東方流星記 ~ Imperial Fugitive.《帝国の逃亡者》   作:Exar Kun

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OODA – 危機察知から状況判断に至る過程を踏まえた考察及びそれを基とした行動方針の構築と実行への一連のプロセス
米空軍ボイド大佐が提唱した理論の個人転用版です



スピーダーバイクは74-Z(エピソード6のアレ)の改良型です


推奨BGMはEP6 Soundtrack,Speeder Bike Chase or EP4 Soundtrack,TIE Fighter Attack


第5話A Afterburner.

 ギュウィィィィィィィィィン ―

 

 

 

竹林の中をスピーダーバイクの唸り声が駆け巡る。けたたましいその唸り声を何処までも続く竹が反響させる。

 

 

 

 

 ヒュン ― ヒュン ヒュン ―

 

 

 

 そして竹と竹との間を通る度に、風を切る音が耳に鳴り響く。このスピーダーに乗り始めて長い自分には慣れた耳触りだ。だが、

 

 

 

「風が気持ち良いわー!」

 

 

 

 この様に女性の声が後部座席から聞こえるのは初めてだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、アル君」

 

 

 洗顔を終え、マグの待つ台所へ向かおうとする中、同じく台所へ向かう鈴仙さんと出会う。昨日の事もあってか今までよりも更に柔らかい笑顔で迎えてくれる。

 

 

 その笑顔を見ると、自然に笑みが浮かぶ。まだここに来て四日経過したに過ぎない。しかし、微小ながらも過去の自分からの脱却、主に内心における変化が自覚出来る。

 

 

 彼女は勇気を示してくれた・・・ならば自分も同様の心意気を発揮しなければ。

 

 

「おはようございます、鈴仙さん」

 

 

 過剰に気を張る必要は無い。只々自然にそう返答した。

 

 

「よく眠れた?」

 

 

「はい、まだ来て日は浅いはずですが、とても落ち着いて生活出来ます」

 

 

「あっ、やっぱり?私もそうだったの。意外にも直ぐに慣れるもんよね」

 

 

 一見、変わりばえの無いような会話だが、感情の緩み・・・否、心の近づきとでも称すべきものを彼は感じることが出来た。

 

 

 彼女が作ってくれたエプロンの感触を確かめるように握りつつ、会話に花を咲かせながら歩みを進める。さて、今日のメニューは何になるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようアル〜」

 

 

 全ての料理を運び終え、居間へ向かっていると、姫様が廊下の奥からやって来る。起床は遅いという情報は何だったのだろうか・・・私たちが来た事を機に、生活習慣を変更したのか?

 

 

「おはようございます、姫様。お早いお目覚めですね」

 

 

「『健全な精神は健全な肉体に宿る』って言うじゃない。それを実践しようと思ったの・・・まあ、気まぐれね」

 

 

「成程、それは良い心掛けですね」

 

 

 自分らは関係ないようだが、習慣を改めたことに変わりないそうだ。十分に睡眠し、余裕を持って起床するのも心地よいだろうが、やはり早寝早起きである。それが最も環境適用に効果が存する。

 

 

「・・・アル、あなた・・・心境に変化があったわね」

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 この自分より幼く見えるが、母親のような面影を想起させる少女は私の心を覗く能力でもあるのではないか・・・ここまでして見抜かれると自然とそう感じてしまう。

 

 

「少し気を配りすぎていたり、遠慮しているように見えたけど・・・今のあなたは何か吹っ切れた感じね。この屋敷で暮らすと決心した時の心情に近いかも」

 

 

 確かに・・・そう自分でも自覚する。鈴仙さんの勇気は、予想以上に自分の変化への引き金となったようだ。そして、この月の都のプリンセスは見事に見抜く。驚きよりも何故か笑いが生まれる。嬉しいのか・・・それとも投げやりなのか・・・

 

 

「貴女は不思議な人だ・・・」

 

 

「そうよ、私は永遠亭の輝夜姫・・・配下の騎士にそのように思わせてしまう魅惑の姫よ」

 

 

