そら色ワルツ   作:高槻翡翠

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一日後の話というかオリキャラも出てきます。



柔らかい殻 前編

【柔らかい殻】

 

ルシエラ・ガートルード・ジンガレッティを何とかなだめてから白石蔵ノ介は二人で忍足医院に向かう。

道は暗い。春先で冬よりは日は高くなっているのだが、今の時間帯だと真っ暗だ。

 

「聞きたかったんやけど、アドラスティアって名前か?」

 

「私の異名。復讐屋とかしていたらそう呼ばれるようになったの」

 

話題を探した白石は浮かんだ疑問をルシエラに聞く。再開発地区での戦いで、敵からルシエラはアドラスティアと

呼ばれていた。ルシエラは答えてくれる。

 

「異名か……俺は『四天宝寺の聖書』とか呼ばれとるな」

 

「……キリスト教なの?」

 

「そうやない。基本に忠実なテニスをしとるから、そう呼ばれるようになったんや」

 

「私のアドラスティアってのは、ギリシャ神話の女神の名前なのよ……復讐の女神、ネメシスと同一視されてる」

 

「どす黒い異名やな……名前や無かったんか」

 

アドラスティアは別名をアドラステイアとされる逃れられない運命の女神のことだ。

それにネメシスぐらいなら白石も聞いたことがある。ネメシスはギリシャ神話の因果応報の女神の名であり、

名の意味は憤怒である。

 

「ルシエラが本名、ガートルード・ジンガレッティはそれなりの身分の名字」

 

「本当の名字があるってことか」

 

周囲に人の気配は無い。ルシエラは確かめながら歩いている。会話が出来る状態だからこそ、話しているのだ。

白石が言うとルシエラは微笑した。

 

「フラガラッハ。ルシエラ・フラガラッハが私の捨てられない名前」

 

「……フラガラッハ……」

 

フラガラッハというのも何処かで聞いたことがある言葉であるが白石はすぐには浮かばない。毒草の名前とかならば

すぐに思い浮かぶのだが。

 

「そろそろ忍足医院ね。明日には知り合いが来るから手続き手伝わせないと……蔵ノ介」

 

「何かあるんか」

 

ルシエラは自分で持っていたトランクを白石の前に出した。

 

「持っていて欲しいものがあるの」

 

 

 

高い懐中時計を預かった白石だがルシエラから託されたものは、白色のゴシックロリータ服であった。

買い物をしていたときに着ていたものである。戦闘で胴体のところに穴が開いていた。これが発見されると言い訳が

大変らしいので白石に押しつけられたのだが、見つからないように部活で着替えを入れている鞄の中に押し込んだ。

高そうな服だったし、ごてごてとしているし、これを着て戦闘が出来るだけ、凄い。

どの辺りが力が落ちているのか白石は聞きたくなった。

 

(予定としては知り合いが手続きを手伝わせる言うとったが)

 

次の日になり白石は部活のために四天宝寺中を訪れた。部活はほぼ毎週ある。学校があるときとは違い、午前九時から開始だが、

三十分ほど前にはすでに白石は部室に着いていた。

 

「おはよーさん、白石」

 

「速いな。謙也」

 

「小石川は外に居るし、他はまだ来とらんな」

 

忍足謙也が部室にいた。白石は話ながら鞄を降ろす。中にはルシエラの白色のゴシックロリータ服が入っていた。

平静を装いながら白石は着替えに入る。ユニフォームはロッカーの中に入れていた。

 

「ルシエラの買い物につきおうてくれておおきにな。アイツ、楽しんどったっぽいわ」

 

「それならよかったわ」

 

「帰ったらすぐに寝てもうて、朝に様子を見に行ったらまだ熟睡しとったけど」

 

(疲れたんかな……)

 

昨日の戦闘を回想してみるがアニメやゲームに出てくる戦いである。剣で怪物をルシエラは切り裂いていた。

それがマフィアの戦いというのも驚きである。

謙也も着替えだしていたが彼は速さにこだわっているので、白石以上に着替えが速い。

白石も準備を終える。

 

