インフィニット・ストラトスとオリ主   作:西陣

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アメリカでの話

「はじめまして」

 と金髪碧眼の青年……ケン・グローヴァー*1がやわらかい笑みを浮かべ僕に向かって右手を差し出す。

「Nice to meet you,.My name is」

 彼に答え、手を握り返し中学生英語を継ぎ接ぎしてなんとかかんとか彼に自己紹介する。

 彼、というかアメリカに渡ることはあらかじめ聞いていた。

 それゆえ、単語のつなぎあわせであってもなんとか英語を使えないといけないと考え旅行用の英会話ハンドブックを片手にひとまず最初の挨拶だけは作り上げ暗記したのだが、これがまずかった。

 暗記したものを間違えずに言おうとする気持ちでいっぱいで、日本語で話しかけられたことにすら、言葉を出し切ってから気づいたのだ。

 それもそのはずで、彼は秘書というか案内人というかそのような立場にあるらしく、それならば当然僕との意思疎通をするために日本語が出来て当然であった。

 遅まきにもそれに気づき紅潮するが、それを気にも留めていない織斑先生が僕の言葉を次いで僕の受け渡しの手続きの話を出してくれたので、ほっと胸をなでおろす。

 

 事務的な話に割ってはいることも出来ず、手持ち無沙汰に周りを見渡す。

 空港という場所にきたのは初めてであるものの、とりたてて興味を引くものがあるわけでもなく、人の流れをぼうっと見つつ、ちょくちょく流れる港内アナウンスを耳に入れるだけであった。

 すでに顔の火照りは収まり、先ほどのことも取るに足らない失敗だと切捨てることもできず、現地で英語で話す練習の一つだったのだと無理矢理ながら前向きに解釈することにした。

 

 そんな自己暗示をしていると織斑先生から名前が呼ばれる。

 さて、と前置きして、

**「十分理解していることとは思うが一度だけ聞いて欲しい。これからおよそ一週間というごく短い期間ではあるがアメリカまで飛んでもらう。貴様がISを扱えるということはほとんど周知の事実となってしまっているがIS学園という傘の下にいる間であっても好奇の目で見られていただろう。それが外に出るのだからそれ以上のものとなるのは想像に難くない。自分のおかれた立場を理解し、彼の言葉をよく聞きこれまでの学園での生活同様に節度のある行動を心がけてほしい」

 あとのことはよろしくお願いします、と彼に言い離れていった。

「あらためて自己紹介させていただきます。アメリカ国立IS研究所に所属しておりますケン・グローヴァーと申します。このたびMr.ユウキが合衆国での通訳をはじめとした生活等の補佐をさせていただきます」

 それから、と続けて、

「ブリュンヒルデが危惧されているのも理解できますが、このたびの件は関係者のみが知っているため心配される必要はありませんよ」

 流暢な言葉にあっけに取られるも僕自身も自己紹介を返す。今度は日本語で。

「通訳も、ですか?」

「はい。日本語の出来る方もいらっしゃいますが、あくまで本文は研究ですので、私が急遽雇われたのです」

「ということは最初からそこで働いていたというわけじゃないんですか」

「その通りです」

 とだけ答え話を切り、

「あまり詳しく話していると時間に余裕がなくなってしまいますので、続きはまた後ほどにしましょう」

 まずは搭乗手続きに参りましょう、こちらですと歩いていく彼の後をカルガモのようについていく。

 

 

 

 十数時間の空の旅はあっというまに過ぎていった。

 これから行く研究所のことだとか、妻が研究所で働いていて今回の話を聞いたのだとか、父が退役軍人だとかそういった彼の話を聞いたのを始め、入国審査のときに聞かれる内容の解答を作ってもらい、それを覚えたり、つい先日出たばかりの雨崎シリーズと九龍シリーズの新作*1を読んだり、座席前部に埋め込まれているモニターで映画を見たりとIS学園に来て以来とんとなかったほどの充実した時間となった。

 

 

 

「おー」

 と空港から一歩外に出ただけではあるが言葉が漏れる。

 修学旅行で京都に行ったときはここまでの感慨はなかったのに、これが国を跨ぐということなのだろうか。

「まずはホテルにチェックインして、その後研究所に向かいます」

「今日からデータ取りをするんですか?」

「いえ、時差ぼけのことも考えて今日は説明と顔合わせだけを考えています」

 そうですか、とほっと胸をなでおろす。そして時間があるのならばあわよくば観光でもと期待する。

 遊びに来たのではないことは重々承知しているが、それでもわざわざ来たのだからホテルと研究所を往復しているだけというのもちょっとあれだ。

 

