東方流星記 ~ Imperial Fugitive.《帝国の逃亡者》 作:Exar Kun
自分のそれよりも高級感あふれる半袖シャツ、ミニスカートに小さな帽子、底が高い赤色の靴・・・里の人間ではないであろうという事が格好から理解出来る・・・射命丸・・・天狗の記者・・・
天狗―――外の世界に匹敵する近代社会を築く、妖怪の山の一大勢力及びそれを構成する種族・・・警備隊を保有する等、山においても重要な立場に位置する。
学習した基礎知識を頭に浮かべ、客体把握に努める。保安要員かと思ったが彼女の発言によると記者であるとのこと・・・その発言が事実ならば・・・
報道関係者は防諜に相応しい
先日、人間の里において ― 真実は秘匿したが ― 外来人であると何度か表明した。人間との関係が近いとされる現在ならば、その情報が彼女等の耳に入る事も不思議ではない。更に、外来人と言いつつ、自分はドロイドを伴っていた・・・人間よりも高度な科学技術を誇る彼女等の我々に対する印象、考察が警戒へ移った可能性は必ずしも否定出来ない・・・が、
「永遠亭の人たちはあんまり取材を快く思っていないようで、はぐらかされたり、逃げられたりするんですよ。だから強行取材しようって思ったんだけど・・・本当に申し訳ないわ・・・」
彼女からは懺悔の念が深く伝わってくる。今の言葉に嘘は無い。そうされると、ついこちらの警戒が緩くなる。何より、外から人間に対して注視するのは当然であるし、情報提供を行っても、自分の立場や状況が悪化することなど無いだろう・・・ここは元の銀河系ではないのだから・・・
「問題ありません・・・こちらも急に逃走するような形を取ってしまって・・・」
「いえいえ、そんな・・・私がいなければあんな目には合わなかったはずです」
彼女の言葉でつい数分前の出来事を思い出した。あの持ち上げられたような感覚・・・彼女が助けてくれたのだろうか・・・
「あの・・・先程、自分を飛ばしたのは・・・」
「あっ、はい。激突しそうだったので風であなたを巻き上げました。びっくりさせてすいません」
やはり彼女だったか。しかし、風だと・・・何らかの能力?自らの力でそれを生み出したのか・・・はたまた、存在する風を操ったのか・・・なんとも不思議な・・・いや、ここは幻想郷、風を操る人物がいてもおかしくはない。それに彼女は天狗だ・・・妖術とやらかもしれない。
彼女の不思議な力について熟考する。その力はまさしく風という存在自体を操るという真実に彼はまだ至らない。
「いえ、ありがとうございます・・・自分を取材しに来た、と言うことで宜しいのですか?」
お礼ついでに彼女の目的を明確化する。すると、その端正な顔に笑顔が浮かぶ・・・運が良いとでも言うかの如く。まだ受けるとは言ってないが、ニュアンスからそう判断したのだろう。
「はい!よろしければ幻想入りした経緯やあなた自身について色々とお聞きしたいんですが・・・その前にここの巫女に何て説明しましょう・・・」
巫女?この施設は何らかの宗教施設なのか・・・確かに、何だが厳かな雰囲気を感じ取る。永遠亭とはまた異なる独特の神秘性と言えば良いのか・・・
ガラガラガラ ―
そう思っていると、左側から扉を開けるような音が聞こえた。自然とそちらへ視線が移る。
「うるさいわねぇ・・・一体どこの誰?」
声と共にそのシルエットが明らかになる。少女だ・・・歳は自分より少し下の頃。袖が無く、肩の露出した赤い服装・・・一部尋問官が着装していた儀礼用に近い服に似ている・・・いや、恐らく彼女はこの施設の要員、寧ろこのような服装を取っているのは必然かもしれない。
「あやややや、すみません巫女さん。惰眠を貪る貴重な時間を妨げてしまって」
「惰眠じゃないわ、睡眠よ。またここに来るなんて暇なのね・・・そちらの人は・・・参拝客?」
親しい仲なのか互いに皮肉を言い合う二人。そして、その片割れが私を見て、そう呟いた。どうやら自分を参拝客と勘違いしたらしい。取り敢えず自己紹介を・・・
「彼は新しい永遠亭の住人・・・外来人です」
しようと思っていた矢先、射命丸さんが先を越すように自分の身元を説明した。
「外来人?何で月の薬師ん所の住人に?」
「それを知りたいと思って取材しようとしたんですが・・・」
少々後味悪そうに声を発する追跡者。とにかく、ある程度の説明をしなければ。さて、どうしようか・・・
「どうぞ」
「ありがとうございます」
カーチェイスの末に到着した施設、博麗神社の巫女、博麗霊夢さんがお茶を出してくださった。現在、彼女の許可もあり、神社側面の縁側に座らせて貰っている。微かに日差しを妨げるだけの屋根だが、不思議と先程より涼しく感じさせる。お茶を取ろうと視線を下へ向けるが・・・一人分しかない・・・真横にはもう一人の来訪者がいるのだが・・・
「私の分は無いんですか?」
「あんたはいつもがぶがぶ飲んでるでしょうが。今日は抜き」
「そんな~」
予想された結果を受け、悲痛な声を上げる射命丸さん。自分はビークルだったが、彼女は生身であった。肉体的疲労は彼女の方が遥かに高いはず・・・自分のを差し上げるか?
