インフィニット・ストラトスとオリ主   作:西陣

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オリ主編
オリ主編最終話『銀の福音』戦


 20XX年7月7日

 

 ISが単機、太平洋上上空を星火を棚引かせながら飛翔している。

「気持ちいい」

 僕の口から漏れ出たのはこの状況にふさわしくない、緊張感のカケラもない言葉であった。

 しかしながら、わかってもほしい。ISを装着しているとはいえ、ほとんど生身でこの広い海上を飛行しているこの高揚感から我慢せずにはいられなかったのだ。そのうえ篠乃之博士の公言どおりかなり速くなっているのだ。

  とはいえ事態の深刻さも、自分の負っている役目も忘れてはいない。首を振り、邪念を払う。いつの間にかにやけていた口元も正しておく。

 

『こちら織斑だ、合田(あいだ)聞こえているか』

「はい、聞こえています。織斑先生」

 ISのオープンチャンネルから聞こえてくる織斑先生の声に、ひとつ頷き返答した。危なかった。緩んだ顔を見られたらいつもの織斑くん――彼は一夏で良いというが恥ずかしくてそう呼んだことはない――しかりお小言をもらったかもしれない。

『ブリーフィングでも伝えたとおり合田、貴様の役目は銀の福音に対しての情報収集だ。追跡・観察だけでいい。あちらがアクションを起こしたら撤退しろ。間違っても撃破しようなんて馬鹿なことは考えるなよ』

「もちろんです。僕の実力は十分わかっていますよ。可能ならば何発か当ててみますが無理はしません。多方向同時射撃ってのを確認できれば御の字ですよね」

 残念だが僕はIS操縦がうまくない。暴走状態だという『銀の福音』を相手取って戦うなんて荷が重過ぎる。ついでに怖い。だけれども、その一方でこのISなら出来る――間違っても『僕なら』ではない――とも思っている。なんたって篠乃之束博士の太鼓判があるんだから。

 

 博士が僕の専用機を斥候にと推奨したのはブリーフィングの最中のことだ。

 『銀の福音』を相手取るのは誰が適任かを思案している最中に博士が乱入し、織斑くんの白式と篠乃之さんの紅椿を満面の笑みで推薦した。

 専用機持ちであるというだけでブリーフィングに参加している僕は一人蚊帳の外で事の成り行きを見守っているだけであった。超音速で飛行している『銀の福音』に対してアプローチ出来そうなのが一度だけだという話の流れになったためである。実力のない僕に撃墜しろだなんて無茶を言うはずはないと高をくくっていたのだ。

 しかし博士の一言で僕までもが渦中の人物となったのだ。

「ダメ押しに、合田祐希の専用機を使って偵察すれば完璧だよ。まあ、おっそい機体だけど束さんならもうビュンビュン飛ばせるようにしてあげるから」

 寝耳に水であった。博士が僕の名前を知っていたということも。僕の専用機のスペックを知っていたことも。その専用機の名目が高速戦主体で速い機体だと思っていたのにそれを遅いといわれたことも。全部まとめてだ。

 織斑先生は博士を一瞥して、すぐに僕を見た。そしていくらかの逡巡の後によくやくぽつりと「できるか?」とだけ聞き、続いて「これは実戦であり」と織斑くんに言った言葉を繰り返そうとするが、言い終わる前に「やります」と答えた。

 笑えない。この3ヶ月あまり模擬戦はそれなりにやってきた。だけど実戦なんかやったこともない、実戦を想定した訓練だってそうだ。けど、僕にしか出来ないこと――正しくは僕の専用機が、だが同じことだ――をやってほしいと求められたんだからそれに応えよう。決してNoといえなかったわけじゃない! それになにより、ISに一番詳しい生みの親が味方なんだから安心感が段違いだ。

 

 それからの事態ははやかった。篠乃之博士にISの調整をお願い――渡すときに僕をじっと見ていたけどあれはなんだったんだろう――し、震える体を落ち着けようと外で一人「大丈夫、大丈夫」と念仏のように唱えて多少気がまぎれて戻ったらすぐに出撃とあいなった。

 

 と、とりとめの無いことを考えていると不意に何かが目に入った。

 船だ。

 前方遥か彼方に一隻の小型船が見える。海上は何時間前に封鎖されたと聞いていたけどまだ残っていたのか。いったいなぜ。

 疑問が浮かぶが、とにもかくにもくだんの船を視界に捕らえつつ織斑先生に連絡を入れる。

 

