そら色ワルツ   作:高槻翡翠

6 / 22
六話目というか次の話ではキャラがまた(既存キャラの方)出しますが
他のサイドも書いていきたいなとは。
前の話から書いてなかったですが忍足家模造していたり
今回の話だと財前の趣味が趣味だったりとしてますが
模造と言うか推測というか。


ニューロン

【ニューロン】

 

「こんなに面倒だなんて、部活というのを甘く見ていたかも知れないわ」

 

白石蔵ノ介はルシエラ・ガートルード・ジンガレッティの呟きを聞いた。部室には白石とルシエラしか居ない。

ルシエラが部室の中にあるベンチに座り、一息ついていた。今日の彼女はスカートではなくジャージ姿だ。

 

「裏方も大変なんやで」

 

ルシエラを大阪四天宝寺中男子テニス部のマネージャーにすると決意してから二日が経過した。

マネージャーにすると決めてから、自転車で歩道橋の階段をルシエラを乗せて爆走して妹の友香里に怒られた白石は午後はルシエラの買い物に付き合った。

彼女は白石の同級生である忍足謙也の家にホームステイをすることになったので、家具や家電を揃える必要があったのだ。

後輩である財前光や謙也の弟である翔太も付き合い、午後と、休みである次の日を丸ごと使ってルシエラの必要なものを揃えた。

一日と半日で海外の大手家具ショップに行ってみたり、大きな家電屋に行ったりしたが、そのたびにルシエラは驚いていた。

イタリアでは大きな店は余り利用しなかったらしい。

そして今日は男子テニス部の監督である渡邊オサムにルシエラをマネージャーにしても良いかと許可を貰い、許可があっさり下りたのでルシエラにマネージャーの業務をやらせてみていた。

 

「昔は一人で仕事は全部していたみたいなものだから楽だと想っていたのに……今までマネージャー居なかったの?」

 

「仕事とかは小石川とか後輩とか、俺とかで分担すればすんどったし、他のスポーツ部でもマネージャーは居らんところばかりや」

 

仕事というのは殺し屋、もしくは復讐屋の仕事ではあると白石は知っているがそのことには触れない。

マネージャーの仕事というのはあるようで無いとも取れる。理由としてはマネージャーというのは主に顧問の補佐をするからだ。

テニス部や野球部もそうだが部活をする以上は雑用がある。テニス部で言うならば、練習用のコーンの片付けや、スコアを記入、ドリンク作りや怪我をした部員治療などある意味では部員よりも知識や能力がいるところがあるし、基本は雑用ばかりだ。

 

「ドリンクも粉と水を入れて振るだけだし楽ね」

 

「妙な薬は入れんとかな」

 

「やるとしたら飲んだら元気になる水ぐらいにしておくわ。ドーピングはよくないんでしょう」

 

「よくないって言うか、失格になるから」

 

ルシエラの能力というのは二種類、薬物を精製することと領域操作であると言うことは話で聞いていた。

液体火薬を作ったところは白石も見ているし、記憶消去の薬で記憶を消されかけたこともある。

 

「確かめてみたら、能力は二割戻っていれば良い方だったのよね。筋力も鍛えておかないと……剣だって二本持てなさそうだし」

 

二本の剣というのは前に白石が始めて裏社会の戦いを見た時にルシエラが使っていた白石を守るために地面に突き刺していた一本と彼女が武器として握っていたもう一本のことなのだろう。二刀流で使っていたらしい。

二刀流のルシエラを想像しようとした白石はあることに気がついた。

 

「……ルシエラちゃん、ルシエラちゃんの能力って薬物精製と領域操作なんやよな」

 

「そうよ」

 

「筋力を鍛える必要ってあるんか? ゲームで言うとルシエラちゃんは魔法使いみたいなもんやろ」

 

狂気の血を使いすぎたら化け物になるとは白石も聞いているが、ルシエラは薬品を撒いて戦っていたと言っていた。

仕事だって、使いやすい能力を使ってきたのだろう。薬品を遠距離で撒いていた方が安全であるはずだ。

 

「私は武術の方の適性もあるって言うか剣王は一通りの適性は持っているのよ。それに私は能力に覚醒させられたのが遅くて、ある程度鍛えられてから覚醒させられたから……身体を鍛えておいているの」

 

一通りの訂正というのは刃物や銃、格闘技などのことを言うようだ。

ルシエラと違い、他の狂気の血を移植された者は覚醒させられてから鍛えられていた。

白石はルシエラを眺める。ベンチに座る彼女はお嬢様に見えるが、ナイフや銃を使いこなし、格闘技までやると言う。

 

「……ちなみに、格闘技というと……」

 

「関節技とか好きね」

 

「好きなんか……」

 

