インフィニット・ストラトスとオリ主   作:西陣

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幕間(話数と時間軸の関連性なし)
更識簪


 IS学園整備室

 

 その日その時間更識簪は心ここにあらずといった感じであった。

 彼女の演算能力および情報分析能力が非凡であることの一端を示す、その見事な――比較対象の問題から彼女自身はそうだとは考えていないが――技術を見せることもない。

 普段の彼女であれば目的――専用機となる予定の専用機の完成に向けて只管、空間投影型キーボードに指を走らせているのだが、今はただ手慰みになぞっているだけであった。

 たまに思い出したように再開しようと活を入れるもすぐに霧散してしまう。

 

 

 更識簪は専用機を貸与が認められた日本代表候補生である。

 しかし、その専用機――白に近い水色を基調とし黒と黄が加えられた配色。彼女の髪色と髪留めにあわせているのだろうそれは未だに未完成のものであった。

 打鉄弐式と名づけられたそれは外観こそISとして存在しているものの武装および稼動データの不足から今はただの置物と化している、

 未完成であるISがなぜここ、IS学園にあるのか。その質問に対する答えは明瞭なものが返せる。

 

 

 開発元である倉持技研が打鉄弐式の開発を半ば放置していたために、業を煮やした更識簪がそれを引き継いだのである。

 語弊を承知で言えば、奪い取ったと言い換えても差し支えない。

 

 もちろん倉持技研はなんの理由もなく放置していたわけではない。

 織斑一夏と白式がそれだ。

 倉持技研による打鉄弐式の開発は遅延――本来ならば、更識簪がIS学園に入学する四月には一先ずの完成予定であった――こそあれ、ロードマップも明確でなんの障害も無いように思われていた。

 しかし、織斑一夏がISを起動させ、篠乃之束が彼の専用機となる白式を完成させてしまったことでその予定はいともたやすく崩壊してしまった。

 

 

 織斑一夏という男性操縦者が出ただけならば問題はなかった。

 彼らは打鉄弐式の完成に注力しており彼の専用機を開発する余力も無かったのだ。

 問題は彼の専用機である白式が篠乃之束によって完成させられたであるという点である。

 倉持技研が設計開発したものあるが後に凍結。それをIS開発の第一人者篠乃之束、彼女が作りあげたそんな機体であるのだから当然、喉から手が出るほど欲しい。

 白式を完成に至らしめた技術のなにもかもが魅力的に見えたことだろう。

 織斑一夏が今までにありえなかったとされる男性操縦者であり、かつ織斑千冬、篠乃之束との関係さえなければ白式は倉持技研で分解・研究の対象とされるほどの光を放つものであった。

 それが出来ない現状、送られてくるわずかなデータでも糧にするべく白式の稼動データの解析に膨大な人員を注ぐことになっている。

 このことが倉持技研が打鉄弐式の完成を放置に至らしめた理由であった。

 

 織斑一夏に白式が渡されたのはクラス代表決定戦のあった日、その日に彼女は打鉄弐式の完成が放置されていることを知った。

 その知らせ――放置ではなく大幅な遅延という言い回しであったが――を受けた彼女の胸中を占めたのは憤怒でも呆れでも失望でもなかった。

 『やっぱり』というのがそれであった。自身の予想に対して、そのとおりだと答えを得ただけで大きく心を震わせることは無かった。

 

 更識簪は自身も十分に承知しているとおり内向的な性格である。

 自分から積極的に友好関係を築けるようなタイプではない。

 それはIS学園に入学してからも変わっていなかった。

 ただただ受身でこの学園内で特別親しい友人――布仏姉妹は使用人という立場と、入学前からの知り合いなので除いている――が出来ることもなかった。

 それでも、その特異な立場にいた織斑一夏(ついでに合田祐希)の話はそれなりに漏れ伝わってくる。

 

 たとえば、専用機が与えられることであったり。

 それが倉持技研によるものであることだったり。

 

