インフィニット・ストラトスとオリ主   作:西陣

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タッグマッチ

 

 

「山田先生ってすごかったんだな」

 眼前で繰り広げられていたセシリア・オルコット&凰鈴音VS山田真耶の模擬戦。それの決着がついたところで、ほう、と息を吐きながら織斑くんは驚嘆した。

「あれで候補生止まりなんだよね」

 事の仔細は彼女らに申し訳がが経たないため伏せておくが、終始山田先生が候補生両名を手玉にとっていた展開であったとだけ説明する。

 同じ代表候補生でもまるでレベルが違う。すでに重かった肩がさらに増す。

 だがそれでも幾らかの収穫はあった。たとえば、してやられたBT偏光制御射撃も連続で曲げることは――スペック上は不明だが今現在のオルコットさんは出来ないっぽい――出来ないとかそういうのだ。実際に使えるかはまた別の話なんだけど。

 

 

 二人が帰ってくるのを見計らってか、織斑先生が口を開く。

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意をもって接するように」

 また、と続け、

「国家代表を目指す者がいれば在学中に勝ち越せる程度にはなってほしいところだ」

 対象をぼかしていたが今の言葉はきっと、と候補生両名を見る。

 凰さんはまさに闘志満々といったのが一目で分かる。一方のオルコットさんは普段と変わらない。候補生ってみんな国家代表を目指してるってわけでもないのかな?

 

「では実習を始める。いつもどおりグループリーダーは専用機持ちが行う。しかし今日から専用機持ちが二人加わったため、グループ分けを変更する」

 これまでは五人だったためでちょうど八人ずつで分かれていたけど、今日からはこれまでの五人は七人担当、転校してきた二人が六人を教えるわけ方になった。正直荷が重かったので数が減って本当にありがたい、

 分け方は初回の実習でもめたので出席番号順になっている。上手い具合に僕から織斑くんに変わった彼女はわが世の春とばかりに浮かれきっている。

 

 

 すでに慣れたもので、一喜一憂している彼女たちを尻目に、並べてある打鉄一機を乗せてあるカートごと自分のグループに持っていく。

 カートに乗っているとはいえ結構な重量があるし動力もついているわけではないので動かすのも一苦労だ。だから専用機を展開してISに乗りながら押していく。

 初回のときはそれこそ人力で運んでいたのが原因で少々時間をオーバーしてしまった。僕一人ではなく五人全員苦労し、結局二クラス総出で運んだものだ。

 その後、二回以降はISを使って運ぶお許し――専用機を持っていないものは運ぶ訓練機に搭乗する――が出た。とはいっても、最初から決まっていたようで、一度は実際に体験しておけとかそういうことなのだといわれた。

 

 

「おまたせ、ってなにを……デュノアさんになにかあった?」

 普段ならば訓練機の到着を首を長くして待っている彼女たちであったが、今日は珍しく一方向を見ながら談笑にふけっていた。

 その先をみれば男装の令嬢、その人がいる。

「一緒に着替えたんだけど、本当に女の子だったなあって話」

「そうそう。教室で一緒に着替えたときに見たしね」

 得心がいった。僕ら男はその時ごとに空いている部屋で着替えを行うのだが女子は教室で行う。男だと噂されていたデュノアさんが本人曰く男装していただけとはいえ、本当かどうか分からない彼女たちが着替えのときデュノアさんを注視していたのは想像に難くない。よしんば、ISスーツをあらかじめ着込んでいたとしてもだ。

 しかし、と僕自身もデュノアさんを見つめる。

 マンガとかなら骨格の違いで男装や女装を見破ったりするとかあるけれど、まあ僕なんかにはちんぷんかんぷんだ。けど、胸がそれなりにあるのから女だってわかる。

 胸? なんで朝のときに気づかなかったんだ。男だと信じていたから見て無かっただけ? 

