東方流星記 ~ Imperial Fugitive.《帝国の逃亡者》   作:Exar Kun

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招集訓練があり、更新が遅れてしまいました。申し訳ありません!


第7話A Crimson Command.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キーン キーン ―

 

 キン キーン ―

 

 

 電灯など必要とせずとも外より照らす日光が照明となる中、機械から発せられるような効果音が部屋中に響き渡る。人間の接触効果に依れば、人は住居に慣用すればする程狭小に感じると言うが、この居間はその理論に謀反を企てたの如く結果―――むしろ広大になりつつあるのではないかと言う錯覚を観取する。

 

 

 キーン キーン ―

 

 

 集中が途切れ、不可解な現象について思考してしまう。そもそも何故このような考えを浮かべたのだ?改めてこの屋敷についての思うところが存在したのか、はたまた先週にも感じた無意識的な事象だと言うのか・・・

 

 いや、これは後者がその源泉として最も類似していると言えるだろう。"何か"に対する恐怖、不安、屈辱、焦り。これらの感情からの解決として時に人は避難口を探る為、現況を棚上げしようとする。これは結果の最善と良を目的とし、抑圧するのではない―――目を逸らすと言い換えることも可能であろう。だが前者と異なり、後者に陥った場合は、現況に付随する認識が極めて低下する―――つまりは

 

 

 ピピー ―――

 

《YOU LOST!》

 

 

「いぇーい、また私の勝ちぃ!」

 

 

 感情の原因に対処出来ないという事だ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははは!アル弱、弱すぎ!まだ触れて一日も経ってない相手に負けるなんて!」

 

 対戦相手の兎妖怪が、目の前でゲラゲラと腹を抱えながら笑いこける。見ただけで相手を馬鹿にしていると認識可能な程大袈裟に・・・

 

「マグ、私とこいつの差は?」

 

「Ms.イナバガ6勝0敗、マスターハ0勝6敗デス」

 

 審判?を務めた相棒が無機質な音声で戦績を発表する。その差は圧倒的であった。これが過去の艦隊戦の結果とするならば、指揮官たる提督は降格させられ、アウター・リムの地上基地へ転属となるか、ISBの査察対象と化すだろう。

 

 そう思いつつ視線を下げる。その先には常時保持するミニ・パッドを形状変化無しに拡大したやや大型のパッド。そしてプレイしたゲームは所謂エアホッケーのアプリである。

 

 ルールは至ってシンプル。パッド画面に模写されたテーブル両端中央に存在する穴―――ゴールへ同じく模写されたパックを打ち込み、入れば得点とされる。無論、パックを打つマレットは、プレイヤーの人差し指を代替とする。外壁を利用した不安定な軌道、一直線の高速打撃―――単純に打ち込むものではない。それに対応する反射神経や予測もまた然り。フォースを用いずとも、経験と訓練により鍛えられた自身の能力ならば、上位を占めるのも確定と思っていたが・・・現実は非情である・・・

 

「アル~、保有者がこうも簡単に負けを続けるのは如何なものかしら?」

 

 敗北主義者を罵る政治将校のように詰め寄る姫様。しかし、不本意ながら返す言葉もない。このゲームはてゐさんとだけではなく、他の住人の方々とも対戦した。その結果は、姫様、鈴仙さんに敗北、永琳さんには勝利したが、一度もその経験が無い相手に対し辛くも勝ち越したという結果は限りなく負けに近い・・・

「これなら私も直ぐに追いつけるかしら?」

 

 不味い、これまでの戦績が永琳さんに逆転勝利の可能性を与えてしまった!このままでは自分が最弱の汚名を被るのは免れない・・・いや、これは所詮ゲーム、たとえ最下位に下ろうとも実質的な問題など存在はしないが、人間の内心に巣食う闘争心から成る勝利への執着はこのような状況においても・・・いや、このような安楽的な場合こそ表出し易い。現実的危機の下では、プライドがその危険に対する防衛に比べ、劣性と化すからだ。前者に分類されるであろう現況はまさに私のプライド(勝利への執着)が震えていると仮定出来る。

 

「マグ」

 

「Sir?」

 

