東方流星記 ~ Imperial Fugitive.《帝国の逃亡者》   作:Exar Kun

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第2話 Welcome to Gensokyo.

 

「へえー、こんなにたくさん惑星があるんだー。ここがあんたの居た星?何か禍々しいね」

 

 ホロ・マップでコルサントを見ながらそう呟くのは、永遠亭の住人の一人、因幡てゐさん。鈴仙さんと同じような耳 ―ウサミミ?と言うらしい― が生えた兎妖怪である。

私が居間に案内されると橙色をした野菜らしきものを食べながら、いらっしゃい宇宙人と声をかけてくれた。

 

 今は自分と共に歓迎会の準備が出来るまで待機しているところだ。ドロイド二体は庭でにらっめこするようにうさぎたちと見つめあっている。私の方は、てゐさんに暇なので話を聞かせろと言われホロ・マップで私のいた銀河系について説明しているに至る。

 

「♪〜」

 

 無邪気にホログラムを見るその姿は、まるで新しい玩具を買って貰った子供のようでとても微笑ましく思える・・・

 

 

 彼女が自分より遥かに長い期間生きてきたとは到底信じられない

 

 

「遅れてごめんなさい。もう出来たわ」

 

 そして今まさに料理の完成を伝えに来た彼女が遥かに過去に生まれ、不老不死であるとは想定できなくて当然であろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・よろしいのでしょうか?」

 

「ええ、勿論。部屋も余ってるし、何よりあなたはとても興味深い。暇潰しにも最適だわ」

 本当に良いのだろうかと確認するように永琳さんに目を向けると、よろしくね、とでも言うように微笑を浮かべていた。

 

「・・・」

 

 彼女たちは自分を永遠亭の一員として歓迎してくれている。それはつまり、一生ここで暮らしても良いということだろう。

 

 本当に良いのだろうか。帝国の名の下に様々な諜報活動に従事してきた・・・時には命を奪うこともあった・・・

 

 

 そして、帝国の方針を肯定できず忠誠を捨て逃げ出した

 

 

 そんな自分にこの永遠亭で新たな生活を営む資格があるのだろうか―――そう思い悩んでいると先程の姫様の言葉が再び頭に流れ込んできた。

 

 

 

 そうだ、僕は生きたいと思ったのだ・・・僕は・・・

 

 

 

「よろしくお願い致します」

 

 深々と頭を下げ多大なる感謝の念を伝える。意を決する―――ここで生きて行く。戻れる保障など無い。そして何よりこの幻想郷はきっと「新天地」になるであろう。

 

「はい、よろしくね」

 

 今までの経験や力を人のために活かしたい。これが贖罪になるとは限らない。だが、自分の出来ることをしたい! 人が変わったようにやる気を感じる。フォースが身体から溢れ出すようだ・・・この意志を潰したくは無い。

 

 

 フォースは本当に導いてくれた

 

 

「さて、まだまだ聞きたいことはたくさんあるけど、楽しみは先に取っておかなければいけないわね・・・あなたも色々聞きたいこともあるだろうし、私たちについても説明するわ。何故幻想郷にいるのかも、ね・・・」

 

「姫⁉︎」― 彼女の従者兼薬師が声を上げる

 

「いいじゃない、いつかは話すことになるのだから。それに彼はもう永遠亭の一員よ、仲間外れは可哀相じゃない」

 

 あまり他人には言えないような事情があるのだろうか。だとすれば無理に聞くのも忍びない。そもそもここに居させて貰うだけでも十分なのだ。

 

「そうね・・・遅かれ早かれ説明するには違いないわ・・・」

 

無理に聞き入るつもりは無い、そう伝えようとする寸前に八意さんがそう呟いた。

 

「そう言うと思ったわ、永琳」

 

そう言いつつも永琳さんの顔は険しいままであった・・・一体どんな事情が・・・秘密があるのだろうか。

 

彼は純粋な興味を持ちつつ、幾ばくかの不安を感じた。

 

「少し長くなるかもしれないけれど我慢してね」

 

そう言って再び姫様はこちらに顔を向けた。

 