「なーに見惚れてるの」

 そう言われはっとわれに返り、そんなんじゃないと否定する。そしてすぐさま織斑先生を確認する。よかった気づいていない。

 あまりにぼーっとしているとまた織斑先生にどやされる。

 手早く相川さん――出席番号順――を訓練機に誘い起動シークエンスをはじめてもらう。それを確認して、一息つく。

 篠乃之さん効果なのか実習初日から手のかからない人ばかりで安心してみていられる。とはいっても当然目は話さないが。

 

「ただ、今朝は」

 といいかけて口を噤む。女性の前でうかつに胸の話なんてするべきではない。

 そう思ったが時すでに遅し、周りの六人からせっつかれる。

「ただ今朝はぱっと見中性的だったけどISスーツを着てる今はちゃんと女の子だってわかるんだ。今朝はなんで気づかなかったのかって考えてただけだよ」

「あーおっぱい大きかったもんね」

 ぶった切られた。曖昧に言葉を濁してもやっぱり同じ考えを持っていたのか濁した言葉を当てられる。

 しらっとした空気が頬を打つ。だから言いたくなかったんだ。

「もうちょっと言い方を……」

 という反論もむなしく、意味するところは同じなんだからと聞く耳を持ってくれない。たしかにそうだけど……。

 これさいわいと僕への冗談めかした口撃がはじまり、家族の男がとか中学校のときの男がとかどんどんスケールが大きくなって、ついにはこれだから男はと世界の半分を対象とした話にまで大きくなった。

 相川さんが帰ってくるとようやく話が終息し、次の子へ訓練機の交代する。

 

「なんか盛り上がってたみたいだけど」

 と相川さん。

 話が伝えられると同じ表情が一つ増えた。しかしすぐに顔を綻ばせ、

「私もおかしいとは思ったんだよね」と。

「で、ちょーっと盗み見たけどなんか胸にサポーターみたいなのつけて押さえつけてたみたい」

 なんだそんなことかとため息が漏れる。種を明かせばなんとやらってやつで、恐るるべきプロ? 根性だ。

 万に一つ、実は男で女装していた。あのふくらみは精巧なパッドだとか頓珍漢なことを考えていたがやっぱりハズレか、唯一の男ならともかく三人目だからそんな必要ないしね。

 これで完全に望みが潰えてしまい、四方山話を続ける彼女らには加わらず一人意気消沈していた。

 

 

 

 

「すまない、貴様が合田祐希であっているか?」

 顔を上げ相手を確認すると、ひいっと声を上げそうになる。銀色の彼女が立ってこちらを睨んでいた。

 

 

 

 今日の授業がすべて終わっても、僕の気分は未だに豪雨のままだった。

 日課の訓練も今日だけはお休みさせてもらって自室でお気に入りの一冊を読み直そうと考えていたのだが、どうも気分が乗らずあてもなくうろうろしていた。

 今は、一人図書室の一角でぼーっとしている。本こそ対外的に開いてはいるが一ページたりともめくってはいない。私語厳禁のため話しかけられることもないし、静かで落ち着く場所であるためかなり気に入っている場所だ。

 

 だというのに。

 図書室から移動して今は銀色の彼女――ラウラ・ボーデヴィッヒさんの部屋に来てしまっている。

 個人的なことで聞きたいことがある、人目につかない場所で話したいと言われたためだ。

 僕の部屋を提案したが、万が一にも織斑一夏には聞かれたくないと断られ、彼女の部屋を提案されたからである。

 女の子の部屋においそれと入ったのがばれたら、あることないこと騒がれるに決まってると反対したかったのだが、その時は代案を出せずに唯々諾々と従うしかなかった。

 一応、ルームメイトに聞かれる可能性も示唆してみたが、追い出すと言い切られてしまい。

 事実、ルームメイトだったデュノアさんに幾らか言葉を掛けて上手く追い出したのだが、その時の彼女には僕らはいったいどういった関係に思えたのだろうか。変な想像をしていたら困るのであとで話を聞かないといけない。

 