 面白そうに笑いながらも高貴な雰囲気を崩さずそう伝える姫様。どんなに優れた大女優でも彼女を超えるような仕草は真似出来ないだろう。偽は真に敵わず。

 新たな主が例えた彼の(くらい)はある組織を連想させる。史上最悪の犯罪集団とも認知され壊滅したジェダイ騎士団。フォースを扱う旧共和国の守護者。情報部の主要任務の一つは彼等の捜索・殺害であった・・・彼等の真実を早くに知っていれば・・・彼等に拾われていれば・・・

 

 

「アル?」

 

 

 姫様が心配したように自分の顔を覗き込む。このような表情を浮かばせるようでは・・・「騎士」失格だな。

 

 

「問題ありません、My One and Only Princess(我が敬愛すべき至高の姫)

 

 

 少し気取ったように・・・所謂(いわゆる)騎士のようにそう返事を返す。今までの自分なら任務を除いては、このような振る舞いはしなかっただろう。更に不思議な事としては、あまり恥ずかしさを感じないという点だ。プライベートで且つ女性に対してならば感じないはずはないんだが・・・否、これも心の近づきと言うやつだろう。無論、そうは言っても、敬意は忘れてはいない。

 

 

「ふふふ、くるしゅうない」

 

 

 少しふざけたように姫様もその身分の如く振る舞う。お互いに小さく笑いあった後、早速居間へ入る。

 

 

「おはよう、みんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アル君、ウドンゲのこと借りてもいいかしら? 今日少し手伝って貰いたい用があるんだけど」

 

 

 食事をしながら今日の日程について話していると、永琳さんがそう呟いた。薬売りの日ではない為、鈴仙さんが他の地域について案内してくれる筈であったが・・・

 

 

「自分は構いませんが・・・」

 

 

「また新薬ですかぁ?」

 

 

「違うわ。薬の在庫が少なくなってきたから、新しいのを調合しなければならないの。新薬の実験はまた今度」

 

 

「やっぱりあるんだ・・・」

 

 

 少し憂鬱そうな表情を見せる鈴仙さん。新薬実験・・・危険なのか、何らかの副作用が常時発生するのだろうか。今度聞いてみよう、自分も被験体になる必要があるかもしれない。

 

 

「アル君、今日はどうする?」

 

 

 まだ多少憂鬱さ残る表情を残しながらもそう鈴仙さんが尋ねてくる。確かに早くこの地に慣れたいという思いはあるが、その為には様々な場所へ赴くだけでなく、移動手段についても頭を捻らねければならないだろう。この機会にスピーダーで回るのはどうだろうか。提案してみよう。

 

 

「鈴仙さん、幻想郷の地図ってありますか?」

 

 

「ええ、一応あるけど・・・一人で行くの?」

 

 

「特定の場所へ赴くと言うよりは、スピーダーバイクで全体的に幻想郷を偵察・・・見回りたいと思ったのですが」

 

 

「妖怪に襲われるのは無いとは思うけど・・・」

 

 

 やはり案内無しではリスクが伴うということだろうか。いくら元軍人とはいえこの地では唯の人間 ― フォースは使えるが ― 運悪く妖怪に襲撃されてしまったら被害を被る可能性の方が高い。面倒を掛けない良い案だと思うが・・・

 

 

「アルなら大丈夫よ、妹紅とあれだけやれるんだもの。寧ろ、襲ってくる妖怪を返り討ちにする筈よ」

 

 

「そもそも妖怪に襲われる確率の方が低いわ」

 

 

 月人二人は好意的に見てくれるらしい。襲撃の確率もそうだが、妖怪自体、自分にはそれ程脅威では無いのだろうか。少なくとも二日前の戦い振りからすると・・・いや、あれはこちらも万全ではなかったが、妹紅さんも明らかに手加減をしていた。

 

 

「・・・何かあったら連絡してね、直ぐに駆けつけるから」

 

 

 不安げながらも力強く言う鈴仙さん。彼女を不安にさせているという事実があるにもかかわらず、自分への心配心を嬉しく感じてしまう。不安にさせてしまうのは忍びないが、自分の行いたい事もしてみたい・・・それが昨日の彼女への答えでもあるから・・・