「昔、昔―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたのかしら?」

 

「⁉︎」

 

気付いたら永琳さんの顔を見つめたままでいた。

 

「いえ、先程姫様が説明してくださった際に反対しているように感じたので、本当に自分が知って良かったのかと・・・」

 

「あら、ごめんなさい。要らぬ心配をかけてしまったわね。まだ情報の整理が出来ていないかもしれないのに、いきなり伝えたら余計困惑すると思って・・・それにあまり公言していることでもなかったから・・・」

 

確かに困惑により拍車を掛けたのは事実である。

 

「ありがとうございます。永琳さん・・・」

 

自分に気を使ってくれたことに感謝する。

 

「今ウドンゲが料理を持ってくるから、もう少し待っていて頂戴」

 

「自分も手伝いに行きます」

 

 すると、立とうとする私を手で制し、こう言った。

 

「言ったでしょ今日はあなたたちの歓迎会なのだから、主役はあなた方よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姫様、永琳さんそして鈴仙さんの三人はこのプライムで唯一存在する月の出身であるらしい。外の世界において過去に月へ有人探査が行われたというのは永琳さんに説明されたため記憶に残っていたが、それは月の表側でのことであり、結界で隔てられた月の裏側には外の世界、つまり地球、の技術力を上回る独自の文明が発達しているとのことであった。姫様、永琳さんは月の都で高位階級にある月人と言われる人であり、元来は地球にいた人々が先祖に当たるらしい。幻想郷では妖怪扱いの鈴仙さんは、本来は月の下層階級である玉兎とよばれる人型兎だそうだ。

 

 月は地上、つまり地球とは異なり"穢れ"が存在しないらしい。穢れとは生命現象における生と死によるものらしく、それが存在しない月で暮らす人々は非常に長寿であるらしい。特に月人である二人は非常に長い時を生きてきたとのことだ。そして永琳さんは今現在この地球に暮らす人間が発生する前から存在し、月へ移り住む計画のリーダーの一人であったらしい・・・

 

 ある時、永琳さんは姫様の能力?を利用して蓬莱の薬と呼ばれる不老不死の薬を開発、それを姫様は使用し不老不死になったというのだ。姫様は罪?として穢れの存在する地上へ流刑された。元々地上に興味があった姫様は地球で生活することに決めたらしい。刑を終え、姫様を回収しに来た月の使者を同行していた永琳さんが殺害し、二人は姫様の能力を利用して、この永遠亭で隠居をすることになったらしい。つまり、この幻想郷と言う地域が開発される前から既に住んでいたということになる。長い隠居生活を送る中、結界を破って侵入したてゐさんを住まわせたり、数十年前に月から逃げてきた鈴仙さんを匿う等行って・・・数年前にある"異変"が発生し、ようやく幻想郷内で存在が知れ渡ったとのことだ。

 

 はるか昔から存在し発展した文明―――銀河系において半ば都市伝説化している超古代文明ラカタン無限帝国を思い出させた・・・月の民、穢れ・・・銀河系にも7000年程度の寿命を持つという危険種族ジェンダイが存在するが、彼女たちはそれをも上回る寿命・・・そして何より・・・

 

 古代シス卿は死の恐怖 ― 自らの野望成就の未達成 ― を恐れ不死に執着したという記録を見たことがあった。彼らが蓬莱の薬を知ったらどう思うのだろうか・・・永遠を生きる人は何を考えてこれまで生きて・・・そして生き続けるのだろうか・・・

 

 

 彼女たちはまるでフォースのように―――不思議だ

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

鈴仙さんが料理を運んできた。基本この屋敷では彼女が調理担当らしい。永琳さんもそれに続く。

これまた見たことのないような食べ物を使った料理だ・・・だがよくよく見ると米を筆頭に銀河系にもありそうな物もちらほら確認できる。何より手が凝っていることは確かだ。

 

「あら、美味しそう」

 

 姫様は最後にやって来た。この少女も自分よりはるかに年上なのかとつい思ってしまう。

 

「さて、早く料理を食べたいと思うので一言・・・アル、マグ、R2・・・改めてあなた方を歓迎します。永遠亭へようこそ」

 