「織斑一夏について聞きたい」

 未だに鋭い目つき――もしかしたらこれは威嚇とか不機嫌なんじゃなくて素なのかもしれない――でこちらを見る彼女から出た質問がこれだ。

 わざわざ人目をはばかってまで聞きたいということで戦々恐々としていたが、彼女の口から出たのは想像の彼方にあった質問だった。

 言葉に窮する。

「一夏のことっていっても……IS操縦者についてってこと?」

「それも含め人間性についての諸々だ。クラスメイトのやつらはカッコイイとか優しいとか表面的なことしか言わなくて参考にならん」

 なんで織斑くんのことが知りたいのか、なこの質問がなぜ人目をはばかるのか、いつ聞いたんだろうとか余計な疑問がわいてくるのをシャットアウトして考える。

 差し出されたペットボトルのミネラルウォーターを一口飲み、

「そうだね……」と言葉をつむぎ始める。

 考えず思ったことを直接話したため、前後で話がかみ合っていなかったり、急に別の方向の話をしたりと聞くに堪えない話だっただろうが、それでもボーデヴィッヒさんは不平一つ漏らさず、何度か頷きながら話を聞いていた。

 

 

「私は織斑一夏が憎かった」

 一通り聞き終えた彼女は幾らかの思案の後にようやくその一言を搾り出した。

 僕がなぜと答えるまもなくぽつぽつとだが言葉を続ける。

「教官……織斑先生は私にとって光のような存在だった。真っ暗な闇の中で彷徨っている中に差し込んできた一筋の光。どうしようもなかった私に手を差し伸べてくれた」

 ボーデヴィッヒさんは当時のことを回想しているのか、目線こそあってはいるがそれでも僕を見てはいなかった。

「それゆえ私は教官に憧れ、ああなりたいと恋慕までした。だからこそ私は織斑一夏を憎んでいた。第二回モンド・グロッソの時だ、応援に来ていたヤツが誘拐され、それを助けるために教官は決勝戦を放棄した」

 誘拐! 知らなかった。いや、まあ、情報規制されてるってことか。二連覇が目前にまで迫っていたのに急に棄権した理由がこんなところで分かってしまった。知りたい知りたいとかねてから思っていたが……そうか。

「勝てる試合を織斑一夏によって潰された」

 だけどそれは……。

 僕の視線に気づいたのか、苦笑をもらし、

「もちろん、ただの八つ当たりだ。だがつい考えてしまう、もし織斑一夏がいなかったらとな」

 ぞっとした。

「まさか殺しにきたとかじゃ」

 彼女の話を聞き終えるまで口を挟まないつもりだったが不穏な雰囲気を感じ取ってしまいつい割り込んでしまった。

「考えなかったわけじゃない。しかしそうしたところで教官が再びISに乗ることもなければ、ドイツ軍に帰ってきてくれるわけでもない。ただ溜飲が下がることにしかならない」

 そう。IS学園に来てから織斑先生がISに乗ったのを見たことが無い。

 しかしそれは不自然なことではなかった。第二回モンド・グロッソを棄権した表向きの理由が身体的な問題だったためで、それを不思議に思う者はいなかったのだ。

 だけど、実際の理由と違うとなるといったいなんで?

「それになにより、私にとって教官が光であるのと同様に、教官にとって織斑一夏が光のような存在だったらしい。光を曇らせるようなことをするわけが無い。だからヤツの名前が男性操縦者として流れたときに思っただけだ。教官が守った織斑一夏がどんな人間なのか確かめたいとな。それだけだ」

 そう言い終わると、立ち上がり、

「つまらん話を聞かせてしまった。教官をドイツに連れもどそうとするわけでも、織斑一夏を害する気もない。貴様の話は多少なりとも参考になった、感謝する」

 

 

 ただ、唖然としたまま彼女の部屋から出た。

 気落ちこそなくなったものの、ボーデヴィッヒさんが持つ暗い部分に触れてしまったことや、知ってはいけないことを知ってしまった後ろめたさに頭を抱える。

 

 

 

 

 夜 自室

 

