インフィニット・ストラトスとオリ主   作:西陣

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セシリア・オルコット

 今現在IS学園は世界で唯一のISを専門的に学習する期間であり、入学するにあたって国籍は不問であるため、とうぜん日本国内だけでなく世界中から入学志望者が殺到する。

 その少女たちがわざわざ各個人で住居を決めるというのはいささか効率が悪い。

 ISが本来の目的から外れ軍事利用が可能であることから、ISコアおよびISを構成する諸々のパーツの窃盗に対する簡易的な防衛措置として、また全寮制にすることで学園へ出入りする人数を大きく減らすことにより闖入者に対する策としたいという面ももちろんあった。

 しかれども、各国の代表・代表候補の入学の際に、本国との連絡のために電子機器の使用は認められており、それによる情報そのものの流出は避けられていない。

 とはいえそのことで学園側が血を流すようなことはなかった。学園側が提供するものは操縦者、技術者として成熟するための知識・技術であるためだ。

 

 さて、世界各国から入学してくるということは、その寮も各個人にって必要な物に違いが存在する。

 精神的な安息を得られるようにするためや、思想、宗教、気候風土他諸々の理由からだ。

 よって小物から家具にいたるまで各部屋への持込を認可――無論入念な検査にパスする必要がある――している。

 枕からぬいぐるみ果てはベッドまで可能ではある。

 そんな中で家具一式を持ち込んだ者がいる。

 

 

 

 

 IS学園 学生寮 一室

 

 元々の両部屋の調度品はそれなりの質感が感じ取れるものであったがやはり機能的な面を重視していたためか少々視覚的に寂しいものであった。

 ところがこの部屋は既存のそれが一切見当たらず、すべて個人的に持ち込んだものと入れ替えられており、少々煌びやかな空間となっている。

 その部屋の主――当然、寮の一室であることには変わりなく、ルームメイトが存在するため『主』という言葉は厳密には正しくない――、セシリア・オルコットは空間投影型ディスプレイを介して女性と対話しているところであった。

 相手はイギリス本国の候補生管理官の一人で他管理官をまとめる長としての役割を持つ人であった。。

 本来ならばセシリア・オルコットの担当官は別に存在するが、今回連絡を取った理由が本来のそれとは違い特殊な内容であったため彼女と連絡を取っていた。

 

『たしかに受領しました。精査した後に再び連絡を取ることがあるかもしれませんのでそのつもりで』

 セシリア・オルコットは了承を返し、通話画面が閉じるのを確認してようやく緊張から解放され大きくため息をついた。

 本来の担当官ではなくその上役に対しての通話という点だけでなく、氏が職務に対したいへん厳しい旨を何度と無く担当官から愚痴を聞いていたことがあり、そのイメージが先行していたのである。また直接会話をしたのも今日が始めてであったためその事前情報が彼女に重くのしかかっていた。

 とはいえ、それだけならばとりたててため息をつくほどのことではない。問題はまた別にある。

 

 そもそも今回の連絡はありえなかった男性操縦者二名の調査報告であった。

 ISの動作記録はもちろん本人の性格傾向、種々の嗜好、言語、行動まで可能な限り報告せよとのことであった。

 無論これはセシリア。オルコット個人だけに対するものではなくイギリス所属生徒すべてに喫緊の課題の一つとして通達されていた。

 ただ偶然か意図的か同じクラスに所属することが叶い、また良好な関係を築き練習という名目で対象とそれなりの時間を共にすることに成功したセシリア・オルコットがもたらすそれは他イギリス所属生徒のもたらすそれとは比較する必要も無く重要視されている。

 今日の連絡はその第一次報告としてのものであった。

 

 報告そのものはすでにまとめたレポートを転送し確認するだけで滞りなく行われた。

 ただその後の追加要請が問題であった。

 端的に言えばどちらか――織斑一夏を優先――を取り込め、そういう内容であった。

 無理難題にもほどがある。

 すでにどちらも、日本、アメリカが囲っており専用機まですでに与えられているのを認識しているのだろか?

