インフィニット・ストラトスとオリ主   作:西陣

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きんいろとぎんいろ

 六月上旬。日増しに気温が高まり、また湿度も上がりじめっとする季節に足を踏み入れた。

 とはいえ学園内や学生寮では空調が効いていて――設定はひかえめだが――過ごし難いということはいない。

 いや以前からだが、寮内は薄着の生徒ばかりであり僕にとって別の意味で過ごし難い。

 それはさておき、問題は屋外で行われる実習だ。

 ISスーツのおかげで汗による不快感は無いものの、直射日光そのものは防ぎようが無い。

 

 そんな理由もあり、初めのころはモチベーションも高かった実習の時間も、最近は下降気味のようであった。

 そんな風に感じていたのだが、今日は一転初めての実習の日のように皆が皆集中している。

 いったいどうしたことなのだろう。

 

 

 学園内食堂。

 気温が高くなるにつれもっぱらここで昼を過ごすのが暗黙の了解となっていた。

 メンバーは僕、織斑くん、篠乃之さん、凰さんの都合四名がレギュラーでたまにオルコットさん他クラスメイト諸姉と一緒だったりそうでなかったりまちまちだ。

 一時期は人気の少ない屋上で過ごしていたのだが、芝が敷いてあるものの気温と直射日光には勝てず、戦略的撤退という名の下食堂にまで避難してきたのだ。

 教室という手も以前はあったのだが凰鈴音襲来に伴い、その比率も天気や気分によって五分五分であったものが食堂に大きく傾いてきている。

 その理由も、「違うクラスのあたしがどうどうと居座って食事するのはちょっと、ねぇ」というもので、どの口がそれを言うか! と普段の行いを見ている僕やクラスメイト諸氏が一斉に突っ込んだのはまた別の話だ。

 クラスでは自分でも大分溶け込めたとは思うが、それ以外の生徒からはやはりまだ特異点として見られているのが肌で感じられる。もちろん悪意などは感じないことを彼女たちのために注記しておく。

 つまり食堂で過ごす事も僕ら男にとって未だ針のむしろではあるが、それでも太陽と比べたら些事にしか思えないものだ。

 

「ってわけなんだけどなにか知ってる?」

 食事も一段落したので疑問を投げかける。

 三者三様、答え方はそれぞれ違ってはいたがその意味するところは同じだった。知らない。

「俺もそれは感じたぞ。でも理由はまではなぁ」

「たしかに昨日の自主練も異様に気合が入ってるのは感じていた。しかし理由を聞いてもはぐらかされてしまった」

「そうそう、箒、アンタ自分の訓練もせずに他の生徒の面倒見てるなんてライバル増やして、アンタ自分のことはどうすんのよ」

 話がずれたが気にしない。僕もいささか気になっていることであったから。

 

 僕らもオルコットさんに師事を受けているが、篠乃之さんらとの関係とはまた少し違う。

 僕らとオルコットさんの関係は男と女であるという絶対的な事柄のために上手くかみ合っている。

 ISの国際的な大会、たとえばモンド・グロッソにもキャノンボール・ファストにも男の出場権はないのだ。当たり前のことだ男でも操縦可能な人間がいるということはつい数ヶ月前にようやく判明したのだから。

 その各種大会への出場資格は女性にしかないのだから。

 パフォーマンスやらエキシビジョンかなにかで出ることは出来るが公式での出場は現在のところ出来ない。また特別アンテナを立てているわけではないがIS委員会でのルール変更の話も耳には届いていない。

 まあつまるところ、ISという競技において男と女では正式なライバル足りえないのが現状だ、ということである。もちろん非公式ならばまた別の話である。

 

 一方、篠乃之さんは将来的に数少ない椅子を奪い合う相手になぜこんなことが出来るのか?

