東方流星記 ~ Imperial Fugitive.《帝国の逃亡者》   作:Exar Kun

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第4話B Turning Point.

 その美しい光景に圧倒されていた

 

 

 この惑星を訪れて、初めて美しさと言うものを知ったが

 

 

「・・・」

 

 

 ここまで心奪われるとは思いもしなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も初めて見たときは見惚れてしまったわ。幻想郷も悪くないかもってね」

 

 

 鈴仙さんの言葉で意識を戻す。今日は景色を見に来た訳では無い。

 

 

「すいません、停まってしまって。行きましょうか」

 

 

「まだ見てても良いんだよ?」

 

 

「案内される身で勝手は言えません」

 

 

 真面目だね、と言いながら微笑を浮かべる鈴仙さん。また何時でも来ることは可能なのだ。まずは目の前の事に集中しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急斜面を降りて行くと、道と思しきものが整備されている。里の人々はこの道を通り森へ向かうのだろう。

その先には民家らしき建物が見える。既に里の範囲内だろうか。

 

 

 更に近づいてみる。住人と思われる人の背格好が徐々に鮮明となる。

 

 

 

「そういえば昨日戦ったんだよね・・・」

 

 

 

 銀髪に長髪の女性。足音に気付いたかこちらに振り向く

 

 

 

「永遠亭の兎と外来人それと・・・機械人形?」

 

 

 

 まさに昨日対峙した藤原妹紅さんその人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日は悪かった」

 

 

 再び昨日の謝罪を頂きこちらも返事をする。意外にも素直な方のようだ。さすが長年を、いや、永遠を生きる者は区切りがしっかりしているという事だろうか・・・

 

 

「やっぱりそんな物引き連れてると外来人って感じだな」

 

 

 そう言いながら二体のドロイドを見る。エプロンが威力を発揮したか、はたまた彼女自身の芯の強さなのか威圧された様には見えず、関心だけが表れている。

 

 

「コンニチハ」

 

 

「うわっ!喋んのか、こいつ!・・・凄いわね・・・宇宙の彼方は月並に発展してるのかしら」

 

 

 発声機能には驚いたらしい。R2の方は撫でられて喜びの声を上げる。

 

 

「で、今日は里に何用で。それとも昨日の続きをしに来たのかい?」

 

 

「そんな訳ないでしょ。彼に里を案内するために来たの。邪魔しないで欲しいわ」

 

 

「なんだ、残念」

 

 

 同意があればまた戦いたいということだろうか。勘弁して欲しいものだが・・・

 

 

 

「そういえば、名前何て言うんだっけ?」

 

 

「申し遅れました。自分はアルファード・レッドフィールドと申します。この二体は右がマグ、左がR2です。以後お見知りおきを」

 

 

 改めて藤原さんに自己紹介をする。昨日は結局すぐに別れてしまったので話もあまり出来なかった」

 

 

「アルファードね・・・昨日輝夜から聞いたと思うが・・・私は藤原妹紅、よろしくな」

 

 

「よろしくお願いします藤原(ふじわらの)さん」

 

 

「ふじわらのさんって・・・妹紅で良いよ」

 

 

「長いようでしたら自分のこともアルとお呼び下さい」

 

 

 昨日対峙した相手とは思えない程、平和的に挨拶できた。まだ心底では警戒は解除されないが、友好関係は結べそうだ。

 

 

 

「さて、おっかない兎に睨まれたくないんでね、もう行きな」

 

 

「私からすればあなたの方がおっかないわ。行きましょうアル君」

 

 

「失礼します」

 

 

 取り敢えず、互いに正式な面識が出来たので良しとしよう。

 

 

 

「あの人は永遠亭に患者を案内してくれるから見慣れると思うわ・・・おっかないけど」

 

 

 

 それには同意である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び歩き始めて数分、里の出入り口、いやセントリー・ポストと思われる施設が姿を現した。一人の男性が我々、特にマグを睨んでいる。エプロン付きとはいえ、見も知らぬ威圧的な機械人形が近づいて来ればいかに幻想郷の人間と言えども警戒するだろう。外見に尻込みしない彼の勇気を小さく称える。

 

 

「こんにちは薬屋さん・・・いきなりですがこの方々は?」

 

 