『合田です。変な船が』いるんですがどうしましょう。そう聞こうとした瞬間、背後から猛烈な衝撃が発生した。体が沈む。

「ごぁっ……」と変な声が出る。まったくの不意の衝撃であった。くだんの船に気を取られていて集中が散漫になっていたのか。立て続けに二度三度と衝撃が襲い、意識を手放した。

 

 

 

 花月荘 風花の間を借り切って設置した『銀の福音』対策本部ではにわかに緊張が走った。

 偵察に出ていた合田祐希とのオープンチャンネルが突如クローズし、また非限定情報共有も途絶したからである。

 その上、対象がロストした場所は『銀の福音』の通貨予定地とはかけ離れている。ISに対抗するにはIS。『銀の福音』でないのなら第三のISが出張ってきたのか?

 指揮を取っていた織斑千冬はモニターから顔を背け。歯軋りを一つ。すぐさま、後方に待機していた英中仏独代表候補生四名に向けて命令する。

「ラウラ・ボーデヴィッヒを隊長とし、以下三名は合田祐希の捜索・救助に向かえ! 対象は未確認ISに撃墜された可能性がある。十分に注意せよ。最優先目標はあくまで救助である。目標地点は追って伝える。以上だ、行け!」

 了解の声と共に我先にと駆け出た四名がいなくなるのを確認すると、隣にいる山田真耶に伝える。

「山田先生、合田の事を織斑と篠乃之が気付いていないか確認してきてくれませんか」

 オープンチャンネルでのやり取りだ、万が一にも聞いていて動揺し、士気が下がっていては二次被害が生まれかねない。あるいは『銀の福音』を放置して先走ってしまっては元も子もない。

「いや、だめだ、私がいく。山田先生はここを頼みます。何かあれば携帯に」すぐに指示を撤回する。もし、そうであった場合彼女の性格ではあの馬鹿者を抑えることは容易ではない。

 彼女の返答を聞こうともせず、私は足早に部屋を出た。

 

 

 

 黒を先頭に青赤橙の四色のISが海上を疾る。

 誰もが言葉を交わすことなく船を捜して目標地点へ飛翔していた。船、合田祐希がロストする直前まで通じていたオープンチャンネルから伝えられた言葉。それの意味することをラウラ・ボーデヴィッヒは思案する。

 

 そもそも合田が向かったのは『銀の福音』通過予測地点ではあるが、花月荘からの最短距離地点――そちらは撃墜のために一夏が行くことになっている――ではない。先行しての情報収集なのだから当然だ。最短距離地点や、その手前、あるいは『銀の福音』と対峙してに落とされたのならば疑問はない。しかし実際のロスト地点はどれでもなく合田の専用機の可能速度から計算した『銀の福音』にアプローチ可能な座標への移動途中であった。そこにピンポイントに不審船と未確認ISが出現するのはまったくの偶然なのか。

 

 必然ではない、筈だ。ヤツの専用機のスペックを知っていただけではそもそも斥候に出られるだけの速度は持っていなかった。可能になったのは篠乃之束という来訪者によるものだ。そして篠乃之束の来訪は正式なものではない。それを予測することは困難だったはずだ。その上、合田の専用機を調整するということも判断に難しい。篠乃之束という人物の性格を読みきったとしても、その手腕までも読みきれるのか? 篠乃之箒に手渡された専用機”紅椿”。未だ各国が第三世代機を模索中だというにもかかわらず彼女はすでにそれを飛び越え第四世代機を開発していたのだ。

 

 となると、篠乃之束の自作自演か? それならば得心がいく。彼女は合田の専用機のスペックを調整する前から知っていたし、どれだけの速度が出せれば例の座標を通ることになるかも計算できるはずだ。 そうだ! 合田を作戦に推薦したのも彼女だった。となると『銀の福音』そのものも彼女によるものだということになる。

 

 ひとまず、篠乃之束による事件だとしても、IS開発者が操縦者を害する理由がまったくの不明だし、うまくやらなければ『ISの安全性』という特殊性に大きくひびが入る。いや、なるほど、実戦であり海上が舞台ならば対ISでは死亡しなかったが、その後溺死してしまったと理由付ければそれを損なわずに殺すことはできる。けだし今の状況にちょうどあっている。しかし篠乃之束が合田祐希に対してマイナスの感情を持っているようにも見えなかった。

 

 篠乃之束という人物は自分の興味のない人物のことは認識しないという事は有名である。それなのに彼女は合田の事を知っていて理解もしていた。それだけならまだしも彼といくらか言葉を交わし微笑みまで見せたのだ! 声音も織斑教官と話しているときのものと変わってはいなかった。紅椿を渡された篠乃之へ嫉妬したものたちへの口撃とは天と地ほども違う。他人からの評価は露ほども気にしない人物であるという、そういう人物が害する対象とわざわざ友好的に振舞うのだろうか。織斑教官や一夏、篠乃之がいたから?

