読まなくても本編だけで話は通じるようにはなってます。
オリキャラだらけだったり。財前がミク好きになっていたりとか
関東サイドの話。青学とかは出てないです
【価値観の違いと相談と】
東京都にある聖ルドルフ学院、創立してそろそろ五年になるまだ新しい学校だ。中等部と高等部がある。
テニスや野球に力を入れていて都外から選手を集めているカトリック系の学校だ。
「ゲームの実況は取り終わったし、夜にはウェブラジオでもしてみるかな」
聖ルドルフ学院には寮がある。
中等部の女子寮の一部屋でデスクトップのパソコンの前で呟いたのは、長い髪をシニヨンで纏めた
灰色の瞳をした少女だった。
部屋は二人部屋ではあるのだが、相方は実家に帰っていて数日間は帰ってこない。
整頓されている部屋にはテニスラケットやテニスバッグも置かれていた。
パソコンの電源を入れて、インターネットを始める。
いくつかのソフトを起動させると、反応があった。
「……おや?」
彼女は首を傾げ、その反応にマウスを動かした。
「カレーは美味いよな」
「アンタは昔からカレーが好きよね」
女子寮の一階にあるロビーでは夕食が振る舞われていた。
ロビーには大きなソファーがいくつかと、大きなテーブル、薄型の液晶テレビが置かれている。
そこに居たのは褐色の肌をした少年や、茶色い髪を二つの太い三つ編みにした眼鏡をかけた少女だ。
二人は三人掛けのソファーに座り、日本の定番メニューとも言える白いご飯に肉や野菜がカレールーで煮込まれた洋食、カレーライスを食べている。
「寮母さん、すみません。俺たちの分まで」
「管理人には連絡をしておいたし、カレーは作りすぎたから」
恐縮していたのは茶色い髪を刈っている額に傷のある少年だ。一人がけのソファーに座り、
スプーンをカレー皿の上に置いている。
寮母と呼ばれたのは二十代に見える女性であり、黒い長髪をしている。
服の上から赤いチェックのエプロンを着けていた。
「相談事があるとは言え、女子寮に来るのも……」
「……でも、男子寮に行くよりは……私としてはこっちがいい……」
カレーが付かないように丁寧にカレーライスを食べているのは黒い髪をした少年だ。
服の柄が個性的であり、紫色の長袖に赤い薔薇が描かれている。
この場にいる者達は彼の服については何も言わないようにしていた。
彼は一人がけのソファーに座っている。
折りたたみ式の背もたれが着いたパイプ椅子に座り、左手でスプーンを持ってカレーライスを口に運んでいたのは、茶色い髪を背中まで伸ばし、前髪を上げ、額を出している少女だ。
男子寮がテニス部員や野球部員、ごく少数ではあるが事情があり寮暮らしをしている者達が居るのに対し、
女子寮ではほぼテニス部員しか居ない上に殆どの者が実家に帰っているため、静かだ。
「観月、四月からテニス部もそうだけど生徒会も動くのよ。アタシが副会長でアンタが会長」
三つ編みの少女、聖ルドルフ学院女子テニス部副部長にして四月からは生徒会副会長もやる大瀧歌織は、
男子テニス部マネージャーにして四月からは生徒会長もやる観月はじめに言う。
「僕としては副会長がしたかったんですけどね。どうしてこうなってしまったんでしょうか……」
「礼拝堂で懺悔でもする……?」
「したところで……原因は周囲にありますからね」
「頑張れ。観月君。歌織も補佐してあげて」
観月の嘆息を聖ルドルフ学院女子テニス部部長である茜崎聖良は微笑で受け止めた。
聖良はいつもは無表情ではあるが、時折、笑ったりもする。
「おかわりないのか?」
「赤澤部長、寮に入ってないのに夕食はご馳走になると言うかよく食べるというか」
赤澤は観月や裕太の皿よりも大きい皿にカレーを盛りつけ、それを八割方食べていた。
この中で唯一、赤澤は自宅からルドルフに通っているが良く寮に遊びに来ては食事を取ったりしている。
裕太は言いながらテーブルの上に置いてあるプラスティックの透明なコップに入ったホーリーバジルティを飲みながら、カレーを食べていた。
「裕太君はカレーが嫌い? 余り進んでないけど……」