「こんにちは。二日前より永遠亭の一員となった外来人と彼の機械人形です」

 

 

「初めまして。この度、永遠亭所属となりました、アルファード・レッドフィールドと申します。以後お見知りおきを」

 

 

 挨拶をすると彼の警戒心が下がるのを感じた。やはり第一印象は重要である。

 

 

「そうでしたか、これは失礼。見慣れぬ方々だったので・・・にしても大きな機械人形ですね・・・」

 

 

 良かった、歓迎の気持ちが感じられる。にしてもやはりマグは目立つな・・・里に暮らす妖怪もいるらしいが里に住む機械人形はいないだろう。

 

 

「はい、私の相棒です。あとこちらの小さいのも」

 

 

「― ― - ―!」

 

 

 小さいのと言われ怒りを見せるR2をなだめながら紹介する。へぇ、これはまた・・・、とR2にも驚く門番?の人

 

 

「今日は彼に里の案内をしようと思いまして」

 

 

「そうですか、分かりました・・・ようこそ、人里へ」

 

 

 そう言って門を開けて頂く。すると目の前に幻想郷で暮らす人々の日常が目に入って来た。

 

 

 

 

 

 最近どうだい ―

 

 

 田が一つダメになっちまった ―

 

 

 いらっしゃい、いらっしゃい! ―

 

 

 

 

「ここが人間の里、幻想郷の中心部にある人間の活動拠点よ」

 

 

 迷いの竹林の外へ外出することの無かった彼にとってこの喧騒は多くの人々が生活を営んでいるということを実感させ、あたかも自分が銀河系の惑星にいるかの如き錯覚を想起する。流れるようなしかし気持ちの籠った人々の声が耳を通り抜ける。

 

 

「この門が私たちがいつも使ってる中央南口。この近辺は主に商店の活動が盛んだわ」

 

 

 道理で商店らしき店が多い訳だ。やはり目立つのか、町行く人々の何人かがこちらを見る。想定の範囲内だ。

 

 

 里の方々の服装は銀河系でも見られる恰好であった。しかし、その系統のみなのか、私や鈴仙さんの着るようなYシャツ等の服を着る人は見かけない。これはマグやR2が居ないとしても少しは目立っていただろう。建物はその多くが永遠亭のような形式、素材、色合いである。幻想郷或いはここが存在する日本の一般的建築方式がこの木製によるものだと想像出来る。

 

 

「よくお世話になるお店を紹介するから付いて来て」

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなのー、これからよろしくね」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

 鈴仙さんがよくお世話になるという雑貨屋の店主さんに挨拶をする。皿やコップが大量に並べてある。一つ一つ似ているようで微妙に異なる食器類は、これらが手作りであるということを推察させる。人の良さそうな笑顔を見せるこの方も立派な職人という訳か。

 

 

「鈴仙ちゃん何か買っていかない」

 

 

「今日は挨拶だけで。他にも案内しますし」

 

 

「そう。また来て頂戴ね、そっちの機械人形さんたちも」

 

 

 最初は驚いていた店主さんだがすっかり商売相手として我々を見てくれているようだ。失礼しますと言って店を出る。

 

 

「アル君が最初に使ったフォークやスプーンも実はあそこで買ったの。意外とあなたが慣れ親しんだ物があったりして」

 

 

「そうですね。見る限り使用方法が分かる物もありましたし・・・近く買物させて頂くかもしれません」

 

 

「そっか、良かった・・・次は里の人々が暮らす居住区の方に行ってみましょうか。食べ物なんかもあちらに売ってるし。薬の宅配も殆どが居住区で行うから行き方だけでも覚えて頂戴」

 

 

「分かりました」

 

 

 里の大半を占めるという居住区へ向かう。主な活動場所と言うこともあるので早めに慣れなければ。

 

 

 

 

 

 

「ここからはもう殆どが民家よ。一応、商店沿いの脇道を入ればどこからでも行けるけど、さっきの交差点から来れば丁度居住区の中央に着くから分かり易いと思うわ」

 

 

 成程、商店沿い交差点左折っと。居住区中央への道のりをミニ・パッドへ記録する。

 

 

「それは何?」

 

 

 パッドを弄っていると鈴仙さんが質問してきた。

 

 

