東方流星記 ~ Imperial Fugitive.《帝国の逃亡者》   作:Exar Kun

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第7話B Rebellion to The World.

 

 

 

 

 

 

 

 居心地の悪さを感じさせる紅黒く染まる広間・・・窓の不存在、内装の構成と相まり、恰も深夜の教会に自分が立っているような想像が不可抗力的に働く。

 

 

 だが信仰者として祈りを捧げる状態とは似つかわしくはない。言うなれば強大な聖職者に圧倒されていると表現すべきなのだろう―――人々を導くと言うよりは、人々を遥か高目から観察するような・・・

 

 

 件の"聖職者"―――吸血鬼レミリア・スカーレットは自分の想像通りでありその通りではない。

 

 

 吸血鬼という種に対する客観的且つ抽象的想定に合致するような佇まいや雰囲気はあらゆる感覚より引き出され、無意識に身体へと力を込める。そして、"無駄に"力の入った身体は脚に重りを掛ける―――足を上げずとも感じられる程の"直接的"な重みを・・・

 

 

 あらゆる感覚―――それは無論、人間の感覚器官をも包括した状態を意味する。

 

 

 では現況にて最も刺激を感受する器官は何れか?

 

 

 視覚器官である。それは現況に限定されたものではない。『人はまず見た目から』―――外見による判断は時に愚直と見なされるものではあるが、品位の維持は他に対する肯定的、好意的印象を与える・・・目前の彼女が纏うそれが品位であるか、いや、好意的なものであるとは・・・私には分からないが・・・

 

 

 兎に角、この屋敷のように外見とは相手の何たるかを示す大きな要素とも成り得るのだ。身体が大きい筋肉質な者はスポーツや武道との関わりを持つ様に見られ、眼鏡を掛け、本を持った痩躯な者は勉学に忙しいであろうと見られる・・・無論その限りではないが。

 

 

 しかしそれが人間の心理的感覚作用とするならば、現況はその理論と事実―――上述の説明に異論を持ち込むこととなる。

 

 

 装飾された高級椅子に腰掛け、立てた肩肘に軽く頬をのせるその姿は確かに彼女を示すに相応しい条件であるだろう。では当の彼女は―――長身痩躯な若さを見せる美人?どこか影を落とす熟れた女性?―――否

 

 

 答えは・・・少女、まだ初等教育機関を卒業していないような外見年齢、レースの目立つ"年齢"に合う服装とナイトキャップ、青みがかった銀髪を揺らす・・・少女。大凡吸血鬼と称するには不一致な―――可愛らしい少女が吸血鬼の正体であった。

 

 

 それならばこの・・・威圧感とも言える感覚はどこから来るのだ・・・彼女が吸血鬼であるという事実の既知が後押ししているのか、屋内設計とレイアウトによる移入か、将又演出に対する錯覚か・・・

 

 

 いや・・・違う、現況はまさにその理論の上面に立っている。背中に生える本人をも包み込んでしまいそうな大きな翼、時折覗かせる尖鋭な歯、この館の主であるという事実を押し付けるような真紅の瞳・・・

 

 

 そして何より、恰もフォースを通じ身に染みるとも思わせる感覚を想起させる―――カリスマ―――

 

 

 それに付随する演出を始めとした"事実"が援護する事により、紅魔館の主、吸血鬼レミリア・スカーレットは目前の少女であるという認識を自分は感じている・・・いや、感じさせられている。

 

 

「ねぇ、あなた」

 

 

 吸血鬼の口から再度、その見た目に相応しい質の声が放たれる。どこか歓迎を示すような、幼子をあやす様な・・・人を見下したような・・・

 

 

「喉渇いてない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いわね、来て早々場所を移すことになって。あそこでは味が悪くなってしまうのよ」

 

「いえ、問題ありません」

 

 

『渇いています』―――緊張より生じた素直な返答の数分後には、主自らが"紅茶を飲むに相応しい部屋"へ案内をされた。広大で長く、赤い廊下は我々を飲み込こまんとするスペース・スラッグの口内を映し出したが、館に飲み込まれる結果とならなかった事に安堵する。