 姫様が音頭を取られ深々と頭を下げる。マグの方も庭からだがお辞儀をしている。

 

「さあアル、地球初の料理を堪能しなさい」

 

「はい、いただきます」

 

 早速手をつけようとしたが、重大なことに気付いた・・・フォークとスプーンが無い・・・代わりにイーティング・スティックのようなものが存在するが、あいにく自分はこれまで使ったことがない。目の前に居る鈴仙さんの動きを見る。親指と薬指、中指を使うのか・・・見よう見真似で構えてみるがどう動かすか、力の入れ方が分からない。

 

「どうしたの?お口に合いそうにない?」

 

 中々食事に手をつけない自分を心配して鈴仙さんがそう聞いてきた・・・素直に使い方を教わろうか。

 

「箸の使い方が分からないのね・・・ウドンゲ、前に買ったフォークとスプーンを持ってきて」

 

「あっ、分かりました」

 

 永琳さんが自分の状況に気づいて、フォークとスプーンを持ってくるよう手配してくれた。良かった、この世界にもフォークとスプーンがあったとは。

 

「こう見ると本当に外から来たのだと実感するわ。アル、あなたの銀河系には箸は無かったの?」

 

 このイーティング・スティックもどきは箸と言うらしい・・・使い方に慣れなければ。

 

「似たような物はあるのですが・・・自分にはあまり使う機会が無かったので」

 

 そうしているうちに鈴仙さんがフォークとスプーンを持ってきてくれた。感謝の言葉を述べて早速頂く。まずはメインディッシュと思われる揚げ物を一口、

 

「美味しい・・・」

 

  そう無意識に声が出てしまうほど美味しかった。揚げ物に包まれたポテトのような物は天然の甘さを引き立てる。そして適度に降りかかった塩がより良い味を出している・・・今まで食べてきたものとはまた違った風味があって面白い。

 

「よかった、気に入ってもらえて」

 

 鈴仙さんが安堵の表情を浮かべる。私も料理をするがここまで出来る自信は無い・・・やはり経験がものを言うのだろうか。米の方も多少異なり、ぱさぱさした食感ではなくもっちりとした独特の食感である。コレリアで一度食したものに似ているかもしれない。

 

 思えば逃亡してからレーションや露店の小物しか食べてなかった。それもあってかどんどん料理を口に運ぶことができた。

 

「ねえねえ、ニンジンの天ぷら頂戴」

 

 隣に座るてゐさんが好物であろう橙色をした ― 先程彼女が齧っていた ― 野菜の揚げ物・・・天ぷらを要求してきた。

 

「ちょっとてゐ、それはあんたの分じゃないわよ!」― 鈴仙さんが叱る

 

「大丈夫です、てゐさんどうぞ」

 

 そう言って彼女の好物を差し出す。

 

「わーい、ありがとうー!」

 

 嬉しそうな表情をする妖怪兎、やはり子供にしか見えない。

 

「てゐ、お行儀が悪いわよ」

 

 永琳さんに言われ"はーい"と返事をするてゐさん。精神年齢は外見に従うという事なのだろうか。まあ今は深く考えるのはよそう。それよりも食事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 トントントントン ―――

 

 

 台所でニンジンを切りながら少女・・・鈴仙は新たな永遠亭の一員について考えていた。はるか彼方に位置すると思われる銀河系からの来訪者。以前の自分と同じ軍人・・・そして脱走兵である見た目普通の男の子。そして二体のロボット・・・ドロイドって言うんだっけ?幻想郷は全てを受け入れるっていうけど神や幽霊だけでなく本当の意味での宇宙人を受け入れるとは。

 

 彼・・・アルファードは礼儀正しく聡明そうだが、一方で口調はあまり多くなくどこか冷たい・・・何と言えばいいのか・・・言っては悪いがあまり温かさというのが感じ取れない・・・まあ、会ったばかりの人だし仕方ないけど。

 

「・・・・・・」

 

 ここで共に暮らすこと自体特に問題とは思わないし歓迎するが、如何せん男性との密接な接点があまりなかった私には多少の緊張が生まれてしまう。

 