「アイツは明日ぐらいには退院やて。念のためにもうちょい今日は休んで貰うらしいわ」

明日ぐらいと謙也が言っている。ルシエラは大阪に隠れ住むと言うがどう隠れるのか白石は見当が付かない。

準備は手早くしそうだというのが白石のイメージとしてはあった。

部活が始まり、白石は練習をしつつ後輩や同級生にも指示を出す。部活自体は平穏に終わった。

平穏のありがたみを感じる。

そんな時だった。

 

「シライシ、クラノスケ?」

 

部室から出て、帰ろうとしていたときだ。白石は最後に部室から出た。これから部室の鍵をしめて、忍足医院にでも寄って

ルシエラの様子を見に行こうとしたときである。

やや角張った、わざと角張ったように発音された名で呼び止められた。

いつの間にか白石の前には彼より少しだけ背の低い少年のような青年が立っていた。

グレージュの髪に同じ色の瞳をしている。

 

「アンタ、誰や」

 

「始めまして。アンが、君の名前を出していたから」

 

「……アン? 赤毛の女の子の知り合いは居らんな」

 

「モンゴメリーだっけ。アレは名前しか知らない。――ルシエラ・フラガラッハ。

もしくはルシエラ・ガートルード・ジンガレッティの知り合いって言えば、分かる?」

 

気配の薄い青年は穏やかに彼女の名前を告げる。白石は息を吸い、どうにか自分を落ち着けていた。

 

「分かるで……マフィアの人か」

 

「そう言うことにしておこうかな。危害は加えるつもりはないから」

 

手ぶらで青年は白石に応対する。場所を変えようか、とも言われた。

 

 

 

謙也の家である忍足家は代々医者の家系である。幕末に生きていた先祖は大阪で、つまりはこの地で、蘭医をしていた。

父方の祖父は開業医であり、今は隠居生活をしながらも別の場所でまだ開業医をしている。

忍足医院は謙也の父親である宗也が継いでいた。自分か弟の翔太が次は継ぐのだろうなと謙也はたまに考える。

荷物を家の方に置くと徒歩一分も無いところに建っている忍足医院の方に行き、二階の階段を上る。

医院ではあるが入院患者は滅多に来ないし居ない。設備の整った病院は他にもあるからだ。

そんな忍足医院ではあるが最近では入院患者が居た。

 

「調子はどうや。ルシエラ」

 

「本調子になってきたわ」

 

病室にはルシエラが上半身だけを起こして読書をしていた。

 

「……お前、ジョジョ読んどるんか」

 

「翔太が同級生から借りてきてたし、興味があったから」

 

手に握られていたのは単行本だ。『ジョジョの奇妙な冒険』、荒木飛呂彦が書いたジャンプの漫画でも非常に有名な

作品の一つである。第七巻を読んでいた。一巻から六巻までは丸椅子の上に積んである。

ジョジョの上に座るわけにもいかないので謙也は立ったままでルシエラと話すことにした。

 

「結構長いで」

 

「……みたいね……『神曲』並かしら」

 

「お前、退院したらイタリア帰るんやろう。それまでには読み切れるんか?」

 

『ジョジョの奇妙な冒険』は非常に長い。第八部辺りまであるはずだ。ルシエラが読んでいるのは第二部であり、

段々と編も長くなっていく。謙也の方を見ずにルシエラは答えた。

 

「帰らないわよ。日本に住むから」

 

「それなら読めるか……って、日本に住む!?」

 

「イタリアにいるよりも、日本の方が面白そうと言うか……どこに住んでも同じみたいなものだし」

 

話ながらページを捲っている。謙也はまず、ルシエラから『ジョジョの奇妙な冒険』の第七巻を取り上げた。

ルシエラは謙也の方を見る。

 

「お前な、両親……居らんかったな」

 

「養父や養母は死んでいるわね。イタリアに帰っても使用人とか土地とか財産があるだけ……七巻、良いところなのよ」

 

ルシエラの生まれについて聞くと幼少期に実の両親を亡くし、ジンガレッティ家に引き取られたものの、

養母や養父も死んだそうだ。遺産の管理などは弁護士や部下がしているらしい。

 

