インフィニット・ストラトスとオリ主   作:西陣

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凰鈴音

 僕はこれまでスポーツのや運動部に縁が無く、「人の試合を見て学べ」という言葉を実感することが無かった。

 しかし、ここに来て、というか彼女らの戦いを見て僕はその言葉をようやく実感できた。

 凰鈴音とセシリア・オルコットだ。

 

 不完全燃焼に終わってしまったクラスリーグマッチから十日あまり、それは僕ら……織斑君とオルコットさんとの練習に凰さんが新たに加わった日数でもある。

 幼馴染である凰さんが入ってくれて気が楽になった――篠乃之さんはクラスメイトのみんなのほうに付きっ切りになってしまった――と織斑君は諸手を挙げて喜んでいたが、実はこのことを一番喜んでいるのはオルコットさんではないかと思う。

 織斑先生からなし崩し的に指導役にされてしまったオルコットさんは、胸中でどう思っているのか不明ではあるが嫌な顔一つせず――もっとも僕のヘタさが原因で困った顔をさせてしまうことは多々あるが――指導してくれている。

 そう、指導である。

 それはオルコットさんにとってこの時間はほとんど得るものない時間となっていると思う。

 国家代表に選ばれるために――直接きいたことは無いが恐らくそうなのだろう――少なくない代表候補生との競争の中で、限りある時間をオルコットさんは僕ら二人のために無駄に使っているという点が大変申し訳なく思っている。

 

 だからこそ同じ候補生である凰さんが加わってくれて、そして今眼前で繰り広げられているような模擬戦を行うことによってオルコットさんにとっても益のある時間になったことが他人事ながら少しだけほっとした。

 そしてまたこのことは僕――と恐らく織斑君も――にとっても有益なものであった。

 

 未だにオルコットさんとの模擬戦ではものの数分で落とされてしまうが、凰さんとの戦いを見て幾らか得るものがあったのだ。

 たとえば、四つのレーザービットの偏光射撃は一度しか曲げることが出来ない――いずれも少なくとも現状の彼女では――だとか、曲げるといっても弧を描くようなゆったりとしたものではなく「くの字」のように二つの直線の形であったり、偏光射撃を行うときはオルコットさんの動きが止まったりあるいは三次元的な動きをしていたのが直線的な二次元的な動きになっていたり、そのビットもオルコットさんの動きを阻害することなく動かすには一度に二機か三機が限度のようで、偏光射撃関係なくそれ以上動かしている場面だとやはり動きに精細を欠いている、といったところだ。

 僕はもとより、織斑君も彼女に何度も偏光射撃を使わせるほどの実力は無いので、このような機会がなければこれらを発見するのにどれだけの時間がかかっただろうか。

 もっとも、コレを知ったからといって彼女から白星を挙げるということには繋がっていないのが恥ずかしいところだ。

 たとえ頭では理解していてもいざそうなると目の前ことばかりに注意が向いてしまう。

 視野の狭さは入学前のアメリカでの時から口を酸っぱくされるほど言われており意識はするものの一向によくならない。

 それに加え普段こそ受身な動きで腰が引けているのに少し隙を出したり後がなくなると何の考えなしに突っ込むという百か零かの動きもどうにかしたほうがよい、とごく短い時間しか見ていない凰さんにも看破されてしまった。

 

 公式な試合に出ることが出来ないとはいえ貴重なISおよびコアを貸与されているのだから決して恥ずかしくない程度の錬度は身に着けておかなくてはならないと思うし、そしてなにより非合法組織の問題がある。

 話を聞いただけで、どれだけ事実と乖離しているのかは検討もつかないが、少なくともISを含む軍事兵器を運用し世界各地で騒ぎを起こしている集団だとなんとなく理解している。

 事実、アメリカの第二世代ISアラクネが盗まれた、と非合法組織の説明してくれたときの彼*1の普段のそれからは想像もできないほど険しい顔つきを今でも鮮明に思い返すことが出来る。

 被害の有無や同一組織かどうかまでは分かっていないがアメリカ以外でもインド、イギリス、ギリシャ、ドイツ、イタリア、スウェーデン、デンマーク、中国他様々な地域で騒動をおこしているらしい