「大丈夫ですよ、そいつ自分の分の水持ってるんで」
彼女への心配が伝わったのか、神社の主がそう伝える。するとばれてましたか、と言わんばかりに、水筒のような物を取り出した。安心すると同時に少々呆れてしまう。
水分供給が確認出来た所で自分もお茶を頂く。永遠亭のそれよりは少し渋めの味が喉を通るが、また違った風味を楽しむことが出来た。
「さて、一息吐いたところで、早速、取材させて頂きたいと思います!」
喉を潤し、丁度疲れが引いてきた頃、記者が唐突にそう言い始めた。さて、如何なものか・・・
仮に自分にはデメリットにはならないとしても、永遠亭にとっての瑕疵に繋がるなら、皆さんに合わせる顔が無い・・・やはり助言を受けるのが最適か・・・
自分では判断しかねる・・・やはり
「すいません、内容については、一度永遠亭の者に確認させて頂いても宜しいでしょうか?」
「・・・ええ、勿論ですよ」
意外にもすんなりと引き下がってくれた。他の永遠亭の住人から隔離するのが目的の一つと推察したが、あくまで取材を受ける了承したようなものであるから問題ないのか。
神社の端に駐車したスピーダーへ一度戻り、固定カーゴに入ったヘッドセット ― コムリンクを装着した ― を取り出し、マイクが飛び出るイヤーパッドのみ左耳に押し付け、7番にコールする。
Pi----------- ―
小さいコール音が耳に鳴り響く。仕事の邪魔にならなければ良いが・・・
《永琳です。どうしたのかしら?》
3秒を経たぬ内に無線が繋がる。この早さで反応すると言う事は、ある程度の余裕があったと推定する。事実、その環境音からは多忙な様子は
「実は先程、鴉天狗の記者から取材の申し込みを受けまして、ある程度の自己の説明等必要かと思ったのですが・・・指示を」
《鴉天狗の記者・・・射命丸文ね・・・また面倒なのに捕まったわね》
同情とも取れるようなニュアンスでそう呟く永琳さん。射命丸さんの言った通り、永遠亭の人たちは彼女を快くは思っていないのだろうか・・・
「すいません、ご迷惑お掛けして・・・」
《責めている訳ではないわ。ただ彼女には前に色々と嗅ぎまわれた経験があるから、ついね・・・》
「如何致しましょう?」
《そうね・・・》
彼女の思案の念がコムリンク越しに伝わる。自分としては特に問題は無いようにも思えるが。
《・・・あなたに任せるわ。恐らく永遠亭自体のことではなく、外来人としてのあなたに注目しているだけだと思う・・・それに私たちも月に関連するような事柄以外なら問題は無いわ》
「了解しました。月関連を除きこちらで判断し、応じます。ありがとうございました」
《いいのよ、丁度休憩していた所だから。マグやR2のおかげで仕事も捗っているし、寧ろ連絡してくれてありがとうね》
「いいえ、こちらこそ。それでは失礼します, Out.」
つい癖で、軍用無線における用例に則ってしまった。慌てて弁明しようとするが、
《ふふふ、職業柄と言うやつね。私にも同じような経験があるわ》
フォローして頂いたが、それが余計にも羞恥心を刺激する。何とか失礼します、と再度告げ、通信を切った。
「お待たせしました。可能な限りですが、お話しさせて頂きます」
審議の結果を射命丸さんに伝える。だが予想と異なり、彼女の表情からは喜びというよりは疑問が読み取れる。
「あなたが使用していたのは通信機器ですね、外の世界の。既に他の住人にも配り終えたと・・・」
そうであった。幻想郷には電子的通信手段が存在しないのだ。近代社会を営むと言えど、そのようなシステムは構築されていないのだろうか・・・いや、このコムリンクのように、一部の集団内専用の手段としては存在する可能性はある。彼女たちの技術は外の世界並なのだから・・・
「『確認させてもらう』と仰った時に疑問に思いました・・・幻想郷にはそのような通信手段が存在しません。つまり、通信するには、外の世界の電話が必要です。あなが使用したのは携帯電話・・・ですよね?」