「少し、辛くて……カレーは美味しいです」
「アンタは甘党だからね」
寮母が裕太を気遣う。歌織が代わりに答えたが裕太は甘党だ。
裕太以外の者達はカレーの辛さは今の味が丁度良い。
辛さの度合いで言うとカレーは中辛だ。カレーライスは美味しいのだが、裕太は辛味に苦心していた。
空っぽになっている赤澤の皿を寮母がお代わりを入れに持って行く頃、聖良や観月、歌織もカレーを食べきり、裕太もほぼ平らげていた。
「裕太君、先輩達も丁度良かった。相談に乗って欲しいことがあるんだ」
「森村。相談って?」
食事が終わろうとしていたとき、階段を下りてロビーの方に来たのは森村撫子だった。
裕太の同級生である。長い髪の毛をシニヨンとバレッタで纏めて、灰色の瞳をしていた。
撫子と裕太は中学一年生で、観月、赤澤、聖良、歌織は中二だ。四月に入れば学年が一年上がる。
「相談ですか? 撫子」
カレーライスの皿を片付けに行こうしていた観月だが撫子が相談事を持って来たので、そちらの方に興味を引かれる。
撫子が観月の言葉に首肯した。
その様子を見ながら歌織は聖良の分の皿を自分の皿と共に重ねて上に二人分のスプーンを置き、観月に押しつけようとしていた。
寮母が赤澤のお代わりのカレーライスを持って来る。
「ぜんざい君からスカイプで相談を受けたんだけど、私じゃ上手く答えられないんだ」
「どんな相談よ」
「彼、イタリア人から約二万円の初音ミクのフィギュアを貰ったのらしいんだが、どうしたらいいのか分からないらして」
撫子が相談内容を伝えた。
その内容に場の空気が止まる。寮母はカレーの皿を持ったまま立ち尽くしているし、赤澤と観月は困惑し、聖良はお茶を入れたコップを手に持ったまま動かない。歌織は眼を細めていた。
裕太が代表して、撫子に全員が思って居るであろうことを伝える。
「森村、一から説明してくれ。意味不明だ」
「……意味不明かな?」
「相談に乗ろうにも乗られないっての。初音ミクのフィギュアは分かるがイタリア人のところとか」
裕太は呆れる。
撫子は左利きであり、左利きの人間は感覚で生活することが多い。
何となくで理解してしまうために彼女の中では、相談内容は分かるのだが、言葉にすると不明瞭となる。
特に撫子はその傾向が非常に強い。
左利きはこの場には裕太と聖良と寮母が居るが、彼等でも少ししか話の内容が分からない。
「撫子、部屋のスカイプ、一回きってきなさい。こっちで繋ぐわ」
「分かりました」
歌織の指示に撫子は従い階段の方へと行く。聖良はコップに入れたホーリーバジルティを飲み干す。
「……ぜんざい君って、ボカロPで撫子のネットのお友達で、歌織とも知り合いだっけ」
「知り合いね。彼、初音ミクが好きなんだけど」
観月に皿を押しつけた歌織はソファーから少し離れたところにあるパソコンデスクの方に行き、
置いてあるパソコン本体の電源を入れてモニターの電源も入れた。
ロビーに置いてあるパソコンは共用のパソコンだ。
希望者は自室にパソコンを置いているし、撫子もその一人ではあるが、全員で相談が出来るロビーで
聞いた方が良いと歌織が判断した。撫子の部屋に全員で押しかけるわけにもいかない。
「歌うパソコンのソフトだったかな。世の中は発展しているね」
「そうですよね。ネットやパソコンの発達は非常に速いです」
寮母が観月の持っている皿を回収する。すみません、と観月が言いながら寮母の言葉に同意した。
ボーカロイドは音声合成技術の一つであり、それを使った関連ソフトのことでもある。歌詞を入力すれば、その歌詞をソフトが歌い上げるのだ。初音ミクはボーカロイドであり、人気はトップクラスである。
テレビでも何度か取り上げられているため、存在は知られていた。
「きってきました」
「こっちで繋いで。マイクやヘッドセットはいる?」
「いりません。文字だけで会話してたので」
戻ってきた撫子はパソコンデスクの椅子に座りスカイプを起動させた。スカイプはインターネット回線を利用した電話だ。