 だがそんなことを言っても一番緊張しているのは彼だ。突然見も知らぬ所に来てしまったのだから。逃走の疲れもあるだろう・・・私もそうだった。

 

「よしっ」

 

 気合を入れる。私は彼より長く生きてきたし、別に男性と会ったことないって訳ではないんだから。幻想郷はおろか永遠亭にも慣れない彼をリードしなければ。もう彼は同じ永遠亭の一員なのだから・・・そのためにも今はこの鈴仙特製の和食を作らなければ。

 

 

 

 

 

 そっかそっか、箸の使い方が分からなかったのか。でもフォークとスプーンが彼の世界にもあって良かった。そう思いつつ洋食で使うために買っておいたフォークとスプーンを取り出す。見た目が無理ですとか言われたらどうしようかと思った。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 やはりどこか他人行儀というか業務用というか・・・まあ、ある意味軍人に向いた感じなのかな。そう思いつつ彼の第一食目を待つ。彼が最初に食べようとしたのはサツマイモの天ぷらだった。気に入るかしら・・・

 

 緊張してつい目線が彼に向いてしまう。姫様と師匠も気になっている様子だ。

 

「美味しい・・・」

 

 その言葉を聞いて安心した。気に入ってくれたみたいだ。

 

「よかった、気に入ってもらえて」

 

 緊張が解けたのかつい口に出してしまった。やはり初めて食べる人が美味しいと言ってくれると非常に嬉しい、作った甲斐がある。

 

「ねえねえ、ニンジンの天ぷら頂戴」

 

 するとてゐが突然彼にそんなことを要求した。

 

「ちょっとてゐ、それはあんたの分じゃないわよ!」

 

 初対面の人になんてこと言うのかしらこの地上の兎は。彼はまだ一口も食べてないのに。というより、いきなりあんなことが言えるなんて凄い―――てゐの失礼を詫びようと口を開けた瞬間、

 

「大丈夫です、てゐさんどうぞ」

 

 何の躊躇も無くニンジンの天ぷらをてゐに渡した。

 

「わーい、ありがとうー!」

 

 てゐが大げさに喜ぶ。なんだ意外と優しいじゃない。彼女の喜び具合をみて微笑を浮かべてるし、優しさが感じられる。緊張が益々解けていくと同時に先程失礼な考えをしていた自分を叱る。見た目で判断するなんて駄目じゃない!

 

 ニンジンをあげるというアルにとっては特に何か思うところのない行動だったが、玉兎の少女には多少影響を及ぼしたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事の片付けが終了してからは、先程居なかった鈴仙さんに改めてドロイド二体を紹介しようとした。姫様、永琳さん、てゐさんもやって来て食事の時と同じく永遠亭の全員が集まることとなった。

 

「R2-T2アストロメク・ドロイドです。整備や修理を主に担当してくれます」

 

簡明に説明する。鈴仙さんがよろしくお願いしますと言うと返事をするかのように機械音をあげクルクルと回り出した。それにつられてか庭にいたうさぎたちも回り出す。姫様や永琳さんもそれを見て微笑む。

 

「もう一人の相棒、IG103マグナガードです。主に護衛や戦闘支援を担当しています」

 

「IG-103デス、マグトオ呼ビ下サイ。ヨロシクオ願イシマス」

 

 よっ、よろしくお願いしますと少し驚きながら返事をする鈴仙さん。クローン大戦時の独立星系連合軍司令官、グリーヴァス将軍の護衛だった証であるマント、消えない無数の傷跡は歴戦の戦士である証だが、同時にその大きさも伴い威圧感を感じさせる。

 

「マグはどうやって戦うの?」

 

 てゐさんがさも知りたいといった様子でマグに質問する。

 

「私ハ主ニコノ―――エレクトロスタッフト、コノE-5ブラスターヲ近・遠距離デ使イワケ戦イマス」

 

そう言うと彼は腰の部分から折り畳んであるエレクトロスタッフを取り出し開く。電磁パルスが発生しスタッフの両端が紫に光る。

 