「ミニ・パッドという小型情報端末です。今は居住区への道のりをメモに記録していました。この他にもカメラ機能や電子情報の閲覧も可能です。月にはありませんでしたか?」

 

 

「似たようなのはあったけどこんなに小さくなかったし、何より高かった気がする」

 

 

「大抵の市民は保有している物でしたね。価格も非常に安価で6000年程前から使われ始めたと記憶しています」

 

 

「そんな前から・・・やっぱり凄いねぇ」

 

 

 

 銀河系にも本は無論存在するが、現在では、その役割をこのパッドが主に担う。大量の無料情報から珍しい有料情報までこのパッドにインストールすることにより常時閲覧することが出来る。メモのような単純な機能の他、自己の手で地図を作成することも可能である。薬の宅配等で役に立つだろう。

 

 

 

「でも月の技術の・・・ウルトラソニック眠り猫、でしたっけ?あれは凄いですよね」

 

 

 

 月光で発電して鼠の嫌がる波長を出す機械だったか、あの大きさで月光発電が得られるのは中々だと思った。

 

 

「そのミニ・パッドの方が総合的に役立ちそうだけどね。どっちにしろアル君の銀河系の技術は月を超えているわ」

 

 

 月は科学技術というよりは精神的な部分を重視していると聞いた。まあ、そうでなければ穢れなど関係無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

「少しここで薬の即売をしようかな、アル君たちも見てて」

 

 

「はい」

 

 

 今日は仕事の日ではないが折角ということで我々にどのような仕事振りなのかを見せてくれるとのことだ。マグが背負った箱を降ろす。そこからござを取り出し、その上に箱を載せ薬を並べる。しかし、呼びかけをしない・・・通る人だけに売るという事だろうか?思わず聞いてみた。

 

 

「鈴仙さん、呼びかけなどはしないんですか?

 

 

 

 大丈夫だから、と言うかのような微笑が返答であった。販売時間が既に決められているのだろうか。

 

 

 

「あら永遠亭の・・・今日は薬の販売日だったかしら?」

 

 

 老齢のご婦人がやって来て鈴仙さんに尋ねる。やはり時間か?

 

 

「いえ、今日は彼らの為の実演といった所です。彼らも今度から永遠亭の一員として働くようになったので」

 

 

「こんにちは」

 

 

「コンニチハ」

 

 

 マグとともに挨拶をする。ご婦人はまあまあ、と言いながらも特段怯える様子もなく質問をしてくる。年の功か・・・

 

 

 

「これからよろしくね。私も歳だから薬に頼ること増えてしまってねぇ、沢山お世話になると思うわ」

 

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 

 

 さようならと言いながら帰って行く。やはり時間のようだ、と思っていたがその解答は誤りであることをこの目で見ることになる。

 

 

「みんな~、今日は特別に薬屋さんが来てるよ~」

 

 

 そうご婦人が大きな声を上げる。すると、

 

 

 

 今日は販売日じゃなかったわよね ―

 

 

 中田のおばあちゃんが特別だって言ってたわっよ ―

 

 

 丁度良かった、胃薬が欲しいとおもってたんだ ―

 

 

 

 民家から何人かの人がやって来た。民家の脇や通りの向こうからも人が来る。

 

 

 成程、この里は広いと言っても所詮は里、一つの場所に一つの店があれば人が集中しやすい。そしてここは居住区、人々の密集地帯である。更に建造物の立地を見ると、一軒家が多く、建物と建物の隙間も小さい。住民同士のコミュニケーション率は高いと見る。つまり、一人を媒介として多数を呼び込む、販売の存在を認知させるという事か。

 

 

 このような形態の街や村は銀河系においても珍しい物ではない。住人の助け合いにより生活の維持・発展が支えられている。このような人々は更に、災害等の緊急事態に強いことを彼は経験上既知であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな感じで販売は行います。まあ、場所はその日に何回か転々とするけどね」

 

 

 人々が帰って行った後、鈴仙さんがそう言った。何人かはマグに驚いたが、意外にもすぐに慣れたようであった。鈴仙さんや門番の人の警戒は軍人等保安系の人間にしてみれば当然であるが、民間人には一々そのような事を考えなくても良いというのもあるかもしれない・・・恐るべし、エプロン効果・・・違うか・・・

 

 

「― ― ― ― ~」

 

 

