。殺したのは自分だ。記憶を消しておいたしここに来た時点で領域を操作し、
この辺りは隠しておいたのに白石は発見している。
(ここまで力が落ちているなんて……)
縮んだことと言い、血が退化していることと言い、厄介なことだらけだ。液体火薬を作ってみたが死体が残っているのも
駄目だ。昔は死体なんて残さずに焼いていた。あえて残していた時もあるが今回は残さないように焼いたはずなのに
焦げた匂いと匂いの元がある。
白石が困惑しているので……と言うか困惑しない方が歪んでいるのだ例えば自分みたいに……どう処理するか悩んだ。
彼はルシエラの前に来ている。
喋ろうとしていたルシエラだったがそれよりも先に右手で白石を思いきり押していた。
ルシエラを探すために白石は街中を走り回っていたが、手がかりらしいものがなかった。
そんな時に女子高生二人組が白いゴシックロリータの女の子が向こうの方に歩いていったと言うことを話題にしていたので、
向かってみた。そうすると空間が微妙に歪んでいる気がしたのだが構わずに通り抜けた。
そこが再開発地区であり、広々とした場所であることは白石も話しに聞いていたが、そこで人が何人も燃えていた。
更に、ルシエラがそこにいて日傘を閉じて女に向かって投げつけて突き刺していた。
テレビや映画の撮影ではない。暑かったし、人のうめき声だって聞こえたが、やがて途切れた。
何事もなかったようにしているルシエラに白石は話しかけたが、すぐ後で突き飛ばされた。
後方に飛ばされた白石が見たのはルシエラの右胸にレーザービームが真っ直ぐに突き刺さったところだ。
「……っ……」
「容赦など無いな……アドラスティア……お陰で条件が満たせたわけだが……」
「……生きとる……?」
ルシエラが倒れる。傘が刺さった女は喋りながら、左手で白い日傘を抜くと地面に落とした。
心臓に日傘は刺さっていたはずだ。生き返った状況に白石は混乱していたが、倒れているルシエラに目をやった。
「……ミレーディは……普通の人間だったはず……」
「ルシエラちゃん!? ゾンビ……?」
「ゾンビじゃないわよ……丈夫なだけ……」
右胸をレーザーに貫かれたはずのルシエラは起き上がっていた。起き上がることなど、普通は出来ない。
白いゴシックロリータの右胸は穴が開いていたが、じわじわと治ってきている。
状況を理解しようにも脳が追いつかない。
「娘を私のスペアにするときに奴から力を譲って貰ったのだ。イスカリオテの獣の力を……十三番目の血、最強の狂気の血の力が……
私の中にはある」
「――十三番目の血……レグナムは貴方に力を分けていたの……条件が重ならないと行けなかったから、あの時は気づけなかったのね」
冷静に喋っているルシエラではあるが声には若干の焦りが出ていた。ミレーディとルシエラが呼んだ女性が夕日に照らされている。
「影が……」
「十三番目の血……厄介な」
ミレーディの足下に黒い影が広がった。影から黒く丸い玉が出てくる。
黒く丸い玉からいくつもの小型の球体が発射されるが、ルシエラに届く前に四散した。球体に瓦礫の破片が集まる。
「警察に……」
「呼んでどうするのよ。殺されるわよ……レグナム……殺したというのに死んでからも私に手間をかけされる」
殺した、とルシエラは苦々しく口にしていた。ミレーディを躊躇無く殺したことと言い、彼女は殺すことについては
何も想わないらしい。白石としてはこれは夢だと想いたかった。白い日傘がルシエラの方に転がってくる。
風もないのにまるで元の居場所に戻るかの如く、ルシエラの足下に来た。白石はまず浮かんだことをとにかく
ルシエラに話してみることにした。一種の現実逃避だ。
「レグナムって誰や」
「……ファルソが雇った殺し屋よ……イスカリオテの獣を宿した……十二番目の血の他に四番目と五番目も取り込んでるわね。