「ライバルにはなりえない。私は研究志望だから」

 答えは明瞭だった。そこには一切のかげりも無く真情に満ち満ちている目だった。

 

 なるほど。多くの生徒はテレビや実地で国際大会を見て、そこに映されるIS操縦者の煌びやかさに憧れ、夢を見て、あの場所を夢想し、彼女たちと同じようになるべく操縦者を目指して入学する。

 そして、現実に直面する。代表候補生という絶対的な壁、そして指針が立ちふさがる。

 彼女らを超えれば、あるいは手をかければ新たなるステージへ、そうでない者は……。

 夢破れIS学園を後にする者、それでも諦めきれず這い蹲りながらも栄光を目指す者、栄光を掴む誰かのために整備、研究、トレーナーといった補佐に進む者。様々だ。

 

 剣道で全国優勝したほどの彼女ならば操縦者の道を選ぶものと勝手に思っていたのだがどうにも違うらしい。

「おい、なんだよそれ俺そんなこと聞いてないぞ」

「ん。ああ、そうだったか。改めて説明することもなかったからな」

 たしかに最初からそちらを希望している生徒がいることも知っている――たとえばクラスメイトの布仏さんが整備科志望だ――。

 勝手な言い分だが、篠乃之さんの持つ雰囲気と研究職とはうまく結びつかない。

「それともあれか、将来のブリュンヒルデを作って欲しくないからやめてくれとでも?」

 凰さんの疑問に答えた篠乃之さんは顔を綻ばせていた。分かりやすい冗談だ。

「なによそれジシンカジョーすぎ。アンタが教えたのなんて丸一日分も無いじゃない。ま、いいわ今度の個人トーナメントで見せてもらおうじゃないの。アンタの子供たちを」

 つられて凰さんも破顔し冗談を返す。ここにいる誰もがちょっとやそっとの訓練では彼女に勝てるとは思ってもいない、しかれどもその意志やセンス見たいなものを見せてもらうってことなのだろう。事実その目には鋭いものが宿っている。

「いいだ……あ。いや、まさか」

「なによ」

 言いたいことがあるんならさっさと言いなさいよと、顎をしゃくって促す。

「さっきの話に戻るのだが、転校生がくるらしくてな。一瞬それかと思ったんだが、それなら特別隠すことでもないからな」

「へー、それって男だったりしないよな?」

 織斑くん突拍子も無い想像に苦笑する。だが、うん。たしかに新しい男性操縦者が来れば盛り上がるだろうけど……。

「馬鹿なこと言ってんじゃないの。もしそうなら学校中どころか世界中で大騒ぎになってるに決まってるじゃない。あんたらの時だってそうだったでしょ」

 そう。僕個人の願望だが、二人いるならもうちょっとぽんぽん沸いてくれてもいいと思っている。

 なんていうか急に二人だけみつかったなんて薄気味悪いものがある。

「さてな、詳しくは知らん。それでは、悪いが約束があるのでな、先に失礼させてもらう」

 話を打ち切るかのようにひとり食器を返却し、遠くにいたクラスメイト――鷹月さん――と連れ添って出て行ってしまった。

 

 

 

「ちえっ。なんか最近箒のヤツ付き合い悪くなってないか」

 篠乃之さんがいなくなるまでずっと見ていた織斑くんが、ため息とともに独りごちる。

「そりゃあね。でも当然じゃない? 運動も勉強も出来て、自主練も手伝ってれるしそれを鼻に掛けない。人気が出ないほうがおかしい」

 とはいえ、クラスメイト以外にはまだ篠乃之束の妹というレッテルが付きまとっているが、それすらも篠乃之さんは上手く使っている。

「まあな。けど小学生の頃は一緒に遊んだり、帰ったり、剣道したり、ご飯に呼ばれたり、もっとずっと仲がよかったんだよ」

 それ最近じゃない! 小学生と今を比べないでよ。

「アンタねぇ……。箒ってナントカカントカのせいで毎年のように転校してたんでしょ? ならちゃんと友達作ったりとかもしなかったんじゃないの? そんな事もちゃんと考えていってるわけ?」

 そんあ言葉に、確かにと意図せず僕ら二人は言葉を同じくする。

「むしろ鈴はこっちに付きっ切りで、二組にちゃんと友達いんのか? ほらお父さんに話してごらん」

 納得できたのか深刻な気配が消えうせ、調子に乗り始めた。

「いるわよ! いるにきまってんでしょ! アタシのことなんだと思ってんのよ」

「セカンド幼馴染」

 そういうことじゃない。そろそろ逃げ時だ。

「じゃあ、僕もおいとまするよ、じゃ」

 答えを聞かず、足早に逃げる。なんとなくわかるようになってきた。織斑くんがからかって凰さんがそれに爆発する。その余波が僕までくるんだ。

「そういうことじゃいっての、アンタってほんとにもう。いいこと……」

 間一髪セーフ。ああなったら長いんだよな、本人にはいえないけど母親とかおばちゃんみたいだ。

 食堂を出るまで決して織斑くんを振り返ることは無かった。だって火の粉が降りかかるのは分かりきってるから、一度痛い目を見たんだからもう勘弁してくれ。

 