音声の会話の他にも文字で会話も出来る。自分のIDを入れて起動させてから撫子は画面にキーボードで
ただいま、と打ち込んだ。少しするとおかえりと言う文字が返ってくる。
「……詳しく事情を教えて……とか打って、教えて欲しいかも」
「イタリア人と初音ミクが混ざり合いませんしね」
ソファーに座っていた聖良と側に立っている裕太が言う。撫子の背後に歌織が行き、移動させたパイプ椅子に座る。
赤澤はカレーを食べ続けていて、観月はホーリーバジルティを飲んでいた。
詳しく事情を教えて欲しいと撫子はメッセージを入れた。
「撫子ちゃんは、夕飯は?」
「相談が一通り終わったら食べます」
寮の人数が少ないこともあってか、夕飯は希望の時間に出して貰えていた。撫子は相談を優先する。
スピーカーから音が鳴った。
「ぜんざいだっけ。仲が良いんだな」
「いつか、会ってみたくて」
「返事が来たわね。事の始まりは俺の所のテニス部部長がイタリア人の女の子を助けたのが始まりだった……」
「……大瀧さん、撫子、茜崎さんと僕も意見は同じです。細かく相手に聞いて下さいね」
赤澤に言われ、撫子が呟く。
ぜんざいというのは本名ではなく、インターネット上で名乗るハンドルネームだ。ボーカロイドを使い、曲を作っている。
撫子は彼とネットで知り合った。
歌織が文章を全員に聞こえるように文章を読み上げていく。彼はテニス部に所属をしているが、テニス部の部長が、道ばたに倒れているイタリア人の女の子を助けたという。
彼女は病弱で重度の貧血を起こしたとかで、数日間、テニス部の先輩の家族がやっている病院に入院していたが、入院中に日本に住んでみたいと想うようになったらしい。
「イタリア人ならイタリア語だろう? その子と意思疎通が出来たのかよ」
「彼女……日本語が話せるみたいだ。それも日本人並みに上手らしい」
「森村も言語は英語とかドイツ語とか日本語とか出来たよな」
「出来ますが、イタリア語は全然分かりません」
イタリア人はイタリア語を話す。全員がそうではないだろうが、フランス人ならばフランス語、スペイン人ならスペイン語とその国の主要言語は話せる。しかし、ここは日本だ。イタリア語が出来る日本人は珍しい。
撫子は帰国子女であり、英語やフランス語も出来るが、イタリア語は出来ない。話ながら撫子はキーボードで、ぜんざいに対するメッセージを打っていく。
返事はすぐに来た。
一人で日本に住むと言ったらしい女の子を心配し、スピードスターの先輩の家が受け入れてくれた。
ホームステイをすることになり、ぜんざいは家具や家電が揃えられる店を探して欲しいと頼まれて、インターネットで調べて一日と半分使い、買い込んだ。
女の子はぜんざい達の通う学校にも四月から行くことになり、テニス部のマネージャーにもなると言う。
「ぜんざい君、どこのひと?」
「大阪? って聞いたことがあります。連想するのは……人工衛星からビーム打ったり、冬に咲く桜並木とか?」
インターネット上ではプライバシーは伏せておくべきだ。仲良くなっている度合いにも寄るが、
相手によっては、個人情報を悪用されたりしてしまう。
大阪というと撫子の中のイメージは読んだ小説から連想されるものの他には
蟹や小太鼓を叩いている眼鏡人形とか、騒がしそうなところとか、無い。
他のメンバーはたこ焼きやお好み焼きや大阪城など撫子よりはまだ大阪のイメージを持っていた。
「その大阪は違うから」
「女の子はマネージャーの仕事をしていて、俺は部活をしていて午前中には部活が終わって……ここからか」
裕太が撫子にツッコミを入れる。
歌織はまた読み上げた。部活は午前中に終わり、ぜんざいは帰ろうとしていたらしいが、そこに女の子が来てラッピングされた大きめの箱を渡したという。
開けてみた彼が見たのは六分の一サイズの初音ミクフィギュアだった。
箱を落としそうになったのが堪えたらしい。驚く財前に彼女は買い物の時にぜんざいが初音ミクというのを見ていて、買い物を手伝ってくれた礼にと初音ミクの物を探していたらフィギュアがあったので買ったという。