何処まで力を持ってるかしら」
殺し屋と言うと白石的には金を貰って誰かを殺すドラマや漫画の中でしか居ない職業ではあったが、本当にいたらしい。
ルシエラもそうなのだろうか……致命傷を受けていたはずなのに起き上がっているし、対応も冷静すぎた。
こんな人外な出来事に慣れきっている。ミレーディの身体が影のような闇に包まれていっていた。
「これが狂気の血……もっとだ。アドラスティアを殺すほどの……全てを滅ぼすほどの力を……!」
影が濃密になっていき、空気が重苦しくなっていく。ルシエラはトランクから薬ビンを一つとナイフを取り出した。
薬ビンは掌に載るだけのサイズで、ナイフは刃渡が十三センチほどであり、柄の先端には細い鎖に指輪がぶら下がっていた。
「白石さん……逃げちゃ駄目よ……? 処理が面倒だし、終わったらきちんと処理してあげるから」
「怖いことばっかり言うとる気がするんやけど……」
「逃げたところでここで倒せなかったらこの辺り一帯、滅んじゃうけど」
あっさりと言われ続ける言葉をどうにか白石は呑み込んでいくが、どうもアレを何とかしないと危ないらしい。
「滅ぶ……?」
「イスカリオテの獣はそれだけの力を持っているわ……」
ルシエラは薬の中身を一気に飲み干した。少しだけ苦しそうにしながら、空になったビンをトランクの隙間に押し込んだ。
ナイフを右手に持つ。
「そんな短い刃物で何とかなるんか」
「するのよ。……記憶は後で消してあげるから、夢だと想っていて、化け物通しの単なる戦いだから。動かないでね」
言葉に突き刺され白石は動けなくなる。
トランクを軽くルシエラは叩く。左手にナイフに着いている指輪をはめてから、右手に持ったナイフをルシエラは左手を
縦に広げて、骨を抉るように一気に突き刺した。
ミレーディが大量のレーザーをルシエラと白石に向かって飛ばしてきたが、その全てが壁にはばまれた。
「――塞いだのか」
「切り札を切るのは好きじゃないけど、そうも言っていられないのよね」
白石の前に刃が突き刺さっていた。刃渡は一メートル以上はある刃の幅が広い片手剣だ。
ルシエラはそれ以上に無骨な刃を握っている。刃渡は一メートル五十センチを優に超え、幅が広い。右手で軽く刃を持ち、
左手には日傘を持っていた。
ミレーディだったものは変質していた。人間の形をすっかり無くしていて、闇と影を纏った白い仮面をつけた二足歩行の獣として
現れている。重そうな剣を片手で持ちながらルシエラはミレーディの方に走る。
「カオナシっぽいと想ったら何かどっかの漫画で見た感じの……」
漫画のタイトルまでは忘れたが威圧感があるというのに呟いてしまう。白石にレーザーやビルの破片が飛んでくるが、
刺さっている剣から衝撃波が出て次々と撃ち落としていく。闇が広がり、黒こげの死体を呑み込んだ。
死体は影に変換されるとルシエラに銃を向けて発砲する。
見ずにルシエラは剣を一振りすると、影達は赤い液体をぶちまけて倒れた。
「……七番目の血」
「お前を殺したらお前の血も取り込んでやる」
「させないわ」
ルシエラが横に剣を振るうが、その攻撃をミレーディは反射した。ルシエラの身体に当たる。
ミレーディにもダメージは当たっているが、ルシエラのダメージの方が大きい。口から血を吐きながらも彼女は日傘を
突き刺す。日傘から炎が出てミレーディを焼いていた。
「その程度、私にとっては――」
「良く言う……力を使いこなせてないのに」
何度か咳をしているルシエラだが、口から血が零れている。瀕死の傷を受けて治っているとは言え、新たに傷を受けていた。
それも、内側から。
ルシエラは剣を向けると衝撃波をミレーディに放つ。燃え続けているミレーディは少し痛がっただけだ。
「力など血が与えてくれる」
「――狂気もね……私はそんな血、欲しくはなかったわ」
(欲しく、無かった……?)
