インフィニット・ストラトスとオリ主   作:西陣

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入学後代表決定戦前

  4月6日 

 

 

 女性しかいない学園に男が二人。なるほど、想像しているよりはきつくない。もちろん、冗談だ。

 単純に寝不足で頭がぼうっとしているせいだろう。昨日の夜は上手く眠れなかった。

 日本に帰国したのは昨日夜遅くになった。可能な限り専用機のデータ取りをしておきたいという開発研究チームの要望であったからだ。

 興奮もあったんだろうけど、旅客機の中でぐっすり寝てしまったせいでホテルではほとんど寝れなかった。

 そのときは失敗したと頭を抱えていたが、今は逆に感謝している。そのおかげで特別な緊張もなく入学式と自己紹介を上手く終えることが出来たのだから。

 

「げえっ、関羽!?」

 自己紹介を終え、安心して舟をこいでいた僕の覚醒を促したのは突然の驚きと遅れてやってきた快音であった。

 ぎょっとして発生源をいやると、織斑姉弟がいた。はたと気づく、織斑くんの自己紹介まではがんばって聞いておこうと思ったのに、つい負けてしまった。

 ふと、織斑くんがこちらを向き、目が合う。そして笑顔で一言。

「ずっと会いたかった!」

 クラスが轟と沸いた。僕はむせた。

 なにかを期待する視線がそこら中から放たれる。誰か助けて、織斑先生。だめだ、こっちを見ていない。山田先生、みんなと同じ目だ。誰か他に……。目線だけで周りを確認しているとはじっこにいたオルコットさんと目が合う。そらされた! くそっ味方がいない。

「ああ、うん。こちらこそ」

 上手い言葉が見つからず、そう返事をするので精一杯だった。ブーイングが起きたが気にしない。くそう。どういった反応を求めているんだ!

 

 その後織斑先生の一喝で、緩みきった空気は霧散し、自己紹介が再開されつつがなく終わった。ありがとうございます。織斑先生。でももう少し早くそうしてくれたらもっと嬉しかったです。

 

 

 

「あらためて、織斑一夏だ。これからよろしく」

「合田祐希です。こちらこそ」

 一時間目のIS基礎理論が終わった休み時間。僕たちは改めて自己紹介した。……もちろんクラス中の視線は釘付けになっている。

「一夏って呼んでくれ、俺も祐希ってよぶから」

 首肯する。小中は特別仲のいい友達がいなかったから名前で呼ばれるのは新鮮でくすぐったかった。

 それからは毒にも薬にもならない話で二時間目までの時間を潰した。

 一人じゃなくて良かった。入寮からのおよそ二ヶ月、肩肘張っていたものが、ほんのわずかな時間話しただけなのに取れた気がする。

 これから三年間もあるのに彼と一緒なら上手くやっていける。そんな妄想に駆られ、実に単純な人間だなと苦笑する。

 

 

 二時間目の休み時間は一人ぼっちだった。

 織斑くんが篠乃之箒さん――クラス全員の名前を一回で覚えることなんて出来ないが、さすがに篠乃之って苗字は頭に残る。なんていったってIS開発者の名前も篠乃之なんだから。――と廊下で喋っているからだ。織斑くんも僕と同じくぼっちだと思ってたのに同じクラスに友達がいたなんて……。

 手持ち無沙汰だ。これからの休み時間はずっと織斑くんと無為にすごすもんだとばかり思っていたけど、そうか。女友達いたのか。

 彼女と休み時間をすごすって事もあるんだ、そうなると僕もがんばって女友達を作らないといけないって言うのか! ハードルが高すぎる。

 誰か、誰か助けてくれ! 誰か……オルコットさんがいた! さっきはつけてくれなかったけど今度こそ。

 当のオルコットさんと目が会うと微笑んでくれた。これならと思っていると、僕の思惑を読み取ったのか、すぐに顔色を変えそそくさと教室から出て行ってしまった。くそう。くそう。

 仕方がないので、廊下に出た二人の話しに聞き耳を立てて時間を潰した。

 

 

 ☆

 

 

 クラス代表の話は目論見通りの展開であった。

 クラス代表戦の説明しクラス代表を誰にするかちうところで当初は誰もが沈黙で答えていたが、自薦他薦を問わないと付け加えられると織斑くんや僕を押す声――ほとんどが織斑くんを押す声だった――がいっせいに挙がった。その後オルコットさんが自薦して締め切られた。

 クラス代表戦の優勝商品が食堂のデザート半年フリーパスであることが判明するとオルコットさんを押す声だけになったのは別の話だ。

 さて、代表は三人での模擬戦の結果によってきまるとのこと。この選定方法ならばオルコットさんに決まったも同然だろう。

 ここまではなんの問題もなかった。

 

 