「勝負しよう」

 

 そんな状況を脱しようと、相棒を照準に入れる(カモにする)。すまないマグ、だがこれも護衛兵の職務の一つと思ってくれ・・・

 

 

 

 

 

 

 ピピー ―――

 

《YOU LOST!》

 

 

「アル、0勝2敗!」

 

「・・・」

 

 不本意ながらも既に聞き慣れた機械音が脳に響く。どうやら自分は相棒に対する評価を誤ったようだ・・・

マグはバトルドロイド―――如何に高価且つ優秀なプログラムが為されていようと、能力はその全てが戦闘へ特化している・・・筈であった。

 

 だが予想は打ち砕かれた。マグはフォース=センシティブと打ち合う反射能力と俊敏性を全精力に発揮し、私にとって最大の重心であった指の扱いさえも見事克服してしまった・・・いや、そもそもマグは宇宙船の操縦が可能な時点で・・・

 

 過小評価を覆す情報を想起するが時すでに遅し

 

「--――-?」

 

「そうだねR2、ドロイドを舐めてはいけない」

 

 何より、勝てないならば勝てるよう努力をすれば良いに過ぎない。僅かな時間を利用してでも、技術向上に邁進し、意欲を発生させればいずれは保有者としての意地を奪還出来るであろう・・・

 

「よ~しマグ、次は私と・・・って、何だい・・・依頼?」

 

 現後順位第二位のてゐさん ―一位は姫様― の下に一匹のうさぎがやって来る。永遠亭では緊急の事案や日程外の依頼等は、うさぎたちが連絡役としてその任を受けている。竹林や屋敷で走り回るのが日課という認識には修正が必要であった。大抵は薬の宅配が主な依頼であるが、

 

「へー睡眠薬ね」

 

 今回も同様のものであるらしい。

 

「誰からの依頼?」

 

「紅魔館から、『睡眠薬が欲しい』って。あと、それの宅配にアルを指名してきた」

 

 自身の名前が登場したことにより意識がより集中される。自分を・・・指名?紅魔館と言えば、以前、妖怪の山へ向かう山中目にした―――血塗られたような吸血鬼の屋敷・・・その印象的な外観は記憶の維持よりも忘却する方が困難であろう。

 

「アル君を指名?どういうことかしら?」

 

「さあ、唯『永遠亭の外来人に宅配させろ』って言われただけらしいわ」

 

 外来人と称されるに疑問の余地が無い―――幻想郷構築後にこの地へ至った人物は自分と鈴仙さんの二人。無論、鈴仙さんは、既に一般観念的には外来人という定義は為されないであろう・・・いや、いずれにせよその様な思考に陥る必要性は無い。問題は私を指名したという事実である。如何にして自分の情報を入手した・・・この幻想郷は個々に排他的性質が根底にあると示しても過言ではない・・・情報を得るにはその供給元とのコネクションが必要である。あの館の人間・・・いや、吸血鬼は人里からの供給源を保持しているのか、将又、妖怪の山、吸血鬼であるという事実に照らし合わせれば、後者が合致に相当し易いが・・・妖怪の山は特に当該性質が高い・・・

 

 しかし、単純にその狭小な面積から形成される広範な地域性より、人里から幾分距離を置く吸血鬼と言えどそのような情報、いや、噂を小耳に挟むのは至極当然とも仮定出来る。それに吸血鬼という自らの個人的観念から成る想像と予想とは大幅に異なる性格を持つ種かもしれない。自分が射命丸さんの説明から推察出来たのは、吸血を行う種族であるという大雑把な概要に限られる・・・これを基に完全な予想の筋道を立てるのは合理的ではない。

 

「どーせ暇潰しでしょう、あそこの家主は新しいもの好きだし」

 

 確かに自分の存在は暇を持て余す者には幾分かその暇を消すことが可能であろう。余暇という空虚の中において、それを抑圧するに適する物事は、旧より新が優越し、空を感じる者の内部を容易く且つ広範に満たす。最新のゲームソフトの如く認識を持たれるのはやや癪ではあるが・・・家主にとっては人間などその様な存在に過ぎないのかもしれない。

 