白石はルシエラの寂しそうな、悔いても仕方がないが、それでも悔いている声を聞いた。
彼女は右手だけで握っていた剣に左手を添えるとミレーディを再び斬りつける。頭上から瓦礫の破片が幾つも降り注いだ。
力を使おうとしていたミレーディだったが、異変を察する。
「力が……」
「アレがこの装備を知ったのは戦ったときだから、知らないだろうけど」
頭上に破片を喰らいながら影に身体を貫かれながらもルシエラは動けていた。と言うよりも動いていた。
巨大な刃を、ミレーディの仮面に突き刺す。
「この剣、対イスカリオテの獣用なのよ」
突き刺して剣を抜くと大きくルシエラは剣を振るい、ミレーディを吹き飛ばす。その瞬間、全てが燃えた。
刀の傷から発火した炎は日傘を包み込み、跡形もなく焼き尽くす。炎と共にまたルシエラはミレーディを斬った。
悲鳴が上がる。
白石の目の前で黒い化け物は切り裂かれて、燃えて、跡形もなく消えた。死体も無くなっている。
ルシエラは肩で息をしながら地面に刃を突き刺すと荒い息をしていた。
「ルシエラちゃん!!」
白石はルシエラに駆け寄る。白い服は穴だらけで、赤く染まっている。ルシエラは何度か血を吐いていた。
触れると身体が冷たい。
「薬の反動が来ただけ……早めにここを去らないと……」
手をルシエラが軽く縦に振ると突き刺さった剣が二つとも消えて、左手からナイフが出てきて地面に落ちる。
落ちたナイフをそのままにルシエラは右手を左手に当てていた。
「傷が……ホンマにルシエラちゃんって何者……?」
左手には深い傷があったのにルシエラが右手を当てていると、塞がった。解答を考えていたルシエラは息を大きく吐いて
白石に答えた。
「簡潔に言うと殺し屋……ね」
ルシエラが後でやったことと言えば、着替えだった。着ている白いゴシックロリータは穴が開いたりしたので、
買ってきたロングスカートと白い長袖ブラウスに替えた。身体がふらついていたが、白石が支えてくれたりしていた。
休みながら忍足医院に帰っていた。駅に戻り、電車に乗って、人気のない公園まで来た。
ベンチに座らされる。トランクは足下に置いてあった。
「病み上がりのせいか、こんなに苦しそうなの」
「……薬のせいよ……」
戦いの前に飲んだ薬は全身の神経系と肉体を極限まで増強する薬だが、反動が強烈すぎた。
一般人が飲めばそれだけで死ぬか廃人だがルシエラは脳内物質を操作して痛覚を制御出来るので反動を抑えられた。
それでも、酷い。今までも何度か使ってきたがここまでではなかった。
落ち着いてきたルシエラだが白石に支えられているし、トランクだって白石が持っていた。
「ルシエラちゃんも殺し屋であの女の人も殺し屋やったん?」
「あれは、ファルソファミリーのボス、マフィアよ」
「マフィア……? マフィアって、ゴッドファーザーとかジョジョの奇妙な冒険の第五部とかの……」
「……ジョジョ……? 貴方、落ち着いているわね……普通、あんなことがあったら混乱しそうなのに」
ゴッドファーザーは映画でルシエラも観たことがあるがジョジョの奇妙な冒険はタイトルしか知らない。日本の漫画のはずだ。
白石が平然としている感じだったのでルシエラが言うと白石は顔を引きつらせた。
「混乱はしとるけどしすぎて逆に平然とした感じやな……マフィア? ルシエラちゃん、イタリアから来た言うけど、
マフィアやからか」
「マフィアって広義的な言い方だし、私は所属してる訳じゃ無いけど……ファルソファミリーのメンバーを殺すために来たの」
出来事が起こりすぎたら、通り越して落ち着いてしまっているらしい。自分をマフィア扱いされるのはルシエラは嫌いだ。
所属としてはフリーである。広義的な言い方としたのは細かく言えばマフィアにも様々な種類があるのだ。
「俺が思うマフィアって黒服で銃とか使とってあんな能力で戦うもんや……ジョジョやん」
「だからジョジョって知らないのよ。……マフィア界はああいうのも居るわ」
マフィア界というのはマフィアが関わっている世界を差す。元はマフィアは自警団だ。
自分達の身を守るために彼等は様々なことに手を出したし、ファミリーの中には能力者の一族だっていた。
雑多すぎるのだ。マフィア界……ひいては裏社会は。
「知らんかった」
「ニュースじゃ黒服しか出ないものね……ファルソは貴方が想像してるマフィアの典型的な連中で、復讐を依頼されたの」
薬や銃の密売など、今のイメージのマフィアであったファルソファミリーに家族や恋人を殺された者達がルシエラに
復讐を依頼してきた。
「依頼を受けて日本に来て、仕事したってことか」
「……殺し屋とはさっき言ったけど復讐屋も兼ねてるわね。ターゲットは全部始末したんだけどアイツ等、
ホテル爆破しちゃったし、私も損害が大きかったし」
「ホテルの爆破……ニュースで言うとったアレ……? テロリストの仕業とか言うとった」