 

 疑問はたったの一つも解決せずに増えてばかりいく。推測に推測を重ねても袋小路に嵌まり込むだけだ、答えなどいっこうに出やしない。「くそっ」という自嘲とともに頭を振る。そんな私の意識を引き戻したのはシャルロット・デュノアによる一声だった

 

「みつけた!」

 プライベート・チャンネルを開き――一夏と篠乃之に気付かれないためにプライベート・チャンネルを使用するよう教官から指示を受けた――皆に伝える。『私が確認してくる。くだんのISが残っているかもしれん、周囲の警戒を任せる』頷いたのを確認して、私は船に近づいた。

 ハイパーセンサーからの視覚情報により小型船に降り立つまでもなく、らしくない物体が転がっているのが確認できた。プライベート・チャンネルから三人の震える声がもれ聞こえる。まさかとか嘘といった言葉でありその物体を直接言い表す言葉はでなかった。

 

 船に降り立つ。血のにおいでむせそうになるのをぐっとこらえる。まだ乾いてはいない血を踏みその物体をよく確認する。

『ラウラ・ボーデヴィッヒです。任務に失敗しました。合田祐希はすでに事切れております。頭部に2発、胸部に1発の銃弾が撃たれております。また合田の専用機をも見つかっておりません』

 織斑教官にありのままを伝えた。

『合田本人に間違いないのか?』

 誰かが泣き崩れるのが聞こえる。

『はい、本人に間違いありません』

 そうかと答えた織斑教官は言葉こそ少なかったものの我々をねぎらってくれた。その後は遺体保存を考え小型船舶をまで移動させることにした。軍での研修も行った私が花月荘近くまで運転し、学園教師へと引き継いだ。道中他の三名はかわらず上空からの警戒に当たってもらった。嗚咽が聞こえるだけで会話など何一つ無かった。

 

 そして帰ってきた私たちに織斑教官は一言。

「『銀の福音』撃墜に失敗した」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 20XX年 2月16日

 

 2月16日は全世界に衝撃が走った1日となった。女性にのみ扱えるはずのISであったはずが、男性操縦者が発見されたのである。しかも2名も!

 一人目は織斑一夏。二人目は合田祐希。世間の注目を浴びたのはもっぱら一人目であった。当然だ。何を隠そう、かのブリュンヒルデである織斑千冬の実弟であるのだから。その日のマスメディアは男性操縦者についての報道一色となった。

 

 しかしながらマスメディアが流さなかった2月16日におきた珍事はもう1つだけあった。

 とはいえ彼らがこれを流さなかったのはまったく意図したことではない。そもそも知る事がなかったのだから報道できるはずもない。それは国境人種を問わず全世界でおきた。しかしながらその現象を確認した人らもそれが珍事だとは認識できず、あくまで自分あるいは機械のミスであったと判断したためだ。事実その珍事おきたのは同日のおよそ8時から10時までの2時間という短い時間、その上発生から収束までわずか1秒足らずであったのだ。

 

 それというのは、ISが男女を問わず――女性の非適合者も含めてだ――反応したというものなのだ。

 一番最初に発生したのは日本 X県にある多目的ホールのであった。その日そこではIS学園の実技試験が行われていた。そこで使われるIS打鉄が本来反応しないはずの対象との接触であるにも関わらず起動したのだ。そう一人目である織斑一夏である。その時刻以降全世界のISが不適合の相手に対して1度は反応たのだ。もっともすぐさま反応が消えたため。それは実際に反応させた人物すらもわからないほどの短さであった。

 その誤反応は合田祐希に対して正式に反応するまで続き、その回数じつに80あまりであった。つまり何が言いたいのかというとISが織斑一夏、合田祐希両名に反応するのは、偶然ではなくなんらかの要因があるのではないかということだけである。

 




ちゃんと死ぬということを提示するために最初に持ってきました。
死んだのが別人とかミスリードを誘っているというわけではありません。
転移とか憑依もありません。
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