 所属する国家の鞍替えということは珍しい事例であるが事実存在する。現ロシア代表の更識楯無が所属国家の鞍替えをした一人であるし他にも数え上げられる程度には実例が存在するが、残念ながらこれらを例に挙げるのは不適切である。

 彼女らは見も蓋も無い言い方になってしまうが替えがきく人材である。

 不可能を可能にした彼ら代わりは現状存在しないのだから。

 二人の発見以降世界中で三人目を探しているが未だ音沙汰は無い。

 そうでなくてもたった二人の例外なのだから特別な待遇を受けていることは想像に難くない。

 それとなく話題を振ってみたことがあるが不満はとりたてて無いようであった。四月の時点では織斑一夏が専用機の搬入が遅れていることに不満をもらしていたがそれはすでに解消されている。

 強いてあげるならば合田祐希の所属国家が他国であるアメリカのため現地の赴いた際に食、住、言語他で困惑しているそうだが、それはイギリスでも同じことになるのでなんの優位点にもなりはしない。

 

 いや、ちゃんと認識できているのだろう。だからこそ直接的な言葉ではないが『抱かれろ』そうほのめかす言葉が何度もでたのだ。

 気が重い。ただでさえスパイ行為だけでなくさらにその先まで求められるのだから。

 そこまでして手中に収めたいというのか!

 

 

 一息つこうと淹れておいた紅茶――すでに暖かさは失われているだろうが――を手に取るも、すでにそのカップからは茶色の液体は消えうせていた。

 先ほどとは違ったため息を一つ吐く、自分が飲んだのでないのだから犯人は一人しかいない。

「冷めそうだったから代わりの飲んでおいてあげたわよ」

 それを裏付けるかのように背後からずうずうしほどの言葉が掛けられる。

 自分が招いたのだからそれを吐いた人物が誰なのかはすでに分かっている。イギリス代表候補生サラ・ウェルキンである。

 そんな彼女へ文句の一つでも言ってやろうかと振り向く。

 

「私には言われなかったけど暗喩的であってもそんな指示するなんてね」

 しかし口を開く前にそう機先を制されてしまう。

 悪態をついて彼女の機嫌を損ねるよりもいまの言葉を深くきいておきたい。

「サラ先輩は言われなかったんですの?」

 そう聞き返す。

 が、彼女は一向に答える気配も見せない。

 訝しげに彼女を見ると、右手に持っていたティーカップを軽く掲げる。

「その前におかわり淹れて貰える?」

 まったくもう。いや、何も言うまい。どうせ自分も飲みたかったところだ。

 それに自分が紅茶を淹れるというのがイギリスにいた頃からの役割のようなものだ。最初から率先していたというわけではないが少なくとも彼女に任せることは出来ない。

 サラ・ウェルキンはおおざっぱなきらいがあるためだ。

 茶葉の分量や蒸らし時間といった、ある程度の幅はあるもののそれに適した分量、時間が決まっているものであってもそれを計ることなく自分の感覚で進めてしまうのである。

 ISの動かし方ですら数値を用いて説明するようなセシリア・オルコットにはたまらなく我慢の出来ないことであったのだ。

 レシピにそう書かれているのになぜその通りにやらないのか? ということだ。

 ともかく、彼女の願いに了承を返し、ティーポットと二人のカップ、ソーサーをトレイに乗せキッチンへ向かう。

「一言も無かったわ。あんなことセシリアくらいにしか言えないでしょう。何の接点も無い私たちがいきなり近づいても怪しがられるだけでしかない。そのうえ反発されてよその国に乗り換えられたらたまったもんじゃないもの」

 背後から先ほどより大きくなった声が聞こえる。

 成程、たしかにその通りだ。そんなことを言われるまで思いつかないほど気が動転していたということか。

 さらに言えば、当の本人らもすでにそのようなアプローチをされる懸念があることを伝えられているかもしれない。

 ならば、わざわざ危険を冒すよりもすでに出来ている接点だけに絞ったほうが良いと言う判断なのだろうか?