 R2の方は皆から珍しいと言うよりも可愛がれ、ご満悦の様子だ。

 

 

「ごめんね、早く回りたいかもしれないのに・・・折角里まで来たんだから実演した方が良いかなぁと思って・・・」

 

 

「いえ、そんなことは。早く業務にも慣れたいと思っていたのでむしろ拝見させて頂き勉強になりました」

 

 

「ありがとうアル君・・・じゃあ、また案内させてもらうね」

 

 

 気を配っていただいたことに感謝しつつ、再び移動をする。歩いていると食事処と思われる店が何店か存在するのが確認出来る。商店沿いにもいくつかそれらしき店は存在したが、やはり居住地に近い場所で経営するのは戦術上の強みなのかもしれない。しかし、店の判別をより効率的にする為にも、早く文字を習得しなければ・・・

 

 

 

そのようなことを考えていると何人かの子供たちが集まっているのが見えた。歳は7〜12歳といった所か。見たところ、習い事か何かの帰りのようだ。

 

 

「あっ!兎さんだー!」

 

 

「本当だー鈴仙だー!」

 

 

 丁度その子供たちが鈴仙さんに気付き走り寄って来る。彼女は里の子供にも顔馴染みのようだ。

 

 

「ほら、尻尾触っちゃダメ、もう!」

 

 

 そう言いつつ優しい顔を見せる鈴仙さん。子供たちにとってはお姉さんみたいなものなのだろうか。すると子供たちがマグを見始めた・・・不味い、怖がらないだろうか・・・

 

 

 

「すげー・・・でけー」

 

 

「機械人形さん?」

 

 

 子供たちはむしろ見たこと無い物を見るような純粋な目をしていた。恐怖感はあまり感じられない。

 

 

 子供は経験の少なさ故、恐怖に対する鈍感さが存在するともいわれている。実際その光景を見るとその説は正しいと思いざるを得ない。

 

 

 

「こっちは動くバケツ?」

 

 

「ちげーよ、これも機械人形だろ?」

 

 

「― ― ―!」

 

 

「わっ、喋った!」

 

 

「喋ったって言うのかな?」

 

バケツ呼ばわりされたことに反論するR2を不思議がる子供たち。まさに興味津々といった様子である。

 

 

 

 

「お前たちまだ帰ってないのか?お昼ご飯前に帰らないとご両親に怒られるぞ!」

 

 

 突然、壁の向こうから女性の声が聞こえてきた。恐らくこの壁の向こうの建物からだ。それを聞いて子供たちが慌てて離れていく。

 

 

 

 やばい、けーね先生だ!―

 

 

 お人形さんバイバイ~ ―

 

 

 じゃあなー鈴仙!―

 

 

 

 パッと駆けだす子供たち。逃げ足の速さは密輸業者並だな・・・

 

 

「全く、逃げ足だけは早いのだから・・・」

 

 

 駆けて行く子供たちを見ていると、この壁、いや家の中から女性が現れた。

 

 

 これまた長髪のそして妹紅さんのような銀髪を持つ女性だ。頭部には少し変わった形の帽子を被っている。子供たちは確か先生と言っていような・・・

 

 

「ん?永遠亭の兎か。今日はどうしたんだ、薬の宅配はまだの筈だが・・・それに彼等は?」

 

 

 薬の宅配・・・お得意先の一人だろうか。

 

 

「こんにちは、慧音先生。彼等は新たな永遠亭の一員です。今日は彼等に里の案内をしていて・・・」

 

 

「この度、永遠亭でお世話になることになりましたアルファード・レッドフィールドと申します。以後お見知りおきを」

 

 

「そうだったのか。申し遅れた、私は上白沢慧音、この寺子屋で教師をしている者だ」

 

 

 やはり教師か。という事はこの寺子屋なるものは見たところ初等教育機関だろうか。

 

 

「寺子屋っていうのは里における学校みたいなものよ。そして彼女は里の纏め役の一人でもありお得意様でもあるわ」

 

 

 里の纏め役。まだ若く見えるが・・・教師を務めるほどの聡明さを活かして重職に就いているのか、教育的立場から物事を発言する為か・・・

 

 

「それにしてもあまり見ない格好だな・・・それに・・・この機械人形は?」

 

 

「彼は宇宙の彼方から来た外来人なんです」

 