 

 

「・・・本当に宇宙の果てから来た外来人だとはね。天狗のほら話かとも思ったけれど」

 

 

 天狗―――成程、射命丸さんの新聞か、既に発刊されていたとは。だとすれば、彼女の新聞の定期購読者たちは自分等の存在について認識をし、その認識は恐らく、情報として知人を介しては知人を介し、いずれ集団に蔓延する・・・可能性も否定は出来ない・・・

 

 

「あの、お薬の方は?」

 

「ああ、そう言えば頼んだわねそんなの。後で払うから待ってて頂戴」

 

 

 彼女の関心は想定通り自分等についてのようだ。我々を呼ぶ為にわざわざ薬を購入してまで面会の理由を作るとは・・・それ程まで珍しいものだろうか。『私からすれば、あなたの方が数倍は奇矯であり関心をよびますよ』そう言いたい気持ちに駆られるが、その様な不躾は言えぬが然り。

 

 

 再びかの主の全体像を瞳に映す。背景の変更に伴うカリスマ?の低下によるものか、或いは会話を紡いだことによる単純な慣用からか、彼女に対しての緊張は先程よりは"まし"になった―――つまり完全に、そうは言わずとも知人と話す程度の安心感、違和感に低下した訳ではない。着任したての高級将校との間に会話の糸口が出来た、とでも称せば、この雰囲気を示すことが可能だろうか。

 

 

「咲夜、紅茶を用意して」

 

「かしこまりました」

 

 

 ガチャ ―

 

 

 銀髪のメイドが主人より任を受け、一時部屋を退室する。さて、一体何から話そうか。

 

 

 話の切り口を模索する彼の耳に

 

 

 ガチャ ―

 

 

 数秒前と同じ音が聞こえてきた

 

 

 開閉音、忘れ物だろうか・・・靴音は今さっき部屋を出たメイドの物・・・それにしてはゆっくりと近付いて来る。目の前の主―――従者の姿を確認出来る彼女も何の反応も示さない。唯当たり前の―――想定の事態へと発展しつつあると傍観するかの如く。

 

 

 いや、別の給仕の可能性もあるが・・・

 

 

 コツ ―

 

 

 テーブルまでの短い距離は自分の考察を容易く停止させた。そしてふと入室者を見ようと視線を向けるが

 

 

「!?」

 

 

 私は先程、別のメイドをも予想した―――目には見えぬ彼女の行動と主の反応がその時間内では発生するようなものに見えなかった、という言訳を根拠に。だがそれは誤りであった。自身の傍にて不動の姿勢をつくる女性は、間違いなく当初の予想に合致する人物である。では何故彼女は再度こちらへと向かったのか、なぜ主人は何の疑問も呈しないのか。答えは簡単である―――彼女は申し受けた任務を遂行しに赴いたからだ・・・

 

 

 目の前に置かれたのは、一目見て淹れ立てと察する事が可能な程度に湯気を立てるカップ、焼き立てを想起させる香ばしさを乗せるスコーン・・・そう、まるで作り立てのような目的物が視線の先にて存在した・・・

 

 

 アイスティーではないのか。想像と異なる現況には多少不自然な調理法に疑問を投げ掛けるが、そのような単純な疑問を上回る不思議への認識へ意識が向く。どういう事だ・・・彼女が外へ出たのは数秒前、入室してからの時間を引けば、これらを用意するどころか運搬にも時間は割けられない筈・・・いや、退室してすぐさま振り返り再度入室したとしか・・・考えられないのだ。だがしかし、目の前にはその考察を完全に否定する結果が並んでいる。低下しつつある緊張は警戒へと移行し、一種の不気味さが駆け巡るのをその身に感じる。

 

 