 

 

 

「お墓ぐらいは建ててあげるよ」

 

 

「・・・」

 

 

 

 取り敢えず死亡したら墓標は建設してくれるらしい。お供え物は毎日ニンジンであるだろうと予測する・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっき伝えたそれぞれの地域について一応メモを作ったの、きっと役立つと思うわ」

 

 

「ありがとうございます、永琳さん」

 

 

 単独行動が承認されたとはいえ、ここは幻想郷、鈴仙さんが心配してくれたように危険が無いとは言い切れない。その為、永琳さんがそれぞれに赴く場合のポイントに加え、簡略な説明をしてくださった。

 

 

 最初に説明されたのは死傷を負う可能性がある三つの危険地域。一つは魔法の森。通称ミニ・フェルーシア ― 私が今さっき命名した ― 茸の胞子が宙を舞い、瘴気を発生させることで、人間の体調を崩しやすい地域。ここを通る場合は、整備された道を通らなければならないとのこと。

 

 二つ目は三途の川。妖怪の山の裏側に位置する広大な河川。中々興味深い景色がみれるとの事だが、この川を渡ると・・・死亡するらしい・・・。死者の魂が向かう彼岸に繋がる川とのこと・・・

 

 

 三つ目は無縁塚。幻想郷の端に位置する共同墓地。永琳さん曰く絶対に近づいてはならないとのこと・・・色々と気になるが、幽霊という存在が認知される世界である・・・それを思い出せば危険がある可能性が推察出来る・・・

 

 

 

 そして次に「厄介ごと」に巻き込まれる可能性が高い三つの地域、通称アウター・リム ― これも私が命名した ― 一つが妖怪の山。幻想郷の約半分を占める巨大地域。人間や麓の妖怪とは別の社会を築いており、外の世界に匹敵する技術力を保有するある意味ではもう一つの人里。この山に暮らす者たちは仲間意識が高いらしいが、その弊害として、余所者に対して少々風当たりが強いとのこと。しかし、最近ではそれも緩和された傾向にあるようで、敵対するような事をしなければ意外にも寛容に受け入れてくれるらしい。業務で立ち寄ることもあるので早めに慣れておきたい。

 

 

 

 二つ目が太陽の畑。永遠亭の裏側に流れる河川を渡って更に進むと辿り着けるらしい。数多くの植物に囲まれた美しい場所とのことだが、その植物に危害を与えるような行為を行うと、「管理者」とやらに襲われるらしい。遠くから離れて見ると良いとのこと。

 

 

 三つ目が旧地獄。以前使用されていたらしい元地獄である。繰り返すが地獄である・・・最早何でもありなのだろうか・・・いや、彼岸とやらがある時点で・・・。過去に繁栄を灯した鬼という種族が主に生活する地下に存在する地域とのこと。彼等以外にも、地上で嫌われた妖怪等が生息しているらしい。以前までは妖怪の山以上に排他的な体制を敷いていたらしいが、現在では同じく緩やかになり、酒好きの鬼の為に酒屋を経営する人間もいるとか。ただ、鬼たちは「勝負ごと」が好きなようで、絡まれると弾幕ごっこ ― スペルカードルールの通称 ― を挑まれることもあるとのこと。こちらも業務で訪れる可能性が高い。

 

 

 

「すいません、わざわざ」

 

 

「好きで作ったのだから気にしないで。さっきはああ言ったけど一応気を付けるように」

 

 

「わかりました」

 

 

『アル~まだかしら~?』

 

 

 姫様が自分の名前を呼ぶ声を発するのが聞こえる。今日は子供たちの遊び相手として里に赴くらしい。彼女曰く子供たちとのふれあいは至福の時らしい。そして、人里へ向かうのに是非スピーダーに乗りたいとのこと・・・

 

 

「早くしないと姫に怒られちゃうわね。もう行きなさい。何かあったら直ぐに連絡して頂戴」

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 そう言って靴を履き、扉を開けようとした時、

 

 

「アル君。」

 

 

 永琳さんが呼び止め

 

 

「いってらっしゃい」

 