 

 

 と目の前に止まった車から二人の男性が降りてくる。

 それを見て思わずぎょっとする。

 僕や彼をゆうに越す身長に真っ黒なサングラスにと黒のスーツの二人。

 もし、彼らが道の反対から歩いてきたら即座に横道に逃げ込むほどの顔つきや体格、そして雰囲気をもっていた。

 体を強張らせている僕に対して、彼は落ち着いたままで僕のほうを見ながら英語で二、三、話をしていた。

「ボディーガードです」

 と説明されてようやく体の力が抜ける。

 後部座席のドアが開けられ、促されるままに車に乗る。

 両隣をいかつい二人に挟まれ落ち着きの無い状態のまま車は発進する。

 これからの移動の必要があるときはずっとこの状態なのだと聞き、あわよくば観光を、と淡い期待を描いていたのがぶち壊されてしまった。

 たとえ二番目だとばれなくてもこんな人が近くにいたんじゃ怪しすぎる。

 

 

 

 ホテルには荷物だけ置きすぐさま研究所まで移動した。

 空港からホテルまでは一時間ほどの移動であったが、会話も無く窓から風景を見ることも出来ずただただ精神を磨耗してしまった。

 ホテルから研究所までも三十分ほどもかかり、これから毎日この状態で往復するのかと気がめいってしまった。

 

 研究所は街からはかなり外れたところにありポツンとあった。

 いや、ポツンという言葉は不適切だ。

 たしかに周りには他の建物はないものの、研究所そのものの敷地はぱっとみでは分からないほど広く見られた。

 研究所という言葉からちょっとした建物だとばかり考えていて、これは予想外であった。

「研究のためとはいえISを街中で飛ばすわけにも行きませんからね。IS学園もかなりの敷地面積をもっていますよ」

 ああ、ああ、と説明されてようやく気づく。言われれば何のこともないことだが、それに気づくのが遅い。

 国土の狭い日本だと、多くは海の近くや山奥にあるのだと何かに書いてあったことを思い出す。

 建設中の人工島――人工島とはいえ本土とモノレールで繋がっているほどの距離しかない――を急遽接収して作り上げたIS学園は例外中の例外だ。

「さ、参りましょう」

 

 

 

 顔合わせだけだと聞いていたが、蓋を開ければ自己紹介が終わるとあれよあれよと施設内をたらい回しに身長、体重、心電図、採血等々調べられた。

 ともあれ、だまされていたわけでもなく彼本人も知らなかったようなので、詰め寄る気などおきはしなかった。

「少ない時間を無駄にすることは出来ない」と言われたら納得せざるを得ない。

 僕自身を直接調べられる機会は今回を逃せば次は夏休みになるだろうから、必死になるのは当然すぎた。

 

 また、薄暗く分厚い扉を持つ部屋の中でビデオを見せられた。

 ここではないどこかでISらしき物を纏っている誰かに襲撃されているビデオだ。

 ISは兵器である。そんなことは百も承知だったはずが、スポーツであることが何重にも押し出して強調され、事実から目をそむけることになってしまっていた。

 ガツンと頭が殴られた気分だ。

 内部からもう一機のISが飛び立つ。おぼろげだが蜘蛛のようなそれ。

 そこで映像が大きくぶれ、そして途切れる。部屋に明かりがともる。

 

「御覧いただいたのはアメリカ製ISアラクネを強奪された場面です」

 最初に僕を応対してくれたひげもじゃの偉い人が強面の顔がさらに恐ろしくなりながら映像の補足してくれる。

 ISを含めた兵器を使ってよからぬことをする組織があるということ。

 そしてそれ(ら?)に狙われる可能性があること。

 そのため、とにかく不用意に外出してほしくないと。そのことを言うためだけに恥部である物を見せたのか……。

 そうであるならば、何故ISの使えない男性をボディーガードとして使うのだろうか、ISにはISでしか対抗できないのは自明であるはずだ。

 そのことを聞くと、言い淀み逡巡の後、少しはなれたところから守っているとだけ答えてくれる。

 なぜそうなのか、ということは聞けなかったがなんの問題もない。

 遊びに行くことなんて絶対にないのだから。

 言葉だけならともかく映像まで見せられたら信用するしかない。

 むしろ、研究所で寝泊りしたいくらいだ……。

 ともかく、あまり聞きたくないこと――無論、知らなくてはならないことではあるが――をあれやこれやと説明され参ってしまった。

 

 