「そうね、前回の睡眠薬はまだ残ってる筈だし・・・まあいいわ、アル君、お願いできるかしら?」

 

「了解しました」

 

 近寄り難い館ではあるが、以前にも宅配の履歴はあるようなので重傷を負うような危険性はないと判断する。加えれば、この世界の吸血鬼と言う種に対しての関心が高まりつつある―――単純な興味から後々の危険性まで。

 

 そして何より、どのような手段にて自分等の情報を入手したか・・・確認の必要がある

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、アル君たち、何処かにお出かけ?」

 

 後方より既に知覚せずともその存在を認知出来る声が伝わる。軽いが心髄に浸る様な―――木の葉を招く小風のような音が聴覚器官を刺激する―――部屋で何やら書き物をしていた鈴仙さんが疑問をその表情に浮かべながら自分とマグに詰め寄って来た。

 

「クリムゾン―――紅魔館へ睡眠薬の宅配を命じられまして」

 

「紅魔館に睡眠薬?つい最近、渡しに行ったばかりの筈だけど・・・」

 

「自分の情報を何処らか得たのか、宅配に私を指名して・・・恐らく、薬の宅配は名分で、自分に関心があるのかと」

 

「まあ、あそこの主ならそうね・・・里から話が伝わったのかしら・・・」

 

「館へは、正面玄関を使用すればよろしいのでしょうか?」

 

 周回するにも時間が損失されるようなあの広大な屋敷であれば多くの出入り口が設置されていると思われる。一般的には正面から赴くのが妥当であるが、仮に他の使用口が存在するならば、そちらを用いるべきは言うまでもない。

 

「ええ、正面の傍に門番がいると思うから、『永遠亭から来た』って伝えれば通してくれる筈よ」

 

 既に慣習の一つと化した経験を語るかのようなニュアンスが彼女から伝わる―――つまりは、やはり特に問題は存在しないであろうという予想が立つ。

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

「どういたしまして、もう行くの?」

 

「はい、あちらも昼食は終わっているでしょうし、届けるなら出来るだけ早い方が良いと思って」

 

「そっか・・・いってらっしゃい」

 

 しかし、彼女の見送りの言葉―――心象が、また異なる問題を包括しているだろう想像を沸立てる。自分(鈴仙)が選抜されず安堵するような―――だが私が向かうという事実に対する後ろめたさ・・・紅魔館とは彼女がそのような心情を露見させるような危険、いや、出来事が存在する場所なのか・・・

 

「行ってきます」

 

「行ッテマイリマス」

 

 不確定な事象により困惑の渦に飲み込めれるのは適当とは言えない。これまで何度も内心にて回帰した原則だが、それを行うことが可能性への重心となる・・・殊に考えるのだ―――自らの功労により鈴仙さんが安堵する結果になったと・・・

 

 スピーダーに跨ることにより臀部にて感じられる強硬が、思考の末に導びかれた結果(先程の考え)で良いのかという是非を問う保守派―――今は無き元老院の解散反対表明の如き想起を彷彿させる中、慣れないようで既に日常と化したような経路を進む―――無益な行動(考え)を捨て去るように、ひたすら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マグ、見えるか?」

 

「ハイ、視覚可能デス。先程マスターガ仰ッタ通リ、真ッ赤ニ染マッテイルノデスネ・・・」

 

 人里を横目に河川沿いに並行しつつ広野を抜けたその先に・・・目標の施設が轟々と聳え立つ。遠目ながらもそれを憚ることのない存在感が視覚器官を通じ、この身に浸透する。この感覚をどの様にして表すれば良いか・・・誘導弾が一例として挙げられるだろう。今まさに、ヴィクトリー級に搭載されようとする発射管より剥き出しの震盪ミサイルが脳内を過ぎる。鋭利に尖る先端を先兵に、流線美という概念が内包されない現実的な外観・・・目標を打ち抜かんとする姿は軍人にあらずとも想像するのは容易い。

 

 附近にて視界に入るには感じられない威圧感―――今まさに発射されるだろう恐怖や焦りを兵士たちは遠距離より感じるのだ。間近でいくら観察しようとも、後方に位置しなければ、発射により対象的な被害を被る事は無い・・・だが、距離があればある程(有効射程圏)加速した誘導弾は的確に且つ高速に敵を殲滅する・・・それが今感じる存在感を当てるに相応しい・・・