 元より他のメイド等第三者が紅茶の注文を予測、又は指示を受け準備していたか・・・寧ろこれ以外の方法が存在するのか。我々を案内してる間暇が存在し得ないはこの目で確認したし、来る直前に用意したと仮定すれど、そおれならば出来立てと称すべきこの紅茶は劣化するが当然。いずれにせよ、用意周到で示されるインペリアル・パレスの給仕兵をも超える諸能力を保有するに疑問は無いようである。こちらの給士は茶菓子ナイフで、恐れ多くも宮殿へと侵入を試みた間諜を無力化するなどの芸当はしないであろうが・・・

 

 

「うん、やはり咲夜の淹れた紅茶は格別ね」

 

「ありがとうございます」

 

 

 第三者の線は彼女等の会話により、否定的な見解となった・・・単独虚偽表示か?主に嘘を・・・だがそれならば何故目前の主は彼女も至極当然に持つだろう従者に対する疑問を述べず、表明しない・・・いや、ここは元の―――普通の世界ではない。軽度の思考により重要点へと意識、注目が向かう。重要な事柄は意外にも忘却し易く、以外な事柄によって想起され易い。通常考察は必ずしも事態終息に帰結しないという先見性を思考の始めにおいて強く留意しなければならない。

 

 

「紅茶は苦手?」

 

「い、いえ、頂きます」

 

 

 未だ手を付けずにいる自分を不思議がり、スカーレットさんがそう伝える。この状況で思考に陥るのは失礼だ。特に彼女のような尊厳ある方の前では余計態度について自覚してしまう。

 

 

 しかしそれでもなお、先の現象を脇へ寄せ、自らの取るべき行動へ集中を高めるというのは・・・困難だ。

 

 

「咲夜の"能力"に驚いているようね」

 

「・・・はい」

 

 

 自身の内心が外面に出ていたか、スカーレットさんに見透かされる。諜報に従事する者としては失点ではあるが、彼女ならば仕方あるまいという言い訳が脳内にて作成される。

 

 

「そうね・・・話を始める前に、咲夜の能力を当ててみて」

 

「・・・何故ですか?」

 

「面白い答えが返ってきそうだからよ」

 

 

 お戯れの被験体にされたか・・・優雅に紅茶を味わう少女を上目で見つつ、そう内心にて思う。だがある意味好機とも言えよう。集中を阻害される事象を最優先するのが私の世界の説明に繋がるからだ。

 

 

「制限時間は私が紅茶を飲み終えるまで、回答は三回までとする・・・どうかしら?」

 

「わかりました・・・」

 深考察への突入を検討すると共に対象(メイド)自身に関して思い返す。名誉ある主人に仕える完璧な―――無機質な従者。肯定的意味合いで感情が見えず、否定的意味合いで感情が見えない・・・ある意味自分の様な軍人に近いとも取れる。自分が視界を門番へ移した瞬間、彼女は門の隙間よりこちらを覗いていた。それまでは視界に存在しなかったにも関わらず。これを問題の事象と照らし合わせ、共通点、若しくは突出した相違点を浮揚させる。最大の共通点としては突如現れた―――高速で行動を為した。瞬間移動、瞬間転移(テレポート)等の能力が推察される。初接触にて思い浮かばれた"身を消した"、という能力は先程の行動(紅茶の用意)から考えるに関連の無い、つまりは合致しない。

 

 

 |自身の人生経験上、通常の生命体では行使不可な能力《瞬間移動・テレポート》を仮定に置く。今なお我々より近すぎず離れすぎずの距離を有す絶好の位置にて不動の姿勢を取る彼女の姿は、そのような諸能力を習得・保有しているとすれども似合っている―――自分の心理ながらそう思えるのは誠に不可思議である。いよいよ自分もこの地に"慣れ"てきたのだろうか。未だ自身の心理状況について客観視可である事に新鮮を覚えながらも考察への再突入を決する。

 

 

 瞬時に行動を実行する―――これが現在考え得る超常能力として先陣を切った(頭に浮かんだ)。前提条件として、主人は従者の早過ぎる行動に対し、何か疑問を呈すような振る舞いは見せなかったとしなければならない。それは彼女が一瞬で用意をしたのが当然であるという事だ。やはりテレポートか。だが無論それに対する問題が生じる。彼女がその様な行動へ移れたとして、目的物(紅茶)の作成は如何にして為したかという問いが。