「身体弱い癖に一人で住むとかあかんやろ。日本に旅行に来て体調崩したから入院するハメになったんやで」

 

「以外と何とかなるものなんだけど」

 

「ならんって!」

 

「……兄ちゃん達、何やってるの……病室だよ。ここ」

 

呆れ顔で入ってきたのは翔太だ。手には何冊かの本を抱えている。ルシエラに貸すのだろう。

小説の他にも、雑学本や絵本などがあった。

謙也は冷静さを少しだけ取り戻すと翔太にルシエラとの会話を話すことにした。

 

 

 

春休みの校舎というのは生徒はほぼ居ない。学校もないようなものなのに学校に残っている生徒は珍しい。

白石は校舎内を適当に歩いている青年に着いていく。逃げたところで捕まえるか下手をすると殺されそうなので

大人しくしているしか無かった。

 

「……屋上?」

 

「手頃かなって」

 

階段を上り、二号館の屋上に白石と青年は来た。

 

「ルシエラの仲間、やよな」

 

「同胞だね。君は白石蔵ノ介、であってるよね」

 

「合うとるよ」

 

「白石蔵ノ介、大阪四天宝寺中二年、テニス部部長、誕生日は四月十四日で血液型はB型、家族は父母と姉妹と猫、だね。

『四天宝寺の聖書』の異名を持つテニスプレイヤーで全国区の実力持ち」

 

青年のペースを白石は掴めない。

白石のプロフィールを青年は言う。調べたのだろうかと考えてマフィアなら可能だろうと想う。

 

「調べたんか」

 

「簡単には調べたよ。アンに朝方、連絡を取ったら、”私は蔵ノ介と契約して日本に住むことにしたから細かいこと手伝って”

なんて言われたから困ったよ。蔵ノ介って誰って聞いたら白石蔵ノ介よとか言われてもさ」

 

名前だけ分かればプロフィールぐらいは調べようとすれば調べられる情報化社会というか、裏社会だからと言うべきか、

しかしルシエラは大分酷い対応だ。表情が薄い青年は困っているようだった。

白石については知っておかねばならないと調査したらしい。

 

「朝方か。昨日は何か戦闘しとったから、そのせいで疲れとったんやろうし」

 

「……戦闘? どんなことになったの? アイツの連絡は用件しか言わないから」

 

おれも、人のことは言えないけれどと青年は言う。

白石はまずルシエラと出会ったところから話して、昨日のことも話した。ディオはたまに反応を返してきて、

詳しく聞いたりしている。

 

「そんな感じやったんやけど……」

 

「弱ってるな。小さくもなってたし、顔見に行ったら爆睡してたから」

 

「見に行った?」

 

「オシタリ医院に寄ったんだ。こっそりパスポート作り替える必要があったから、作り替えておいたけど……アン、弱りすぎてるよ」

 

白石からしてみればルシエラは十二分に強かったのだが青年からしてみればルシエラは弱体化してしまったらしい。

眠っていたので起こさなかったようだ。事情も聞けなかったので、白石に聞いたのだろう。

 

「アレで弱っとる言われてもな」

 

「相手が殴る前に勝ってたり、殴りに入っても、恐怖の笑顔を浮かべつつ圧勝したりしてる奴だから、――サディストだし」

 

「……サディストなんか」

 

昨日の戦いも相手が自分は有利になったと有頂天になっていたのをたたき落としていた気がする。

納得していた白石を青年は見る。

 

「君はアンと契約したんだよね? 君には殺したい相手とか居ないんだろう」

 

「居らんな。ルシエラちゃんは選べる状態じゃないみたいなこと言うとったけど」

 

白石には殺したいぐらいに憎い相手は居ない。人間関係は良好だ。青年が疑問に想うのも仕方のないことだ。

復讐屋兼殺し屋であるというのにルシエラと契約したのだから。

 

「アイツのことは置いておくとして、君が契約したいと想った理由って?」

 