「逆関節とか、でもあれってあくまで補助なのよ。投げ技や崩し技のね」

 

「今もかけられるんか?」

 

「……試してみないことには分からないわね。能力の性能は確かめられたし、身体の性能も確かめておきたいんだけど」

 

関節技について言っているときは笑顔のルシエラではあるが、白石の質問に対しては顔を曇らせていた。

身長が八センチほど縮んだルシエラだ。リーチも縮んでいるし、体の使い方だって違ってくる。

携帯電話の中に入っているかつての白いゴシックロリータを着た本来のルシエラ・フラガラッハが、関節技をかけているところを白石は考えてみたが、薄い微笑みをみせながら人の関節をギリギリ締め上げているルシエラは、怖かったので白石は思考を止め、別の話題にする。

 

「性能って機械みたいに自分のこと言うんやな」

 

「癖みたいなものかしら。身体は資本だし……血も進化させなきゃ。薬はデューから貰ったけど」

 

自分のことは自分のことでありながら、他人事のように取っているのがルシエラだ。自分の右腕を眺めながら、

ルシエラが一瞬だけではあるが不安そうな表情を浮かべる。

日常生活は慣らしていけば問題はないのだろうが、自分の力が落ちたことは大問題なのだ。白石で言うならば身体の故障でテニスが出来なくなったようなものだ。

 

「能力は余り使わないでおいて欲しいな。怪物化の問題あるんやろう。血は使わないと進化せんとは言え、怖いんや。薬も……薬ってあの、血を吐く薬やろ」

 

ルシエラの気持ちも白石は分かるし、血に関して言うならば主で居るルシエラの方がよく知っているのだろうが、白石は前に彼女の同僚であるディオニージ・ドゥリンダナから聞いた話を想い出していた。

狂気の血と言うのは定義はされているがまだまだ分からないことばかりであり、万が一のことが起きるかも知れない。

裏路地での戦いで変質したマフィアのボスのように、ルシエラもそうなってしまう可能性はゼロではないのだ。

 

「あの薬、肉体と精神の力を上げる薬で……九番目の血を引く私だから吐血程度ですんでるのよ。

万が一があったら今まで以上に肉体レベル上げないと……薬が手っ取り早いのよね」

 

「吐血程度とか吐血に程度、とかつけたらアカン!」

 

白石は強く言う。ルシエラは目を大きく見開いていた。

裏社会の者達は自分達の身を削って戦ったりする者も居る。ルシエラの投薬がそうだ。ドーピングは自分の力を上げられるが、身体に反動も来る。廃人にはならないですんでいるようだが、血を吐いたりして戦うぐらいなら白石としては戦って欲しくはない。

 

「……蔵ノ介がそう言うなら使わないようにはするけど……非常事態とかは使っても良い?」

 

ルシエラは怒られた子供のような表情で白石に問いかける。

 

「薬は駄目やで。能力やったら非常事態はええけど、俺が許可したらにしてや」

 

「それともう一つ、使いたいときがあるんだけど」

 

もう一つ、とルシエラが言い、白石が聞こうとしたときに彼女は声を止め、ドアの方を眺めた。

少しするとドアが開く。

 

「白石、ルシエラ。軽音楽部が終わったで」

 

入ってきたのは忍足謙也だった。すぐに謙也の気配を、誰かが来ると分かって会話を止めたのだろう。察知能力は落ちていないらしい。白石とルシエラは軽音楽部がある謙也を待っていた。謙也は入学式でするための演奏の相談をしていた。

四天宝寺中は在学生全員がスポーツ部と文化部の両方に所属してどちらか、もしくは両方を全力で挑まなければならない。

 

「帰りは、徒歩よね」

 

「強調せんでも、俺は自転車やけど降りて歩くし」

 

「前に二人乗りをしたら酷い目にあったんだから」

 

始めてルシエラが四天宝寺に来て部活を見学した日、白石の運転する自転車にルシエラは二人乗りをした。

そうすると二人乗りは危ないと警官に注意をされたのだが白石は聞かずにそのまま自転車を走らせ、歩道橋の階段部分を勢いよく登ってしまったりもした。白石はそこで鉢合わせした妹の友香里に頬を叩かれたりしていた。

警官に捕まりそうになったがルシエラが能力を使った話術を使い、厳重注意だけで終わらせた。

話術だけでも何とかなりそうではあったが、念のために能力を使ったという。

 

「ルシエラは自転車に乗れるんか?」

 

「乗れるわよ。身体の調子が良かったときにはちょっと乗っていたし」

 