 

 

 タイミングを見計らい第三者に念話通信を送信し、瞬間転移により回収する

 

 瞬速と同時に、瞬時に用意を完成させる諸能力を持つ

 

 調理器具が存在しなくとも一瞬で用意させる等諸能力を持つ

 

 分身を作製し調理に専念させる一方、本体が回収する

 

 

「質問をよろしいでしょうか?」

 

「構わないわ」

 

「能力は"一つ"ですか?」

 

「今回のは応用、いえ・・・一つよ。そうよね咲夜?」

 

「はい」

 

 

 問いの難度を考慮してくれなさったのか、思考の整理を短絡にするような答えが耳に響く。仮にこの傍証が無ければ、現時点で考え得る能力の併用が可能性と言う混沌の渦が出現するが、呑まれる前に救助船へと辿り着くことが出来た。

 

 

 だがそれは同時に困惑の渦への糸口でもあるという事実を自覚する。

 

 

 最も合致する解答はやはり瞬速である。それが初対面時、紅茶の用意時双方に唯一当てはまる。だが後者における紅茶等の作製はどうなる。例え答えの道筋をショートカットさせたとすれども、|最後には万事を尽くすとも引き出すことの不可能《能力併用が不可欠と思われる》な問題へと足を掬われる。

 

 

 まさに今暗闇の中を夜行軍を行っているような感覚が脳を締め付ける。唯一の手掛かりは前を行く兵の科学発光棒。だが彼自身の輪郭は見えず、徐々に不安が蓄積されてゆく。そして自分の周りに見えるは闇一色。不安を消去し、任務を完行するに為にも先ずは、前を進む彼を確認しなければならない。しかし、彼の光は益々離れていく。"俺はお前の味方ではない"(答えなど無い)と示すかのように・・・

 

 

 ・・・併用が不可ならば・・・一つの汎用性高な能力は―――そう例えば物事を瞬時に為す事が出来る能力。瞬速と同時に、瞬時に用意を完成させる諸能力を持つ、が当てはまるのかもしれない。考案当時、瞬時の移動と瞬時の用意は別個の能力と考えたが、この修正案ならばそれを条件に当てはめる事が出来る。やや強行的ではあるが・・・

 

 

「一つ目に回答、よろしいでしょうか?」

 

「あら、中々いいタイミングね。どうぞ」

 

「・・・物事を瞬時に為す事が出来る能力」

 

「どうかしら咲夜?」

 

「違います」

 

「・・・」

 

 

 つい問題の当事者の顔を垣間見てしまう。答えでは無いのか・・・確かに単純ではあるが・・・

 

 

「まあ、その様な考えが浮かぶのは当然ね。それに間違っている訳ではない。私たちからすれば咲夜は瞬時に用意したと見えるわ。唯如何にしてその様にして行動したかというのが・・・答えに繋がる」

 

 

 回答の決心は事態を好転させた。彼女の行動はやはり瞬速から来るものであった。これは人との闘いだ。相手は何の考慮も無いマニュアルに従った機械でもなく、固定化されたルールの上で確立するものでもない。質問や回答による事後判定を利用するのも戦術の一つと考えられるだろう。

 

 

 さて、ここからの議案は如何にしてその様にして行動したか、だ。それは彼女自身に直接それを行使する能力があるのではなく、何らかの能力の使用により副作用のように追従する、と認識し得るのではないだろうか。副作用という単語が流れると共に直接的関連が存在する訳ではないがある考察が生まれる。

 

 

 幻覚―――PTSD対策に於いて利用される抗精神薬等には副作用として幻覚作用が付随する。そして幻覚を見ている間、人間の時間認識能力は異常を発生させる可能性がある。つまり彼女の能力が幻覚を見せる能力と推定するならば、時間認識を狂わせ、恰も瞬時に物事を遂行したと感じさせる事も可能と考えられる。突発的考案だが、これ以外の想像というのもそう浮かぶものではない。内心にて決心を行う。