未塗装のものだったので組み立てて塗装をして貰ったりしたそうだ。
値段はおよそ二万円、四捨五入で切り上げをしたので二万円となっているが、切り上げを止めても、
これを買うには諭吉さんが二枚も居る。女の子はあっさり出したらしい。
「お嬢様なんだな。二万円だぞ……二万もあれば、懐が助かるぞ!? 大金だ」
「二万円は高いですね……」
「それより店を調べて買い物に付き合ってくれただけで二万のミクは……驚く……」
「イタリア人、凄いですよ」
相談内容のイタリア人が何か凄いと言うのが彼等の認識となっていた。まとめてみれば日本人並みに日本語が上手く、買い物をちょっと手伝うだけで約二万円の初音ミクのフィギュアをくれる。
何かが飛んでいた。
「景吾もそこまでではないよ……」
金持ちの幼なじみを思い浮かべながら撫子は驚いたことをぜんざいに伝えた。そこから返事が来る。
初音ミクというのが良く分からなかったから商店街を探してたまたまみつけた初音ミクフィギュアを買ったらしい。
貰った彼は部長にフィギュアのことは伏せて相談し、部長が彼女に言ってくれることになった。
ぜんざいはフィギュアを持って帰宅はしたが、気が気ではなかった。
「ミクのフィギュアもまだ安いのはあるんだけど八千円とか」
「八千円でも……フィギュアって高いよね。好きな人は買えるんだろうけど」
撫子の後ろから歌織がキーボードを叩いて、タブブラウザを呼びだしてからフィギュアのサイトを出して見せた。
聖良や観月も後ろから覗き込む。三千円ほどのフィギュアもあるが良いフィギュアだと高くなっていく。
「でも、大瀧先輩、約二万円のフィギュアも八千円のフィギュアも買い物に付き合ってくれた礼としては高いですよ」
「せめて五百円のねんぷちかしら」
「ねんぷちでも……高いんじゃないでしょうか。彼からしてみれば大したことはしてないんです」
裕太が言ったことは尤もであり、歌織は値段を下げては見たが観月が否定する。
”大したことはしていないのに高いフィギュアを貰ってしまった”と言うのがぜんざいの悩みなのだ。
ねんぷちはねんどろいど・ぷちの略であり中学生の小遣いでも手軽に買える方のフィギュアだ。
「……分かるかも知れない。私の知り合いにも似たような人が居たし」
「寮母さんの知り合いに?」
プラスティックのコップにホーリーバジルティを入れて、全員に配りながら寮母が話に加わる。
昔のことを懐かしんでいる表情を浮かべていた。
「あの人もお金持ちで、書類をついでに手伝ったら高級なお菓子をくれて、味わって食べた」
「菓子なら良いけどフィギュアは食えないからな」
「その人は天然だし言っても仕方がないと私と……管理人は黙っておいたけどさ」
「……食べて処分も出来ないからね……フィギュア……重いね」
「茜崎さん、赤澤君のネタを使わなくても良いですから」
撫子は寮母や赤澤、聖良や観月の会話を聞くことで一人では分からなかった相談事の問題点が分かってきた。
ぜんざいにとってフィギュアは重い。
お礼が十倍以上で帰ってきていて、嬉しいを通り越して、プレッシャーになっている。
「フィギュア、その人に返して、こんなにお礼をしなくても良いと教えた方が良い気がする」
「そうだよな……黙っておいたりすると……そのヒトも学校通うんだろ。ぎくしゃくした付き合いになるだろうから」
「日本語が分かるなら意思疎通が出来るだろうし、話せば分かるだろう」
一年生コンビは先輩達や寮母の会話を聞いて、解決案を出した。
フィギュアはそのイタリア人の女の子に返し、やったことにしては高いなどと理由を説明するべきである。
出した解決案を撫子はスカイプのメッセージ覧にキーボードで打って返信した。
「ついでに初音ミクやボーカロイドの歌を聴かせてみると良いかも。上手くいけば同志よ」
「歌は聞いてみないと、解らないしね。ボカロは好み別れるけど」
歌織やボーカロイドで趣味で曲を作っているし、聖良は動画鑑賞が好きだ。
ボーカロイドを使った歌というのは機械音声のようだと倦厭する人も居るし好みがあるが、聞かなければまずは分からない。