ルシエラは病弱という設定を使っている。血が不具合を起こしていただけで身体の方は健康的ではあるのだが、話を作っているうちに病弱と言うことになってしまった。

マネージャーになるのも謙也はまた倒れないかと渋い顔をしていたが、白石とルシエラで身体を丈夫にするには動かすしかないなどと言って納得させた。

 

「小石川が言うとったんやけど明日か明後日には千歳が来るらしいな」

 

「来たら施設とか案内してくれってオサムちゃんに頼まれたわ」

 

「千歳?」

 

謙也が四天宝寺中男子テニス部副部長である小石川健二郎が言っていたことを謙也が話した。小石川も軽音楽部である。

千歳についてルシエラは知らないので聴いて来た。

 

「獅子楽中の九州二翼の一人でな、目を怪我して部活は止めとったんやけど、ウチに転校してくるんや」

 

「吸収二翼って……厳つい名前ね」

 

「……ルシエラちゃん、吸収やのうて九州。日本の南の方にある地方やな」

 

真剣な声で言うルシエラに白石は発音から勘違いしていることに気がついて、説明をしておく。

千歳千里、九州の熊本にある九州地方の覇者、獅子楽中の九州二翼と呼ばれている強いテニスプレイヤーの一人だが、練習中に目を痛め、テニスを止めていた。白石達が知っているのは西日本のテニスの大会で会っているからだ。

ルシエラは白石を見上げるとすぐに視線をそらせた。

 

「イタリア人なんやから日本語の聞き間違いとか俺等より多いんやて」

 

「……聞き間違えてないもの」

 

謙也がフォローを入れた。呟くルシエラは顔が赤かったような気がして、白石は笑う。

ルシエラが軽く右手で白石を叩いた。

 

 

 

自宅に帰り白石は自転車を所定の位置に止めると家に入る。白石は父母と姉妹と猫と暮らしているが、

母や姉は出かけていて友香里も居ない。父は薬剤師としての仕事をしているため、家には白石と猫しか居ない。

白石の部屋は健康グッズで溢れている。通販で買えそうな腹筋マシーンや各種のサプリメントや体操のDVD、座布団や枕は全てテンピュールだ。テンピュールはルシエラにも勧めておいた。テンピュールは低反発素材が進化したもので、値段は高いが寝心地や座り心地は良い。午後は久しぶりに一人で過ごすことにした。

 

(一週間も……たっとらんよな)

 

裏路地のマフィア通しの戦いは白石の心に衝撃を与えた。マフィアというのが居るのは白石も知っていたが、異能力を使ったり、化け物になったり、ルシエラもルシエラで能力や剣を使い、倒していた。

映画でやっているマフィアというのも居るようだが、あんなマフィアもいる。

心配してルシエラを追いかけなければあんな光景には出会わなかったし、巻き込まれることもなかった。

しかしそれだと今頃、ルシエラは大阪には居ない。

鍵の着いている一番上の引き出しの鍵を開けて、白石はルシエラから預けられた懐中時計を取り出す。

 

「いくらぐらいなんやろう。相場で……」

 

スイス製の懐中時計と言っていた。スイスというと時計を作っているというのは白石はテレビで観たことがあった。

金色で、丸形で細い鎖が付いている。縦に蓋が開く。開けてみれば硝子がヒビ割れた文字盤が出てくる。

時計の裏側にも細工がされていた。

直すのに数百万かかると聞いていたので懐中時計の値段自体もそれぐらいだろうと白石は時計を預かってから引き出しに入れて鍵をかけて押し込んだままだった。

 

(裏蓋の所に字……?)

 

目を懲らすと裏蓋には光の加減でアルファベットが掘られてにいるのが見えた。

筆記体ではなくブロック体なので白石にも文字の判別は出来るのだが、言語が不明だ。

解読を諦めて懐中時計を白石は机の上に置き、状況を考えていく。

ルシエラを雇うとは言ったが、期間は決めていない。せめてルシエラが中学を卒業する二年か、自分が卒業する一年かのどちらかにしておくことにした。裏社会も刻一刻と様子が変わってくるだろうし、何かあればディオが連絡を入れたりしてくれるだろう。ルシエラの雇い主となった白石なのでディオは様子を知らせてくれるはずだ。

白石が裏社会の状況について行けるかというのは別問題ではあるが。

能力は余り使うなと言っていおいたが殺しも禁止にしておいたりした方が良いだろう。

敵だと感じたらルシエラはあっさりと人を殺す。裏社会の人間だからだろうか。死体の処理については呟いていそうだが、殺しは殺しである。殺しは駄目だ。犯罪である。

ディオがルシエラが隠れるときに出来る限りの手をルシエラの部下もそうだが打ったので追っ手は来ないはずではある。

依頼料に着いてではあるがルシエラは金には不自由していないと答えていた。

稼いだ手段は裏社会的な方法と、真っ当な方法が半々ずつらしい。不自由はしていないだろうが、白石は雇った身ではある。

考えておかないといけない。

 