 ボーデヴィッヒさんの話を引きずってしまい夕食を一人でさっさとすませた僕に対する不満を告げた跡、織斑くんは爆弾を落とした。

「明日からシャルロットも一緒に訓練することになったから」

 

「シャルロットってデュノアさん? なんでまた急に」

 ベッドから起き上がる気力も無く、寝転がりながら問う。

「セシリアたちと訓練してるときにシャルロットが来てさ、候補生だったしなんとなく訓練に誘ってみたら教え方がすげー上手かったんだよ」

「へー、オルコットさんよりも」

 そんな意地悪な質問にため息をついて答える。

「祐希は分かりやすいかもしれないけど、セシリアも鈴も俺に取っちゃわけわかんねーんだって」

 凰さんの説明には同意する彼女は感覚的過ぎてちんぷんかんぷんだ。

 もちろん結局は感覚に任せることになるんだけど、最初は数字とか指標があったほうがいいでしょと反論してもよかったが水掛け論になりそうだからやめておく。

「まあ、上手な人と一緒に訓練出来るんなら喜ばしいことだよね」

 と適当に頷いておいて、話を変える。実際どんな教え方なのかが気になったものの明日にでも分かることだから聞くまでも無い。

「それとシャルロットに借りて銃も撃ったぞ。気持ちよかったなあ」

「は? え、なに、デュノアさん銃もって来てるの?」

 いきなりの告白にガバッと体を起こす。

「違う違うISのほう」

「ああ、そっちか。一夏のはブレード一本だけだからね」

「そうなんだよ、普通は誰かに貸すとか出来ないけどなんか使用許諾を出せば貸せるとか言われた」

 武器を貸すことなんで出来たのか……そんな発想無かった。

 

 

 

 ふと会話がやんだ。織斑くんの様子がおかしいのでそれを問うたら、

「デュノア社って知ってるか?」

 そう返ってきた。

「そりゃあまあ、フランスでラファール作ってたところでしょ、あとは第三世代機の開発に苦戦してるってことくらいかな」

「シャルロットの父親がそこの社長なんだって。本人から聞いた」

 デュノアっていうファミリーネームがどれだけメジャーなのかは知らなかったから、候補生になれるぐらいだから親類とかでISに対する興味が幼少から強かったのかとかでたらめな想像をしていた。

 まさか実の親子だったなんて。

「それでどうしたの?」

「いや、親がそういう偉い人だと色々と大変なんだろうなと思って」

 それだけだと話を切り上げ、ベッドにもぐってしまった。一体どうしたというのだ?

 

 電気を消し、僕もベッドに入る。

 最後まで僕とボーデヴィッヒさんの関係について言われることはなかった。

 知っていてもいわないという気遣いではないだろう、彼はそういうことは直接本人き聞くタイプのようだし、デュノアさんが黙っていたんだと思う。

 すっかり忘れてたけど部屋に押しかけたことに対するフォローをしないといけないと思っていたけど必要なさそうだ。

 

 

 

 

 

 

「祐希さんはどなたと組むか決まりました?」

 オルコットさんの言葉に苦悩する。

 原因は手元にある一枚の紙っぺらだ。

 二週間後の学年別トーナメントの参加申込書であるが聞いていた内容と一部異なっている。試合方法がタッグマッチに変更されていたのだ。

 つまり誰かとペアを組む必要がある。

 それを見た僕は深く考えず織斑くんと組むことになるだろうと思っていた。

 しかし、

「一夏はデュノアさんと組むっていっちゃったし、あてがはずれた」

「そうですわね、わたくしも当然お二人が組むものだと思っていましたから。そうでないのには勿論、一夏さんの相手がシャルロットさんだというのにも驚きましたわ」

 そうなのだ、デュノアさんに教えてもらうようになってから最近どうも織斑くんは調子がいい。またISだけでなく普段から彼女を幾らか機に掛けている様子も伺える。

 それを傍から見てる凰さんの鬼の形相と言ったら……思い出したくも無い。

 