「イタリア人だからボーカロイドの歌とか聞いたこと無いだろうしな」
「恐らくは、そうでしょうね」
ぜんざいからの返事を見ながら撫子は他の案も打つ。ぜんざいの方は撫子達の案には賛成であり、そうしてみるっすわ、と言っている。
「ぜんざいの嫁のミクからにしてルカとかは止めるべきね。オススメ歌はいくつかチョイスするわ」
「自分の歌を選ぶとか?」
「そんなことしないわよ」
ルカこと巡音ルカはボーカロイドの一種だ。ボーカロイドも多種多様であるが、まずはミクからにするべきではある。
歌織もぜんざいとは会話をしたことがあるので彼がミクを俺の嫁宣言していることは知っていた。
俺の嫁というのは好きという言葉の表現の一つである。
「森村、もう一つ、アドバイスしておけ。帰国子女って手間がかかるところがあるから、見ておけって」
「裕太君……何だかそれはとても実感のある言葉のような気がするんだが……」
「実感があるから言ってるんだよ」
裕太が軽く青筋を立てていた。
撫子は帰国子女だ。日本で暮らした時間よりもイギリスで暮らした時間の方が長い。英語や他の言語が話せるのも、イギリス時代の影響だ。
ウェブラジオをしている撫子だが元は歌織が日本語が苦手だった撫子に日本語を使わせようとゲーム実況などをやらせたのが
最初だ。裕太もゲーム実況を手伝ったりしているが、彼は撫子とたまたまクラスが一緒になってしまったり、テニス部に所属しているからと、ロビーにいる先輩達から彼女の補佐、あるいは保護者の役割を押しつけられた。
彼女は強い方向音痴であり、目的地に向かっているつもりでも違う方向に行ってしまうことが多々あるのだ。
「おおきに。助かったっすわ……解決にはなったみたいね」
「ありがとうございます。先輩達、裕太君に寮母さんも」
「イタリア人はさすがに……撫子だけでは追えなかったでしょうからね」
パソコンの画面から目を離し、上半身だけ振り向いた撫子は礼を言っていた。観月が微笑む。
誰もが撫子の相談内容に困ったが、ひとまず悩みは解決したようだ。歌織も画面から目を離す。
「俺的にはイタリア人について気になるんだが、他にも情報とか聞けないのか?」
「聞いてみます」
赤澤もそうだがロビーの面々はイタリア人について気になっている。
「大阪のノリにはついて行くのが辛そうだった。俺的にはその気持ちが分かる……」
「……大阪人なのにか?」
「ひとまとめにしても……大阪人とか……細かくしたら分かれるよ?」
歌織が読む。
赤澤は大阪人が大阪のノリに着いていけないのかと疑問に想っていたが、聖良は補足を入れる。
大阪人も関西弁を話すがノリが良くない者も居る。テンプレートはこういった傾向が多いと言うだけであり、全てではない。
「補佐の話題引っ張り出してさ。仲良くなれれば逆玉狙えるかもとかアドバイス」
撫子の後ろで歌織が手を伸ばして撫子以上のスピードでキーボードを打ち、撫子のような口調で返信した。
「キーボードを打つのが早いですよね。大瀧先輩」
「裕太君も練習すればもっと早く打てるようになりますよ」
キーボードを見ずに文字を打つブラインドタッチだが、一番早く打てるのが歌織だ。次が観月になる。
他はそこそこのスピードだ。
「逆玉は狙う気はないっすわ。確かに家は出なあかんけど……」
「次男坊とかですか?」
「お兄さんにお嫁さんが居て甥っ子がいるんだって。同居中」
「サザエさんみたいだな。あれは婿養子だけど」
「赤澤、サザエさんは婿養子じゃなくて嫁の家に同居してるだけです」
撫子はぜんざいとたまに会話をするため彼の事情もいくつか知っていた。彼は両親と兄、義姉と甥と同居していて肩身が狭いとか、最近では余り両親とは会話をしなくなったなど聞いている。
「……ぜんざい君もよく知らないみたいだね……彼女については。スピードスターの先輩や部長なら分かるかもとか」
「いっそ……想像するとか?」
ぜんざいも余りイタリア人のお嬢様については知らないようだ。聖良の発言にロビーの学生達は考え込む。
