インフィニット・ストラトスとオリ主   作:西陣

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代表決定戦

4月13日 第三アリーナ

 

 あっという間に一週間がすぎた。学園生活はやはりまだ慣れないものだが、それでも気の許せる人物がいるという事は僕に多大な活力を与えてくれた。

 もし僕一人だったらなんて想像すらしたくない。

 

 

 あの日から代表決定戦に向けて授業後、織斑くんと共にISの訓練をした。とは言うものの、一緒に訓練したのは実に3時間だけであったが。

 ネックなのは織斑くんの専用機が完成していないことだった。僕は専用機を持っているが織斑くんは訓練機を使わなければいけない。アリーナの使用だけなら即座に通るが――飛行したり射撃したりしないならばなおさら――訓練機の使用はやはり上級生の貸し出し手続きが多く結局1回分3時間だけしか借りられなかった。

 たった3時間。彼にとっては収穫の薄いものかもしれなかったが、僕にとっては大きな収穫であった。1週間みっちりやっても多分オルコットさんに勝てるとは思っていない。

 ならばと、織斑くんと僕の実力差を知ることができたのだから。小物の考えかもしれないがなんと思われようともかまわない。それでもいくらかの安堵を得られたのだから正しい選択だったと思う。

 何が何でも彼に勝ちたいというわけではない。そもそもがクラス代表になりたいわけでもない。ただ、惨めな負け方をしたくないだけだ。

 同時期にはじめた相手に手も足も出ずに無残に敗れる。想像しただけで恐ろしい。

 だから当然、織斑くんが篠乃之さんと剣道をしている間も僕は一人アリーナの端っこで当日に向けての訓練を重ねていた。

 

 

 さて、一緒に訓練したことで特筆すべきことはブレードだ。射撃は特別上手くなかったが、ブレードの扱いはすばらしい。

 なるほど、篠乃之さんと剣道をしたのはあながち悪くなかったかもしれない。実際本人が知っていたかはともかく。

 そういえば、小学校までは剣道をやっていたといっていたし。

 なお、中学ではやらなかったのかと質問してしまい、家計を助けるためにアルバイトをしていたと返ってきて、いっそう彼の両親のことが気になったのはまた別の話だ。

「剣道って言えば、箒も剣道やってて去年、全国大会で優勝したんだぜ」

 まるで自分のことのようにうれしそうに話す。訓練として彼に剣道を進めたのは彼女だったが、そうかそんなに上手かったのか。

 話題の篠乃之さんを横目で確認する。織斑くんだけを見ていてこちらには気づいていない。

 

 

 ここ一週間は僕と織斑くん、そして篠乃之さんが一緒に行動することが多かった。

 7日の朝。食堂で二人朝食を食べているときに、織斑くんが無理矢理彼女を誘ったのが切欠だった。

「男同士のほうが気兼ねなく話せていいだろう」と気を利かせてくれた篠乃之さんに対し、

「黙ってついてこい」と強引に連れてきてしまったのだ。無理矢理はよくない! 僕のほうが耐えられずに声を上げそうになった。視線でなんとか分かってもらおうとするも、徒労に終わった。

 怒るかも知れないと不安に駆られ彼女を見ると、どうしたことか怒るどころかむしろ嬉しそうではないか。そういうことなの?

 

「おまたせ、こいつが幼馴染の箒だ」

「合田祐希です。その、えっと、すいません」

「篠乃之箒だ。気にすることはない、むしろこちらこそ邪魔してしまって申し訳ない」

 先ほどの笑顔はなりを潜め、一転困惑したそれが垣間見えた。よかった怒ってない。

 しかし空気はよどんでしまった。何を話せばいいのか。今の騒動でただでさえ注目されていたのにいっそう強くなった。

「うん。やっぱり朝は米だよな。どうした二人とも早く食べないと冷めるぞ」

 篠乃之さんも僕もがくりと項垂れる。お互いがそれに気づき、かすかに笑う。なんだろう、とても仲良くなれる気がした。

 

「ところで二人ともISの訓練は出来そうなのか?」

 篠乃之さんがそう切り出した。代表決定戦に向けての話なのだろう。

「僕は専用機を既に貰ってるからアリーナの申請だけですんだけど」織斑くんを見る。

「うーん。それが訓練機の貸し出し申請が大分先まであって、金曜日の3時間だけしか借りられそうにないんだ」

「まて、訓練機だと。一夏も専用機を貰ったと聞いているぞ?」

「まだ出来てないんだなコレが」

 篠乃之さんはそれを聞くと、何度か頷き。

「当日まで遊んでいるわけにもいかないだろう。久しぶりに剣道でもしないか。合田もどうだ」

 僕も織斑くんもその唐突な誘いを丁重に断るべく言葉を重ねた。織斑くんは押し切られたけど。

 僕はあれこれ思いつくままに言い訳をしてなんとか見学だけにしてもらった。織斑くんが恨みがましい目で見てきたが気にしない。

 結局、織斑くんは一週間のうちほとんどを剣道に使うことになったのだが、他に出来ることもなかったし本人たちも楽しそうだから良かったんじゃないかな、

 