「それよ。新聞で確認したけど、報道からして玖月が手を打ったのね。狂気の血に関しては手が速いわ」
ファルソファミリーや日本のヤクザが会合をすると言うのでそこでファルソファミリーのメンバーを始末することにした
ルシエラはターゲット全員を殺したが、向こうがホテルを爆発させてきたり……省いたが爆発はルシエラが作った液体火薬も
あるのだが……ファルソファミリーが雇っていた殺し屋、レグナムのせいでルシエラも被害が大きかった。
「……狂気の血って、あの化けもんも言うとったけど……」
「狂気の血、クルーエル・ブラッドとかクルーデレ・サングエとか言うけど意味は同じ。私も引いている血……人を燃やしたの
見たでしょう。私、自分の身体で薬品が作られるのよ」
「薬品? 毒とか……」
「それも出来るわ。引いて覚醒したら能力者になると想って……でも、血に呑み込まれたら怪物になってしまうの。アレがそう」
ルシエラの体内には薬物の精製プラントが存在している。操作することで毒や薬を作り出せる。
「俺がルシエラちゃんを見失ったのも……薬のせいだったりするんか」
「記憶消去の薬をかがせたんだけど、貴方、気付いたのよね……力が落ちているわ……今日、お金を降ろすついでに残党を
処理するために出かけたのよ」
相手が謙也であっても白石であってもやることは同じだった。ファルソファミリーの残党を始末するために、
街中で目立った。連中はルシエラを探し続けていて、頃合いを見計らい、白石から離れて処理をしに行ったのだが、
殺したはずのミレーディの身体をドン・ファルソが乗っ取っていてその身体にイスカリオテの獣の力が宿っていたのは
予想外だったが、剣で殺しておいたので処理は終わっている。
死体は残っていないし、あの場所で殺し合いがあったことなど、察せ無いだろう。
入院中も気が抜けなかった。忍足家の面々を軽く薬品を精製しては誤魔化し続けていたのだ。
「そんな怖いことになっとったんか。俺、殺されたかも知れへんってことか」
「殺されないために守っていたでしょう……貴方には恩があるから」
「恩って……」
「助けてくれて、忍足医院まで運んでくれたわ。あれが警察だったら……どうしていたか……」
仮に警察に通報されていたりしたら処理が大変だった。忍足医院に運ばれたからこそ手間も減ったのだ。
ルシエラはベンチから立ち上がる。飲んだ薬もプラントで分解した。身体の虚脱も取れてきている。
忍足医院の道も解っている。
「ルシエラちゃん、殺し屋、何でしとるん?」
「……それしかやることを知らなかったから……かしら……物心ついたときから殺しの訓練で血を移植されて覚醒されて、
化け物にはなりたくなかったから必死だったけど、結局は化け物だし」
物心ついたときから教えられ、憶えたことは殺しに関することと、狂気の血の制御方法だ。言語を話せることも、
殺しに必要ならば叩き込まれた。
組織が壊滅しても、行くアテなどはなく、その日限りをどうにか生きて、殺し屋兼復讐屋を始めた。
ルールをつけたのは化け物にはなりたくはなかったからだ。狂気の血に覚醒した者は血に呑み込まれれば化け物となる。
「仕事はもう終わったんやな」
「……ほぼ終わりね。最後の処理とかして……帰るだけよ……帰ったらしばらく身は隠すけど」
帰ったところでどうしたらいいのか解らないが……この依頼でルシエラが無くした物は非常に大きい。
取り返さなければならないが、それまでは隠れていなければならない。
ルシエラは白石の記憶を消そうとして――それよりも先に彼の声を聞いた。
「なら、俺と契約せえへんか」
マフィアというのは黒服も居るが能力者も居て、ルシエラが殺し屋でターゲットを殺しに日本に来たと言うことを
白石は知った。ルシエラは隠さずに話してくれていたが、記憶を後で処理してしまうから話しても良いということだろうと
考えた。例えるなら推理物で犯人が自爆のための準備をしていてそれがあるから探偵に動機から何かまで話すのと似ていた。
ルシエラは自分を化け物と言っていた。人を簡単に殺してしまったり、薬品が作り出せたりするのも白石からすれば十分化け物だ。
「契約……? 復讐したい相手とか殺したい相手とか居るの?」
「居らんけど、契約しよう」
ルシエラをイタリアへは帰したくはなかった。このままルシエラを帰してしまえば二度と会えないだろうし、機会は今しかなかった。
記憶を消される前に言う。一瞬で記憶が消えるならばその一瞬を遠ざけるしかない。
「……そう言うの、始めて言われたわね……依頼料は?」
「ルシエラちゃん、身を隠さなあかん言うとったやろ。隠すの手伝うわ。イタリアよりも日本の方が見つからんやろうし」
イタリアで殺し屋として活動してきたであろうルシエラは日本では無名に近い。
「面白いことを言うのね。白石さん」