「イタリア人はトマトとパスタ食べてるんだろ。ピザとか、コーヒー好きとか聞いた」
「食べ物ばかりですね。赤澤君」
イタリア人で思い浮かぶのは何かと言うことに関しては赤澤は食べ物ばかりだった。
ピザやパスタはイタリア全土で共通であると言えばあるのだが、トマトはイタリアの地方による。
ネットやロビーの会話は想像してみるイタリア人のお嬢様についての話題となっていった。
「お嬢様なら紅茶好きじゃないんですか?」
「ピアノとかヴァイオリンとか出来そう」
「……クリスチャン、とか」
「甘いものが好きだったりすると良い気がする」
「みんな、それ自分の好きなものを言っているだけで……お嬢様なら愛想笑いは出来るだろうな」
各々が抱いているお嬢様のイメージが言われていき、撫子はそれを上手く纏めながらぜんざいに送る。
ぜんざいの方も、ひらひらの服とか好きそうとか打たれている。
好き勝手に盛り上がっていた。
話し込んでいると、聖良がロビーにある大きな丸い壁掛け時計を見上げた。
「撫子……ご飯……食べちゃった方が良い」
「確かに。私、話し続けてると食べなさそうだから、ここでまたきりますね」
聖良に言われて、撫子は食事をするので一時落ちるとメッセージを打ち、ぜんざいの返事を見てからスカイプをきった。
「俺等も帰るか。人数が少ないとは言え、女子寮に長居すると不味いし」
「九時前には帰るつもりでしたよ。規則がありますからね」
「お邪魔しました」
赤澤が立ち上がる。
男性陣も相談が一段落したので帰ることにした。寮では規則上、夜九時までは教員や寮管理者の付き添いなく、出歩ける。規則は守るところは守っていた。
「管理人によろしく言っておいて。其れと明日は入寮者が来るから出かけられないとも伝えて」
「入寮者? 次期一年生か?」
「赤澤君達と同じで、次期三年生、九州から来るの」
寮の細々としたことを片付けていた寮母が観月や裕太に伝言を託す。女子寮には明日には入寮者が来ると言うことを赤澤は知らなかった。管理人は男子寮の管理者のことであり寮母の友人だ。
「すぐにレギュラーにも出来そうだから、戦力補強になるわ」
「どんな人だろう」
「強いよ……」
歌織はレギュラーの補強を望んでいた。撫子も話は聞いていたがやってくる先輩がどんな人かは知らない。
聖良はその人物を知っているらしく小さな声で呟いた。
「九州というと男子テニスでは……強い奴が居たな。名前忘れたが」
「忘れないで下さいよ」
「全く、赤澤は……」
赤澤の曖昧な言葉では誰のことを指し示しているか不明だ。裕太と観月がそれぞれ言う。
その様子を見て寮母は穏やかに笑っていた。
同時刻、ディオニージ・ドゥリンダナは日本の関東地方にあるホテルの一室でベッドに横になっていた。
シングルサイズのベッドであり、部屋はビジネスホテルだ。安眠するための設備が揃っていると評判のホテルで、値段も手頃であったため、部屋を借りた。
「ヴァルは日本に来たなら顔出せって言うし、ユースはファルソの処理は終わったって連絡くれたし、
……クラウは高校生? になるみたいだし、ダインスも学年が上がるし、クレールも元気そうだし、
アスカは未だに行方不明だし、あの女は……上手くやってるはずだけど……」
次々と最初の組織にいた頃の同胞を思い浮かべながらディオは様子を口ずさむ。
安否が分かっている剣王は、ほぼ日本にいた。唯一、ユースはイタリアにいるがたまに彼女も日本にやってくる。最年長のヴァルからは顔を見せろとは言われているが、見せる暇は無さそうだった。
ごろ寝をしていると、携帯電話が鳴る。ディオは携帯電話を取り出すとボタンを押した。
『ディオ、血は落ち着いてきたか』
「落ち着いてきてるよ。雇い主」
数時間前まで狂気の血や持って来たアイテムやらを駆使して戦闘をしていた。
雇い主からの仕事なのでディオはこなしてはいたが、この仕事が終わった後に追加で言われたことにディオは未だに戸惑っている。
『玖月機関も人手不足だ。手を貸しておけば貸しが作られるし、玖月の研究は私の研究にも役立つ』