 

「宇宙の彼方・・・だと・・・」

 

 

 驚いていらっしゃる。これは説明をしなければ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはまた信じられんな。さすが幻想郷と言ったところか・・・」

 

 

 現在我々は寺子屋でお茶を頂きつつ私の経緯や銀河系について説明しているところだ。上白沢さんは教師の職に就いているだけあって的確な質問を幾つかしてきた。永琳さんと通ずるところがあるのかもしれない。

 

 

「いずれにせよ、君は里に多大な貢献をして下さる永遠亭の一員だ。しかも人々の依頼を受けてくれると言うなら歓迎以外仕様がない。私が代表するのも何だが人里は君を歓迎しよう」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 纏め役の一人である彼女が正式に認知して頂くということは、これからは人里を利用しても問題は無いだろう。人里との個人的なパイプが設立した。

 

 

「ところで君たちはお昼はどうするつもりなんだ?」

 

 

「里のお店で食事しようかと思ってます」

 

 

「そうか、それなら近くに美味い蕎麦屋があるんだ。そこで一緒にどうだい」

 

 

「いいですね!あそこのお蕎麦屋さんは私もよく仕事の合間に行ったりします。きっとアル君も気に入るわ」

 

 

 蕎麦、銀河系には無かったな・・・一体どの様な食事だろうか。自然と気分が上々としてくる。

 

 

 

 外で待っていた二体を連れて彼女たちに付いて行く。鈴仙さんも里の人たちから何度か声を掛けられていたが、彼女はそれよりも多くの人々から挨拶を受けていた。やはり里の教育担当であり纏め役の一人であることは大きいらしい。

 

 

 寺子屋を出て三分もしない内に目的地へ到着した。中々大きな店である。外装も整っており、この店の売上が自然と予測出来る。

 

 

「いらっしゃいませっー!」

 

 

 店員さんの気合いの入った声が店内に響く。説明のおかげで少し時間が遅くなったからかあまり客の姿が見られない。四人掛けの席へ向かい、腰を降ろす。マグには少し小さいかとも思われたが何とか壊れずに済んだようだ。

 

 

「これが御品書きだ。私はもう決まっているから好きなだけ見てくれ」

 

 

「私もいつも同じものしか頼まないから・・・アル君はどうしよっか?」

 

 

「鈴仙さんと同じで良いです」

 

 

「それで良いんだな・・・注文を頼む!」

 

 

 直ぐに店員が駆けつけオーダーを聞く。横に座るマグに驚きつつも注文を取る。

 

 

「ざる蕎麦を三つ頼みたい」

 

 

「かしこまりました。ざる三人前ー!」

 

 

 店員さんの大声に厨房からも声が返ってくる。宿舎の食堂を思い出す。あそこの昼は係の怒号が飛ぶ戦場である。懐かしいな・・・

 

 

「いきなり頼んでしまったが蕎麦は大丈夫だろうか」

 

 

「どのような物なんでしょうか?」

 

 

「麺の一種なんだけど・・・麺が分からないよね」

 

 

 分からない。一体どんな料理なんだろうか。二人が美味しいと言うのだから平均的に美味だとは思うが。

 

 

 

「マスター、ドウヤラ蕎麦トハヌードルニ近イモノノヨウデス」

 

 

 背の高いマグが厨房を覗いたのかそう報告する。ヌードルか・・・。小麦で出来た細長い食品の一種であるヌードルは銀河系でも一般的な料理である。安価で製造しやすいことからコア・ワールドからアウター・リムまでの多くの星域で食すことが可能である。私もよく食べたものだ。

 

 

「似たような物があるのね、やっぱり食事はあまり変わらないみたいね」

 

 

「細長くて柔らかい・・・」

 

 

「おお、その通りだ。宇宙の彼方にも存在するとはな」

 

 

 ヌードルに似た食品・・・いずれにせよ幻想郷の地理的特性から見れば和食であることは確実であろう。

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました~」

 

 

 客が少ないからか早めに注文が来た。これが蕎麦・・・ヌードルに似ているがまず色が異なる。よく見ると単色ではない。そして細い。ヌードルもものによって太細異なるが、これはかなり細い方だ。