気楽そうにルシエラが口元に手を当てて微笑した。柔らかい微笑だ。
「俺はルシエラちゃんが日本で隠れとる間に手助けするし、やれることはする。代わりにそっちは日本に居ってよ」
「……日本、ね……確かにそちらの方がいいかもしれないわ……自分のことで手一杯になりそうだし」
柔らかい微笑が消えて冷徹に計算をしているルシエラが居る。表情が良く変わっていた。
白石とルシエラが話していると着信音が鳴る。飾り気のない音を聞いたルシエラはトランクを開けて、携帯電話を出した。
「明日には着く、か……デュー……遅いわ」
「デュー?」
「知り合いね……細々としたことを頼まないと……白石さん、その提案、乗っても良いわ」
携帯電話をトランクに押し込むとルシエラは白石に言う。
「……ってことは」
「貴方が契約者で良いわ。この辺りに隠れることにする。後のことは今からやっていくけど、イタリアよりも隠れやすいだろうから」
「そうか」
ルシエラが簡単に白石と契約をすると言っていたので白石は拍子抜けしたが、ルシエラは速く考えて結論を出していた。
それにルシエラならば白石を会話の間に何回も殺せた。
「大体のことは従ってあげる。私も四の五の言ってる場合じゃ無いし」
「それなら、殺しはせんとか……そう言うのでもええんか?」
「殺人中毒みたいに言わないでよ。敵を実験材料にしたことはあるけど……」
(それが怖いんやて)
敵と認識すればルシエラは殺すし慈悲など無い。殺し屋だからだろうと白石は想う。ルシエラはトランクをまた開けると、
金色の懐中時計を出した。白石の手に乗せる。白石が蓋を開けてみると時計は止まっていた。
ガラスにヒビが入っていて、針が停止している。
「貸しておくわ。契約がきれるまで」
「壊れとるんやけど」
「オーバーホールや修理に出すと数百万するのよ。スイス製の手作り時計」
数百万と軽く言うルシエラに白石は引いた。時計を眺めていると着信音がする。自分の携帯電話の着信音だ。
謙也からの電話である。
「もしも……」
『白石か。ルシエラも居るやろ。買い物から帰って来んのやけど何処に居るんや』
「近くよ。ごめんなさい。大阪が珍しくて、白石さんに案内をして貰っていたの」
(さらっと嘘……本当混じりの嘘、言うとるな)
心配する謙也の声だ。ルシエラは朗らかに言っている。白石が街中を案内していたのは本当ではあるが、後半は違っている。
『近くなら迎えに行くで』
「気遣いをありがとう。でも、送って貰うから……すぐに行くわね」
「すぐに送ってくわ。すまんな。謙也。きるな」
白石は携帯電話をきった。ルシエラは髪の毛を掻き上げる。
「謙也の速度ならすぐに来そうだし、三番目の血でも引いてるかと想うぐらいに速いんだもの」
「三番目の血とか……」
「おいおい、話していくわ。時間は沢山あるんだし、これからよろしくね。蔵ノ介」
ルシエラが言う裏社会で使う言葉も半分以上が意味不明である。説明してくれるとは言うが……白石はルシエラが自分を
名前で呼んだことに気がついた。
「名前?」
「契約者だもの」
「……お前も解らんな。友香里と同じ小学生ぐらいかと想とったのに大人びとるし」
悪戯っぽく微笑するルシエラに白石は呟く。途端にルシエラは表情を変え、白石に近付くと手を伸ばして肩を掴んでいた。
ちなみに友香里とは白石の妹であり、今年の春に中学生になる。
「――私、十七歳なんだけど」
「こんな小さいのに!?」
十七歳にはとうてい見えなかった。ルシエラは右手の指先の力を白石の肩に込めていく。
身長が足りないのか背伸びをしていた。
「ホテルでの戦いで血の力を殆ど全部、奪われて――私も解らないんだけど、百六十センチぐらいあったのに縮んだのよ。
若返ったのよ」
「十七……って俺と三歳ぐらいしか違わんな」
「お陰でパスポートも見せられなかったからひたすら誤魔化していたのよ!」
パスポートの写真は十七歳のルシエラであるが居るのは小さくなったルシエラである。それならば見せられない。
白石の誘いに載ったのも、力が落ちすぎているからだ。
気にしていることに触れられて、ルシエラは機嫌が悪い。
壊れている懐中時計をポケットに入れて、白石は怒っているルシエラをなだめることにした。
【Fin】
二話に続く
纏めて後書き(二次ファンから転載分後書き)
思い付きで書いてみた小説というか、うちのリボーン世界ともクロスはしてます。
狂気の血とかルシエラの武器の元ねたは分かる人には分かると言うか、
十番目の血とか言ってますが発音とかはテンス・ブラッドとか
英語発音はしてるんですけれどルビは面倒なので打ってない
感じで。ボンゴレとかは言ってますが彼等が出てくるかは未定です。
では、また次回で
(ハーメルン版後書き)
ルシエラは学校通ったことはありません。と言う過去の手の日常に
関しては希薄