 

 笑顔で見送ってくれた。

 

 

「・・・いってきます」

 

 

 その笑顔に応えるよう力強い声で伝える。いってきますと言うのがこれ程心地よいとは・・・永遠亭に来なければ一生味わえなかった感覚かもしれない・・・

 

 

 陽の感情を抱きつつ主の待つ庭へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「マグ、R2、永琳さんの指示に従って手伝いをしてくれ。時間が空いたら休憩しても何でもしてくれて良い」

 

 

「ワカリマシタ。訓練ヲ行ッテモ、ヨロシイデショウカ?」

 

 

「塀を壊す勢いでやっていいわよ」

 

 

 自分の代わりに姫様が答える。マグは知能が高いので冗談だとは理解出来るだろうが、

 

 

「壊さない程度にな」

 

 

 釘を刺しておく。

 

 

「別に良いのに、壊したって」

 

 

 冗談ではなかったのか・・・修理費は出しませんよ。

 

 

「・・・それじゃあ行ってくるよ、程々にね・・・」

 

 

「Yes, Sir.」

 

 

「― ― - ~」

 

 

「じゃあね、マグ、R2」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、早速運転の仕方を教えて」

 

 

「駄目です」

 

 

 そう簡単に取得出来る技術ではないし、姫様の身長だと・・・レバーに足が着かない恐れがある。

 

 

「明るくなったと同時に頑固になっちゃうなんて」―ε=(。・`ω´・。)プンスカ!

 

 

 わざと怒ったように振る舞う姫様。その身を思ってのことなのだが・・・

 

 

 

「お願い運転させて・・・私の騎士(ナイト)様・・・」

 

 

 

 上目遣いで私の顔を覗く姫様・・・さすがは過去に多くの要人を魅了した少女・・・特に免疫の無い自分にはとてつもない破壊力。その可愛らしい目元は母のような面影は残さず、甘えのみ読み取れる・・・しかし、

 

 

 

No, Ma'am.(駄目です)

 

 

「ケチー!」

 

 

 防衛作戦に勝利した。免疫が無いとはいえ、諜報員・・・ハニートラップへの忍耐は心得ている・・・無論、女性の扱いも・・・任務と私事の差異化をとてつもなく苦手とする私だが、今回は何とか成功した。

 

 

「帝もイチコロだったのにぃ・・・」

 

 

「・・・後部搭乗で我慢してください」

 

 

 仕方ないわねぇと言いつつ諦めた様子を見せる姫様。それを確認し早速リパルサーリフトを起動する。

 

 

 

 キィィィィィィィィン ―

 

 

 

 リパルサー特有の起動音が静かにだが辺りに木霊(こだま)する。訓練場が森林であった為か、中々に竹林とも合いそうな兵器であると今更ながら思う。

 

 

「こうやって浮くのね・・・どのような原理なの?」

 

 

 興味深そうにスピーダーを見ながら質問する姫様。先程の態度から一転したその様子に微細に過ぎないが彼女の真を感じ取る。

 

 

「リパルサーリフトと呼ばれる反重力装置が車体に組み込まれています。銀河系における一般的な装置です。惑星の引力を遮断し浮遊させる為、重力の無い空間では使用不可能ですが」

 

 

「・・・」

 

 

 無言で考える様子を見せる主。月でのことを思い出しているのだろうか・・・

 

 

「さて・・・行きましょうか」

 

 

 回想、否、思考よりも目の前の現実の方に気を惹かれたらしく、早速後部に搭乗なさる。運転席に座らないでくれて良かった。はい、と答えつつ自分もバイクに跨る。

 

 

「左手で後部の持ち手を掴み、右手で自分の腹部を抱き寄せてください」

 

 

「わかったわ」

 

 

 横乗りの為、跨るのとは異なる持ち方だが、スピードを出さなければ問題ないであろう。姫様の手が自分の腹に巻き付くのを確認しながら思う。それと同時に女性の手が触れても動揺しない自分の進化を心の中で称える。

 

 

「では、出発します」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

 後部からの声を確認し、ギアを入れる

 

 

 