青年は白石の言葉を聞こうとしているようだ。ルシエラが弱っているとかそう言うことを抜きにしてどうしてそんな取引や

契約内容を持ちかけたのか、気になっているのだ。白石は考えを整頓する。

どうして、自分はそんなことをルシエラに言ったのか。

 

「ルシエラちゃん、昨日の戦いを単なる化け物通しの戦いとか言うたんや。あの怪物もルシエラちゃんも狂気の血を引いとるんやろう。

でも、戦っとったときに、こんな力欲しくなかった、みたいに呟いとった……人間やん。ルシエラちゃん」

 

戦いは不可思議すぎたしルシエラの傷も速く治っていたり、相手を燃やしたり薬品を精製したりもしていた。

だが、ルシエラは人間だ。人間の形をした化け物とか本人は思っているかも知れないがそれでも、ルシエラは人間であると

白石は想う。

 

「あの子が自分のことを化けもん言うんやったら怒りたいとか……契約についての答えになっとらんのやけど」

 

化け物ではなく人間だと白石は言いたい。少なくとも、ルシエラ・ガートルード・ジンガレッティは、何処にでも居る人間なのだと

力などは関係なく、人間だ。

 

「――何を言って良いのか分からなくなったよ」

 

「そうやろうな……」

 

自分でも答えになっていない言葉だと白石は想う。青年は白石に向かって言う。

 

「……とりあえず、名乗っておこう。おれはディオニージ・ドゥリンダナ。デューで良い」

 

「デュー……?」

 

デューという愛称は聞いたことがある。ルシエラが来るのが遅いとか言っていた者だ。ディオニージ・ドゥリンダナを

どうすればデューになるかは白石には不明だった。

 

「蔵、君に教えておこう。狂気の血について……面白い解答が聞けた礼だよ」

 

ディオは無表情さを消して、笑っていた。

 

「狂気の血について……」

 

狂気の血について白石は何も知らない。礼とディオは言っているが雇うなら知っておいてもらいたいことなのだろう。

白石が言うと携帯電話の音が鳴る。ディオの携帯らしい。取り出すと彼は話し始めた。

 

「噂をすれば……予定変わった? 何やってるんだよ。君にしては……間抜……怒らないで。落ち着いたら連絡してよ。アン」

 

「アンってルシエラちゃん……ところで、何でアン?」

 

用件よりも先に愛称の方が気になっていた。ディオは携帯電話をポケットの中に入れている。

「アイツの本名はルシエラ・フラガラッハでフラガラッハの別名はアンサラーだからアン」

 

フラガラッハはケルト神話に出てくる剣の名だ。解答する者を意味する。

抜こうと想えば鞘から勝手に抜け、敵に投げれば勝手に敵を殺して戻ってくる。フラガラッハによって付いた傷は

決して治らないとも言われている。

 

「予定が変わったとか」

 

「忍足家にホームステイすることになったとか言ってた」

 

「ホームステイ!?」

 

きっとフラガラッハから愛称を取ろうとすると上手くいかなかったのでアンサラーから取ったのだろうと白石は心中で

納得しておく。ルシエラから聞いた事情をディオが話したが、日本に住むと言ったルシエラに謙也が何とかならないとか

話していたら翔太が来て、そこに万里子、忍足兄弟の母、万里子が来たのだ。謙也が事情を話すと万里子の方が忍足家に

ホームステイをすればいいと言ってきたらしい。ルシエラは断り切れなかったそうだ。

昼間ではあるが忍足家で家族会議が開かれてルシエラも参加することになったらしい。

 

「薬によっちゃ相手を操れるんだけど、それも出来なくなったのかな……」

 

「万能やな。薬……俺が預かったゴスロリ衣装とかどう処分すればええんや」

 

「衣装?」

 

ディオにならば見せても平気だろうと白石は着替えを入れている鞄から白色のゴシックロリータ服を出す。

穴が開いていた。白色なので服の汚れも目立つ。

 

「これなんやけど」

 

「地面において」

 

白石は全部出すとディオの指示に従い、屋上のコンクリートの地面に置いた。ディオは右手を軽く振る。

胴体の穴部分にディオは右手で触れると一瞬だけ白いゴシックロリータの衣装が揺れる。

手を放すと穴が完全に塞がっていたし、汚れも取れていた。

 