やはり発展した科学技術を保有するだけあって、外の情報や知識も保持していると言う事か・・・コムリンクは電話ではないが・・・
博麗さんの方も多少の驚きが見える。この事から幻想郷にはやはりこのような手段が存在しないと言う事実が推察される。
「・・・それも含めてお話します」
意を決したかのように彼は記者、射命丸文の目を覗く。自分の経緯を伝えるか否か熟考しつつ・・・
「私は―――」
「成程、国家体制に疑問を持ち・・・幻想入りした訳ですね・・・」
どれ程時間は経過しただろうか。まるで人生を講釈垂れたかのようにも感じるし、ただ端的に要点を説明しただけにも思える。新聞記者は次折、メモを取りながらも目を覗きながら興味深そうに話を聞く。
「月以外にも宇宙に人間は住んでいるのね」
「宇宙どころではありませんよ!彼は私たちがいる太陽系とは異なる銀河から来たかもしれないんですよ・・・月なんか目じゃないわ!」
日常的に敬語で会話をしているのかは不明だが、驚きからか所々素と思える表現に変わりつつある。そんな彼女とは対照的に博麗の巫女の方からは、無論、驚きは感じられるが、射命丸さんや永琳さんたちよりはその反応が薄い。二人の会話から、あまり宇宙についての知識がないことを察する。それが反応の薄さに直結している可能性が高い。とは言え、彼女はまだ10代・・・更に幻想郷の人間・・・知識が至らないのは仕方がない。
「無数の惑星に、無数の種族・・・地球では出来なかった事を・・・」
幻想郷における広義の妖怪たちは、元来、外の世界において固有の種族として存在した者もいるが、時が経つにつれ、我々の銀河系と同様に最大勢力である人間にその存在を脅かされる事となり、この土地で生活するようになったという。銀河系には人間を除いたとしても、それこそ数えきれない程の知的生命体の種が存在する。無論、特定地域に集中する場合もあるが、基本的には様々な星系でその存在を覗くことが出来る。そして、人間を含めた無数の種族は共に道を歩んでいる。彼女等はまさにそのような種族であるのだ・・・後者を除いて・・・
「長い時を生きてきましたが、やはりこの世は不思議なことだらけですね」
永遠は存在しない。だが、長大な寿命は存在する。蓬莱人についての説明を受けた時、銀河系の長寿種族を想起したが、それは寧ろ彼女たちのような存在に当てはまるのだろう。
「今度お会いする時は、是非どろいど?を見せてください。きっと河童も驚くような出来に違いないわ」
「わかりました」
遥か彼方の銀河系における光景を想像しているのだろうか、新たな学問分野を知った学生に通ずるようなものを感じ取れる。この不思議満載な世界の住人にとってもやはり銀河系は興味を惹く世界であるらしい。
「アルファードさんは、永遠亭で働く・・・って事ですよね?私もあそこの薬に頼る事があるから、その時はよろしくお願いします」
呆けたように話を聞いていた巫女がそう尋ねてくる。この神社もお得意先の一つであったのか・・・今日の行動はただカーチェイスを行ったで終わらずに済むようだ。
「こちらこそよろしくお願いします。博麗さん」
「霊夢で良いです。その名前は役職名みたいなものなんで・・・あと敬語もいいです、私の方が年下みたいですし」
成程、この神社の名は彼女の一族から名付けた、と思っていたが、その反対であったようだ。それにしても敬語でなくていいか・・・確かに彼女は年下である。自分はドロイドや小さい子にはそのように対応するが、どうもここまで成熟していると少し戸惑いを感じてしまう。
しかし、彼女自らそう言っているのだから無下に断ろうとするのは得策ではない。大体、断るにしろ何故にそんな態度を取るのか疑問に思われるだろう・・・大丈夫だ、問題ない・・・彼女も結局は自分より幼いことに変わりはないのだから・・・