 ギュウィィィィィィィィィン ―

 

 

 

 独特の起動音が鳴り響かせながら加速する。軍用スピーダーバイクは、ランドスピーダーの中ではスウープに次ぐ加速性能を誇る。間隔が狭い竹に注意しながら徐々にその性能を活かし速度を上げる。

 

 

「あはは!すごいわー!」

 

 

 姫様は早速お気に召したようだ。これがより自らの操縦への欲求に拍車を掛けないことを祈りつつ、方位磁石とミニ・パッドを所々参照しながら先を急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギュウィィィィィィィィィン ―

 

 

 

 屋敷を出発して約15分後、鈴仙さんが教えてくれた目印が見えてきた。減速しつつ、ブレーキに手を掛ける。

 

 

「あら、もうここまで来たのね。スピーダーはいいわね、速く、楽しく、早い・・・ますます「乗り」たくなるわぁ」

 

 

「・・・」

 

 

 スピーダーのキーは肌身離さず携行しなければ・・・

 

 

「さて、ここからは一人で大丈夫よ。ありがとうねアル。ところで、コムリンクでスピーダーの音を記録してもいいかしら?」

 

 

「ええ、勿論・・・って、何でコムリンクの記録機能を知っているんですか!?」

 

 

 混乱を避けるた為、あえて説明しなかった筈・・・自分で調べたのだろうか・・・

 

 

「てゐと遊んでいたら、通話以外も出来ることに気付いたの。なんで教えてくれなかったのよ?」

 

 

「すいません、混乱すると思いまして・・・それにしても何故スピーダーの駆動音なんかを?」

 

 

 子供たちに聴かせてあげる為か?そう言えば、里にスピーダーを持ち込むのは可能だろうか。不可能だとしても、門の前にスペースがあったのでそこへ駐車すれば事足りるが。

 

 

「途中、妹紅の家があるのを知ってるでしょ。行きつけ代金として大音量で聴かせてあげようと思ってね」

 

 

「・・・」

 

 

 新たな主は配下の兎妖怪並に悪知恵が利くらしい。

 

 

「そこは『そのようなことを思いつくとは・・・さすが姫様、戦術の天才!』とでも思わなきゃ」

 

 

 そんなの戦術でも何でもありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあねアル。何かあったら連絡するのよ」

 

 

 斜面を下りる寸前こちらを振り向きそう伝える姫様。問題ないと伝えるかの如く大きく縦に首を振る。

 

 

「よろしい」

 

 

 そう言ってこちらに向かって手を横に振る。自分が同様の仕草をするのを想像し、少し恥ずかしげになりながら自分も振り返してみる。すると、それを確認したのか微笑を浮かべ前を向かれ、歩みを進めていった。彼女が斜面を下りていくのを最後まで見続け、これからどうするかを考える。

 

 

 まずは人里が見渡せるこの小さな山を回ってみるか。そう思い顔を右側へ向ける。木々が目立つが大きな段差や溝は無いように見える。スピーダーの障害となりそうな地形ではなさそうだ。

 

 

 

《ギュウィィィィィィィィィン! 》

 

 

『うわっ!何だ、何だ!?』

 

 

 

 離れから聞き慣れた駆動音と聞き覚えのある悲鳴が聞こえてくる。音響兵器(仮)による奇襲作戦はどうやら成功したらしい・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 里の周りを見当たすように低速で進む。やはり里の名称に似合わぬ程の広さを誇る。居住区の中央が目に入ると、訪れたのはつい昨日の事だというのに何故か自然と感傷に浸る。人々が生活する姿はこの距離からでは見えないが、昨日の行動を思い返しながら想像する。明るく、活気あふれた賑やかな人間の里。銀河系にも同じ光景は巨万と存在した。何故、自分はそれを見ても特に何も感じなかったのだ・・・今ではたとえ見えなくても心温かく思えると言うのに・・・

 

 

 人生の過程における「小さな損」というものの一つを実感した。自分のこれまでの経歴や経験に比べれば全く小さく有意性も無いであろう人生における「欠け」を彼は感じずにはいられなかった。そして、この世界へ来訪してから再三思ってきたことを上書きするように再び思う