「ルシエラちゃんは……」

 

サディストと聞いているし、殺し屋兼復讐屋だし、身体で薬品は精製出来るし、領域も操作出来る。

白石はルシエラを人間と想っているが、彼女の性格などはいまいち掴めていない。性格が悪いのはあるだろうが、たまに子供の……十七歳は子供と言えば子供かも知れないが……ような表情を浮かべる。

一日と半分を買い物に費やしたときだって、普通の、何処にでも居る少女に見えたのだ。

 

「……まずは決めたことを、伝えよ」

思考の堂々巡りに入りそうだったので考えることを止めた。

雇う期間と、守って欲しい約束や依頼料についてを白石は明日、伝えることにした。

 

 

 

四天宝寺中男子テニス部の部活は休みは一週間に一度か二度だ。時と場合によって違う。次の日も部活があった。

今日は四天宝寺華月でお笑いライブがある。その準備が他の部活によって行われているはずだ。

一氏ユウジや金色小春が出る。四天宝寺華月は四天宝寺中にある総合演芸劇場だ。

今日は漫才の他にも、軽音楽部のライブもやるはずである。

 

「お笑いライブって言うのはテレビでやっているアレよね」

 

「小春とユウジはおもろいで。ユウジは物まねも得意なんやけど」

 

見習いのマネージャーとしてテニス部で仕事をしているルシエラだが余裕が少し出来たのか、

昨日よりは疲れていなかった。午前中の部活を終えて今は午後だ。四天宝寺華月でライブをやるのは夕方からであるが、リハーサルや会場の準備がある。

 

「蔵ノ介はライブとかしないのね」

 

「俺は新聞部やから記事にする方やな」

 

「小説を書いているっていったけどどんなの?」

 

「推理小説や」

 

部活が終わり、白石とルシエラはテニスコートの側で話していた。ルシエラはテニスコートを眺めている。

午後のライブはルシエラも見に行くと言っていた。四天宝寺華月で行われるお笑いライブや軽音楽部のライブは在学者でなくても見に行ける。

 

「白石部長……と、ルシエラ」

 

「財前」

 

午前中は話すことが出来なかった決めたことを白石が話そうとすると財前が話しかけてきた。

財前は着替えて学ランとなっている。

 

「ルシエラ……謙也さんが、呼んどったで」

 

「呼んでた?」

 

「あの人は四天宝寺華月に居るから」

 

「大きなホールよね。行ってくるわ」

 

財前がルシエラの方を見て告げる。ルシエラは軽く首を傾げてからすぐに四天宝寺華月へと行った。

ルシエラが行くのを財前が見送っている。

 

「どないした」

 

「……ルシエラについて何やけど、謙也さんに相談するより部長に相談したほうがええかなって」

 

「相談?」

 

神妙な顔で財前が頷く。白石は緊張しつつ、緊張を表に出さないようにしながら財前の話を待つ。

 

「一昨日とかで家具屋とか案内したじゃないですか」

 

「お前の案内で助かったな」

家具屋や電気屋は財前がネットで検索したところに行った。財前はインターネットやパソコンが得意だ。

他の部員はインターネットやパソコンにについては余り分からない。

 

「そのお礼って、朝に俺が欲しかったモンをくれたんですが……それ、かなり高かったんっすよ。あっさりくれたんで……」

 

「欲しいもん……かなり高かったっていくらぐらいや」

 

財前の表情は嬉しさよりも複雑さの方が現れている。財前は困惑と共に言葉を吐き出した。

 

「諭吉さん二枚でようやくおつりが来るぐらいの……」

 

「それは高いわ!?」

 

「返すわけにもいかんし、高いもん貰っても悪いってか、これぐらいするのは当然みたいな表情やったんで。俺は、案内しただけっすわ……たいしたことしてないのにあんな……金銭感覚がおかしいなって」

 

ルシエラは何をあげたのだろうか、財前が混乱している。財前にとっては簡単なことだったのだろうがルシエラにしてみれば、随分と助かったらしく、お礼は弾んだらしいが、それが諭吉さん二枚でおつり、つまりは一万円以上はするものである。

一万円は中学生には大金である。

家具を買ったりしたりしたときは高いものではなく、中間の値段のものだった。全て簡単に安く揃えられるところを財前が検索してそこで揃えた。

 

(小遣いの使い方についても言うとかんと)

 

「人の付き合い方がビジネスっぽいってか……距離の掴み方が分からんのかも知れんけど、深窓の令嬢っぽいし」

 