 織斑一夏はどうか判断がつかないが、合田祐希に関してはそのことを念頭に置き行動しているふしがある。

 事実、彼は織斑一夏以外には一様に距離を取っているようだ。

 特別壁を作っているというほどではないが少なくとも彼自身が他者に関わるシーンを思い出すことは出来ない。

 ただ、これが元来の性格あるいはIS学園での異分子としての処世術として考え付いたものなのかどうかまでは判断がつかない。

 

「でも仮に接点が無かったとしてもセシリアには同じことを言ったと思うわ。仮にも名門貴族のお嬢様なんだから他国への出奔の懸念は小さい。個人の心情がどうとかじゃなくて世間体という意味でね。それだけなら確証が得られないけど、セシリアってばファザコンだから家を捨てるなんて考えたこと無いでしょ」

「誰がファザコンですの。だ・れ・が!」

 反射的にそう言ったものの管理官の言葉を聞いて憤りこそしたもののISからはなれたり、あるいは国家を変えるなんて考えもしなかったのは事実であった。

「なんにせよ忘れてよいのではないかしら。あちらだって本気でそんなことが出来るなんて甘く考えているわけないでしょう。うまくいけば儲けもの、だめだったとしてもせっつかれたりしないはずよ」

 セシリア・オルコットの様子を見てひとしきり笑った後、サラ・ウェルキンはこう閉めた。

「ええ、そう……ですわね」

 自分と同じ考えを持っているものがいるというのは大変心強いものであり、彼女がそうであったことにセシリア・オルコットは安堵する。

 

「それにしても、候補生という肩書きを利用して例の二人に指導する立場を得る、なんてうまくやったものね」

 その物言いをきくやいなやセシリア・オルコットは、まあ! とことさら驚いた風に声をあげ彼女の言葉を否定する。

「私がそうなるように糸を引いたような言い方はやめていただけませんこと。なぜかそうなってしまっただけでそのような意図を持って行動を起こした事実は一切ありません」

 その言葉の内容そのものは棘のあるものであったが、言われたセシリア・オルコットもそれが真実サラ・ウェルキンの胸中からもたらされたものでないことを承知しておりやや芝居がかった台詞で対応した。

 

 出来上がった紅茶を彼女の元まで持って行き、対面に座る。サラ・ウェルキンは一言礼をいい、

「それで彼らと実際に接触してみて……他の男性とは違う、そう、なにか、特別ななにかを見受けられたかしら?」

 ようやっと本題に入った。

 問われたセシリア・オルコットは「そうですわね」と前置きし、カップに口をつけた。

 

 紅茶一杯をゆっくりと飲み終えるだけの時間を要して、から口を開き、

「残念ながら」と首を振って答える。

 日がな一日共にいるというわけでもなく、日数もまた短いこともあり知りえた事はあまりにも少ない。

「私の知りえた限りでは普段のそれからISの操縦にいたるまで、お二人ともことさら逸脱しているようなことはありませんでした。一夏さんはISの操縦技術の成長速度には目を見張るものがありましたが、だからといってISを動かせる理由付けには成り得ないでしょう」

 織斑一夏がブリュンヒルデの実弟であり、篠乃之束とも少ないながら交友関係があるという事柄も注視すべき点ではあるが、わざわざ口に出さずとも理解している事実であるため触れることは無かった。

ともかく、何故あの二人はISを動かせることが出来たのか? 彼女には理由が皆目見当もつかない。

 彼らが最初に稼動させたISコアが特殊であるということも無かった。彼ら二人はともに学園に配備されている汎用機をも稼動することが可能であることも確認している。

 たとえまったくの見当違いであっても、自分に都合の良い解釈の積み重ねであっても納得のいく解答を導きだすことができれば多少なりとも溜飲が下がるのだが、まったく不明な現状ではその都合の良い解釈すら積み上げることが出来ない、たいへん薄気味悪いものがある。

 