 

 

 

 

 

 

この地へ来て良かった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・また乗って・・・右に転進していきます・・・永遠亭には戻らないようです」

 

 

「あやややや、これはついてるわねぇ」

 

 

 彼の進行方向とは反対、人里を正面に見立てて左側、遠く離れた木々の真横で二人の人間、否、妖怪が彼を見ている。人間が視覚出来るような距離ではない。そして何より、何の機器も使用せず空中に浮かんでいるという普通の人間では到底不可能である行為を行っている事実が、彼女らが妖怪であるという信憑性を後押ししている。

 

 

「・・・」

 

 

 二人の内の片割れ、長髪とは言えないがやや長めの黒髪に赤い帽子、人里ではあまり見られない服装、そしてその手に載るカメラ・・・

 

 

「さて、善は急げって言うものね!」

 

 

 鴉天狗兼新聞記者、射命丸文は今回のネタを求め計画を実行へ移す。

 

 

 

 ヒュゥゥゥゥゥゥ ―

 

 

 

「はあ、全く文様は・・・」

 

 

 彼女の部下と思われる少女はその大きな耳を揺らしながらため息を吐く。既に慣れたことであるが、まさか将棋の途中で駆り出されるとは・・・しかし、

 

 

 見たことの無い乗り物・・・外来人であるとのことだが、外の世界からきたのだろうか。それが事実なら外の技術は更に進化したという事か。自分にはよく分からない・・・機械に詳しい河童たちに聞いてみよう。

 

 

 そう思いながら彼女は途中放棄してしまった対戦の相手を思い出し、速度を上げる。いち早く再開したいという思いを胸に抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・!」

 

 

 離れてはいるが、視線を感じる・・・後方から・・・追跡されている・・・妖怪か?

 

 

 内心で警戒しながらも停まりはせず「脚」を進める。攻撃の気配はこの距離では感じないが等間隔で追ってくる・・・追跡ではなく尾行か。では腹を減らした妖怪では無い可能性が高い。自分の存在を脅威だと考える何者か?

 

 

 しかし一体誰が・・・

 

 

 そういえば、妖怪の山には天狗で構成された治安部隊が編制されていると聞いた・・・こちらを警戒している可能性はあり得なくはない。しかし、ここはまだ彼等のテリトリーではない筈・・・それに警衛ならば身元確認等をする筈だ。その為にも永琳さんから永遠亭住民である証明書を貰っている。見慣れない装備やビークルが下手に警戒心を与えているのか・・・

 

 

 微妙に速度を落とし、駆動音を静める。一度降車し、様子を伺うか・・・いや、相手の目的が不明である今、下手な行動は慎むべきだ。

 

 

 意識を警戒態勢へ移行させ、OODAを念頭に思考する。

 

 

 

 Observation(監視) ― 視覚、嗅覚による判断不可 微少ながら人間程の質量を持つと思われる物体の風切音が聴覚可能 直感を判断基準とする視線らしき注視を感取 フォースによる察知、予知等無し

 

 

 

 Orientation(情勢判断) ― 危険可能性不明 尾行の可能性高、その所以は不明 物体は飛行可能、妖怪等の可能性高 推奨行動・・・逃走

 

 

 

 Decision(意思決定) ― 安全性を最優先 客体不明を考慮し、停止行動・先制敵対行動共に抑止

 

 

 

 Action(行動) ― 開始・・・

 

 

 

 即座に行動方針を熟議・決定し、行動へ移す。加速と機動の両機能を併せ持つスティックを思いっ切り前へ倒し、速度を急上昇させる。まだ木々は多いが・・・フォースを信じ、突破する!

 

 

 

 ギュウィィィィィィィィィン ―

 

 

 

 急加速した為、再度けたたましい駆動音が森林の中で鳴り響く。そして車体中央のパネルに表示される速度計が見る見るうちに100km/hを超えるのをこの目で確認する。相手は・・・追ってくる。それも、スピーダーに随伴出来るスピードで!