身体は丈夫になってきたけれども病弱だったと言うのはルシエラや白石が広めておいた噂だ。

裏社会で生きてきたルシエラは人付き合いは程々にしておいていたらしい。ディオは最初の組織の同胞なので、付き合いが続いていたようだ。

病気がちのお嬢様だから人付き合いも分からないのだろうと言うのが財前の見解だ。

真実は違うが、このままにしておいたほうが良い。

 

「……そうやな……財前、知らせてくれておおきにな。話してみるわ」

 

「……謙也さんが呼んどるってのは嘘やったんで」

 

「相談したかったんやな……」

 

白石も四天宝寺華月の方に行くことにした。華月の方に向かっていると、ルシエラと出会う。

 

「蔵ノ介」

 

「ルシエラちゃん。用事は」

 

「謙也は呼んでないって言ってたけど、夕飯について話したわ。タコ焼きとご飯だって」

 

「大阪の定番メニューやで」

 

大阪は九割の家にたこ焼き器があり、場合によっては来客用と自分達用で二台ある。またご飯とたこ焼きを一緒に食べると言うのも家に寄ってはよくやられていた。ルシエラはたこ焼きは食べられる。

イタリア人はヨーロッパの中では数少ないタコを食べている民族であり、ルシエラも食べることに嫌悪感はなかった。

 

「お好み焼きも好きよ」

 

「好きで良かったわ……そや。財前から聞いたんやけど財前に高いモンやったんやて?」

 

「高い……のかしら?」

 

「諭吉さん二枚でようやくおつりは高いで」

 

逆に聞かれたので白石は落ち着いて、ルシエラに高いと教えておいた。

 

「お礼はしなきゃ。部屋も良い感じになったんだし」

 

ルシエラは忍足家の一室に買い込んだ家具を運び込み、自室としていた。住みやすいように計画を立ててその通りに勧め、理想の部屋を作り上げていた。

 

「……限度があるで。財前は引いとった」

 

「好みのものをあげたはずなのに」

 

「値段や値段! 小遣いも制限するで……って俺はルシエラちゃんのおかんか」

 

「蔵ノ介は雇い主よ……自分達でお金とか稼いでないの? 謙也はおばさまやおじさまの手伝いをしてお金を貰っていたけど」

 

ルシエラの冷静なツッコミと心からの疑問が来た。おばさまは謙也の母親である忍足万里子のことであり、おじさまは謙也の父親である忍足宗也のことだ。

忍足家は開業医をしていて、自宅の近くには診療所があり謙也は雑用をたまに手伝っては、臨時の小遣いを貰っていることを白石も聞いたことがあった。

 

「日本の学生はほぼ小遣いなんや。イタリアにも小遣いはあるやろ」

 

「Spllaticoならイタリアにもあるわよ」

 

「イタリア語は分からんがそれやろうな。謙也は家のことを手伝って金を貰とる。とんでもない金額を普通に使える学生の方が珍しいんや」

 

イタリア語が聞こえるが白石はイタリア語は全く分からない。けれどもルシエラが納得したので、

きっと単語はあっているのだろうと想う。ほぼをつけているのは例外だって居るかも知れないからだ。

大概の中学校は家庭環境の問題の特例を除けば、バイトは禁止だ。

話してみて白石はルシエラが謙也も自分のように仕事をして稼いでいると想っていたと言うことを知る。

ルシエラからしてみれば一般家庭というのは分からない集団なのだろう。

 

「お金持ちの学生と言う事ね。二万円は中学生には大金と言うことも憶えたわ」

 

「中学生のレベルで大金となるとしたら五千円ぐらいかな……オサムちゃんは競馬とかで、たまに数万円単位で無くすこともあるけど。礼もするのはええけど、やりすぎるのもな」

 

白石の基準として五千円と言っておいたが、人によっては違うだろうし、ルシエラも他の人から話を聞いたりして基準は修正していくだろう。

 

「相場は払っていたつもりなんだけど、この手のことは上手くやらないと下手にしたら不審がられるし」

 

「ルシエラちゃんは裏社会の人付き合いの仕方とかは知っとっても、学校での人付き合いとかしたことないしな」

 

これから学校に通ったり、テニス部にも馴染んできたら、金目当てで近付いてくる人間だって居るだろう。

そんな人間が居たらどうするつもりなのだろうか。ルシエラのことだから利用するだけ利用して捨てるかも知れない。

 

「病弱設定を上手く使うわ……学校に通うための準備はしてる」

 

「制服を揃えたりとかか」

 

「それもあるけど……勉強ね。翔太から小学校の教科書を借りたし……財前から中学校一年生の教科書も借りてどの辺りまで勉強したか見ておくわ……準備は念入りにしているし」

 

彼女は準備に手間暇をかけているが、裏社会の人間として染み込んでしまったクセのようなものだろうと白石は想う。

 