 そして最後に、実際に動かしてみて欲しいと外にまで連れて行かれる。

 そこには一台のISが鎮座されていた。

 ラファール・リバイヴだ。

 本来ならば純アメリカ製のファング・クエイクを用意する予定だったのだがIS学園ではラファールを借りて使っていたことを聞いてわざわざラファールを用意してくれたのだという。

 ISスーツを渡されず私服で動かすことになるがただ動かすだけなのだから必要ないということなのだろう。

 すでに手馴れたもので苦も無く起動させる。それを見て背後から声が漏れ聞こえる。

 高度を上げ、二周、三週と大きく円を描いて、元の位置まで戻る。

 

 まばらではあるが拍手で迎えられ破顔する。口笛もどこからか鳴っているのが聞こえる。

 クラス単位、グループ単位でなら似たような経験こそあれど、それが僕個人にだけ向けられている状況にあったことがなく恥ずかしさも覚える。

 しかし、その内容が純粋な自分の力ではない――自分の力かどうか分からない、が正確な表現である――にもかかわらず、嬉しがっている自分自身に気づくと、すっと体から熱が消え去る。

 ラファールを降り、一礼をもって答える。

 

 今日はこれだけで明日以降のために英気を養って欲しいと伝えられたので、そのまま駐車場まで逃げるように歩いていった。

 ホテルまでの道すがら自分の考えを改める。

 両隣に座る彼らは口を開いてくれないがだからこそ、僕は安堵する。

 変に持ち上げることもなければ、逆もない。

 窮屈だなんてとんでもなかったのだ。

 

 

 

 

「よろしく」

 という言葉と共にISスーツを纏った彼女から品定めをする視線が飛んでくる。

 今の立場になってから何十回も受けた感覚であり、当初こそ不快感を覚えていたが今ではむず痒さこそ覚えるがただそれだけだ。

 僕がする立場であったならば、やはり気になって観察してしまうだろうから咎める事などできやしない。

 ましてや、

 

 ただ彼女の視線は、今までのそれと違い、その視線を隠そうとせず、またひどく真剣というか粘着的というか、とにかく過去の多くのそれとは何か違うものを感じた。

 それは彼女が僕を指導する立場にあるからなのか、自分たちの領域に土足で踏み込んできたことにたいして憤慨しているからなのか、はたまた精神的あるいは肉体的不調によるものか、あるいは僕の勘違いなのか。

 

「こっちよ、さっさと行きましょう」

 挨拶もそこそこに、彼女……マリア・ハント*1は施設奥に設置されているアリーナに向かって歩き出す。

 あわてて追従する。とはいっても彼女の速度そのものはとりたてて速いものではなく、僕の普段のそれよりもわずかに遅い程度でありものの数秒で追いつく。

「それで、あっちではどんな事をやったの?」

 やや抽象的な言い回しではあるが聞きたいことはわかる。

 先日までのことを思い出し、指折り数えながら答える。一つ答えるごとに頷きが返ってくる。

「試合形式でもなんでもいいけど、誰かに向かって撃ったり撃たれたりしたことはないのね?」

「はい、ないです」

 映写される的に向かって、ということならあるが人間に向かってというのはなかった。

 想像するだけで体が震える。

「そ。じゃあそこらへんからね」

 

 

 

 指紋、虹彩認証を必要とする扉を抜け、がらんとした広い空間にでる。

 入り口のすぐ近くには何台かのPCとそれに向かって何かをしている人ら、そして大きなカメラが設置されていた。

 正面には二機のIS。それはどちらも同じ機体で。

「ラファールなんですか?」

 ラファールしか乗ったことのない僕が乗るのはまあ当然だ、だが彼女までそうだとは。

「私は専用機貰えるレベルじゃあないからねー。それに」

 と一度言葉を切り、

「同じラファールを使うんだから、私に出来ることはキミにも出来る。『すぐに』なんて言葉は口が裂けてもいえないけどね」

 無論する気はないのだが、機体性能の差を言い訳に出来なくなった。

 

 ラファールに乗り、彼女と正対する。

 何か言おうとするのを遮り声を上げる。

 言わなくては成らないことがある。

「始める前に確認したいことがあるんです」

 彼女はいつのまにか展開していた長身の銃を消し、こちらに近づき続きを促す。

「絶対防御がちゃんと発現するか確認しておきたいです」

 

 