 

 

 時折り、進路を留意しつつ後方を確認する為振り返る。その姿を完全に目に焼き付けるのは現状では不可能だ。距離がまだ離れている事もその要因に寄与するが、何より大小・多種多様の自然がその視界を妨げる。

視覚による確認・判断は状況把握における重大要素の一つだ・・・どうにかして識別出来れば・・・

 

 

 だが彼の考えを嘲笑うかのように、深々と森は続く。唯一有益な事象があるとするなら、スピーダーを疾走させてもコントロールする余裕を持たせるようなその構造であろう。顔を左側へ向け、その光景 ― 今は感傷に浸る余裕は無い ― を観察しつつ、パネルにスキャンした地図を表示させる。この小さな山は円形の人里に対し、弧を描くように隣接している。だがいくら小さいとはいえ、この高度からスピーダーを降下させるには危険だ。このバイクの最高高度は約25m・・・仮に降下させても、リパルサーリフトが耐えられず地面に激突するだろう。また、降下時の操作は困難極め、人里へ強行着地させるのは犠牲者を発生させる可能性がある・・・それだけは絶対に避けなければならない。

 

 

 諜報員としての経験か、「フォースを使う者」としての戦闘に慣れている為か、進路上の障害やそれに対する反応が必要にもかかわらず、短時間で考えをまとめることが出来る。だが残念なことに現時点では、それが解決へ繋がることはなかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乗り物から発せられると思われる音がこの距離まで鳴り響く。何かあったかと思い、再び「目標」を注視しようとすると、

 

 

 

 

 先程までとは桁にならない速度で木々を振り切って行った・・・

 

 

 

「まずいっ!」

 

 

 何というスピードだ・・・まさかこれ程までの加速性能を誇るとは・・・

 

 

 目標の使用する低空を浮く乗り物、永遠亭のお姫様を乗せてきた時 ― つまり私たちの監視下に入った時 ― はあれ程の速度を出していなかった。その後一人で行動し始めても、同じような速度を維持し続けた為、ついその性能を過小評価してしまった。

 

 

 それにしても、外の世界ではあのような機械が開発されるまでに至ったということかしら。我々の技術より多少上を行く程度にすぎないと思ったのだけれど・・・外の人間たちもようやく科学で物を浮かせることが可能になったのね。

 

 

 そのように思いつつ、追跡を再開する。彼が私に気付いた可能性は・・・ありね!何度かこちらを振り向いている。少し近づきすぎたかしら・・・こちらからも完全に見える訳ではないからよく分からないけど。でも、そうだとしたら何故逃げるのかしら?

 

 

 そう彼女は思うが咄嗟に理解する。そりゃ、まだ来たばかりの外来人じゃあ、いきなり私みたいのが、しかも尾行なんて真似してたら焦るのは当然ね。永遠亭の住民はあんまりプライベートで取材させてくれないからねぇ・・・いきなり強行取材としゃれこみたかったけど・・・取り敢えず説明しなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ・・・!」

 

 

 密林でのカーチェイス・・・フォースを利用していると言えども、スカウトでもない自分にはきつい。木々の間隔も徐々に狭まっている。それに対し相手は ― ちらりと後方を覗く ― やはりまだ良くは見えないが迫りつつある。現在速度は約130km/h、中々のスピードである。しかし、追跡者はそれに匹敵するような速さを持つ ― ジェットパックを身に着けているかの如く。

 

 

「・・・」

 

 

 相手は尾行から完全に追跡体勢へ移行している。だが、唯追ってくるだけで、攻撃等のアクションは起こさない。敵対意思は無い・・・一度停車するか・・・

 

 

 だがしかし、そもそもの原因へ回帰する。相手が尾行していたことに変わりはない。遠距離からの手段が存在しないという可能性もある。いずれにせよ相手の確認が必須、逆走するか・・・自分の技術では事故に繋がる率の方が高い。それに、相手の行動範囲内に自ら進むことになるかもしれない。このまま確認できるまで走行し続けるか・・・このまま進むとハクレイジンジャという施設に突き当たる・・・ここまで行けば相手を完全に視覚でき、且つこちらの行動が相手に通ずる。少なくともこちらのディスアドバンテージは低下する。

