インフィニット・ストラトスとオリ主   作:西陣

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入学前,セシリア・オルコット

  3月24日 IS学園にて

 

 激動の2月16日から3週間あまり。今でもあの日から今日までのことは明確に思い出せるほど密度の濃い日々だった。

 

 当日はテレビの人たちが押し寄せてきてひっちゃかめっちゃかでこの世の終わりみたいに感じていた。けどすぐに緘口令が敷かれて、警察の人とかも警備してくれた、ざわついていた家の周りがようやく静かになってようやく安心できた。

 

 とは言っても、次の日からすぐに政治家の偉い人だとか警察や自衛隊の偉い人だとかはたまたIS学園のあの織斑千冬だとかと難しい話――サインもらった!!!――をして、なんやかんやでIS学園に入学しろってことになった。理由はなんか説明されたけどよく覚えてない。だってしょうがないじゃないか小難しい言い回しされてもわからないよ。IS学園の特記事項がうんたらかんたらってことぐらいしか覚えてない。

 あと、問題になるのは僕だけかと思ったけど両親も『重要人物保護プログラム』ってので名前を変えて別の場所で暮らすんだって。マジかー。あとあの家も売っちゃって本とかゲームとかもたくさん処分しなくちゃいけなくてショックだった。家を売るって時に気付けばよかったんだけど僕はショックでまったく気付かなかったんだ、入学って4月からじゃなくて翌日からだってことに。

 

 織斑先生にサインをもらって舞い上がっていた僕は大して話しを半分聞き流してハイハイ頷いていたのも悪いんだけどさ。お父さんもお母さんも一緒に聞いてたんだから教えてほしかったよ。準備はしてくれてたんだけど。

 19日の早朝に織斑先生が僕を迎えに来てくれた。今日からIS学園の寮で暮らすって聞いたときは変な声が漏れてしまった。フリーズしていると持っていくもの一式だって鞄を一つ渡してくれた。あとは財布に携帯、電子ブックと前日もらったサインを詰め込んでIS学園にどなどなされた。

 自分のサインがほしいと言われたときと、そのサインをわざわざ寮まで持っていくのをしった時の織斑先生の顔は今でも思い出せる。まったく、自分がどれだけすごいのかわかってないんだろうか、もう。

 

 IS学園までの道中織斑先生から寮での規則とかを説明されていた。その最中僕は何の気もなしに「1ヶ月の前から入寮するなんて早くないですか?」と質問したら、ついさっきみた顔と同じ顔をされた。織斑先生はため息を一つはき「ISの学習と実技をすると説明したろう」と。きっと昨日説明されたんだなと、はたと気付く。ぼくは曖昧に笑いながら言葉を濁すことしか出来なかった。

 

 寮の一室――全寮制ではあるものの主に退学者の関係で――  これほど豪華な部屋だとは思ってみなかった。そのうえ本棚も備え付けてある! あらかじめ聞いておけば持っている本全部送ったのに!

 その日から僕への詰め込み教育が始まってしまった。朝から夜まで座学運動座学運動時々実技。受験勉強なんか目じゃない辛さだった。ISについては多少の知識があったけどそれはあくまで雑誌とかで読んだだけでIS関係の中で興味のある分野だけでありさらには、ほんの上澄みだけでしかなかった。その中で実技だけが癒しだった。ISスーツを堂々と見れるから――僕が最初に覚えた技能は相手の首より下を見ないようにすることだった――とかじゃなくて、単純にISを動かせるからだ。実際にやったのはちょっとISを動かしたり上昇下降ターン武装の展開収納とかのまさに基礎ですといわんばかりの練習がほとんどだったけどそれでも楽しかった。

 実技後にはIS活動記録を参照しての解説が行われたのだが、数え切れないほどダメだしをうけたのは言うまでもない。

 

 そんなこんなで辛い辛い座学の時間のこと、ついつい忘れてしまっていたが、織斑一夏くんが見あたらないのだ。彼も僕と同じようにここにきていると思っていたんだけど15日以上たっているのに一度も会わないのはさすがにおかしい。そんな質問を座学実技共に担当してくれている山田真耶先生――もちろんサインもらった――にたずねると。明瞭な答えが返ってきた。

 

 いわく、織斑くんは彼の専用機の開発を行っている倉持技研で専用機のテストと平行して学習・実技を行っている。彼が入寮するのは他生徒と同じく4月直前であるとのことであった。それに加え僕の専用機の話もしてくれた。織斑くんには日本国所有のISコアを使用した専用機が貸与されるのは決定している。じゃあ僕も日本人だし日本がもってるISコアを使って日本の企業が作ってくれるのかというとそうではないみたい。平たく言うと一国で独占するなということだ。というわけで、専用機をくれるのはまず確定なんだけど、どの国のになるかは今色々と考えてるんだって、なるほどなー。

 