 ISも使うということは、実力が無いにも関わらずISを持っている僕なんかはISを奪い戦力とする意図があればその――あるいは、それらの――組織の絶好のカモとなるのは想像に難くない。

 だからこそその事態にあってしまったらなんとしてでも逃げ延びる――まかりまちがっても倒すことができるとは思っていない――ために練習を欠くことはできないし、してはいけない。あくまでもISは国家のもので僕自身の所有物でもないのだし。

 ついでといってはなんだが、アメリカでもIS学園でも敷地内に留まって引きこもり状態なのはそういった深い理由があってこそなわけで、決して元から出不精であったり引きこもり体質なわけではないと強調しておきたい。

 ……本当に? と問われたら目を泳がせるしかできないのだが。

 

 

 と、意欲こそあれ実に結びつかない自分の不甲斐無さを再認識している間に決着がついた。

 三度連続での時間切れである。

 時間切れといっても模擬戦であるからして正式な制限時間はなく、ただアリーナの閉鎖時間になっただけなのだが。

 とはいえ、シールドエネルギーの残量をみれば一目瞭然で、やはりというかオルコットさんの敗北であった。

 

 オルコットさんは最初の二試合、三試合こそ偏光射撃で凰さんを翻弄し、余裕を見せ付けるほど快勝していたが、凰さんは僕が気づいたのと同程度――またはそれ以上のなにか――を理解したのか次第に対応していき今ではその多くを避けられるまでになってしまった。

 偏光射撃をしようとすればオルコットさんの動きや注意力が悪くなり、ハイパーセンサーに表示される微かな空間の歪みに気づくことなく龍咆をくらうことになる。

 では現在のオルコットさんのように偏光射撃を忘れてはどうか? レーザー、ミサイルの都合六機のビットとレーザーライフルによる波状攻撃で動きの悪さを隠し龍咆を打たせまいとなんとか凌いでいるように見えたが結果はこの通りであった。

 

 ビットが(半)自動化できたらだとか、もうちょっと武装をとか云々考えていて、変なことを思ってしまった。

 ブルー・ティアーズという機体はオルコットさんにとって枷となっているのではないか? と。

 僕の一方的な押し付けであり本人には口が裂けても言えない言葉である。

 オルコットさんと特別話をする機会はなかった――たとえあったとしても何を話してよいかわからずただ言葉に窮するだけになってしまうだろうが――が、彼女がブルー・ティアーズを貸与されたことについて誇りに思っていると感じられた。

 そんな彼女に対し邪魔になっていないかなどといえるはずが無い。

 なぜだかオルコットさんに肩入れしてしまう。

 指導役だからなのか初めて戦った相手だからなのか負けている方だからなのか、誰かを気にかけているというポーズをしたいだけなのか、あるいは自分ではそうは思っていないが彼女に特別な感情を抱いているからなのか。

 いや、恋愛感情では決して無いが、ある意味で特殊な感情はたしかにもっているが。

 とにかくオルコットさんには負けて欲しくないと思ってしまう自分がここにいることは確かなのである。

 

「それではお先に失礼させていただきます」

「じゃ、食堂で」

 模擬戦を終えてこちらまでやってきた二人は、これらの言葉を残してもすぐさまアリーナから出て行ってしまった。

 言葉だけ取ればぶっきらぼうに思えるが、時間という問題から無駄に喋っている余裕は当然ないし、オルコットさんは最初からそうだった。

 ただ凰さんは数日前の件が未だに後を引いているのだと想像がつく。

 

 

 

 凰さんがオルコットさんに初勝利を上げた日、抑えきれない喜びがその顔からにじみ出ている凰さんがこちら――というより織斑君のところまで――まで駆け寄り鼻を高々に「どーよ」だとか「これがあたしの実力だ」などとうそぶいていた。

 オルコットさんの致命的な弱点を綺麗に突いての勝利であり、豪語するにふさわしいものだということは否定する要素が無かった。

 当のオルコットさんはというと、たかが一度勝ったくらいで、と怒っているのかと思われたがそうではなく、どこか微笑ましいものをみているような柔らかな笑顔で凰さんを見ていた。