 

 

「よし」

 

 

 行動方針を決定し、目的地へ急ぐ。明確な目標を立てたからか自然とその速度を上げる。だが相手は通用しないらしい・・・一体何者なんだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 どれ程経過しただろうか・・・もうそろそろ目的地に着く頃だと思うが。

 

 

 そう思い彼は前方を見渡すが確認出来るのは相変わらず進路妨害となる木々と、スピーダーの速度に追従する追跡者。スピードを上げるか・・・そう、彼が思っていると、前方に木々が少ない、つまり自然による視界妨害が無いようなスペースが見えてくる。

 

 

 好機だ・・・あの空間に入る直前にブレーキをかけ、バックブラストを行う!

 

 

 自機のブレーキを使用すると同時に、後進レバーを引き、加速度を残しつつ後退する、バックブラスト。

スカウト・トルーパー御用達の技術だが、自分にも何とか可能である。これならば相手を視認出来るだけでなく、こちらが先制して行動を起こせる。

 

 

 早速、空間までの距離を目測する。

 

 

 

 

 200m

 

 

 

 中央に立つ太木を避け、今回の「重心」を完全に把握する。

 

 

 

 

 100m

 

 

 

 相手にも何らかの変化は見られない・・・いける!

 

 

 

 

 10m

 

 

 

 手に力を込める。後方に障害無し!

 

 

 

 

 0m

 

 

 

 ブゥォォォォォォォォォォン ―

 

 

 

 後方に対する急加速によるこれまた独特の起動音が耳に響く。つい一瞬前まで見ていた景色が逆流する。まるで自身がトラクタービームで引き剥がされたかのように・・・

 

 

 そして、相手が真上を通過するのを微かにだが確認し、再びレバーを上げる。

 

 

 

 ギュウィィィィィィィィィン ―

 

 

 

 再度の加速音を聞き流しながら相手を確認する!

 

 

「うわっ!びっくりした!」

 

 

 驚いたことに追跡者は若い女性であった。見たところは人間のようだが・・・手には何らかの機器を保持している。驚きの声と共に、こちらを振り向きながら同様の表情見せる。敵対意思はやはり・・・無い?取り敢えず・・・

 

 

「貴様は誰d」

 

 

「ああっ!前、前!」

 

 

 素性を問いただそうと思い、言葉を発する同時に彼女の金切り声が耳に入る。

 

 

 無意識に前を見ると、ハクレイジンジャと思しき施設を背景に巨大な大木・・・

 

 

「!?」

 

 

 不味い・・・激突する!

 

 

「しっかり捕まって!」

 

 

 彼がどうにかして自分の身だけでも脱出させようかと行動する直前、上空から声が聞こえる。

 

 

「くっ!」

 

 

 その言葉を無意識に信じ、レバーを強く握る。大木が目の前に迫る!つい目を閉じてしまった・・・

 

 

 

 

 すると突然身体が揺れ始める・・・目を開けてみると車体ごと急上昇しているのが確認出来た。

 

 

「なっ!?」

 

 

 馬鹿な・・・あの距離で高度を急に上げるのは不可能だった筈。それに自分は足に力を入れてはいない・・・

 

 

 だが、そのように熟考する暇もなく今度は重力に従い車体が落ちていく。一瞬でそれを認識し、足で高度クラッチを動かす。

 

 

 キィィィィィィィィン ―

 

 

 リパルサーリフトが再度駆動する。ギリギリではあるが何とか着地に成功した・・・

 

 

 

「はぁ・・・良かったわ、危うく取材相手を殺すとこだった・・・」

 

 

 

 内心で安堵していると、後方、上空から再び先程の声が聞こえる。その声を辿り視線を向ける。

 

 

「ごめんなさい、無理に追いかけたりして・・・怪我は無いですか?」

 

 

 声には出さず、頷きにより肯定の意を表明する。すると、あちらも安堵した表情になり、飛んだ、いや、浮遊したままこちらへ近づいてくる。

 

 

 

 

「初めまして、永遠亭の外来人。鴉天狗の記者が一人・・・清く正しい射命丸です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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