「学校のことは準備が出来とるとして……ルシエラちゃん、財前に何をあげたんや? オーディオセットか?」

 

白石には気になったことがあった。

財前が引いたルシエラが彼にあげたもののことだ。財前からはそう言えば貰ったと言うことは聞いていたのだが、それが何なのかは聞いていない。財前がオーディオセットを欲しがっていたことを白石は知っていたので、あげたのはオーディオセットなのかと想った。

ルシエラは瞳を軽く細め、財前にあげたものの名を口にした。

 

「ボークス、初音ミク、ガレージキット、六分の一フィギュア」

 

「……はつねみく……ふぃぎゅあ……」

 

「買い物に行ったときに彼、CDとか見ていたから、探したらフィギュアがあったのであげたの」

 

初音ミクというのは白石も聞いたことがある。キャラクターだ。歌うキャラクターである。

インターネットで流行しているボーカロイドの一種だ。白石はそれぐらいしか知らない。

買い物の時に財前が初音ミクのCDを見ていることに気がついたルシエラがお礼にと商店街に行ったら、

フィギュアの店で初音ミクのフィギュアを見つけて、それを購入してあげたのだ。

このフィギュアは未塗装であり組み立ては自分でしなければいけないのだが、上手い人にやってもらったという。

 

(財前……引いとったんやろうか)

 

そのキャラクターが好きだからと言ってフィギュアを貰ったら困ってしまうこともある。

ルシエラはその時のことを回想しながら白石に聞いた。

 

「俺の嫁……とか言っていたんだけど、日本人は人形と結婚する風習でもあるの?」

 

――俺の解答がルシエラちゃんの日本観を左右するかも知れへん。

そう白石は財前が言った言葉の意味が分からずに疑問に想っているルシエラを見て感じた。

 

「日本人が結婚出来るのは男やと十八歳のはずなんやけど……日本人には人形と結婚するとかそう言うのはないで。韓国やったら抱きまくらと結婚した人とか居るらしいで」

 

俺の嫁という言葉を聞いて財前はきっと喜んでいたのだろうと白石は察するがそれ以上は触れないでおく。

白石なりの優しさであった。

 

 

 

咳払いをして話題を切り替え、白石はルシエラに雇う期間と依頼料について話す。

雇う期間はとりあえずは一年から二年の間で状況によっては短くなったりするかも知れない。

状況が不明瞭なところがあるのでこれはルシエラも納得した。

守って欲しいことは殺人はしないことと能力は出来る限り使わないようにすること、お金も程々に使うこと、依頼料について白石はこれはどれぐらいあげればいいのか分からないと伝えるとルシエラは思案した。

 

「月に一回か二回、食べ物を奢ってくれればいいわ」

 

「食べ物か。本とかは自分で買うやろうしな。ルシエラちゃん」

 

「串カツとかたこ焼きとか美味しかったから」

 

串カツもたこ焼きも買い物に出たときにルシエラが食べたものだ。大阪と言えばこれだと食事をする時に

謙也が選んで白石達で食べたのだ。

 

「好き嫌いとかあるんか?」

 

「あるけど、四の五の言っていられないときは何でも食べるわね」

 

食べ物の好みを言っていられないときは嫌いな部類に入ろうが食べるのがルシエラらしいが、

美味しかったと少し笑って彼女は話したので、串カツとたこ焼きは好きな部類に入ったのだろう。

 

「食べ物も……高いもんは買えんけどな」

 

「たこ焼きとかで構わないわよ。あるいは何処か案内してくれれば、大阪城とか」

 

「見に行ったとか言っとらんかったか」

 

「あれはあの時、貴方の話に合わせた嘘よ。見学なんて行ってないわ」

 

言われて白石は気がついたが、ルシエラは大阪には観光に来たわけではなく、暗殺の仕事をするために来たのだ。

大阪城なんて見学に行く暇もなかっただろうし、行く気にもなれなかっただろう。

白石は観光の話をしたときはルシエラが殺し屋だとは知らなかった。

観光に来たとルシエラは嘘をついていたため、白石が出した観光名所を行ったことにしたのだ。

 

「大阪言うても見取らんところばっかりか」

 

「通天閣とかは遠くで見たけど」

 

「それはテレビで見たみたのと同じみたいな意味やな……大阪城、今度行こか」

 

知られても構わないことだったのでルシエラは話題に出したのだろう。

 

「連れていってくれるの? 行ってみたいわ」

 

「大阪はおもろいもんがぎょうさんや」

 

白石がルシエラに笑いかける。ルシエラが軽く微笑んだが、すぐに気配を感じたのか、気配のした方を向いた。

 