 それを見たうさぎたちは怯えたのか距離を取る。質問をしたてゐさんは臆することなくすげーと言いながらスタッフを見続けている。

 

「両端のは―――電磁パルスかしら?」― 永琳さんが尋ねる

 

「ハイ、コレニヨリ相手ヲ生ケ捕リニスルコトモ可能デス」

 

 フリク合金で構成されるエレクトロスタッフはブラスターのエネルギー・ボルトを偏向させる他、事実上あらゆる物体を切断できるライトセーバーにすら耐える。対ジェダイ用ドロイドとして利用されたマグナガードは、このスタッフを使いクローン大戦中に一定の効果をあげたそうだ。

 

「マグ自体硬いし、弱い妖怪なら壊せないんじゃない?」

 

 全てを受け入れる幻想郷には様々な妖怪が存在するらしい。そして妖怪と言うのは害がないものもいれば、人間を食うものもいるらしい・・・現在では殆どの妖怪が人間を食べるといったようなことは行わないらしいが、それでもなお犠牲者となる人間がいるのだそうだ・・・

 幻想郷の中心に位置する人里とよばれる人間の生活区域では妖怪は人に危害を加えることを禁止されているが、その外側では通用しないため、あまり人間は里から出ようとしないらしい。

 

 妖怪の具体的性質や能力についての情報はまだ聞いていないが只々平和な生活を享受するとはいかないようだ。仮に自分やマグが妖怪に打撃が可能だとしたら、人間の犠牲者を減らすために力を活かすのも良いかもしれない。

 

 

 特にマグは普通のマグナガードとは異なる・・・それはドロイドとしての性格や基礎能力だけで無く、戦闘力にも該当する・・・

 

「このブラスターってのは銃?撃っていい?」

 

「駄目よ」

 

 永琳さんがてゐさんにビシッと伝える。この屋敷は木で構成されている。もし一発でも命中したらブラスターの性質上火事が発生するだろう。自分らの武器で屋敷が全焼、なんてことになったら合わせる顔が無い。

 

 鈴仙さんはR2の収容された工具を見て驚いている。月は発展してるとのことだがドロイドは存在しないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、永遠亭の皆さん」

 

 

 永琳さんの質問に答えていたら突然上空から声が聞こえた。顔を上げると・・・またもや驚かせる光景を目にした。

 

 金髪の女性が空から・・・いや空の裂け目と言えば良いのか・・・半身を乗り出し、薄気味悪い笑みを浮かべながらこちらを見つめている・・・どういうことだ・・・何故空中に裂け目が、いや、あれはハイパースペースのような別次元なのでは・・・ということはあの女性はハイパースペースの中にいるということなのか・・・ならば何故ああも出てくることが出来るのだ・・・ハイパースペースに巻き込まれた人間は事実上脱出が出来ない。

 

 いや、落ち着け・・・あれが何故ハイパースペースだと分かるのだ。ここは自分のいた銀河系ではない。ここは幻想郷・・・あらゆるものが存在していると仮定しても良いだろう。マグが警戒態勢に移るのを横目で流しつつそう感想を抱く。

 

「あら、妖怪の賢者様じゃない。もう嗅ぎ付けたの?」

 

「嗅ぎ付けただなんて、そんな私が犬であるかのように言わないで下さいませ、輝夜姫」

 

 女性が返答する。妖怪の賢者、そう姫様は言った。つまりこの女性は妖怪なのか。

 

「今日はそちらの男性に挨拶をしに来ただけですわ」

 

 そう言って私の方を見つめる。

「初めまして、アルファード・レッドフィールドさん。幻想郷の管理をしております八雲紫と申します。以後お見知りおきを」

 

 

 これまた丁寧な物言いでお辞儀をする女性。この方が先程の説明で登場した幻想郷を作り出した人だったのか。

 

「お初にお目にかかります、アルファード・レッドフィールドです。八雲様」

 

 こちらも相手にあわせ謙譲する。

 

「ご丁寧にありがとうございます。本日結界の歪みを感じたため現場に参りましたら、丁度あなたのものと思われる船?と機械人形がいましたので・・・本当は直ちに事情をお伺いしようと思ったのですけれども、その時には既にこちらに辿り着いていたため、時間をおいてから参上しようと思いまして今に至ります」