 

 

 

 

 日もどっぷり落ち、月が天に昇るころ。

 部屋にノックの音が響く、こんな時間に誰かが来るのは珍しい。

 扉を開けると山田先生がそこにはいた。

「こんばんは。事務的なお話があるのですが、その、あまり広めたくない話なので中に入ってもいいですか?」

 周囲を気にしつつ小声で伝えてくる。

「はい、構いませんよ。」

 そう言って、入室を促すも周りを伺うばかりでいっこうにその場から動かない。

「いえ、見られていたので」

 なるほど、男二人の部屋にわざわざ入っていくなんて様々な意味でアレだ。人目のあるうちは入れないにきまってる。

 と、人がいなくなったのか、素早く入って扉を閉める。

 普段使っている自分の椅子をすすめ、僕のほうはベッドに座る。

「すいません、おまたせして」

「いえ、理由は十分理解しています。ただ、人に聞かせたくないことというのは、なんですか?」

「はい。いえ、織斑くんは?」

 僕だけじゃなくて二人まとめて? いったいなんだろうか。

「今はシャワーを……出てきました」

「おー、うおっ。なんで山田先生がここにいるんだ」

 疑問を封じてとにかく座らせる、僕だって知りたいんだ。

 山田先生は、おほんと咳払いを一つし、ようやく話し始める。

 

「明日。転校生が二人来るのですが、そのうち一人が男の子なんです」

 ――本当ですか!?

 意図せず僕ら二人の声が重なった。これは安易に聞かせられない話だ。わざわざ変なうわさが立つリスクを犯してまで部屋で話す必要がある。

「はい。それで少しでも早く学園に慣れるため、お二人のどちらかにお引越ししてもらってその子と一緒に暮らしてもらいたいんです」

 どっちが一緒に暮らすか? 織斑くんと目が合う。

「どうする?」

 どうしよう明日か。

「すいません、先生。二つ質問があります。まずこの部屋で一緒に住むんですか。それとももう一つの部屋で一緒に住むんでしょうか?」

 本棚を見る。つられてか他の二人も僕の視線を追う。

 アメリカ代表候補生となり幾らかのお給金をいただけるようになり、ついつい欲しい本を取捨選択もせずバンバン買ってしまっていた。

 多くが電子書籍ではあるが電子化されていない現物もあり、本棚を二列ほど埋めている。これを動かすのはちょっと手間取りそう。

「ああ。いえ、そこは決まっていませんのでお二人の自由にしてください」

「ありがとうございます。ではもう一つですが、転校生と一緒にならないほうはひとり部屋になるんでしょうか?」

「いいえ、その……」

 言いにくいことなのだろう、何度か言いかけてやめる。

 答えを言っているようなものだ。

「女の子と一緒になります」

 やっぱり。織斑くんがあからさまに厳しい顔になる。おそらく僕も同じような顔をしているのだろう。

「マジかよ」

 どっちになるかで天国と地獄に別れるってことか。

「まだ決まってませんけど、変な子じゃないかちゃんと調べるって織斑先生も言ってましたしきっと大丈夫です」

 まだ見ぬ彼女を必死にフォローする山田先生。でも、すいません。どんなにフォローされても越えられない壁があるんです。

 

「祐希。じゃんけん一回勝負でいいよな」

 グーを出してきた彼に僕も同じくして答える。公平な方法だ。何の異論もない。

「勝ったほうが男の転校生と」

「負けたら女の子と」

 

――じゃんけん……ほい!