「匣とかも作ってるよね……マルチだよね」
『時間はいくつあっても足りないよ』
”雇い主”の時間は大量にあるというのにそれでも足りないと言っている。匣というのはマフィア界で最近出てきた匣兵器のことだ。ディオもモニターとしていくつか使ったことがある。
通信で二人で会話をしているのに誰も会話に口を挟まない。ディオはまあいいかと心中で片付ける。
「おれ、年齢的には十七歳のはずなんだけど」
『学校には通ったことがないから良いだろう。私としても面白いデーターが取れる』
はずと言うのが着いているのはディオも自分の正確な年齢が分かっていないからだ。あの組織の生き残りで正確な年齢が分かっている方が少ない。他はおよその換算だ。
「明日にはアイツと待ち合わせして、アイツが通ってる中等部に行く……おれが居なくても平気?」
『手札は他にもある。私は私の身ぐらい自分で守れる』
「……気をつけてね……雇い主。寝るので電話は終わるよ」
ディオの”雇い主”はマフィア界ではマッドサイエンティストして名が通っているが其れよりも有名な称号がある。
アルコバレーノ、マフィア界最強と言われている七人の赤ん坊の一人がディオの”雇い主”だ。
暗殺されかけたのも一度や二度ではない。ディオもアルコバレーノについては少ししか知らない。
布団に潜り込む。
血は落ち着いては来たが今日も血を酷使した。傷は自力で治したが、眠って精神も回復させておくべきだった。
「でもまさかおれも、学校に通うことになるなんて――」
決定事項となってしまったことを言うと、彼は意識を深く落とした。
財前光はインターネットを一時的に休み、パソコンから離れる。
初音ミクのフィギュアは箱に入ったままだ。母親は部屋に入らせないようにしているし、入ってくるとしたら、兄ぐらいだが、兄が入ってきそうになったらフィギュアは隠せばいい。
彼が初音ミクが好きなことを兄は知っているが、問題はフィギュアの値段だ。
発見されたりすれば問い詰められるし、問い詰められて上手くかわせるかというと今回は自信がない。
「彼女に相談して良かった……悩み相談とかもたまにやっとるみたいやったからもしかしたら、想て」
書くことを自分で選べるのがネットであり、発言に責任を持たなければならないのもネットだ。
ミクのフィギュアを貰ったことはブログにも書かずに心にしまい、白石にだけ話し、
他にも相談出来る相手は居ないから探したところ、彼女がスカイプにログインしていたので相談をもちかけた。
お嬢様なので世間と常識がずれているかも知れないと財前は思う。
謙也が話していたが、病弱だったので勉強も屋敷に家庭教師を呼んでしていたらしいし、
外にも余り出ずにでずっと過ごしてきたらしい。
彼女の世間は屋敷の中であるが今の過ごさなければならない世間は大阪になる。
「でも、うちの学校もずれとるし」
四天宝寺が世間一般からずれているというのは通ってみれば分かることだし、
行われている学校行事を話題に出せば人によってはすぐに四天宝寺中学校と分かってしまう。
それぐらいに個性があるのだ。
明日も学校へ行き、部活をする。
その前にウェブラジオを彼女がやるみたいなので、それを聴いてからだ。
部活に影響が出ない程度に夜更かしをしたい。
心のつかえが取れた財前は作りかけの曲を作ろうとソフトを起動させようとしたが、ブログを更新しておこうと予定を変更してブログを書くためにサイトにアクセスする。
パソコンで書くほかにも、携帯電話で細かく……むしろ思いついたらすぐにデーターを送れる携帯電話の方で、
ブログを書いているのだが……更新していた。
明日のことを考えながら今日のことを記録する。明日は教えて貰った対策を実行する予定だった。
九州地方にある熊本県にある一軒家で、ささやかなパーティが開かれていた。
四人がけのテーブルの上には買ってきたオードブルやサンドウィッチが並んでいる。
「兄さん、大阪に行く準備は出来てる?」
「信用無いな。飛駿、後は俺が行くだけったい」