 

 ここまではとりたてておかしなところはなかったのだが、この後の織斑君の不用意な行動が問題だった。

 あろうことか、凰さんの首筋付近に顔を突き出しさながら犬か豚のごとく――後ろから見ていたので、「恐らく」と頭につくが――匂いをかいだのである。

 

 バチン! と快音が鳴り響く。

 グーで殴るのではなくパーで頬を平手打ちにしたところから、羞恥で冷静さを失っていてもいくばくかの余裕は残っているみたいだ、とまったく頓珍漢なことを考えてしまった。

「バカじゃないの! てかバッッッカじゃないの!」

 彼女の体は震え、顔は「トマトのように」と形容できるほど赤くなっていた。

 誰かが殴ったり、殴られたりするのを見るのはどうにも快いものではないが、それでもさすがに今回はどう足掻いても平手打ちにあった織斑君が悪いので不快感を持つことは無い。

 それどころか、凰さんに対して憐憫の情がわかざるをえない。

「ってーな」

 織斑君は左手で頬を押さえながらそう言い返すものの凰さんは彼のことを気にも留めず肩を怒らせ大股歩きで去っている最中だ。

 彼は遠く離れた彼女の背中に向かって大声で静止の言葉を放つもその歩みをとめることはできず、ついには扉を足蹴にして開けて出て行ってしまった。

 

 目の前の出来事にぽかんと馬鹿みたいに口を半開きの状態で突っ立っているだけの僕が遅まきながら我に返ったのはオルコットさんと目が合ったからだ。

 目が合ったことがオルコットさんも気づいたのだろう。

 じっと僕を見つめた後、その目線は僕と織斑とをいったりきたりしていた。

 何度か繰り返すと、小走りで凰さんの後を追いかけだし途中で、念押しするかのようにもう一度僕を見たので、察しの悪い僕でも彼女の意図することは想像がつくので何度か頷いて答えて彼女を見送った。

 

 そうときまったらいまだに疑問符を浮かべている彼を早々に連れ出す。

 道中彼と少なからず言葉のやり取りをしたが良く覚えてはいない。

 アリーナで練習していた他の生徒の奇異の視線が僕らに投げかけられていることに気づいてしまい、その恥ずかしさ――ほとんど僕とは関係ないのだがそれでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだ――をなんとかまぎらわせようと必死であったのだ。

 

 

「それで、なんだってあんなまねを?」

 間違っても誰かに聞かれないよう部屋にまで戻ってから事の次第を聞きだす。

 何も考えずにあのような行動を起こしたわけでは無いだろう。

 彼の中ではなんらかの合理理的な理由があったからこそあのような行動に出たのだ。きっとそうにちがいない。

「ほら、汗を吸ったISスーツってにおいはどうなるのかなってずっと考えてたんだ。ここって女の子ばかりだろ、そういうの気にしたほうがいいかなって。かといって自分ので試してみたけどちゃんとにおわないのか、自分のだからわからないのか判断がつかなくてさ」

 それで、ちょうどうまい具合に汗をかいた凰さんが目の前に現われたからつい、ということだ。

 僕の淡い考えはものの見事に砕け散った。

「それなら僕にすればいいじゃない。ほら毎朝やってるし」

 女性はもとより男性にだって嗅がれたくは無いのだが、それはおいておく。

「そりゃ機会があればそうしたけどなかったし、祐希が朝やってるのはジャージだからそれもまた違う」

 ぐぬぬ。

 朝、というのは想像通り朝練のことで、早朝にランニングからストレッチに軽い筋トレをやっている。

 最初はやらされていたのだが、前言のように逃げ延びるためになんとか続けている。

 トレーニングの最中に目に映る少なく無い数の女生徒の姿がISスーツを着ているそれとはまた違った意味で強敵なのは別の話だ。

 