 

 

 

 

 

「それでは、また明日。おやすみなさい」

 山田先生が出て行くのを確認して、ため息をつく。

 パーを出してればなあ。

「三人目かどういうやつなんだろうな?」

 勝ったほうはのんきにまだ見抜かれに思いをはせている。くそう。

「でも、本当に一夏が言ったとおり男だったね。うん。おどろいた」

 僕ら二人はバンバンテレビとかで流れてたのに三人目はまったく聞いたことが無い。なんでだろう。

「俺の言ったとおりだったろ。まあなんとなくだったんだけど、ほら第六巻がビビッときたんだ」

 なにいってんだよ、と笑う気分に離れなかった。

「それより、引越しの手伝いは必要?」

「いや、祐希と違って荷物はほとんど無いからいい。それより辛くなったらいつでも遊びに来て良いぞ」

「うん。そうさせてもらう」

 毎日のように入り浸ってやる。布団も買って持っていこうかな。

 はあ、なんでチョキをだしたんだろう……。

 

 

 

 

 

「知ってる? うちのクラスに転校生がくるんだって。それも二人も」

 HR直前、いつにも増してざわつく教室を不審がっている僕に答えを与えてくれたのは、前の席に座っている相川さんだった。

 椅子に逆向きに座り、背もたれを抱えてこちらを見ている。近い。

「転校生が来るってのは聞いてたけど、二人まとめてここに?」

 二人来るのは知ってるけどどっちもここにくるのか? ああ、男はひとまとめにしたほうがいいってことかな。あと織斑先生のお気に入り?だからここか、理由を知っていれば大きな疑問はない。

「なぜかね。あとは、スペインだとかイタリアだとか国籍はいろんなうわさがあるけど、この時期に入ってこれるんだからどっちも代表候補生みたい」

 それはつまり凰さんの例と同じということだろう。僕らのことが知れ渡ってからでは正規の入学手続きは終わっている。

 転校――正しくは転入生だが細かいことはきにしない――にはたしか、国家からの推薦が必要でしかも試験は本来のものに加え学園教師との模擬戦がある。

 それをパスできるんだから男のほうは僕らと同じように肩書きだけかもしれないけどもう一人の子は候補生以上なのはまず間違いない。

 ただ、四月末だったか五月頭だったあか忘れたけど、とにかく凰さんとの時間差は気になるけど、国内、学園での審査とか根回しとかあるんだろうな。それをケチったから凰さんは二組だったのかも……。

「それに一番すごいのは」

 そこで一呼吸置き、もったいぶって続けた。

「男かもしれないって」

 ごめん、知ってる。

「……嘘」

 と今知りましたという風に驚いてみせる。

「後姿しか見てないってことだけど、間違いなく男物の制服だって。長い金髪で背中で髪を縛ってる子」

「制服だけ? 直接顔をみたり、本人に聞いたわけでもないの?」

「ん。まあ、ね」

 歯切れが悪く答える。

「私だって本当に男の子がくるなんて思ってないよ、でも万が一ってことがあるじゃない。二人もいるんだから三人目がいてもおかしくない」

 彼女の願望というだけでなく、僕らへの気遣いも含まれていたのだ。そのことにありがたいと感じた。

「たしかにそうだね。ちょっとだけ期待するよ。」

 言葉とは裏腹に、期待に満ち満ちている。男だって知っているからだ。相川さんは気づいていないようだけど起きてからずっと落ち着きが無いのがわかる。早くこないかな。

 

 

 

「おはようございます。今日は織斑先生が所用で遅れていますので、私だけですがHRをはじめます」

 シンと静まった教室に山田先生の声だけが通る。織斑先生がいないとあからさまに緩むわがクラスだが今日だけはそうでもなかった。

 幾らかの連絡事項を終えると、咳払いを一つし、それではと改まって言葉を続けた。

「今日はなんと転校生を紹介します」

 そう勢いよく語って、周りを見渡す。

 しかし、その反応が予想したものと違ったのか戸惑っている。みんな知ってます。

「しかも二人です」

 それも知ってます。一人は男だということもしってます。

「えっと……入ってきてください」

 

 

「失礼します」

 扉からまず現れたのは金髪で上下共に男物の制服を纏った人だった。想像よりも小柄だ。

 ――男!!