「今日のうちに千里の分も必要な荷物は全て宅配便で送ったわ」
「真鶴姉ちゃんはしっかりしとるっちゃ」
左手で箸を持ち、馬刺しを食べている少年と彼よりも同じように馬刺しを食べている背が二十センチ以上は高い青年、コップにジュースをついでいる背の高い少女と、肌が日焼けしている少女、千歳家の子供達は子供だけでお別れパーティをしていた。明日には年長組に入る千歳千里と千歳真鶴が熊本を離れるからだ。
千歳飛駿は自分の分の馬刺しを小皿に避けてから、千歳ミユキに姉が入れたジュースのコップを渡した。
「飛駿、ミユキのことは頼む。俺の分までミユキを守って欲しいばい」
「シスコンだよね」
「ミユキについてもだゆるわね……私は貴方がもだゆるけど、来年から私達、高校生よ」
もだゆるは熊本弁で言う心配の意味である。千歳は苦笑を笑顔で掻き消しながら従妹に言う。
「それなら真鶴も一緒に四天宝寺に来れば良かったのに」
「ノリがあいそうになかったの」
千歳と真鶴は同じ中学二年生で、四月には中学三年生になるが双子ではない。誕生日が一日違いの従兄弟だ。
真鶴と飛駿、千歳とミユキがそれぞれ姉弟で兄妹だが、小さい頃から皆で共に過ごしてきた。
飛駿は相変わらずの姉と従兄を眺める。
従兄は進路の話をされることは苦手であるが、来年は彼も高校生だ。進路の話はついて回る。
実姉については心配していない。小さい頃からあの放浪癖がある奔放的な従兄の補佐をしてきたのだ。
「出来る限り見るようにはするけど、俺も今年から中学生だし……学ランはお古だし」
「制服って高いし、千里のを着れば買わなくて良いから経済的」
今年から飛駿も中学一年生だ。千歳や真鶴が通っていた獅子楽中に通う。
千歳が昔に着ていた学ランを……中学一年生の頃に買った学ランだ……着ることになる。
「飛兄ちゃんはテニス部には入る?」
「陶芸していたいけど、見てからだな。兄さん達が抜けたテニス部なんて……」
「お前には負担かけるかも知れん。俺も真鶴もテニス部だと有名っぽいから」
有名っぽいどころか千歳は九州二翼と呼ばれた九州では敵無しとされている強い選手の片割れだし、
真鶴も九州内ではトップクラスの実力を持っている。
「去年はベスト四にはなったけど……今年は全国に行けるかも不明ね」
この場に居る全員の共通点の一つはテニスをしていると言うことだ。
兄さん達と複数形で行ったのは千歳以外にももう一人テニス部を抜けた者が居るからだ。全員が知っているし、付き合いがあった。
真鶴の言うことは的確ではある。千歳ももう一人も抜けたテニス部は戦力が不足している。
「四天宝寺って、去年のベスト四だったような……」
飛駿の呟きに頷いたのは真鶴だ。
「残りの二つは立海、牧ノ藤ね。立海が二連覇したの」
「牧ノ藤の方が四天宝寺よりも強いっちゃ?」
「去年の西日本大会も見たけれど……四天宝寺の方が強かったわね」
千歳が四天宝寺に転入を決めたのはもっと上のレベルにいけるからであると飛駿やミユキは聞いている。
四天宝寺に行くことにしのも西日本大会が一つのきっかけであるらしい。
「明日はミユと見送りに行くから、父さん達やおじさん達は分からないけど」
「俺は大阪で真鶴は東京。しばらく離ればなれったい。連絡はすると」
「人様に迷惑をかけちゃ駄目よ。千里」
「兄ちゃんと真鶴姉ちゃんのところ、遊びにいくっちゃ!」
明日は新幹線で千歳も真鶴も新天地へと行く。しばらくの別れだ。明日の出発に影響がない程度に
宴は続いていた。
【Fin】
ルドルフのオリキャラの方がルシエラよりもずっと前から
出来ていたりとかで、会話だらけというかこんな繋がりもあるんだ
みたく話は書きたくて書いてみたり
千歳家は熊本弁変換辞書が昔使っていたのが使用不可能に
なっていたりして会話を書くのは大変だったりとか
観月が次期生徒会長になっているのは寮生管理委員会とか
決まってなかったぐらいに生徒会長にしたので
未だに生徒会長です
寮母さんとか色々居ますが彼等も彼等なりに日常を過ごしてます。