 その噂を聞いた時点で彼女は半ば諦めていたのだ。

 ありえなかった男性操縦者の稼動データを研究できる。ISに携わる企業であるならば当然食指が動くというもの。

 ならばそれと比較して彼女の専用機の開発はどうだと聞かれれば、その答えは想像に難くない。また事実であった。

 

 

 その答えを直接伝えられた彼女はそのことに関する不平一つ言わず、二つの要求を伝え、またそれは受け入れられた。

 一つは搭載予定のISコアおよび完成しているIS部分の即時搬入。

 もう一つは一日も早い未完成部分の完成。その際武装の完成を最優先とすること。

 ただそれだけであった。

 

 そのことを告げたとき彼女の脳内にはあるエピソードが浮かんでいた。

 それは自身の姉である更識楯無が独自にISを作り上げたというものだ。

 丁度いい機会だとそう思ったのだ。

 

 

 幼い頃から優秀であり続けた姉とそうではなかった自分。

 ことあるごとに比較され、優秀な姉は褒め称えられそうでない自分には失望のまなざしが振ってくる。

 しかし更識簪はひざを屈することは無かった。

 姉に対しての劣等感は勿論ある。

 だがそれ以上に同年代と比べても頭一つ二つ抜けている姉に対して憧れ・尊敬も持っていたのだ。

 

 しかし転機は不意に訪れた。

『元日本代表候補生更識楯無 ロシア国家代表に』

 新聞の一面にデカデカと書かれたその文字を見て更識簪は当初理解が及ばなかった。

 半年ほど前にIS学年に入学した姉が何をどう間違ってロシアの代表となったのか。

 日本代表となるべく互いにしのぎを削っていた、そう思っていた。たしかに、この点についてお互いの考えを確認しあうことは無かった。

 むしろ自身の不甲斐なさが原因から姉との関係がよそよそしいものになっていた。また、姉がIS学園に進学したため顔を合わせる機会すら大きく減ってしまっていた。

 

 様々な感情が渦巻くもののすぐさま連絡を取った。

 嫉妬心と劣等感を覆い隠し、それ以上ある喜び素直に告げた。しかし相手の反応は芳しいものではなく――IS学園で普段見る彼女を知っているものからすればぢういつ人物だとは思えないほどのものであるだろう――言葉数もまた少く、声だけであったが力のない笑みを浮かべているのが想像できた。。

 内心を伴わない上辺だけの言葉だと思われたのだろうか。

 あるいは、何の相談も無く――それが必要であると声高に主張できるものでもないが――決めたことに対する引け目があるのか。

 まさか代表になれたことを喜んでいないわけでもあるまい。

 いずれにせよ、姉との関係が決定的になってしまったのがこの日だったことは良く覚えている。

 そして、ただ言われるがままに行っていたISの訓練や更識としての訓練を意欲的に行うようになった、

 一番近くで姉の活躍を見ることが出来る。自身が高みを目指すことを放棄し、そんな傍観者的な立場に満足する一面も捨て去る。

 

 何故こんなことになってしまったか。

 それを思い返してみるとおそらく自身の能力のいたらなさが起因するのだという結論に至ったのだ。

 もしかすると、自身のあずかり知れぬ要因があるのかもしれない。そうであるならば自身がなにをしようと変わることはないのかもしれない。

 ただそれでも座して待つことだけは出来なかった。

 自身の愛するヒーローもののアニメであるならば、もしかしたらヒーローが解決してくれる。そんなご都合主義があるかもしれない。

 しかしそれは創作の中だけである。蹲ってわめいていていれば都合よく誰かが手を差し伸べてくれるなんてことを期待してはいけない。

 いや、よしんばヒーローがいたとしても他者になって入ってもらわなければ解決できないようなことでもないのだ。そんなものに構っているほど暇ではないだろう。

 出来るかどうかはともかくとして解決への道は自身の脳内に事実存在している。

 