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

 三人の声が重なり往々に食べ始める。見たところ、この汁は掛けるのではなく、ヌードル・・・蕎麦を直接浸して食べるようだ。早速蕎麦を汁に浸す。汁には油などの加工があるようには見えない。天然物を混ぜ合わせたのだろうか。

 

 

 蕎麦から滴る汁が涼しさを彼に感じさせる。この暑い夏には最適の料理だ。食はまず見た目からと言われることもあるがそれをこれ程まで感じたのは初めてだ。そう思いながら口に入れる。

 

 

 

「どうかな?」

 

 

 鈴仙さんが期待の目を見せる。

 

 

 

「美味しいです」

 

 

ヌードルよりも多少固め、そして何より天然の味が感じられる。まるで収穫された野菜のようにこの蕎麦もそのまま料理として出されたのではないかと錯覚する程だ・・・とてもさっぱりしている。

 

 

「そうだろう、ここのは絶品なんだ」

 

 

 通い慣れた彼女にとってこの店の傍はある意味自慢の味なのかもしれない。上白沢さんの表情からは自信が見える。人間誰しも愛着ある物を称賛されれば喜びの気持ちが生まれるものだ・・・いや、彼女は半妖だが・・・

 

 

 

 半妖・・・その名の通り人間と妖怪の混血、ハーフ。珍しいことではない。銀河系においてもヒューマイドと他の種族との混血は巨万といる。人間の見た目ながら特殊な嗅覚だったりの能力をもつ彼等は軍においても注目され、少数且つ汎用性が必須の特殊部隊等へ配属されやすい。帝国の体制下においては珍しい事例でもあるが・・・・

 

 

詳しい話は聞いていないので不明だが、妖怪とのハーフということはそれなりの寿命を持つという事だろうか。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 教師か―――

 

 

 先程の子供たちを思い浮かべる。皆楽しそうで活き活きしていた。教師である彼女の力も大きいだろう。子供の成長過程で重要な位置を占めるのは、一に両親二に教師とも言われる。親から様々なことを学び成長する彼等だが、教師からも勉強だけでなく様々なことを学ぶものだ。

 

 

 

 アカデミーの教官を思い返す。機動隊上がりの古参であり、先の大戦においてクローン兵に混じり戦い抜いた歴戦の戦士。最年少の自分にも甘えを許さず厳格に接する方であった。特別課程の為、一年で卒業することになった自分には、アカデミー恒例の全課程によるパレードも卒業証書の授与も存在しない中、ただひっそりと消えるように去る自分を見送りなさったのは教官だった。その力を情報部、引いては帝国の為存分に尽くせ、と言いながらも心の中で若い自分を心配してくださった。思えば初めて嬉しさを感じたのはその時だったのかもしれない・・・

 

 

 

 情報部の「教官」とは大違いであった。自分を取り囲む尋問官・・・そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀河帝国の名の下に・・・ ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

「どっ、どうしたの?」

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「マスター?」

 

 

 周りの皆が心配するように自分を見ている。私は何を・・・

 

 

 答えは私の手の中にあった。使い捨て用である割り箸を無意識に折ってしまっていたのだ。真ん中で折れたそれはまるで筋が切れたようにも見える。

 

 

「すいません・・・昔のことを思い出してしまって・・・」

 

 

 食事時になにを考えているんだ私は・・・

 

 

 

 問題ありません、と作り笑顔を浮かべながら新しいのを貰い再び箸を進める。

 

 

 だが折角の涼しげのあるさっぱりとした味はどことなく温く濃い味に変化したように思えてしまった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 慧音先生と別れ再び彼等に里を案内する。特に立ち寄ったり教えること無く里をぶらつく。

 

 

 あまり変わらない町並みながらもアル君は一つ一つをしっかりと見ているように思える。早く町並みを覚えようとしているのか、はたまた純粋に自分のいた世界との差異に驚いるのか・・・

 

 

 彼との仲はこの三日で深まったように思える。だが、どうしても何といえばいいか壁のような物をやはり感じてしまう。

 

 

 言うことはきちんと聞く真面目さ、他人に物を譲る優しさ・・・嬉しさを感じて流したであろう涙・・・過去への不安・・・

 

 

 彼には間違いなく人間である、感情がある。

 

 

 

 だがどうしても

 

 

 

 

 

 

 

 精神の波長が読み取れない・・・

 

 

 