 

 

 そして今現在、アリーナの待機室の一つで織斑くんとオルコットさんの試合が終わるのを待っている。

 絶望に打ちひしがれながらだ。

 理由は単純明快。織斑くんの専用機が届いてしまった。昼休みに織斑先生に付き添われフォーマットとフィッティングだけは終えたそうだ。準備万端で彼は試合に出て行った。

 なんでだ、ずるいことをしたからなのか!

 喜んでいた彼とは正反対に僕の心は未だに真っ暗だ。

「勝ってくる」と気合十分に言った織斑くんを見送って。5分か10分か。時間の感覚が分からない。

 待機室からは試合の様子が分からない――公平性を保つためだ――。

 

 山田先生が頭上から響く。モニター室からの放送だ。

『お待たせしました。合田君の番です、ピット・ゲートでISを展開し発進してください』

 時、巡り来る。

 

 

 

 試合の展開は一方的であった。

 彼女の持つ武器は大型のレーザーライフル『スターライトMkⅢ』だけであった。それもどうやら『連射速度は遅い』ようで、開始早々顔面目掛けて撃たれたものを除けば、戦意が喪失するほどの猛攻はなかった。

 当初こそ顔面攻撃に恐れ回避一辺倒の消極的な行動に終始していたが、なんとか回避できることが分かると一転、余裕が生まれた。もしかしたら……。

 両の手に握られるアサルトライフルを見る。トリガーに指を書ける。強く握り直し呼吸を整える。よしっ。

 

 速度を維持しつつ旋回。オルコットさんを正面に捕らえる。そのまま彼女を中心に円を描きながら照準を定める、よし、思いっきトリガーを引く。

 当然避けられるが問題ない。いつまでも避け続けられるわけがない、距離を近づけつつどんどんばら撒いていけばいい。ある程度近づいたらショットガンに持ちかえればいい。レーザーライフルの連射速度からするとと正面からの撃ちあいも十分考えられる。そんな下策が本気で通じると思ってしまっていた。

 

 突然2発のミサイルが向かってくる。武器を変えた? 違う、さっきのレーザーライフルのままだ。

「くそっ」

 腰に備え付けてあるのか!

 持っているのがレーザーライフルだけだったから勘違いした。手に持っているものだけが武器じゃない。さんざん教わってたのに!

 ミサイルを狙って爆発させる? そんな曲芸出来るはずもない。すぐさま攻撃を中止し逃げる。誘導をはずす訓練なんてしたことないよ。とにかく推進剤が切れるまで逃げればいいんだったか。

 まあ、そんな隙を見逃してくれるわけも無く、2発のミサイルにだけ意識を向けていてオルコットさんのことなどすっかり意識の外に放り投げていた。

「おごっ」

 そんなことだからちゃんとハイパーセンサーでは捕らえていたのに直撃する。かすかに失速、おくれてミサイルも着弾する。やっちゃった。

 

 

 しかれども試合終了のブザーは未だ鳴らず。

 終わったそう思ったけど、そんなことも無かったまだ3割もシールドエネルギーが残ってる。とはいっても一気に半分削られちゃったんだけど。

 もう一回ミサイルが着たらさっきと同じ展開で負けが確定する。どうしよう。

 たとえばコレが物語の主人公とかなら、敗北の危機に直面して覚醒するとか、こいつは使いたくなかったとか言って封印していた武装を解禁したりとか、パワーアップ展開があるんだけど、残念ながら僕にはそういうのは無い。

 だから、できることをするしかない。といっても出来ることなんてさっきと同じ事をするか、あるいは……。

 捨て身の突撃しか思いつかない。あったまわるいな僕。そう考えるやいなやオルコットさんのところまで全速力で飛翔する。

 2丁のアサルトライフルを手放す。収納する時間すら惜しい。変わりにショットガンを顕在させる。収納されている武装の中で一番瞬間火力が高いやつだ。

 だがまだ撃てない、遠すぎる。……アサルトライフル捨てるの早すぎた! ああもうどうしてこう考えなしなんだか。

 レーザーライフルを構え射撃体勢に入るのが見える。大丈夫、直撃さえしなければ削られる量は少ないし連射速度も遅いんだ。

 どうしたことだろうか、先ほどまでとはうってかわってその射撃速度は速かった。うそだろ。充填が完了する前に撃っている訳でもない。正確さも段違いだ。手を抜かれていることは重々承知だったけど武器の能力を自分で制限するとか予想できるわけないよ。

 しかしいまさら距離をとることは出来ない。元の木阿弥になるだけだ、どうしようもない。半泣きになりながらなんとか直撃だけは受けないように注意しながら距離をつめる。

 

 レーザーがやむ。なぜ? 過剰負荷で故障? 強制冷却? 訝しむも、とにかくチャンスだと思いありったけの弾丸を叩き込む。

 それとほぼ同時にオルコットさんの肩部スラスターが4つに割かれ、その先からレーザーが発射される。まだ出し惜しみしてたのがあるのか!