「そうでしょうね。私が彼らを見たのはほんのわずかな時間だけど、やはりあなたと同じ考えしか持てなかったわ」

 セシリア・オルコットの考えにお手上げのポーズでこたえて同調する。

 無論、専門家でもわかっていない事柄をそうでない自分たちがいともたやすく答えを見つけられるなどという甘い幻想を抱いているわけでもない。

 そうはわかっていはいるが、今までは気にも留めていなかった事実が覆されたのだからそこを注視してしまうのもいたしかたないことである。

 

「篠乃之束ならわかるんでしょうけど、どこにいるかすらわかっていないのだから尋ねようが無い」

 伝え聞く限り篠乃之束は相当の偏屈であり、親しい者としか話さないという。

 それが真であればたとえ見つかったとしてもそう簡単には答えてくれないだろう。

 ならば、とサラ・ウェルキンはセシリア・オルコットを見つめ、それを受けた彼女は一つ頷き、

「伺いましたが、わからないと」

 対象は言うまでもなく篠乃之箒である。

 織斑一夏と友好的な関係を築くことができたのが幸いし、篠乃之箒本人との接触もセシリア・オルコットには容易であった。

 しかしながら篠乃之箒と彼女の両親はISによって重要人物保護プログラムの対象となり五年以上も各地を転々としていたという。

 その彼女に対して切欠となった篠乃之束のことを尋ねるのは少々気が引け、迂闊にたずねられないという思いがあったため聞くに聞けない状態であったが幸運にも聞き出すことができた。

 

 ただ、

「男性蔑視者かと尋ねられましたわ」

 女尊男卑。

 ISという女性にしか扱えず、既存の兵器とは一線を画すものの登場によってその風潮がでてきてしまった。

 登場初期こそこぞって女尊男卑が唱えられていたが、ある一つの事実が判明することによって次第にそれは沈静化していった。

 女性であれば誰しもがISを扱えるというわえではない、という事実だ。

 ISランクあるいはIS適性とも呼ばれるものであり、その名の通りISとの親和性の高さを表すもので最高のSから順にA,B,Cと続き、最後に適性なしDまで存在する。

 女性にしか扱えないので男性は当然このDランクではあるが、それだけでなくおよそ半数の女性もまたこのDランクであったのだ。

 このことが女尊男卑に傾きかけた世論を大きくゆり戻した。

 『女性』と『男性』という対立ではなく、『ISを扱える女性』と『男性およびISを扱えない女性』という対立に切り替わってしまったからである。

 隣で男性を相手取って口撃していた者が、その日を境に男性側に付き自分を口撃するようになってしまった。そんなことも少なからずあったようだ。

 

 瞬間的に燃え上がり、また瞬く間に鎮火した。というのがISによる女尊男卑の風潮である。

 ただ、落ち着いてはいるが男性蔑視者にとっては絶好の事実であるために、現在もそこかしこで燻っているのは否定できない事実である。

 そのため篠乃之箒がセシリア・オルコットの質問からそのような疑念を抱くのも無理の無いことであった。

「無論、すぐさま否定いたしましたわ。事実ですから。ただ少々警戒されてしまいましたけれど」

 個を見ずに男というだけで下に見るようなひどく過激な思想は、年若い少女らには理解が及ばず、縁遠いものであった。

 

 

「はあ……」

 とセシリア・オルコットは深いため息をついた。

 あれからかれこれ三十分ほどおままごとレベルの情報交換をしていたがなんの収穫も無いことしか分からなかったからである。

 男性操縦者の出現により顕在したISへの不信感を拭う切欠すらつかめない。

 不審を抱きつつもISに関わることを続けているという背反状態。

 これが単純に悪と断ずることが出来るような事柄であればなんの迷いも無く手放すことが出来るのであろうが、実際はそうではない。

 多大な努力と競争、そしていくらかの運の末に手に入れた立場を捨てられるほどのものではなかった。

 そしてなにより、きっかけを与えてくれ、ひとつ階段を上るたびに共に喜びを分かち合ってきた愛する父に対しての感情が彼女の胸中の大部分を占めていた。。

 

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