 

 

 

 

 物事には必ず波長が存在する。自らの存在の波長もあれば人の精神の波長も存在する。

 

 

 大抵は長いほど暢気、短いほど短気といったように生物の感情を読み取ることが出来る。

 

 

 緑髪の閻魔様は決して干渉しない為か位相がずれていたが、

 

 

 彼はその波長自体が・・・存在しない・・・

 

 

 

 

 彼が箸を折った・・・表情に畏怖が表れた時、つい精神の波長を見ようとしてしまった・・・

 

 

 

無論存在の波長は読み取ることが出来る為、彼はこの世に「存在」する。他の波長も見える。しかし、精神の波長だけが見えない・・・無いのだ・・・

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 最初は不調だと思った。しかし相変わらず慧音先生の波長は見えるし、異常を感じることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 私は彼には感情が無いのだろうかと思ってしまう。

 

 

 

 

 

 今朝、彼の涙を見て彼にも感情はある筈だと確信していた。しかし、どうしてもこの慣れ親しんだ能力に該当しないとなるとそう思わずにはいられないのだ・・・

 

 

 

 こんなことを思ってはいけない。今朝も、その前もそうだったではないか・・・。そう自己嫌悪しつつも鈴仙は彼との壁を感じずにはいられなかった。

 

 

 

 だが彼女がまさにそう思考していた時、転機は訪れた・・・

 

 

 

 

「グスッ・・・お母さん・・・」

 

 

 

 

 小さな人間の女の子が泣いている。迷子だろうか。

取り敢えず宥めなきゃ・・・

 

 

 彼女がそれを案内相手に伝えようと隣を向いた時には、

 

 

 

 

 

「・・・どうしたの?大丈夫かい?」

 

 

 

 

 

 その彼が女の子の元へ駆けていた・・・

 

 

 

 

 

「お母さんが・・・いなくなっちゃったの・・・だから探してたの・・・だけど・・・」

 

 

 再び嗚咽を上げる女の子。一度迷子になり、探すことによってさらに母親と離れてしまったという事だろうか

 

 

「・・・君の名前は?」

 

 

 普段の彼からはあまり想像できない優しい声が聞こえる。

 

 

「たえ・・・」

 

 

「たえ・・・ちゃんか、私が・・・僕が一緒にお母さんを探そう」

 

 

 アル君が許可を求めるようにこちらに目線を送る。ハッ、と気づくように意識を変え、肯定の意を含むよう頷く。

 

 

「グスッ・・・いいの?」

 

 

「もちろんさ」

 

 

 この間てゐに天ぷらを譲った時のような微笑を浮かべながら力強く答える彼・・・今はあの子の母親探しを手伝わなければね・・・

 

 

 そう思いつつ彼女は二体のドロイドと共に彼等に駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にありがとうございました!ほら、たえ・・・」

 

 

「お兄ちゃんたちありがとう!!」

 

 

 女の子・・・たえちゃんの母親は予想よりも早く見つけることが出来た。市で買い物をしている時に離れ離れになってしまったらしいが、娘がいないことに気付いた彼女も、市の中を探し回っていたのだ。

 

 

「お気になさらずに・・・すぐに見つかって良かったです」

 

 

 最大の功労者は何事も無かったように答える。しかし、大きな声 ― これまた彼からは想像できないような ― を出した為か、喉に疲れを感じる。

 

 

 いずれにせよ、解決して本当に良かった・・・

 

 

 

 

 

 

 

「ばいばいー!」

 

 

 たえちゃんが私たちに手を振りながら、母親に連れられ離れていく。先程までの状態とは大違いだ。心の中で安堵する。

 

 

「・・・」

 

 

 無言でそれに応える彼。笑みを浮かべている訳ではないが、どこか達成感のあるような顔つきである。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 

 私は何故あんなことを考えてしまったの・・・。彼はやはり優しい。精神の波長が読めないからって・・・

 

 

 

 

 

 

 

 いや、違う・・・これは言い訳だ・・・私が臆病なだけなのだ・・・

 

 

 

 彼は幻想郷に、永遠亭に来たばかり・・・だから色々とリードしなければと思いつつ、心の底では接しにくいというだけで・・・壁を無意識に作っていたのだ・・・彼ではなく私が・・・!