 

 既に監視下にいたということか。八雲さん・・・これまた独特の雰囲気を醸し出す方だ。しかし、何処となく胡散臭さが感じ取れる。あの笑みや丁寧な物腰も自分の内面や本音を他人に知られないようにするためのものに見える。

 

「何故彼の名前を知っているのかしら?」― 永琳さんが訝しげに問う。

 

「それはあなた方の会話を盗み聞k・・・いえ、聞こえて来た為知ることが出来ました」

 

 堂々と盗聴を認める妖怪の賢者様―――永琳さんの顔が険しくなる。

 

「さて、レッドフィールドさん。幻想郷は全てを受け入れます。無論あなた方も。しかし私は管理者として一定の秩序を保たなければなりません。あなたの目的を教えてください」

 

「彼はもう永遠亭の一員よ、なにか問題があるのかしら」

 

 永遠亭の一員、姫様がそう言った時に、心が温かくなった気がした。嬉しさを感じているのだろうか。

 

「これはまた珍しい・・・てっきり自分の星?に帰るまでと思いましたが・・・」

 

 先程の姫様の言葉で私がここで暮らすことを決意をしたことを推察したのか、八雲さんは驚いていた。すると八雲さんが再びこちらを向いて問うてきた。

 

「レッドフィールドさん、あなたはこの幻想郷でごく一般的に生活をする、ということでよろしくて?」

 

 こう言われると緊張する。幾分声を震わせながら肯定の返答をした。

 

「・・・分かりました。レッドフィールドさん、ようこそ幻想郷へ。ここは全てを受け入れます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず神出鬼没な奴ね」

 

 八雲さんが帰った?後、先程の一件がもはや見慣れた光景であるとでも言わんばかりにてゐさんが呟いた。いつも突然空間を割いて?現れるのだろうか。

 

「まあ、一応認められたことだし良かったんじゃない」

 

 姫様の言う通り、今回の八雲さんの訪問は単に驚かされただけではなく、幻想郷の管理者のお墨付きを頂いたという好機でもあった。この地においては特に入国審査に該当するような管理があるわけではないが、管理者にわざわざ自分のことを正式に認識して頂けるのだからデメリットは無いはずだ。

 

 

「・・・辺りも暗くなってきた・・・アル、今日は色々なことが度重なって疲れたでしょう。もうお休みになった方がいいわ。」

 

 確かに、逃亡してからはろくに休息を取っておらず、この惑星に来てからも驚きと不安で一杯一杯だった。疲労はかなり蓄積している。ここは姫様のご厚意に与ろう。

 

「今日は十分に睡眠を取りなさい。もうあなたを追い詰めるものなど無いのだから。仕事も辞めてしまったようなものだし・・・好きな時間に起床できるというのは素晴らしいわよ」

 

「私たちには仕事が有りますけどね」― 永琳さんが苦言を漏らす

 

 "まあ、そう言いなさんな"と姫様が答える。仕事の影響で起床時間は休日においても平日と殆ど変わらないという状態だった。久しぶりに思いっ切り就寝できる。だが仮にも既に永遠亭の一員なのだ。仕事の手伝い等無論しなければならないだろうし、明日にでも即戦力に成れるようでなくてはならないのではあろうか。

 

「姫の言う通り、明日の起床時間なんて考えずにゆっくり休みなさい。ウドンゲ、さっき伝えた通りに彼を部屋に連れて行って」

 

 表情に出ていたのか永琳さんが優しく声を掛けてくれた。先程指示を受けたのだろうか鈴仙さんが私とドロイドたちを手招きしてくれる。庭を通って彼女に付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からこの部屋で暮らしてもらうことになるわ。二つ隔てた部屋が私の部屋だから何かあったら呼んで」

 

「分かりました。ドロイドたちはどうすれば?」

 

「外廊下に座らせてもいいし、すぐそこにある小屋を使ってもいいとの指示だったわ」

 