「ハンデはどのくらいつける?」

 織斑くんの一言だ。

 確かにそのとおりだ。僕たちはどちらも素人なんだからそれなりのハンデをもらわないと試合にならないことだってありうる。

「僕も欲しいと思ってました。オルコットさんさえ良ければいくらかのハンデをいただければ」

 答えはオルコットさんではなく織斑くんから帰ってきた。

「なに言ってんだよ祐希。俺たちがハンデをあげる側だろ」

 冗談を言っているような顔ではなかった。何を馬鹿な! そう罵りたい気分に駆られるがそれはすぐに霧散した。

「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」

「織斑くんは、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」

 彼をたしなめる声が口々に挙がったからだ。いくらかの嘲笑と大多数の困惑が場を占めていた。

 その中で僕は一人納得していた。いや、もしかするとオルコットさんも含めて二人かもしれない。あの日の織斑先生の言葉にだ。

 先生からは織斑くんが調子に乗っているから叩き潰せとか何とか言ってた筈だけど、僕からは彼が調子に乗っているようには見えなかった。あれはあくまで建前だったのか。先生から見たらそう見えるってだけなんだろうと。

 それはまったくの勘違いであった。彼はまさしく調子に乗っている。でなければあんな言葉が出てくるはずもない。

男だとか女だとかじゃなくて、ISという競技で素人が経験者ににハンデを与えるなんて聞いたこともない。出来の悪いジョークにすらなっていないのだ。

 

「……じゃあ、ハンデはいい」

 苦々しい顔からようやく搾り出した言葉であった。いったいなにが彼をこんな風にしたのか、僕はそのなにかに憤りすら覚える。

「あら、よろしいのですか。ハンデが欲しいならさしあげますわ」

 その言葉とは裏腹に、顔は僕と同じく困惑のそれであった。

「いや、いらない」

 じゃあと声を上げる暇もなく、織斑くんに一蹴されてしまった。しまった、僕はハンデ欲しかったよ。

 

「よし、話はまとまったな。来週の月曜日、放課後、場所は第三アリーナにて行う。レギュレーションはモンド・グロッソのそれに準拠する。また、三名はその試合内容を、他の者は観戦内容を後日レポートとして提出してもらうからそのつもりでいろ。以上」

 織斑先生はそう締めくくり教室を出ようとして、振り向き。

「それと織斑、よくあんな台詞を吐けたものだ。無様な結果だけは見せるなよ」

 

 

 そういい残して去っていった。

 

 ☆

 

 放課後。

 体の力が抜け、机に突っ伏す。

 入学式、自己紹介、ついでに授業。僕にとってハードルの高い1日をどうにかこうにか終えることが出来て、ようやく人心地つくことができたのだ。

「いやー、疲れたな。新しい空間ってのもそうだけど、それがまさしく場違いな場所なんだからなおさらだよな」

 しゃがんで目線の高さをを同じにした織斑くんが目の前にいた。顔近い。息あたってる。

 気取られないように背伸びの仕草をして距離をとる。

「そうだね。そういう意味では本当に一人じゃなくて良かった」

「俺は昨日まで倉持技研でいろいろ実験みたいなことしてたんだけど。祐希はここにいたんだよな。どんなことしてたんだ」

「一夏とほとんど一緒だと思うよ。座学と訓練の連続でさ、まったく遊ぶ時間なんてなかったよ。あとはアメリカに行って専用機の訓練と調整してたくらい。そういえば、一夏はもう専用機もらったの?」

 笑いながら言葉を交わしていたが、それが少々曇る。

「それがさ、まだ貰ってないんだよ。入学式には間に合うって言われてたんだけどもうちょっとかかるんだって」

 驚いた。ハンデをやるという傲慢とも言える言葉を吐いたのだから。当然、専用機を貸与され、十二分に動かせるものとばかり思っていたが。そうではないのだ!

 じゃあ、いったいなぜあんな啖呵を切れたんだ? そう聞きたかったが場所が悪い。

 

 放課後とはいえ教室内にはまだほとんどの生徒が残っていた。もし彼が先ほどのような発言を繰り返してしまったら、恥を上塗り――彼がそう感じているかどうかは別として――させてしまうことにもなりかねない。

 ここで話を続けてはいけないと思うも、振る話題に困惑し悩んでいるとそこに救いの手が差し伸べられた。

「ああ、織斑くん合田くん。まだ教室にいいたんですね。よかったです」

 山田先生だ。

「織斑くんに寮の部屋が決まったことを伝えるのを忘れてました」

 そういって彼に部屋のキーを渡す。そして僕に向かって。

「合田くんと同じ部屋ですから、案内してあげてくださいね」

 これぞまさしく蜘蛛の糸。

「分かりました。じゃあ行こうか。続きは部屋でいいよね」

 二人の会話が終わるを待たず、僕は一人足早に教室を出た。

「ちょっと、待てって」

「織斑くんの荷物は、織斑先生が中に運んでおきましたよ」

 