一息の緊張を持ちながらも、その決定に従い返答する
「了解した・・・よろしく・・・霊夢さん・・・」
さん付けに妥協しながら・・・
「今日はこの辺りに留まります。取材の承諾ありがとうございました」
年下相手にびくつくという傍から見れば滑稽に見えるであろう考えを見事終えた後も取材は続いた。フォースについての概要も永遠亭の時と同じく話そうとも思ったが「厄介ごと」に巻き込まれる確率を減少させる為にあえて言及はしなかった。それと同時に、後々問題は無かったとは言え、幻想郷初日にフォースについて永琳さんたちに説明したという自分の危機管理能力を悔いる。混乱していたという理由は通じない。戦場は霧なのだ・・・
「幻想郷を散策していたんですよね。よければ私たちの拠点へ来ませんか?ご案内します」
彼女に対してある意味無礼な考えをしていると、当の本人がそう呟いた。拠点・・・つまりは妖怪の山・・・これは好機である。優先候補地に、しかも現地人による案内が付くとは視察の有効性が向上する事実は言うまでも無い。
「よろしいのですか?」
「はい、ご迷惑もお掛けしましたし・・・そちらが良ければ」
断る理由は無い。
「ありがとうございます。是非お願いします」
「任されました。霊夢さんもご一緒します?」
「いや、あたしはいいや。やる事あるし」
「そうでした、惰眠を貪らなければならないんでしたね!」
「そんなに退治されたいのかしら?」
博麗大結界・・・幻想郷と外の世界を分ける常識の結界。外の世界で否定された妖怪や、物が流れ込む世界を作り出す言わば幻想郷を構成する土台・・・そしてそれを維持するのが博麗の巫女。そして、悪事を働く妖怪の退治や事件を解決するこの地を維持する者・・・
まだ子供であるのにそのような大役・・・無理にやらされているという訳ではなさそうだが・・・いや、そのように考えるよりは寧ろ、それだけの力をこの少女が持つと考えるべきか・・・
「それでは、天狗の里へご案内しましょう」
「はい」
早速スピーダーの元へ駆け、発進の準備をする。キーを差し込むことによりパネルに文字が表示される・・・Aurebesh・・・ベーシックが使用し、銀河系で最も見られる、そしてこの惑星の言語と同じ読みをする不思議な文字・・・改めて何とも言えない違和感を感じる・・・
だが今はそのような考えをしている暇はない。そう言い聞かせ、全体像を示すマップを映し出す。現在位置確認・・・天狗の拠点は案内人によれば、山の中心部を首都として広がっているとのこと・・・ここからは少し距離があるが
「この乗り物も宇宙の彼方では一般的な物なのですか?」
そのように考えつつ準備していると、射命丸さんが目線を合わせずに興味深くスピーダーを見ながら質問してくる。見送りに来てくれたであろう霊夢さんの方も視線はこのバイクへ向けられている。
「はい、銀河系における大気圏内交通手段はこのスピーダーが主に担っています。どのような辺境の惑星でも大抵は見かけることが出来る物です。これは軍用なので民間人が使用するタイプではありませんが」
そうなんですかと言いつつ、リパルサーリフトに目を惹かれたのか下から覗き込むように観察をする射命丸さん。焦げ茶色のボディ、風の抵抗を目的としたデザイン、大型のカーゴ、そしてレーザーキャノン・・・偵察、奇襲、輸送等様々な任務での利用を念頭に開発されたこの74-Zスピーダーバイクは開発・採用から年数が経過しているにもかかわらず、現在でもアップグレードされつつ主にバイカー・スカウトの頼れる騎兵として活躍している。
カチッ ―
バイクに跨り、バリアブル・ブレーキを解除する。これで準備完了だ。終了の意思を示すように射命丸さんへ視線を向ける。
「さようなら霊夢さん」
「世話になった、ありがとう」
「お気おつけて」