 

 

 

 なんて自分よがりで臆病な兎・・・彼の思いやりや涙を見た時には既に分かっていたというのに・・・波長が読み取れないことを理由に・・・

 

 

 

 今朝のように様々な感情が複雑に交差する鈴仙。しかし、

 

 

 

 彼はもう・・・家族なんだから・・・今こそ本当に、上辺だけでなく本当に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アル君、入って良い?」

 

 

 入浴を済ませ、丁度漢字の勉強を終わらせようとしていたその時、襖の奥から鈴仙さんの声が聞こえた。すぐさま返事をする。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

「失礼します」

 

 

 そう言って鈴仙さんが部屋へ入る。彼女も既に寝間着には着替えていた。普段と違う姿に見惚れると同時に部屋に女性が来たという事を実感する。だが驚くことに、今までような緊張は感じない。既に慣れつつあるということか・・・恐るべし、幻想郷・・・違うか・・・

 

 

「何かご用でしょうか?」

 

 

 明日の事についてだろうか・・・しかし、明日は医療業務は無いと言っていたが・・・

 

 

「いや、ちょっとお話しようかと思ってさ・・・椅子に座ってもいいかな?」

 

 

「もちろんです。どうぞ

 

 

 お話・・・何か個人的なことだろうか。

 

 

「まずは、謝らなくちゃいけないわね・・・」

 

 

 謝る・・・謝罪?どういうことだ・・・彼女から何か不利益を被るようなことはされていないが・・・

 

 

「正直に言うと・・・私、あなたとの間に壁を作っていたの・・・あなたとどう接すれば良いのか分からなくて・・・」

 

 

 壁・・・心の壁言われる心理的障壁のことか・・・

 

 

「すいません・・・自分はあまり・・・感情を出すのが苦手で・・・」

 

 

 鈴仙さんにそのようなことを感じさせていたことに自己嫌悪し謝罪する。

 

 

「謝るのは私よ!あなたは何にも悪くないわ・・・私少し人見知りな所があって・・・私の能力については話したよね」

 

 

 

 波長を操る能力・・・だったか。物事に存在する波長に干渉出来る・・・

 

 

 

「あなたには精神の波長が見えなかった・・・感情が無いと思ってしまったの・・・」

 

 

 

 感情が無い・・・それはあり得ない。たしかに、感情の起伏は低く、表に出すこともない・・・出来ないが、自分には意思がある・・・そうでなければ今ここにはいないはずだ・・・

 

 

 

「でも、それはただの言い訳・・・あなたからは優しさや嬉しさが感じられる。逃げたくなるような辛い状況にいたのに・・・それなのに・・・本当にごめんなさい・・・」

 

 

 頭を垂らし謝罪する鈴仙さん。彼女の心から深い反省と自己嫌悪が感じられる。そんな、自分は別に・・・

 

 

「頭を上げてください。自分も人見知りというか・・・感情が出しにくいというか・・・だけど、」

 

 

 

 

 

 

 

「鈴仙さんと仲良くなりたいという意思は・・・確実にあります」

 

 

 

 これが欲求なのかは分からない。しかし、仲を深めたいと思うのは事実である。これから共に仕事をする関係であるし・・・何より、僕も永遠亭の一員なのだから・・・

 

 

「・・・」

 

 

 鈴仙さんの視線が・・・下に・・・つられて自分の視線も下がると、

 

 

 

「すっ、すいません!つっ、つい無意識に!」

 

 

 

 自分の手が彼女の手の甲に被さっていた。まさかこんなことを自分がするとは・・・いや、取り敢えず手を・・・

 

 

 

 

「ふふ」

 

 

 

 

 鈴仙さんの顔に笑みが浮かぶ。まるで今までのことを忘れるように・・・

 

 

「なんか色々悩んでたのが馬鹿らしくなっちゃった・・・アル君の狼狽する様子を見てたら」

 

 

 再び笑う鈴仙さん。それと同時に恥ずかしさを感じ、目線が合わせられなくなってしまう。

 

 

 

 

「私たちは共に永遠亭に暮らす・・・家族だもんね・・・こんなことで一々悩んでたら気が持たないわ」

 

 

 

 

 家族・・・僕の知らないもの・・・新しく手に入れたもの?・・・思考が複雑になるが、何よりも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嬉しかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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