 レーザーライフル1丁だけより4つのビット――あとでその名称を教えてもらった――のほうがたしかに避けにくい。おかげで近づけない。ショットガンを撃ち始めてはいるが、距離が遠く有効打になっているとは思えない。

 呼吸が荒くなる。引いてはダメ、だが押し込むことも出来ない。ビットをなんとかしないとそう考えているとなぜかビットがスラスターに戻る。

 なぜ? 誘っているのならばあからさま過ぎる、けどその誘いに乗るしかない。逡巡は一瞬だった。リロードが終わると同時に再加速する。

 ビットが再び展開し光線を放つ、それに加えレーザーライフルの射撃もだ。ああもういやらしい、使えなくなったわけじゃないのか。

 レーザーライフルにだけは当たってはいけない。その一心で意味も無いのに体を捻ってまで避けようとする。ビットのそれが2発直撃してしまうものの本命は避けられた。

 

 オルコットさんが目と鼻の先にいる。なにかすごくいい香りが届く。

 おしゃべりをする暇なんて無い、リチャージが完了する前に倒さないと、そう思ってはいたがなぜかふと顔を見てしまった。

 それが笑顔だと認識すると同時に、背後から衝撃を受け試合の終了を奏でるブザーが鳴り響いた。

 湧き上がった勝機は、一瞬で溶けて消えてしまった。

 

 オルコットさんが口を開ける。

 「このブルー・ティアーズのビームは曲がりますの」

 うなだれる。

 最後の最後にそんな能力を出してくるなんて。レーザーが曲がるなんて想像すらできなかった。

 ああもう完敗だ、悔しさなんて感じないどころかいっそ清清しい気分だ。

 

 

 僕は一礼して右手を出した。オルコットさんは笑顔でそれに応えてくれた。IS越しなのがくやまれる。

「ありがとうございました。代表候補生から見て……えっと、その、どうでしたか?」どうでしたかはないだろう。

「最初はどうなることかと思いましたが、それなりにやるといったところですわね。少なくとも恥ずかしくない結果でしたわ。もちろん、習熟期間に対してはと但し書きがつきますが」

 思ってもいなかった高評価に気分が高揚する。それだけならよかったものの、ただと続け。

「ハイパーセンサーに慣れておりませんのね、本来目では見えない範囲からの攻撃に対しては反応ができていなかったり、遅かったですわね」

 続けて、回避行動が直線的すぎるだの、武器を捨てたのは明らかに悪手だの滔々とまくし立てられ地に落とされる。

 視野外の攻撃に関しては山田先生やアメリカでも言われてたことだ。アメリカにいたときは大抵展開し続けていたから大分ましになったんだが、まだまだ甘いみたいだ。それこそ最初は、見えているはずなのに反応できなかったんだからちゃんと進歩している。

 最後に、それでもと頭につけ「最後に肉薄してきたときの反応、回避行動。あれは実にすばらしかったですわ」

 あれが出来たのは専用機によるものも大きかった――オルコットさんも理解していると思おう――と思うがそれでも素直に受け取った。

 

 

 

 僕自身の休憩とISのシールドエネルギーの回復、および整備課の諸先輩方の好意――もちろん好意以外の感情が多々含まれているのは重々承知しているが、整備はからっきしなので素直に甘えた――で行われている簡易点検を経て再びアリーナに戻る。

 既にあちらは臨戦態勢に入っているようだ。青白い実体ブレードを片手で持ち素振りしているのが見えた。こちらに気づく。軽く手を挙げ、僕もそれに答える、言葉は無かった。

 さっき結果は敗北だった、直すべきことだっていくつも思い浮かぶ。それでもまずやるべきことは目の前の試合に集中。

 出来る失敗はさっき全部したあれ以上の失態をすることも無い。ましてや怖気付く要素など一欠片も無かった。

 

 そう気合を入れなおしたのに……。

『試合終了。勝者――合田祐希』

 頭を抱える織斑くん。客席からはため息がもれる。そして僕は理解が追いつかない。負けそうだったのはこっちなのにわけがわからない。

 説明、誰か説明して!

 

 

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