 うまく理解してもらえることが出来ず、どうすればよいのだろうかと頭を抱えつつも、問答を繰り返している中。

「一夏がそういうことを気にするくらいなんだから凰さんだって気にするものだと思うよ」

「鈴はそういうの気にしないだろ」

 しれっとした顔で否定される。

 何故そこまで確信を持っていえるのだろうか? とたずねると、腕を組みうんうん唸ってようやく出てきた言葉が。

「だって鈴だし」

 と僕には分からない妙な信頼感を持っているらしい。

 凰さんは異性ではなく同性として扱われているのではないだろうか。

 もしそうであるならば……彼女の胸中を知っている身をしてはただただ不憫に思えて仕方が無いのであった。

 

 

 

 そんなことがあってから今日まで凰さんは妙に過敏になっているようで、普段の行動からしてぎこちなさを感じ、少しでも汗が気になるようだと織斑君に一定以上近づかなくなった。

 オルコットさんから話しを聞くと僕が想像していた「怒り」に起因するものではなくただ「羞恥」に起因するものだと知り時間が解決してくれるだろうと――自分が望む未来図を描くだけで思考停止し――ほっと胸をなでおろす。

 目の前でいがみ合う姿なんかを見せ付けられてしまったら胸が痛むもので、その予想図が外れていたことは喜ばしかった。

 もっとも、お怒りなのは傍から見ていたオルコットさんのほうで、凰さんに成り代わって、かどうかはわからないが彼女から苦言をいただいた。

 同性である僕からなんとかしてほしい、とのことで、 その内容は、どれもこれも「仰るとおりです」としか返せないような至極全うなことしかなく平身低頭するしかなかった。

 そのうち幾らかはすでに昨日彼と話し合ったものであり、また普段見ているオルコットさんのそれとはまた違う一面があらわれていることのほうに注意が向いてしまっていた。

 最後の「あれでは鈴さんがあまりにも気の毒ですわ」という台詞に、つい「知ってたんだ」と返してしまうと今度は僕自身があきれられてしまった。

「あれでわからないのであれば目が曇っていますわ」とジト目をもって答えてくれた。

 

 

 その「時間」は思いのほか早くやってきた。

 織斑君に伴って食堂へ行く道すがら今日は何にしようと言い合う。

 朝昼夕と日に三度する話題であるがそれでもその時刻の気分や体調であれがいいこれがいいと食べたいものは変わってくるもので飽きの無い話題であった。

 いったいどれにしようとぐずぐず悩んでいる僕に対して織斑君は「酢豚にするけど祐希は」と。

 あー、酢豚か。

 じゃあ僕も、と同調する声は挙げられることなく、彼の「うおっ」という叫びに消されてしまった。

 思わず立ち止まり隣の彼を見る。

「酢豚ならあたしが作ってあげるっていったじゃない。そんなに酢豚が食べたいならあたしの部屋にきなさい」

 と、いつのまにきたのやら、彼の首を腕で締め付けている凰さんがそう言い放ち、必死に抵抗する彼もむなしく、そのままずるずると引きずられていってしまった。

 あまりの早業に静止することさえも出来ずに見送ってしまった。

 薄情にも彼のことは多分大丈夫だろうと、目の前にある食堂を通り過ぎ売店で何か買い、部屋に戻ることにする。

 残念ながら食堂で一人で食べる図太さや勇気は持ち合わせてはいない。

 

 おにぎりとペットボトルのお茶という普段に比べて寂しい夕食をとりつつ、取り留めの無いことを考える。

 さっきの凰さんはあの小柄な体型から人一人をその意に反して引きずっていくという力がよくあったな、とか。

 酢豚を作ってあげるとか、そんな話いつのまに――その後しばらくしてからようやく思い出す――してたんだろうとか。

 よそよそしかった態度が一変したけれど、そんなに大事なことなんだろうかとかである。

 

 そしてなにより織斑君が思いつきで言った酢豚に対して即座に作れる準備が出来ていたことに対して驚いた。

 彼がいつ言い出してもいいように毎日準備だけはしておいたのだろうか、準備は出来ているのにいっこうに頼まない彼に対してやきもきしていたのだろうかとか想像するといじらしいものを感じてしまうのであった。

 




 書きたかったこと
 頼まれたらすぐに酢豚を出せる用意をしておく凰鈴音かわいい。

 Q.エタったのでは?
 A.はい、エタっています。

 *1彼 未登場。
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