 

 

「よろしいでしょうか?」

 

「もう?早いわね。まあいいわ、どうぞ」

 

「幻覚を見せる能力、でしょうか?」

 

「成程、幻覚を思いついたか。幻覚によって時間が早まっていると誤解させる、といった所かしら?」

 

「はい」

 

「唯の人間にしては発想力が富んでいるようね。咲夜?」

 

「答えはNoです」

 

「っ・・・」

 

 

 三つの猶予の内二つを潰し、残るは一つ―――その事実が体温を上昇させそれに伴い焦りを感じさせる。突貫的とは言え、最有力を潰されたのは心理的に不利な状況である。

 

 

「あなたいい線いってるわよ。でもまだまだ人間としての考えに捕らわれているわ。宇宙の果てには確か・・・私たちみたいのはいないのよね?いるか分からないだったかしら」

 

 

 射命丸さんの新聞より得たと思われる情報。今のところ私は銀河系に於いて妖怪を見た経験は無い・・・いや、今まで、とした方が正しいか・・

 

 

「その通りです」

 

「私たちを知ってどう感じた?」

 

「・・・不思議に思いました」

 

「でしょうね。幻覚は外の人間・・・普通の人間でも起こすことは出来るわ」

 

「えっ?」

 

「大ヒントよ。さあ、早くしないと飲み終わってしまうわ」

 

 

 普通の人間でも可能・・・人間"でも"・・・幻覚を諸動作無くして意に操ることは普通の人間では不可能。しかし、幻覚を見せるという行為は何らかの手段を用いることにより可能。つまり彼女の能力のよって為された事象は他のあらゆる人間的手段では実行出来ない・・・

 

 

 これは大ヒントに違い無い。いや、寧ろこれ程の手掛かりの存在が妥当か。しかし、非人間的事象を生み出す能力・・・自身とも関連があるフォースが頭を過ぎるが、問題の行為が出来るようには思えない。いや、少なくとも自分には不可能である。自身の経験や能力を上回る事柄の想起は慣用しずらく、ある種のセンスや観念を持つ者が優位となる。普段目に見える、感じられる事象とはあらゆる事態に於いて深く、そして強く影響するのだ。

 

 

 猶予の無い回答残数、刻々と迫る制限時間、これらの条件下で回帰しつつ考察を行うのは合理的とは言えない・・・あまりこのような事で利用したくはないが・・・

 

 

 未だ一口付けたに過ぎないカップに両手を添える。軽度の接触に関わらず、紅茶から発する温暖が血液の流れを想起させるように流れ、身体全体が温まったかの如く錯覚を起こす。人によってはこのような温暖又は爽涼によって集中力が増減すると言われているが、自分はどちらにしても差異の無い集中を発揮できる。

 

 

 使用者の心理に深く依存するフォースの威力は各々の状況にて変化する。時に強力であり、時に虚弱である。現在は任務下にある訳ではない。"可愛らしい"吸血鬼少女の戯れの下にある。ならばその力が弱まるのは当然の事―――危険がある訳ではない、何より永遠亭のアルファード・レッドフィールド として赴いているのだ。軍人ではない・・・だが、人間を超えた人間である女性の能力に対する警戒とそれを上回る関心、そして小さいようで大きいプライドが力の虚弱化を抑圧した。

 

 

 目をそっと閉じ、力を抜く。そして求める、このカップの周囲で発生した物事の痕跡、印象を。

 

 

 周囲を覆う暗闇が拡散したターボ・レーザー幕のように晴れる。そして目の前には何かを準備する銀髪の美人・・・否、恰も調理室に自身が踏み入れているかのような光景(サイコメトリー)見る(感じる)

 

 

 間違いなく彼女はこの場所を訪れ、紅茶とスコーンの準備をしている・・・時間を掛けて。スコーンの方は完成したのか既に小皿へと載せられ、指揮官(紅茶)を待つ列兵のように鎮座している。当の彼女は時間が来たのかスプーンでポットを一掻きし、手を翳しながら香りを確認している。その姿は先の短い間の印象とは大きく異なり、何と言えばよいか・・・とても女性らしく、印象的であった。彼女に対する第一印象が変化するのを自覚する。