 唸りを上げる教室。織斑くんなんて立ち上がってガッツポーズをしてまで喜んでいる。僕? 聞かないで。

 入り口で驚き立ち止まる彼。近くだったから偶然聞こえた、あっ、というつぶやき。そりゃあびっくりするよね。

 彼が織斑くんを捕らえ、そして僕も捕らえる。僕は今サンタクロースからのプレゼントを受け取った子供のような顔をしているだろう。

 僕らは運命共同体だ、きっと織斑くんも同じ顔をしているだろうし、彼もすぐにそうなる。そう思っていた。

 しかし、期待とは裏腹に不安げな顔を見せるだけだった。

 後ろの人に急かされたのか、一言謝り、すぐに教室内に入ってきた。その顔は未だ神妙そうな固いそれであった。

 続いて入ってきたのは銀髪の少女。左目には眼帯をつけている。ファッション?

 彼女のほうは下はなんか変なズボンタイプだが、上は詰襟もないし女物だ。小柄な彼よりもさらに小さいのになんていうのか纏ってる空気? が鋭くてちょっと怖い。

 

 

 

 緊張が教室を覆う。ざわめきはすでに終息し今は教団横に並んだ彼の言葉を待っている。

「シャルル……」

 緊張しているのだろう。言葉を飲み込み、僕らを見る。目を閉じ深く呼吸をして見開く。

「失礼しました。シャルロット・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなこともい多いと思いますが、皆さんよろしくお願いします。それと――女です」

 

 え、と言葉を漏らしたのはいったい誰であろうか。僕か、織斑くんかあるいは他のクラスメイトかはたまた山田先生?

 先ほど以上の轟音が世界を包む。

「女? ほんとうに」

「だって制服」

「金髪の子が男だって聞いてたのになんで」

 聞いていた話と違う。それが僕ら男二人も含んだクラスの総意だった。

 とにかく、彼ではなく彼女だった。

 じゃあもう一人が男かと思うとそうは思えない。思えないがしかし、昨日山田先生が伝えにきたことは一体なんだったんだ。

「何をしているか、騒がしい」

 織斑先生だ。やはり騒ぎを止めるのはいつだってこの人だった。

 静まり返る教室だが勇敢な誰かが彼……じゃなくて彼女に質問する。

「本当に女の子? その制服は?」

「はい。女です。服は……あー、その、趣味、そう趣味です」

 男装趣味? 人の趣味にケチをつけるのは卑しいことだと分かっている。分かっているが今回だけは言わせて欲しい。紛らわしい!

「後ろにシャルルってあるんだけど、それは……」

 そう、シャルル・デュノアとボードには表示されている。だが、彼女はシャルロットだと言った。なんでだ?

「すまない。それはこちらのミスだ」

 織斑先生が言葉を引き取った。いわく、書類上の不備がどうとかこうとかで間違っていて、さっきまで修正していたのだとか。

 何か腑に落ちないけど、具体的ここが、とはいえないもやもや感。

「大方デュノアの服装を見て三人目が見つかったなどと思ったんだろうが、残念ながらそれは間違いだ。制服こそ男物だが本人の言うとおりデュノアはたしかに女だ」

「はい。もういいですか。ではデュノアく……さん。あちらの席に座ってください」

 促された席に着こうと一歩踏み出した彼女だがすぐに止まり、織斑先生に一礼した。もうわけが分からない。

「早く席に着け」

 はい。と答え再び歩き出した彼女は表情がようやく和らいでいた。

 

「次、ボーデヴィッヒ」

「はい。ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ軍所属」

 それだけを言うと、ぷっつり黙ってしまった。しかし僕と織斑くんを値踏みするかのような視線だけは動いていた。思わず目をそらす。ちょー怖い。なんか僕悪いことしたの?

「よし、席に着け」

「はい、教官」

「私はもう貴様の教官ではない。ここでは先生と呼べ」

「了解しました」

 

 ボーデヴィッヒさんが座るのを確認して、織斑先生は注目を集めるように手を鳴らす。

「織斑と合田。貴様らには間違った情報を伝えてしまった。すまなかったな。部屋を変わる話は忘れてくれ。

 それとデュノア。今の反応でわかっただろう、たしかにここは制服の規則はゆるいが今回のようにいらぬ誤解を与えることになった。プライベートまでは口出しはせんが、そうでないときは素直に女物を着ておけ。では、各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合しろ。以上」

 

 本当にただのミスだったのか……あれだけ期待してたのに。くそう。くそう。

 でも、女の子と同じ部屋じゃなくなって本当によかった。そんなの絶対無理!

 

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