 ラファール好きだしフランスとかいいな。テンペスタ作ったイタリアも捨てがたい。イギリスは・・・うん。でもそういうのって大国になるからアメリカ、中国、ロシアのどれかになりそう。まだ見ぬ専用機を夢見て色々と妄想が進みトリップしかけていたが、山田先生に現世に連れ戻されてしまった。ちぇっ。

 

 専用機が貸与されるって聞いたときはテンションがあがったけど、結局今日まだなんの音沙汰もない。新学期まであと1週間ちょっとしかないのに。座学と実技が一応完了した僕はすることもなくベッドでぐだぐだ暇を潰してるとノックが聞こえた。それに答えると顔を見せたのは山田先生であった。

「おはようございます。織斑先生がお話があるとのことで生徒指導室まで来てくれませんか」

 すわ専用機か! 織斑くんか! どちらにしても首を長くして待っていた。僕は一も二もなく了承し、ついつい走ってしまった。山田先生から注意されるが今回ばかりは見逃してほしい。

 

 生徒指導室前。高鳴る鼓動を落ち着けるように深呼吸を一つ二つ。ノックして名前を告げると即座に「入れ」と返答がきた。

「失礼します」

 中にいたのは織斑先生――まあ、当然だ――と金髪の女の子だった。専用機でも織斑くんでもなかった。どこかか、何かで見覚えがある女の子だ。それに動揺しつつも先生に着席を促されそれに従う。金髪の女の子と隣り合う形になった。

 

「さて、急な呼び出しで訝しんでいるだろうが、まずは自己紹介させてくれ。来年度から二人のクラスの担任を務める織斑千冬だ」先生は僕に手のひらを差し出し「彼が二人目の合田祐希」女の子に向かって挨拶し会釈する。視線が合う。思い出した!

「彼女が」と紹介を続けるのを遮って、ぽろりと零してしまった「セシリア・オルコットだ」彼女は少し驚いて――なぜ驚いたのかよくわからない――何かを言いかけたが。続けざまに「サインください!」と彼女の言葉に被せて叫んでしまた。顔が一変した。織斑先生も山田先生もそうだけど、サインほしいって言うとたいてい変な顔するのはなんでだろう。

 彼女の返答を待っていると「後にしろ、馬鹿者」とさっきは持っていなかった出席簿で頭をはたかれた。角じゃないから痛くないけど。自分でも先走ったのがわかっているので一言謝り、再び腰掛けた。

「話を戻す。ここにはいないが諸くんらに加え織斑一夏の三名は私が担任のクラスに配属される。そこでだ実際に新学期が始まる前に決めておかねばならない案件が発生した。クラス代表をどうするのかということだ」

 

 クラス代表。IS関係からは外れるがこの学園のことなので山田先生から聞いている。そのクラスのまとめ役ってだけじゃなくて、5月に行われる他クラス代表とのリーグマッチにも出る人のことだ。それはわかる。だがなんで学校が始まってもいない上に僕ら二人だけ――ここにはいないが織斑くんも加えて三人――に説明したんだろう。そんな疑問に答えてくれたのはオルコットさんだった。

「わたくしたち三人のいずれかに代表になれと仰りたいのですか」

「そうではない、貴様ら三人は少なくとも候補に挙がるというだけだ。一人は代表候補生。他二人は色物」色物か……正しいや。

「クラス代表は推薦自薦した者らで試合を行い、その結果によって決定される。つまりだ貴様ら三人で試合をすることになるのはまず間違いない」そこで区切り、一呼吸おく。

「そこで二人に一夏の鼻っ柱を折ってほしい」

 

 なぜ先生がそんな提案をしてくるのか理解が出来なかった。織斑くんの話をするときの先生は苦言を呈してはいるがとても大切にしているように感じたのだ。間違っても嫌ってはいない筈なんだ。そう目を白黒させている間に先生はいくらかの逡巡の後にこう続けた。

「どうやら倉持のほうで持て囃されているらしく。ド素人の癖にISで私のことを守るだとか世迷いごとを抜かしていてだな」そういう織斑先生は尿ににやけ面だ。なんで急に惚気がはじまった? 不意に、僕とオルコットさんは顔を見合わせた。

 ――なんでこうなったの?

 ――さあ、わかりませんわ。

 今日はじめてあったのに、完全に意思疎通が出来てるような気がした。

 

 話が進まないので僕は咳払いを一つし「織斑くんを完膚なきまでに叩き潰せということですか。オルコットさんだけじゃなくて僕も?」まさかとは思うが一応確認してみる。

「オルコットが圧倒するのは当然として、合田にも勝ってもらいたい。そんな顔をするな、貴様が実技が上手くないのは山田先生から聞いている」嘘だ。わかってるんならそんなこと言わないでほしい。もう専用機できてるんでしょ? 「それとこれは一種のパフォーマンスも兼ねている。代表候補生の実力を見せて発破をかけるのと、男であってもISを操縦するのには何の問題も無いことの証明だ」ははぁ。なるほどと感心してしまった。というかこっちのほうが本命っぽいんだけど、なんでこっちを先に言わなかったんだろうか。実は織斑先生って重度のブラコン?