 

 

「・・・湖?」

 

 幾分か距離を詰め、視界に追加されたのは広大な湖であった。この地の特性、そして四辺を囲む山々が目前に広がる水溜りは海であるという真実を否定している為、錯誤あらずとも理解出来る。そして山に囲まれた湖に更に囲まれるのが我らが目標であった・・・

 

 だが新規の事実はそれに限らない・・・先程までは視認されていなかった霧・・・霧が黙々と、追撃を妨げるべく展開された煙幕の如く周囲を支配する。スモーク程の視界妨害性は無いが、閑静な湖、早朝より変化した曇天(天気)と合わさりどことなく不気味さと・・・寒さを体感させる。なんだこれは・・・侵入者対策のセキュリティ・システムの一種?そうとは推定しにくいものだが・・・

 

「!・・・マスター、後方ヨリ飛行物体・・・コチラヘ接近シツツアリマス」

 

 自分同様、霧を始めとする景観に警戒を感じたか、周囲を観察していたマグから警報が発せられる。こちらへ接近・・・我々と同じ目的(紅魔館)か、将又(はたまた)我等が目標なのか・・・

 

「Mag, bush!」

 

 スピーダーから飛び降り、近場の茂みに身を伏せる・・・ハンター(かくれんぼ)で遊びを楽しむ子供のように、いや、同盟軍の追跡を躱すスカウトの如く・・・

 

 だがその行動が無駄であると暗示するかの如く、徐々にその輪郭は鮮明と化し、アンブッシュから数秒も経たぬ内に正体は確実に認識するに至った。

 

「ようっ、また会ったな!」

 

 片側をおさげにした長い金髪、地味なようで目立つこの景観にはあまり合わない白黒の衣服、そしてその性格を表すような大きな帽子、原理不明の浮遊する箒に跨り降下する様子は、あたかも騎兵であるかの印象を押し出す。

 

 

 不思議な世界の不思議な魔法使い(職業?)

 

 

「ダソミリアン・・・」

 

「だから、ダソミリアンじゃないって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法―――超常的な能力や行為―――八文字の単純な解説で為される力・・・この地の存在自体が魔法のように感ぜられる自分にはその八文字とは異なる解釈が思い返された・・・

 

 ダソミア―――グリッドO-6、アウター・リム-クエライ・セクター所属の地殻惑星・・・鬱蒼とした森林が地を囲み、至る場所を危険な獣が闊歩する・・・人々は険しい生活を送っているとされる非常に暮らしにくい地域・・・

 

 だが帝国にとって重要と認識されるのは惑星中を徘徊するランコアでも気候でもない―――魔女だ―――ダソミアの魔女(ダソミリアン)・・・

 

 この惑星にて生を営む、主に"フォース=センシティブ"である原住種を含む複数の種族により構成された原住民族。

 

 その存在は我々諜報機関員にしても不可解に取れるものであった。

 

 だが、皇帝令により建造計画を施行されたダソミア地表刑務所―――当地への襲撃が彼等の存在を明確化した・・・

 

 その力を危惧した司令官(皇帝)は宇宙港及び宇宙船の破壊を下し、更には衛星軌道上にスター・デストロイヤー(機動艦隊)を配置する事により、可能な限りの"安心"を求めた・・・

 

 

 そして我々は彼等が"ダソミアの魔女"と呼称されてきたという事実を知る

 

 

 

「こいつが里で噂になってる機械人形か・・・でかいな」

 

「IG-103,マグデス、ヨロシクオネガイシマス」

 

「おおっ、喋れんのか!私は霧雨魔理沙、よろしくな・・・んでこっちは箒?じゃないよな」

 

「スピーダーバイク、浮遊状態ニヨリ移動スルビークルデス」

 

「へえ、超能力とは関係ないんだ」

 

 こちらにおける魔法とやらの本質が"全て"あるか否かと言う真実は不明だが、銀河系における魔法(フォース)の用法に匹敵、いや、この地特有の強力且つ不思議な能力であることは疑い余地は禁じ得ない。