 

 ☆

 

 

「どう、いい部屋でしょ」

 大きなベッドに、テレビ、机、パソコン、本棚、クローゼットに姿見。キッチンに冷蔵庫、シャワー室まである。まさに至れり尽くせりというものだ。

 ただ借り受けているだけなのについ自慢してしまう。

「もっとこぢんまりとしたのを想像してたけど全然違った。さすが国立ってことかな、すげえ部屋だ」

 と、机においてあるサイン色紙に気づく。

「千冬姉のサインじゃねえか。他にも山田先生に……他のはなんて書いてあるか読めねえな。これって祐希のか?」

「ああそれ? 僕のだよ。ISは前から好きだったからね。ついもらっちゃった」

「へー。教室でも思ったんだけどやっぱり千冬姉って人気あるんだな」

 そりゃあそうさ。家族と一ファンじゃあ見えてるものが全然違う。

 初代ブリュンヒルデに対して人気があるんだなとは、思いもよらぬ言葉が返ってきた。どうもおかしい。

 

 先ほどからの疑問が頭をよぎる。ここなら誰かを気にすることもないし、思い切って聞いてみることにする。

「クラス代表の話のときもそうだったけど、一夏ってISのことはあまり興味ない?」

「そういうわけじゃないんだけど」と頭をかいていくらか思案してゆっくりと言葉を吐く。

「ISがすごいって事はちゃんとしってるって。けどなあ。なんつーか、そう俺たちって例外じゃん。そもそもISってのは男は動かせないもんだったから特別興味を持てなくってな。あ、IS/VSはやったことあるぞ。千冬姉のデータ入ってなかったから俺は持ってないけど」

 僕もやったことあるけどそうじゃない。まあ本人に興味がないんじゃあしょうがないね。興味のない話なんて意識して調べないし、耳にしても覚えてないもんだし。

 

「織斑先生からISの話をされたりも?」

「ほとんど家に帰ってこないんだよ。たまに帰ってきてもISの話なんてしないぜ。むしろ避けてるみたいだった。ほらテレビでたまに流れるだろ、ああいうのを見るとチャンネル変えるんだ」

 織斑先生は織斑くんにISの事を知らないでいて欲しいのかな? でも姉がブリュンヒルデだし、IS学園の教師だし切っても切れない話題に思えるんだけど。うーん、よく分からない。 

 考えても埒が明かないので話を変える。忍耐力が足りないわけではない、きっと。

 

「ところで、休み時間に話してた女性とって知り合い?」

「おう。篠乃之箒って言って俺の幼馴染なんだ」

 もう一人幼馴染がいて、そっちと区別するためにファースト幼馴染、もう一人はセカンド幼馴染と呼んでると付け加えられた。

 鏡を見なくても分かる。僕は今すごい変な顔をしてる。ファーストってセカンドってなんだよ。

 

「篠乃之ってもしかして」

「そ。束さんの妹。あの人がISを開発してから色々あったみたいで本人はあまり言いふらしたくないみたいだから、祐希も黙っててくれよ」

「ああ、うん。もちろん」

 言いふらす気なんてないので頷いておく。ただ、篠乃之なんて珍しい苗字なんだから黙っててもいずれバレると思うってだけだ。

「箒に重要人物保護プログラムが適用されてさ。小学校四年のときに引越してそれ以来なんだ」

 重要人物保護プログラムのことなら僕も聞いている。両親が適用されたからだ。でもそれって数年毎に名前や経歴を変えて各地を転々とするものだって聞いている。

 それを小学四年から適用されてるなんて、辛そうとか大変そうとかってレベルじゃない。

 彼女はISについて、そして篠乃之束博士についてどんな思いを抱いているのかそれが少しだけ気になった。

 

 

 

 そんな無駄話をしてたらいつの間にか夕食の時間を過ぎてしまっていた。

 しまったと後悔するも、どうしようもない。素直に謝ると、なにを考えているのか織斑くんは冷蔵庫を確認しだす。

「これならなんとか出来そうだ。ちょっとまっててくれよ」と自信満々な発言だ。

「料理できるの?」

「それなりにかな、千冬姉はほとんど家に帰ってこないって言ったよな。だから家事は俺がやってるんだ」

 親はどうしてるの? 喉元まででかかったそれをなんとか押し込め、相槌を打つ。

 いないとか言われたらどうしていいのか分からくなる。あまり深い領域に一度に踏み込むのはやめておく。

 

 20分もせずに何品かの料理を出してきた。大変おいしゅうございました!

 

 おかげで、ISの知識があろうがなかろうが、あんな啖呵を切るのはおかしいということを言うのを忘れてしまった。

 

 

 

 

 その後シャワーを浴びたのだが、シャンプーがどうとかで織斑くんが急に顔を覗かせてきて、息が止まるかと驚いたのはまた別の話。

 

 

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