「蔵リンにルシエラ、ここに居たのね」

 

「二人とも、これからリハーサルやるから見学に来んか」

 

「小春さんと一氏さん」

 

ルシエラが二人の名を呼びながら白石を見上げた。目で名字はこれであっているわよね? と訴えている。

白石は軽く頷いて合っていると返した。

 

「リハーサルか。見てみようか」

 

「それに新聞部の新聞も今日は配布されるのよ。これ、新聞部部長が蔵リンに渡して欲しいって」

 

「蔵ノ介が小説を書いてるっていう……」

 

小春が差し出してきた新聞部の新聞を白石はルシエラに渡した。自分は後で見れば良いと想ったからだ。

新聞部は春休みの号外として新聞を出していた。新聞部が出している新聞は壁新聞として大きく張られるのが一枚と配布されるのが百枚ほどだ。部数は時と場合によって変わる。

 

「どや。俺の小説?」

 

新聞に目を通したのは三十秒程度だ。ルシエラは新聞から目を離すと白石を見上げた。

 

「……蔵ノ介は人間が出来ていると想っていたけれど自転車のことと言い、これといい、おかしいところがあるわね」

 

「新聞もう、読んだんか」

 

「これぐらいならすぐだけど」

 

ユウジが驚いているがルシエラは何事もなかったかのように返す。

 

「どの辺がおかしいんや。ルシエラちゃん、俺の推理小説は読めば毒草の魅力に浸れるんやで」

 

「全世界の推理小説家に謝りなさい。蔵ノ介」

 

「面白ければいいのよ。蔵リンの小説は推理小説と言うよりも、困惑をまき散らすギャグ小説なんだから」

 

「ギャグなら許すわ」

 

白石としては自分が持っている毒草の知識を使うには推理小説が一番だと書いてみているのだが、ルシエラからはだめ出しされて、小春の補佐を受けていた。白石の小説は毒草の名前が先行していて、話はずれまくっていたりするのでルシエラの反応は正しいのだが、白石としては不服だった。

 

「お嬢様って、新聞を読むのも早いんか」

 

「情報入れるために読むのだったら……ね。ちゃんと読むと時間はかかるわよ」

 

「速読って奴ね」

 

お嬢様とユウジが言ってきてルシエラは返答していたが、お嬢様と新聞を早く読めることについては関係が無いだろうと言う風な表情をしていた。ルシエラは速読も出来るらしい。速読だと情報を入れるためだけに法則性などを理解しながら、書物を早く読むので読むスピードは速いのだが、文章で感動したりすることはない。

 

「それなら速読せんと読めば俺の小説の素晴らしさが……」

 

言いかけた白石をルシエラが見上げてきた。どちらにしろ同じよ、と目だけで言っている。

小春が両手を軽く合わせて音を立てた。

 

「とりあえず、四天宝寺華月へ行きましょう。軽音楽部がまずリハーサルをしているわ」

 

軽音楽部はいくつかのグループに分かれてバンドを組んでいる。

 

「謙也がドラム叩いとるで」

 

「ドラムとか出来るのね」

 

(こうなったらルシエラちゃんが認めるみたいな毒草小説を、ルシエラちゃんでも知らんような毒草使えば感動するはずや)

 

小説のことを頭から追いだして小春とユウジと四天宝寺華月へ行こうとしているルシエラの背中を眺めながら、白石は決意する。しかしその決意はかなり間違っていた。

 

「四天宝寺ってスポーツが強いのね」

 

「セパタクロー部とかも強いで。たまにバレーボール部と争っとるけど」

 

「ルシエラは文化部は何に入るつもりなのかしら」

 

「まだ決めていなくて」

 

「お笑い研究部とか落語研究部とかもあるで」

 

ルシエラは折りたたんだ新聞を鞄に入れていた。

入学してからの話になるが四天宝寺の運動部と文化部、どちらも一つずつ入らなければいけないというルールにより、彼女は文化部にも入らなければならない。

 

「他にはどんな部活があるの?」

 

「文芸部に新聞部、演劇部に軽音楽部に、美術部に映画部、仏閣愛好会にアップリケ部に諜報部ね」

 

「仏閣愛好会は師範さんが入っていそうね。アップリケ部って……」

 

微笑みながら言うルシエラではあるが白石は表情から、困惑がほんの少しだけ込められていることに気がついた。

注意深く観察しつつ、ルシエラの素を知っていないと分からない反応だ。

師範は石田銀のことであり、ルシエラの推測通りに彼は仏閣愛好会に入っている。

 

「手芸部のことや。でもたまに運動部の部室に押し入ってアップリケをユニフォームに縫うって活動をしとる」

 

「……その活動はいらないと想うわ……手芸ならやってるけど」

 

白石が伝えるとルシエラは無表情で言っていた。

 

「どんなものを作ったりしていたの?」

 

「白い服とか、小物とか、編み物とかもしていたわ」

 

(まさかあの白ゴス服、手作りやったんか……!?)