 

「君も紅魔館へ行く予定なのか?」

 

「そうだけど、"も"ってことはアルたちもか、何か用でもあんのか?」

 

「薬の配達だ・・・君こそ何か用が?」

 

「ちょっと本を借りにな」

 

 館の人物に知人でも居るのだろうか・・・態度から見るに、既に何度も同様の行為をしてきたと推察出来る。若しくは図書館として機能している? だが話を聞いてきた限りではその様な情報は見えなかった・・・

 

「何ぼうっとしてんだよ、さっさと行こうぜ。雨が降ったら堪らんし」

 

 考えが駆け巡る中、スピーダーの走行には興味が無いと言わんばかりに一瞥もこちらを向かず、魔女は飛び去って行く―――目前に迫る紅い館へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急激に周囲を覆った霧は徐々にその存在を希薄と化し、視界に巨大な建造物、そして、

 

「・・・架橋」

 

 湖から分岐した広大な河川を繋ぐ橋。館にばかり注視していたが、そこに至るまでのこの架け橋も心象―――VIPを歓迎する宮殿のレッドカーペットのような心象を来訪者へと与える。歓迎と評するにはどこか禍々しいが・・・

 

「それじゃあ私はお先に行かして貰うぜ」

 

「どういう事だ?」

 

「あたしは顔パスなんだよ、お前等は門番に一言掛けなきゃ入れないぞ」

 

 余裕ある表情を浮かべつつ上昇するダソミリアン、その姿を傍目に自分等は門へと接近する。衛兵の検問所が存在するのか・・・やはり他を受け付けない、あるいわ、他に知られたくないという意図が見れる・・・いや、単にセキュリティの万全を目的としたとも取れるが・・・

 

 しかし、その警備の範疇より入館が許可されているという事なのか彼女は・・・

 

 疑問と称すべきか驚愕とすべきか、そう考える内に門付近に一人の人物が存在するのを、魔女が壁を通り超える後姿を背景としつつ確認する―――館と同色の紅い、しかし比較対象のイメージとは異なる、勇気や強さを示し出す様な明るい赤髪。そしてその上部にベレー帽のような帽子を被る女性。その表情は俯き気味を保持し、伺い知れない・・・スピーダーの機動音が響いているにも関わらず相も変わらず頭は垂れたまま・・・

 

「・・・」

 

 異常事態か―――先程ダソミリアンが上空を通過した時点においても、首を上げる事はなかった・・・そして何より・・・気配が、生命体としての気配が希薄―――自分の技量では確認不可な程・・・

 

 マグの随伴を受けつつ対象へ近付く―――残存距離約一m、その地点より声を掛ける。

 

「大丈夫ですか?」

 

 返答は無い、唯の屍のようd「ZZZ」屍では無い様だ・・・

 

 

「睡眠中ナダケノヨウデスネ」

 

「らしい、死亡しているとも思わなかったが」

 

 

 しかし、見事にそして心地よさそうに眠っている。その立ち寝姿に感嘆を覚えると同時に起こすべきか悩みに落ちる。と言うよりも、このような警備状況で良いのか紅魔館。正面等の警衛は通常最低でも二人・・・それこそ目前のような事態を防ぐ為に・・・

 

 やはり広大な"庭"を見渡すが周囲に人影は存在せず、物音すら耳に入ることは無い。やはり起こすしかないか・・・

 

 そう思い右手で彼女の肩を叩こうと行動へ移行した瞬間、

 

 

「ようこそいらっしゃいました、永遠亭の外来人」

 

 

 左後方より声が"発生"し、身体が反射的に停止する。恐る恐る―心理作用の働きに服従し―そちらへと顔を向ける・・・

 

 人だ・・・メイド(家政)服を来た女性がその位置にて不動の姿勢を取りこちらを見ていた・・・人!?

 

 驚愕に警戒が優越し、膝の力を抜きつつ腰を落としながら相対するような体勢を瞬時に構築する。何故だ・・・どうして目の前に"先程まで居なかった人間"がいるのだ・・・!