「直った……」

 

「これも狂気の血の能力の一種で、物質精製……変換とも言う。変換する方が楽だけど」

 

物質精製、もしくは変換と二つ並べたのはどちらもディオは出来るからだ。服からディオは衣装を鷲掴みにした。

白色のゴシックロリータは淡く輝き、銀色のカードにになる。大きさはクレジットカードぐらいだ。

この変換は質量が完全に無視されていた。

何もない状態でも必要な物質は作り出せるのだが、物によって負担が大きくなる。

ディオは銀色のカードを掴むと元通りの白いゴシックロリータに戻す。ドレスは白石に渡された。

 

「手品みたいや」

 

「種も仕掛けもないよ。おれの能力はもう一つあって」

 

ディオは左手を上に向けた。向けた左手から迸ったのは電気である。

 

「電気人間……」

 

「体内に発電細胞が出来て生体電流を増幅したり出来るようになってるんだ。狂気の血と言うのはね。十三種類の能力を、

血に覚醒した者に与える。とは言っても人によって一種類から三種類の間だけど」

 

能力を区分して十三種類、血に覚醒した者はそのうちの一種類、もしくは二種類か三種類を使えるようになるらしい。

ディオはデンキウナギみたいなものかと白石は納得しておく。口には出さないが。

しかしディオは察したのか、淡く笑っていた。理解が速い、と言っている感じがした。

 

「十三番目とかでも……あの怪物色々使とったで」

 

「アレは例外。まずは狂気の血について言うけど、元は人外の血とか言われてる」

 

狂気の血は元々は怪物が引いている血とされていた。

それは世界中に散らばっていて、人外と交わった人間や、その子孫が血の力を使えるようになっていたらしい。

らしいというのは狂気の血はまだまだ研究中で暫定的に色々と説を通しているだけだからだ。

十三種類の能力も、調べた者が確定しただけである。

血を引いたからと言って必ずしも覚醒するわけではなく、例えば一族が狂気の血を引いていても覚醒せずに

一生を終える者だって居る。また、狂気の血を先祖が引いているとは知らず、先祖返りで覚醒する者も居る。

 

「人外か……」

 

「一族が引く他にも、狂気の血を引いた人間の血を輸血したりすることで覚醒することもある。おれやアンはそっちのタイプ。

覚醒させられたの方が正確かな」

 

「覚醒されられたって……」

 

ディオが頷いた。話を続ける。

狂気の血を引いたり植え付けられた者が覚醒をするときは心か身体に強いショックを受けたときに覚醒するという

条件があると言う。

しかし、覚醒するときのショックで八割か九割が化け物と化す。化け物になった時は身体が大幅に変わることもあるが、

変わらないこともある。しかし精神は人間のものではなく、自分が抱く衝動に突き動かされる化け物なのだ。

裏社会にしろ、一般社会にしろ、そうなってしまった狂気の血を引いた者は害悪であり、殺すしか無くなってしまう。

 

「血に覚醒して化け物にならなかったとは言え、安心は出来ない。感情の高ぶりとかで血が騒いで、落ち着けないと

衝動が出たり、血に支配されかけたり……能力を使うと血も覚醒していく」

 

「ほいほい使てええんか?」

 

「便利だからね……狂気の血を引いた人間は一生が血との戦いで上手く付き合っていこうみたいな……戦闘するときにも、

戦闘力になるから」

 

ルシエラが液体火薬で相手を燃やしたりしていたのもそうなのだろう。使い方によっては強力な武器にもなるが、

使いすぎれば怪物になってしまう。微妙なバランスで能力を使っているのだ。

 

「マフィアってそう言う連中も居るんやな」

 

「言っておくけど、マフィアは元々は自警団だよ。自分達を守るために血の力を使ったりするしかなかった」

 

「自警団……」

 

「その辺の説明はアンに聞いて。それと、血はある程度覚醒するまでは瀕死になった状態に陥ると治してくれるけど、

これも血に支配されていく」

 