 

かつて自分に預けられた白色のゴシックロリータ服、あれはどうやらルシエラの手作りの品だったらしい。

心中で白石は驚愕する。彼は小春とユウジとルシエラの会話を聞きつつ、黙っている。

 

「ユウ君と同じぐらいに器用なのね。ユウ君も小物作りが得意なのよ」

 

「物まねも得意やで! 漫才は期待しとってや。イタリア人も笑わせるで」

 

会話をしていると四天宝寺華月前に着く。小春とユウジは先に行っていると白石とルシエラと別れた。

 

「黙っていたけれど……小説の出来が悪いのは否定しないわよ」

 

「否定せんのか。……白いあのゴシックロリータも自分で作っとったんかなって」

 

「……悪い? あの服は特別な布を使っているから装備品としても良いのよ」

 

手作りだったらしい。買い物の時にミシンも買っていたので、また作るつもりなのだろう。

特別な布というのはルシエラの九番目の血に反応して、力の補助をしてくれる布だとルシエラは説明した。

 

「防御は……」

 

「避けたり狂気の血の再生能力を使用するのよ……再生能力は自動で出るけど」

 

白いゴシックロリータには防御力などはない。攻撃が来たら回避するか、当たったとしても狂気の血が持つ再生能力を使用すると言うが、再生能力は瀕死の状態ではないと発動しない。

 

「それやったら……ジャージとかで戦った方がええ気がするで。戦いはあかんが……自動回復とかも他に便利なの無いんか」

 

「デューも私も回復は出来るけど、時間かかるわね。自動回復もあるんだけど、五番目の血とかになるし」

 

「五番目……」

 

「熱操作」

試しに聞いてみるとルシエラは答えてくれた。

血によって出来ることは大幅に違ってくる。五番目の血の能力は熱操作であり、超高温と超低温、或いは一方だけを操作することが出来るようになる血だ。この場合での回復は熱で傷を塞いだり体力を回復する。

 

「人間ガスレンジに人間冷蔵庫能力か」

 

「日常生活に便利な血ならデューなんだけど、八番目の血とかも便利ね。これは天才になれる血で……」

 

ディオは六番目の血と十一番目の血、電撃精製と物質精製の能力を持っている。

八番目の血は覚醒すれば脳内に神経ネットワークのようなものが形成され、人間コンピューターのようになり、何でもこなせる天才になれるとルシエラは言う。

 

「小春も頭はええんやけどそれよりも頭良くなるんか」

 

「どれぐらい頭がいいの」

 

「IQは二百やで」

 

IQは知能指数だ。小春はIQが二百なので非常に頭が良いと言うことになる。某探偵の孫がIQが百八十なのでそれよりも二十は高い。

 

「補佐に一人、頭がいい人が居てくれると助かるわよね。小春さん、補佐が得意そうだし」

 

話している間に判断したのだろう。

 

「頭いい奴の頭ってどうなっとるんやろうな」

 

「八番目の血だと解剖してみたら脳の神経回路、ニューロンが非常に複雑になっていたって」

 

「……解剖……」

 

「狂気の血は引いて覚醒すると身体の機能が変わるとかそんなのばかりだから」

 

白石が顔をしかめたのは解剖と言ったときである。ルシエラも体内に薬物精製プラントがあると言っていた。

ディオも体内に発電細胞が出来たと話していた。

一般人とは身体の機能が違う。そのことを呟いたルシエラは本人にとっては当然のことを言っているようだったが、少し寂しそうだった。

 

「成長とか促されるとかはないんやな」

 

「……植物なら因子を埋め込んで大きくできるんだけど……蔵ノ介、私が小さいと言ってるのかしら」

 

「百五十センチはあるんや。昔に流行したミニモニとかなんて四人全員が百五十センチ以下でな、それに比べたら、ルシエラちゃんは大きいで」

 

見上げてきたルシエラの表情は白石を睨み付けていた。白石は慌ててフォローするのだが、ルシエラは睨んだ表情を

変えないままで無言で四天王寺華月へと入っていく。

 

「怒ったんかな……」

 

成長に関しては戦闘能力の低下並みに、あるいはそれ以上に気にしているようだ。白石はルシエラを追いかける。

少しずつ分かってきた彼女は、想っていた以上に子供っぽいところがあった。

 

 

【Fin】




ルシエラはフィギュアの価値とか分からないです。
八番目の血でエイトス・ブラッドです。

ルシエラが使いたい時って言うのは読んでいけば解るはず。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。