 

 

『・・・』

 

 

 ノイズのように一瞬だが周りが再び暗化する。自分の力ではここまでが限界らしい。だがこのまま得られる戦績としては、彼女が時間を掛けて調理室へ向かい用意したという事実のみである。より確実的な証拠はないか・・・ありとあらゆる部分を観察する彼女自身、床、天井、カップやお盆、調理器具、ポッド・・・

 

 

『・・・馬鹿な!』

 

 

 部屋を退出しようと移動する彼女の光景を最後に目の前が黒一色となった

 

 

「考えは纏まったかしら?」

 

 

 彼方の声が高速で近付くような耳鳴りを聞き、目を開ける。

 

 

「・・・はい」

 

 

 他の世界だと知った時は身が捩れる様であった

 

 不老不死の事実を知った時は関心と恐れが入り交ざった様であった

 

 空を飛ぶことが出来ると説明された時は渇望と好奇心が満ち溢れた様であった

 

 

 様々な"異常"を見せつけられた自分だが、この解答が正解とするならば・・・自分はどう感じるのだろうか。

 

 

「答えは・・・時を止める能力」

 

「っ・・・」

 

「へぇ・・・」

 

 

 時とは出来事や変化を認識するための基礎的な概念、事実である。そして時間に停止の概念は存在しない。モノがある限り。時を止めるとはその概念事実に附する法則を破壊したという事だ・・・

 

 

「咲夜?」

 

「・・・正解」

 

「まさか・・・!」

 

 

 本当に・・・時を止める事が可能なのか・・・それは自然科学への冒涜であり、時の否定だ・・・

もたらされた真実に軽度のパニック状態へと移行する。この地の者にとっては、空間を引き裂く妖怪の賢者に恐れを抱くのであろうが、僕にとっては幻想郷も妖怪も蓬莱人も・・・これと比較するならば"可愛い"ものかもしれない・・・

 

 

「凄いわよあなた、咲夜の能力を当ててしまうなんて!銀河の彼方にいる人間は皆あなたのように素晴らしい発想力を持つの?それとも非常に賢いのかしら?」

 

「・・・恐縮です」

 

 

 そう口に出しながらも思考は驚愕に徹していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても唯の人間ではなかったのね」

 

「先に述べるべきでした」

 

「どちらにせよあなたの高い推察力には感嘆するわ」

 

 

 賛辞を述べつつカップを口元へ運ぶ彼女を模倣する様に自分もそれに倣う。喉を通るのは興奮を悪化させるような温かさではなく冷ます様な冷たさ。目前の彼女曰く『ホットの後のアイスは格別』らしい。まさか私の困惑を前提にクイズや熱い紅茶を用意させたのだろうか・・・

 

 

「フォース、ね・・・そこまで特筆するような能力ではないが、汎用性には富んでいる」

 

 

 全貌を見せず基礎的な知識を説明するに留まったが、人間がその様な諸能力を保有する事実には驚かれている様子である。唯の人間ではないと認識されたのであろう・・・彼女と同じように・・・

 

 

 時間を操る程度の能力―――それが彼女の能力・・・説明から推察するに時間と密接に関係する空間をも操作することが可能・・・

 

 

 停止した時間の中で我々は何が出来るのか、いや、何も出来ない。その時間は彼女の支配の下へと置かれる。つまり彼女は支配者なのだ・・・不動の我々を嘲笑うかの如く振る舞うことも可能な・・・

 

 

「少し喋り過ぎたわね・・・咲夜、今何時?」

 

「間もなく午後五時です」

 

 

 その答えに驚きつつ、自身の腕時計に目を遣る。そこに示されるは17:00の数字・・・感覚を超える程の時間を過ごしていたとは。これ程時の巡りを早く感じるのはこの地へと足を踏み入れたあの日以来かもしれない。それに匹敵する程、自分の意識は彼女等に集中していたと改めて自覚する。