 口元に手をやったまま何も話さない彼女を不安に思い、

「なぜかというと」

 説明を付け加えようとするが手で制される。

「男が絶対防御を発現させた機会がないからってこと?」

「そうですそうです」

 絶対防御に限らず、ISの保護機能はすべてISを動かせる女性に対しては満足に動作していた。

 しかし、それがISを動かせる男性に対しても同じように正しく動作するのか、僕には不安があった。

 その中でもっとも重要だと思われるのが絶対防御だ。

 

「絶対防御が発動するかためすってことは命に関わる状況を意図的に引き起こすってこと分かってる?」

 あ、と言われてようやく気づく。

「そういうわけだから、やってください、はいわかりました。とは言えないわ。他に方法がないか聞いておくから今日のところは忘れておいて頂戴」

 不安こそあるが、YESとして答えられなかった。

 この場ですぐに代案を出せるわけも無く、かといってごねて貴重な時間を無駄にすることも出来ない。

 

 そして訓練という名の狩りが始ま……らなかった。

 銃口を向けられ平然としていられるわけもなく、逃げ出す事こそなかったものの恐怖から目を閉じ、また体が固まってしまう。

 これでは訓練にすらならないのは頭では理解しているがそれでも怖いものは怖いのだ。

「そこからか……」

 とつぶやく彼女に対し、申し訳なさから涙が出そうになった。

 

 

 

 

 狩りが終わると休むまもなく、撮影していたビデオを見直す。

「なんで毎回同じ方向に避けようとするの?」

 その言葉を皮切りにダメ出しが始まった。

 やれ、動きが二次元的だ、規則的すぎる、次の行動を考えずその場しのぎの動かし方でしかない等々……。

 声に怒気をはらませているわけでもなく、表情もそんなことはないがそれでも耳の痛い言葉は僕を縮こまらせるものであった。

 

 

 移動、訓練、移動、就寝というサイクルが七日間続き、最終日。

 懸念していた絶対防御だが、搭乗者の状態を誤認させ強制的に発動させることはできた。

 正規の発現方法でこそ無いが、少なくともちゃんと発現するという事実に大いに安堵した。

 ただそれを知ってからの彼女は万が一に対する躊躇が無くなったのか、いっそう熾烈なものになってしまったのだが。

 

 日本行きの機内で昨日彼女から手渡されたリングノートをぱらぱらとめくる。

 アルファベットの筆記体で書かれたページと日本語で書かれたページ。

 ブロック体ならともかく筆記体なので読み解くことすら諦め、日本語の部分だけ読む。

 内容は、貰うときに言われたとおりダメだしされた事を丁寧に文章に起こしてあるものであることを確認して閉じる。

 いまはちょっといいかな。

 僕宛に何か書かれていないかと期待したが、そんなものは一言も無かった。

 たった数日しかあっておらず、プライベートどころか会話らしい会話すらなかったのというのだから当然といえば当然だ。

 あまりにも自分に都合の良い妄想をしてしまった。

 

 ああ、と不意に疑問が浮かび隣に座る彼に尋ねる。

「次にアメリカに行くときもハントさんに教えてもらうんですか?」

 書かれていることをちゃんとできるようになっていないと怒られそうだな。

「いえ、先方の都合もありますので決まっておりません。ただ、恐らくそれは無いと思いますよ。詳しい話は存じ上げませんが、候補生をやめられている筈ですから」

 寝耳に水であった。

 なぜという言葉が頭を占める。

 なぜやめたのか、なぜ教えてくれなかったのか、やめるのになぜ僕を指導してくれたのか……。

「ちなみに、理由は知ってますか?」

 やはりというべきか首を横に振る答えが返ってくる。

 じゃあ……。

 じゃあ、どうするんだ?

 探して問いただす?

 僕に対して自身の進退をわざわざ話す義理もないのに?。

 彼女がどのような意図をもって黙していたのかすら考慮せず、ただ知りたいという自己満足のためだけに?

 そんなもの、駄々をこねる子供と一緒ではないか。

 大義名分がみつからない。

 誰かに理由を問われたときに、なんの後ろめたさも無く断言できる言葉が。

「そうですよね。じゃあ次は別の人に教えてもらうんですか、楽しみです」

 だから口に出したい言葉は飲み込み、知らなくても良いことだ、と納得させ、胸中をさらけ出さないように、お茶を濁しておく。

 だけど自分の中にだけはとどめておく。

 

 一度はしまったリングノートを取り出し、頭を悩ませながら読み進める。

 日本につくまで時間はたっぷりある。

 




 *1 いずれもモデルは存在しない。

 ISスーツを何度か作り直してもらった話はカットしました。

 Q.本当はなんでやめたの?
 A.能力不足による人員整理の結果であり、そこに本人の意思はなかった。
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