 言葉だけでは届かなかった。

 ならば、実力を見せればよいのだろうか。

 これだという確信を抱くことは出来なかったが自身に出来ることが他に見つからなかった。

 そのために姉の軌跡をいくらかたどって見せようと。 

 その一つが自身によるISの完成なのである。

 そしてゆくゆくは三年後、第四回モンド・グロッソでロシア代表である姉を、日本代表である自身が下すのだ。

 幼い頃とは違い姉の影に劣等感を覚えるだけの、庇護されるだけの弱い自分はいなくなくなった。そこまですれば十分に証明できるであろう。

 残念だが今年、第三回モンド・グロッソにはまず間に合わないだろう。よしんば、ISを完成することが出来てもその習熟期間が足りていない。

 そんな状態では代表に選ばれることはない。たったひとかけらの希望すら存在しない。

 

 

 我ながら無理難題を課したものだと更識簪は笑ってしまう。

 あまりにも自分に都合の良い展開を積み重ねているということは重々承知している。

 そもそも国家代表になれるのか、なれたとしても。その時姉はまだロシア代表であるのか。モンド・グロッソでうまい具合に対戦できるのか。

 いや、そもそもそれまでに何らかの切欠によって仲直りできるかもしれない。

 なんともあやふやなロードマップである。

 しかし思うとおりにいかなくても関係が悪化することはない――はずだ――のだからすべて失敗してもいいのだ。

 そのことが彼女から無用な重圧を跳ね除けていた。

 

 

 とはいえいくらかの重圧は存在する。

 たとえば今おこなっている独自でのISの完成がそれだ。

 ISというくくりの中にはあるが知識の薄い分野。

 実物が手元に来て幾らか経つが、作業の進捗度はほとんど変わっていない。

 したことといえば、火器管制システムを自分好みにいじっているだけだ。

 倉持への要望が無かったとしたら今頃途方にくれていることだろうとしみじみ思う。

 いや、違う。

 

 正しくは、打鉄弐式の完成にむけて手伝ってくれる整備課の先輩方がいなければ途方にくれている、だろう。

 門外漢な武装の作成およびは一切合財任せ。

 また、稼動データも代表候補生のそれを都合をつけてくれるというのだ。

 そのことがあるから彼女はただ一人マルチ・ロックオン・システムの完成および、ブラッシュアップにいそしむことが出来ている。

 また他者とのコミュニケーションがうまくない彼女のかわりに整備科との渡りをつけた、従者である布仏本音ともう一人には感謝しきれないものがある。

 

 

 もう一人。

 更識簪が今集中できていない原因だ。

 その理由は明白である。

 時間になっても待ち人が来ない、ただそれだけのことであった。

 そもそも来る約束をしているわけでも、時間を取り決めているわけでもない。

 ただここ一月毎日ほとんど同じ時間に来ているだけで、彼女自身がそう約束したわけでもない、ただの思い込みである。

 もちろん彼女自身もそれは分かっているが、それでも期待ばかりが先行して指が動かなくなる。感情が理性のそれを上回っているということか。

 それこそ当初は特別良好な感情を抱いていたわけではないが、それがいまや……いつのまに心変わりしたのか彼女自身も不可解であった。

 いや、答えはすでに彼女の中に存在している。

 

 頭を一つ、二つ振る。

 自嘲ともとれる考えが頭をよぎる。

 これではまるで恋する乙女ではないか、と。

 そのことを考え付くと思わず苦笑がもれる。

 何を考えているのだ、と。

 出会った当初こそ大きな壁を作っており、また元来の性格から疎ましいとまで思っていたし、たしかに今の自分は身が入っていない状態だがそんな変な考えを持ったことがひどくおかしい。

 

 

 と、足音を耳にした。そして続けて声が聞こえた。

「すまない、遅れてしまった」

 聞きなれた声。逸る気持ちを悟られないように、あたかも切りのいいところまで終わってから振り向きました、という体を装ってゆっくりと後ろを振り向く。

 

 

 篠乃之箒がそこにいた。

 ずっとぼっちだった彼女に友達が出来たというだけなのだから。

 

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