少し気怠そうながら見送る巫女を尻目にバイクを発進させ、案内人の後を追って行く。恐らく、山の渓谷を登っていくのであろうと予測する。もっとも、そのようなルートでなければスピーダーでの進入は困難だ。
「そのすぴーだーはどれ程の速度が出せるのですか?」― 飛行しながら自分の真横へ付く
「最高速度は確か・・・約500km/hです」
「5、500キロ!?そんなに速いんですか?」
「あくまで最高速度ですが・・・」
スピーダー・バイクは軍用・民間用での速度差はそう大きくはない。相違点として挙げられるのは、加速性、装甲、武装、そして旋回を始めとする機動性である。特にこの74-Zは機動性が非常に高くそれでいて軍用型の中においても強力な装甲を装備している。その弊害と言うべきか操作に緻密な技術を要し、長期の訓練期間が必要であるという問題も存在するが。
「外の世界の
オートバイ・・・外の世界に存在する車輪を使用したバイク・・・永遠亭に保管されている図鑑にも掲載されていた為容易に想像することが出来た。確かに安定性が欠如したようなビークルであったが、リパルサーリフトを使用しない為、あらゆる惑星環境や多様な状況下でも使用可能に見えた。だがそれと同時に、この惑星の宇宙開発の現状を思い出し、そのような用途の為車輪を使用している訳ではなく、技術的な問題であるだろうと推測を変更する。
妖怪たちの近代社会においては何かビークルは使用されていないのだろうか。河童は機械工学に強いと聞いたが・・・いや、彼女等には必要無いのかもしれない。無論、飛行による体力の消耗は存在するようだが・・・
そのようなことを考えていると、傾斜を登り高地へ達したのか左側に景色が広がる。相も変らずその美しさに心惹かれるがそれと共にその中央部に見える全体を赤く塗られた屋敷が目に入る。永遠亭とは異なる・・・これまで視察した中では憶えのない・・・寧ろコルサントで幾らか存在するような建築様式を用いた建物である。外の世界で発展したものを取り入れたということだろうか。
「あれは紅魔館、吸血鬼たちの館ですよ」
自分の視線に気付いたのか、射命丸さんがそう説明する。吸血鬼だと・・・
「吸血鬼・・・ですか?」
「はい・・・吸血鬼をご存じで?」
所謂お伽話に登場する生物の血液を好む・・・あの吸血鬼か?銀河系の吸血鬼はアウター・リムのどこぞに存在すると言われる吸血種が元となり伝承されてきたとされるが・・・地球にも存在するのか。いや、外の世界の知的生命体は基本人間しか存在しないと認容されている。外の世界から逃げてきたということか・・・
「血液を吸う生物・・・ですよね?」
「その通りです。やはり銀河系にもいるんですね~。あの館は近寄りがたい雰囲気ですが取材のネタがたくさんあるので重宝させてもらってます」
彼女の説明を半ば聞き流しつつ、再び吸血鬼の館を覗く。屋敷を塗りつくした赤い塗装はまるで獲物を得てからの「返り血を浴びたかのよう」に見える。そしてその色彩は彼にある物を連想させる。
クリムゾン・コマンド―――帝国宇宙軍大規模艦艇運用試験艦隊・・・70隻を超えるヴィクトリー級で構成された史上稀にみるスター・デストロイヤー艦隊。大規模かつ高い機動性を保有する事を目的としたこの艦隊は、星間での活動及び着々と増大しつつある同盟宇宙軍との艦隊決戦に対応する為編成されたと言われている。戦力を構成する艦艇は全艦が真紅の塗装を施されており、それを所以に艦隊司令部は
物量数で圧倒し、撤退する敵に対し真紅の塗装を見せつけ、まるで仲間の「返り血を浴びたかのよう」な恐怖を刻み込む・・・
無論、両者には全く関係は無いが、外観の印象からそう思わずにはいられなかった・・・
「後はこの坂を一直線に上がれば見えてきますよ」
誘導に従い渓谷を進んで行くと、多少開かれた直線の傾斜道が現れる。中々長い距離に見えるが、この坂を走破すれば目的地には到着らしい。
「レッドフィールドさん、坂の頂上まで競争しませんか?」