狂気の血に覚醒した者達は血の支配とは切っても切り離せない関係になってしまうらしい。

宿主が死にそうになったら狂気の血は宿主を治そうとするが、どれだけ治るかは運次第であるし、血に苛まれていく。

 

「そんなそぶり、見せんかったな」

 

「理性で抑えられるぐらいには制御を叩き込まれてるけど、上がっていくとハイテンションになるかな」

 

昨日の戦いでルシエラはハイテンションというわけではなく、必死であった。ハイテンションで居られるぐらいの

余裕はなかったのだろう。

 

「ディオ君も?」

 

「ノリは良くなるかな」

 

白石はディオをディオと呼ぶことにした。君付けをしたのはルシエラと同じ年ぐらいであろうという判断だ。

デューで良い、とは言われてもディオの方がしっくり来る。

 

「狂気の血の能力ってどんなんがあるんや、十三種類あるらしいけど」

 

「一番目の血とか二番目の血とか発見された順に定義されてる。アンの能力は九番目の血と十番目の血。おれはこの分類で言うと

六番目の血と十一番目の血を引いてる」

 

「薬品作られるとしか言うとらんかった気が……」

 

「省いたんだろうね。十番目の血って能力定義はされてるんだけど謎なんだよ。能力者が認識した領域内を自由に操作出来るとか、

因子を埋め込んで、影響を及ぼせるとか言われても分からないだろう」

 

「分からんな……空間が微妙に歪んどったんも、その能力のせいかな……」

 

説明がややこしかったのでルシエラは省いたのだろうと言うのはディオの説明で分かった。

 

「領域使いは領域内ではかなり融通が利かせられるから」

 

自分の陣地内ではかなりの優位性を持つのが十番目の血の能力者である。

領域と認識して周囲に戦いを認識されないようにしようとしたのだろうが、能力が落ちているため上手くいかなかったようだ。

 

「ルシエラちゃんが戦ったの、イスカリオテの獣とか言うとったけど……十三番目の血とか」

 

「十三番目の血、これが狂気の血を宿すモノにとっては厄介すぎる能力持ちでね。他の狂気の血を食らうって取り込むんだ」

 

他の能力説明をすると時間もかかるし一気には憶えられないだろうし、憶えなくても良いと判断したらしいディオは十三番目の血の

説明を始めた。狂気の血と言うのは一般人に比べれば人数は少ないが、その狂気の血を引く者の中でも十三番目の血を引く者は

滅多に居ないと言う。

血を移植して覚醒しようにも覚醒率は他の血に比べて非常に低い。

 

「そんなに少ないんか」

 

「裏社会は表よりも狂気の血が集まりやすいけどおれの知る限りで、一人しか居なかった……」

 

十三番目の血の能力は二つある。一つは影のようなものを操ること、ようなものが着いているのは影ではないが、

影のようなものという曖昧な存在を操作出来るのだ。影を刃のようにしたりすることも可能だと言う。

もう一つは他の狂気の血を食らい、模倣する能力を持つ。狂気の血の天敵である狂気の血とも言えた。

イスカリオテの獣というのは十三番目の血を持っている化け物のことだ。化け物は言っても元の化け物が居て、それが人間に力を

分け与えることにより、イスカリオテの獣は増える。イスカリオテの獣の力は強大であり、その力が完全に覚醒し、

使いこなされていれば都市一つ消すことも可能であり、実際に消えた都市もある。

 

「ルシエラちゃんが縮んだんも血を喰われたせい……っぽいんかな」

 

「詳しくはアンの血を調べないと分からないけど、血が喰らわれたとは言え……身体が縮むなんて聞いたことがない。

雇い主に言わせれば、”曖昧な定義付けをされている狂気の血の新しい事例”とかで喜びそうだけど」

 

曖昧などとつけている辺り、狂気の血を宿していたりする者達ですら、自分達の力の源について完全には分かっていない。

謎に包まれている能力を血に覚醒しているから何となく使えるぐらいなのだろう。

例外的な事例が起きたら起きたで、その時に対処するしかないのだ。

 

 

【続く】




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