 二体の方を見る。マグの方はどちらでもと言いたげに両肩を上げる。外に直接置くのはあまり良くは無いので小屋を利用させてもらうことにした。小屋の中はその外見に反して意外と奥行がある。自由に利用して良いとのことなのでドロイドたちの整備兼駐留部屋にしようか。明日永琳さんに詳しく聞いてみよう。

 

「姫様の言ったように今日は疲れているでしょ?ゆっくり休んでね・・・お休みなさい」

 

「お休みなさい」

 

 人にお休みなさいなんて言われたのは初めてかもしれない。今日は心が温まることだらけだ。

 

「鈴仙さん」

 

 立ち去ろうとする彼女に声をかける。ん?とこちらに振り向く。

 

「今日はありがとうございました・・・これからよろしくお願いします」

 

 頭を下げ改めて挨拶をする。

 

「こちらこそよろしくね・・・アル君」

 

 彼女は優しい笑みを浮かべながらそう返してくれた。

 

 

 長靴(ブーツ)を脱ぎ部屋に入る。広い部屋だ。真ん中に机が一つ、椅子がそれぞれ二個ずつ設置してあった。壁には絵画と思われるものが飾ってある。突然訪問しといてこんなにも良い部屋を使用させてくれるとは、本当に頭が上がらない。だが一つ気になるのは寝具が見当たらないことだ。この世界にはベッドのようなも物が無いのか・・・いや、最初に永琳さんと面会した部屋にはベッドが存在した。だがこの部屋は居間のように床に直接座るような部屋だ・・・椅子に座って寝るのだろうか・・・ともかくもう寝よう。今日は疲れた。とりあえず椅子を壁側に持って行って・・・上着をデュベット代わりにするか。

 

 電気を消し、就寝に至ろうとする元諜報員はそれまでの人生の中で最も早く眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

 従者の入室を求める声が聞こえてきた。どうぞと返答する。

 

「今日はとっても充実した日だったわ―――新しい家族もできたし」

 

「随分と彼のことを気に掛けるのね」

 

 

「呼び込もうと言ったのはあなたよ永琳」

 

「・・・まさかこんなに気に入ってくれるとは思わなかったから」

 

「だって彼とってもいい子じゃない・・・それでいてとてもとても興味深い、暇潰しになるわ」

 

「暇潰しのために彼を永遠亭へ?」

 

「永遠を生きる私たちにとっては全てが暇潰しみたいなものでしょう?それにね、私はこれから彼がどのような人生を送るのか、そしてその人生に如何にして私が関わるのか見てみたいの。あなたもそう思ったから呼び込んだのではないかしら。彼は人間、イナバ―――鈴仙よりも遥かに短い期間しか生きられない。でもきっと彼の短い人生は一生忘れられない記憶として私たちに残るわ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 輝夜の部屋を出て自分の部屋に戻ろうとする。弟子の部屋を覗くと彼女は熟睡していた。ウドンゲも今日は疲れたわよね。ご苦労様。

 

 

 続いて彼の部屋に近づく。

 

「ウドンゲ・・・部屋の説明を怠ったわね」

 

 中を覗くと、彼は壁を背に椅子に座り制服の上着を掛け布団代わりにして寝ていた。

 

 布団に移すべきだろうか。だけど熟睡しているのを起こすのもね―――掛け布団だけでも掛けてあげますか。そう思いつつ押し入れから掛け布団を取り出す。

 

 布団を掛けている間、浅く、顔を覆うようにして被っていた彼の帽子のつばと手が当たってしまい帽子が落ちてしまった。そこから熟睡した彼の寝顔が現れた。やはり疲れて熟睡しているのか気付く様子はない。先程までの緊張や不安が未だ見え隠れした表情から一変した安心しきった表情を見て安堵した。どちらかと言えば固い表情が多く、少し威圧感がある彼であったが、寝ている時は年齢よりも幼く見える。鈴仙や輝夜とはまた違った男の子特有の可愛らしい寝顔がそこにあった・・・つられてつい微笑んでしまった。

 

 

「お休みなさい・・・」

 

 

 彼の疲れが癒されるのを祈りながらゆっくりと部屋を去った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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