「競争・・・ですか?」
「はい!先程は後ろから付いて行く形でしたし、姿もはっきりとは見えませんでしたから」
スピーダーバイクの速度性能を間近で観察したいわけか。確証は無いが、恐らく競争は自分の勝利で幕を閉じるだろう。最高速度をこの場で出せる訳ではないが、300km/h程度なら可能である。流石にそれに追従出来るとは思えない。さて・・・前方に物影、人影その他障害と成り得る物は確認出来ない。特に問題も無さそうだ。そうなれば自分の意思に依るが・・・案内される身であるし、個人的にも良好な関係も築きたい・・・よし、
「いいですよ、頂上までですね」
「おおっ、話がわかりますね・・・では、右側に見える大木から始めましょう!」
「一度停車しますか?」
「互いに風に乗ってるようなのでこのままでいくのはどうでしょうか?」
「そうですね、わかりました」
出発点となる大木が迫る。最早目測の余裕など存在しない・・・大木が真横に位置するのを目で確認しつつ、
一気に加速する
ギュウィィィィィィィィィン ―
木を超えたその瞬間、レバーを倒し、スロットルを最高まで上げる。パネルに映し出された速度が100、200、300・・・瞬く間に増大していく!
そして身体中に風圧を感じる。これ以上速度を上げるにはアーマーが無ければ危険である・・・一先ず、現在のスピードで妥協する。そう言えば射命丸さんは?
そう思い、後ろを振り返ろうとするが、
「あやややや、やはり速いですね!」
上空で追随しながらそう感想を述べる射命丸さん。多少負担を強いられているようにも見えるが、それでも飛行は万全のようだ・・・
「・・・」
300km/h・・・300km/hだぞ!瞬きする間に目の前を通過する速度であるというのに・・・彼女は・・・これが天狗だというのか・・・!
彼は今一度天狗の身体能力に畏怖する。先程のカーチェイスから、彼女等の飛行というのはいわばジェットパックの代用のようなものだと考えていた・・・が、それは誤りであるようだ。平均的なミリタリー・ジェットパックの最高速度は約150km/h程度だと記憶している。だが彼女はその二倍の速度で飛行している・・・
速度を上げるか・・・
つい安全性という言葉を頭の中から一時的に除去し、そのようなことを思い浮かべてしまう。だが既に目先に存在するゴールが、それは無駄な行為であると彼に伝えた。
残り50m・・・減速しなければ吹き飛ぶ可能性もある・・・競争相手の天狗もそうなのか、スピードを落としているように見える。これは・・・引き分けになるだろうか・・・
ピシュゥゥゥゥゥゥゥ ―
頂上部で急減速を行い停車を行う。後方からの圧力で前のめりになるが、何とか堪える。勝負の方は・・・
「これは引き分けですね、いやーやっぱり凄いな~。私はこれでも幻想郷では速い方ですが、これでも最高速度ではありませんよね?」
「ええ・・・」
再び彼女の飛行を思い出し空返事となってしまう。速度だけでない・・・機動性もスピードバイクと同程度・・・
「こっちに来てください」
彼女の能力分析に対し驚きを隠せずにいると、当の本人が自分を手招きしてくる。それに従い、スピーダーを押しながら進む・・・未だに彼女の事を考えながら・・・
「・・・」
だがそのような考えが目の前に飛び込む景色によって掻き消される。新たな事象とは古き事情に優越する。そしてこの地へ来て持ち始めた、様々な風景を見たいという欲求がそれを後押しする。
我々が通過してきたのとは比較にならない程巨大な渓谷・・・視覚出来ない谷底からまるで天へ続くかの如く距離がありそうな頂上まで、その至る場所に建物が並ぶ・・・いや、張り付いていると表現した方が良いだろう。両側を結ぶ連絡橋がよりこの景色を幻想的なものとして映し出している。
「あれが私たちの拠点です。天狗の里へようこそ、レッドフィールドさん」