 

 視界内に対象が存在しなかったという事実は確実性を有するものである・・・視覚器官異常、クローキング装置?・・・では気配は・・・門番への私の警戒心を凌駕し、気配を殺したと言うのか・・・不確実性の付与を為されるフォースは論の外へ位置するとしても・・・

 

 冷静を努めるも、徐々に驚きと超科学的存在に対するような恐怖 ―本来ならば慣行であろう筈の― により、それらの考えが発生しては消え、また発生するといった思考の輪(ループ)を形成する。

 

 ガチャ ―――

 

 自分の視線を塞ぐように―――自分を守ろうとするように目前に見慣れた後姿が現れた。マグのこの対応が眼の支障ではないという事実を知らせる。彼女は"何だ"・・・妖怪、それならば何らかの諸能力か・・・

 

 落ち着け、今は彼女の能力でなく身元に注視すべきだ・・・永遠亭の外来人・・・確かにそう聞こえた・・・そして彼女の服装や雰囲気、行動から推察するに・・・この館の給仕・・・

 

At ease, Mag.(待て、マグ)

 

 警戒の色を残しながらも、不服なく命令に従う相棒。だが頭部から発せられる赤い眼光(センサー)は未だ対象へ向けられたままだ。対してかの人物はと言うと、こちらの警戒、外観は事前の知とでも言わんばかりに、唯々こちらを真っ直ぐと見つめるのみ。だが、その目線はどこか自分の身体を貫かんとするような威圧・・・と称して良いのか・・・何れかの迫力を感じる。

 

「ご案内します」

 

 その視線の力に似合う、そして何よりメイドとして評価するならば完璧な度胸と対応を見せる女性は極めて低質感な声を発し、後方―――館の方へと歩いて行く・・・その見事な姿勢を崩さずに・・・

 

 付いて行こうと足を進める直前、マグに一瞥―――警戒は怠るな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 カツカツカツ ―――

 

 コツコツコツ ―――

 

 ガシャガシャガシャ ―――

 

 

 閑静、いや、音の無い"世界"と称しても良いであろう館内に三者三様の靴音が挿入され、新たな"世界"へと移行する。だが結局音を奏でるのはその効果音に過ぎない・・・つまり私が言いたいのは、ここは非常に静粛な―――無機質な屋内という事だ・・・

 

 しかし自分が、否、自分たちがまず感じ、圧倒されたのは寂寂たる状況では無く―――紅

 

 外観と同じように染め上げられた紅色の屋内・・・

 

 前者との差異として、返り血のような不気味さや濃厚彩は感じられない。だが、いずれにせよ外観と比例して巨大な室内全てが真っ赤に支配されているという現実は・・・家主の癖なのか趣味なのか・・・何処か人間の平静を損なう効力を持つような・・・いずれにせよ緊張が身を駆け巡る事に疑問の余地は無い。更には窓等、外の情景を移す物が確認出来ない・・・つまりは、光が差す事の無い・・・

 

 この館へは何度か配達の実績があり且つ住人とは知人関係・・・鈴仙さんは・・・乱れを感じず任務を遂行してきたのか・・・それとも慣れによって? 危険は無いと事前情報により既知であるとしても

 

「・・・」

 

 これでは警戒が解けることは無い

 

 

 

 

 

 無音の時間が開始より数分、目的地とされる巨大な扉 ―門とも取れる― に到着した。その外見からもある程度の奥行と想像していたが・・・それでも長い時間が経過していた。

 

「お嬢様がお待ちです、お入り下さい」

 

 その伝達とほぼ同時に目の前の扉が恰も彼女の声に反応したかの如く開閉する。その内部は赤黒い、いや、濃厚な真紅が染め上げると言うよりは(外観とは異なり)今さっき辿った内装に肩入れするように・・・支配していた・・・

 

 同色であった為か視覚は直ぐに慣れることが出来た。完全に認識が可能となるにつれ視線が中央へと誘導される。多少の階段が半ピラミッド状に形成され、その頂点には、

 

 

「ようやく来たわね」

 

 

 紅魔館の主人兼吸血鬼、レミリア・スカーレットが待ち構えるように鎮座していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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