「なるほど、仰りたいことはよくわかりました。ただ1つだけ、さすがに訓練機で専用機を相手取って勝てっていうのはちょっと」

「安心しろ。といっていいのかはわからんが。専用機の開発は難航している。実際に代表戦で使えるかはわからん」一縷の望みが出てきた? 山田先生に指導してもらってるから訓練機でもちゃんと戦えるってのは十分わかってるけどそれでも、専用機と訓練機という差は大きいと思ってしまう。僕の弱気を感じ取ったのか「手ひどい負け方でないならそれでいい」とまで譲歩してもらった。「その分、オルコットには圧倒してもらわないと困るが」と付け加えられ、彼女を見やると不敵に微笑んで一言「お任せください」と。自信に満ち溢れていてかっこいい! 僕には経験も無くて当然自信もない。卒業する頃にはあんなふうに胸を張っていえるようになりたいな。

 

「最後になるが、合田」と僕見て「IS委員会の協議の結果、専用機開発国がアメリカに決定した。明日朝一番に空港まで山田先生が引率される、準備しておけ」

 きた! 専用機! っていうか、先に言ってよ! 叫び上げたい衝動を必死におさえ込む。

「また、専用機開発・貸与国決定とともに、貴様は本日付でアメリカ代表候補生となった。それに伴い相応の責務を負うことになる。詳しくは現地で説明されると思うが留意しておくこと」

 聞いてない、けど、いや、そうか。その国のISコアを貸し与えるんだから代表あるいは候補生になるのは全然おかしくない。つまり織斑くんも日本の代表候補生になってるってことだ。しかし、代表候補生か……こんなペーペーにそんな肩書きつけたら候補生の格が下がっちゃうっての。

「織斑同様、専用機がクラス代表戦までに間に合うかどうかは不明だ。もしかるつと、貴様だけ訓練機で戦うことになるかもしれん。ゆめゆめ準備だけは怠るな」

 そうか。前もって説明してくれるのは僕に発破をかける意味もあったのか。詰め込み終わったからといって遊んでんじゃねえからなって。プレッシャーが……。

「時間を取らせて悪かったな。話したいことは以上だ。また4月に会おう」と急にのしかかってきたプレッシャーに押しつぶされている間に、先生は生徒指導室から出て行ってしまった。

 

 それから、再びオルコットさんにサインの申し入れをし、快諾してもらった。部屋に戻って色紙を持ってくると伝えると、彼女に制止された。いわく、部屋まで取りにいくのであれば彼女自身も寮の部屋に帰るのだから寄って行ってくれるというものだ。是非もなかった。

 

 部屋までの道すがら、何か話題を出さないと、と困っていた僕であったが、オルコットさんのほうから話を振ってくれた。

 祐希さん――そう呼んでもよいかと聞かれ首肯した――が、と一言呟いて「わたくしの名前を知っていらしたことに驚きました。現代表ならともかく、他国の候補生の名前を覚えてる方は珍しいと思いまして。特にわたくしはここ1年ほど露出が無かったのでなおさら」

 なるほどお一つ頷き、以前からISという競技――競技という部分を強調した――に興味があったことを伝え、また露出がないからといって覚えてないということは無いことを説明した。専用機を貸与されたのだから注目を集めないはず無いではないか! 専用機を貸与される前にはなんども露出していたのだから、なにも不思議なことはない。あとは容姿とか他いくつかの理由もあったのだが、それを本人にいえるほど僕は豪胆では無かった。

「では、わたくしが専用機を与えられたことはどう思われます」答えにくい質問が来た。『私のことを知っているならばサラ・ウェルキンの事も知っているだろう。私よりもIS操縦者として優秀な彼女ではなく、私が専用機を持ったことについてあなたはどう思っているか』正しくはこんな質問だと思う。どう答えればいいか迷い、意味のない言葉を呟くだけで困っていた僕を見てオルコットさんは吹き出した。

「失礼、意地悪な質問をしましたわ。でも祐希さんがサラ先輩とわたくしのことを知っていることがわかりましたわ」そういって僕の二歩三歩先に進んでこちらを振り返った。あっけに取られていた僕はすぐに気を取り直すと駆け足気味についていった。結局どういう意図の質問だったのかいまいち要領を得なかった。

 

 オルコットさん――本人はセシリアで良いと言われたが特別仲の良いわけでもない女の子を名前で呼べるほどの度胸はない――からサインをもらい、また専用機をようやくもらえるとわかって一人部屋で小躍りしてこの日は終わった。

 

 

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