 

 

「あんまり長居させると月の姫が怖いわね・・・ご苦労様、いい暇潰しになったわ。またいらして頂戴、今度はより詳細な話が聞きたいわ・・・咲夜、彼等のお見送りを」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、じゃあその三回目で答えを当てたんだ」

 

「はい」

 

 

 夕食の準備をしながら今日の出来事を鈴仙さんに伝える。帰路に就く中、脳内を支配したのはメイド―――十六夜咲夜の事であった・・・いや、正確に言えば彼女の能力なのだが。彼女は無論、私に敵意を保持した訳でもなく危険にさらした訳でもない。だが、時を止めるという事実は謂れもない違和感と恐怖感をもたらした。しかし不思議なことに、真後ろに立つ玉兎の少女の顔を見た瞬間、その様な感情は消えていった―――中和剤が毒ガスを浄化するように。やはり既に自分はこの永遠亭に心理的安息を感じ取っているのだろうか・・・

 

 

「あれ、でもどうやって十六夜咲夜の能力が時間停止だって分かったの?過去の光景を見た・・・のよね、だけどそれだけじゃ分からないんじゃないの?心を読んだとか?」

 

 

 フォースの応用について驚きを感じていた彼女の内心が疑問へと移る。真っ当な問いであろう。だが内心を感じたのではない。詳細に言えば、フォースで読み取れるのは心理的状況や感情、意図等に限定される。時を止めるという、又は時を止めようとする具体的な意図は少なくとも自分の様な技術では推察不可能だ・・・いや、意図どころか鈴仙さんの言う通り心を読める者もいるだろうが・・・尋問官のように・・・

 

 

「推測したんです・・・彼女が触れた物の時は彼女に付随すると」

 

 

 忘れられないであろう一連の光景を思い返す。

 

 

 カップを用意する間のポッド・・・彼女が手を離すまで確かに湯気を上昇させていた筈・・・しかし、その後は全くその湯気が見えなかった。冷えにより湯気の立ちに間が出来るのは理解出来る。だがその間も数秒に過ぎない。薬缶よりポッドに映してから一分以上は経過していた・・・何故、何時の間に

止まった・・・想定外の減少を目撃する事により驚くと同時に、疑問と解答への糸口を垣間見た。

 

 

 取り出した二つのコップに紅茶を淹れようとポッドに手を掛けるメイド。その瞬間、再び湯気が湧き上がり、水分子の蒸発により、消えていった。これが数秒間に繰り返される―――通常の状態へと回帰した。まるで彼女が触れるまで機能していなかったのように・・・

 

 

 彼女が再びポッドを置く。するとまた湯気の流出が停止していた。

 

 

「まさか時を止めていたとは思いませんでしたが」

 

「よ、よく気付いたね、そんな小さな事に。でも凄いね、アル君の推理力」

 

「偶然に近いです」

 

「それでも凄いよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 素直に褒められた経験が少ない為か嬉しさと共に恥ずかしさを感じてしまう。

 

 

 私じゃきっと気付かなかった ―

 

 

「えっ?」

 

 

 小さな囁き―――反射的に包丁を持つ手が止まる。そっと後方を覗くが、映るのは同じように包丁を握り、準備を進める彼女。だがその背中は何故が小さく見えた・・・視覚的に何ら変わりは無いにも関わらず。

 

 

 結局、囁きの全貌が彼の耳に入ることは無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は外を眺めていた。既に深夜と称して良い時間帯だが、月明り照らす湖が暗闇を押しやっている。適度な涼しさを運ぶ夜風が美しい銀髪を揺らす。

 

 

 彼女は考えていた。主が暇潰しに招いた外来人、永遠亭の新たな住人・・・彼女のの力を見抜いた少年の事を。

 

 

「アルファード・・・レッドフィールド」

 

 

 夜風がその呟きを消すのを感じながらも、彼女は夜の幻想郷を見続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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