「もうみんな相手が決まってるし」

 凰さんは篠乃之さんと組んでて断られたし、オルコットさんにもすでに断られている。

 公式戦――とはいってもあくまでも行事なのだが――での他国の代表候補生および専用機持ちを相手取った際のデータが欲しいとのことで、三組に在籍している同じイギリスの子と組むことが決められていたそうだ。

 招待客の前で彼女たちを下し自国の優位性を示して見せろということもあるだろう。いや、もしかしたらこっちが本命なのかも。

 

 ボーデヴィッヒさんはまだ怖い。

 暴力も暴言も無いが、雰囲気がまさしく軍人さんって感じで萎縮してしまうのだ。

 同室のデュノアさんいわく、普段からあんな感じだけどフォークの先端にマカロニを刺すのを妙に気に入ったり、怖いどころかかわいいところがあると言う。

 それだけならともかく、その後続けて「あ、でも寝ぼけて首にナイフ突きつけられたこともあったよ」とげんなりした顔で言われて、いっそう怖くなった。

 

 と、知り合いの代表候補生は全滅。一方的に知っているだけの更識さんに組もうぜと誘える勇気も無い。

 

 ならばクラスメイトはどうかと言えば、たしかに何人かに誘われはしたものの、デュノアさんとのペアを組むと言う話を聞く前だったので、断ってしまったのだ。

 織斑くんからその話を聞いたあと、すぐにきびすを返しペアの話を持ちかけたが、すでに誘ってくれた子同士で組んでいて、申込書の提出まですんでいたのだ。

 相川さんなんかは申込書を返してもらってくるとまで言ってくれたが、さすがにそこまでしてもらうのは申し訳なく、つい別の子がいつからと見得を切ってしまった。失敗したなあ。

 それにしても、期限は来週いっぱいなのになんでそうも早く決めたんだろう。それを聞いても優勝したいからと口をそろえて言うがデザートのフリーパスは無いんだけどな。

 

 

「抽選したペアでいいかな」

 ともう完全に諦めモードなのだ。

「祐希さんはそういったところがありますわよね。一夏さんくらいとは言いませんがもうちょっと積極的になってはいかがです」

 耳が痛い。自分でも分かっているがコレばっかりはどうしようもないのだ。

 もちろん、どうしようもなくなったら恥も外聞を気にせず泣きつくことになるだろうけど、今回のようにダメでも救済措置のあることについては、まあいいかとあきらめてしまう。

「たしかに祐希さんも一夏さんも望んでここにきたわけではありませんし、男性がお二人だけと言うのはわたくしの想像以上に辛いものがあるのでしょう。だからと言って一夏さんに頼りきりなのもいかがなものかと思いますわ。コレを機にもう少し世界を広げてみてはいかがです」

 ぐぬぬ。考えまいとしていたことだ。

 今は織斑くんやオルコットさん篠乃之さんらが一緒のクラスだから良いもの、進級したときもそうだとはいえない。

 織斑くんは一緒だろうけど、他の人がどうなるか分からない。全員が入れ替わるわけではなく一組の子だって何人かは一緒になるだろうけどその子と仲がいいかは分からない。

 

 

 気乗りはしないが、少しだけがんばってみようかな。そう言おうとしたときだ。

 オルコットさんがなにかに気づいたように、僕の後ろにらへんに目をやる。つられて僕も振り返ると、ボーデヴィッヒさんがいた。

「邪魔をしたか?」

 反射的に否定する。オルコットさんが苦笑する声がかすかに聞こえるがしったこっちゃない。

「タッグトーナメントのパートナーを探しているんだが貴様はまだ決まっていないと聞いてな」

 と僕を見て言う。

「確かに決まってないけど、なんで僕?」

「各国代表候補生を当たったがすでにパートナーがいるか、あるいは断られてしまった」

 よかった僕が一番ってわけじゃなかった。目をつけられたってわけでもなさそう。

 ボーデヴィッヒさんか更識さんに声を掛けようとしていたところで、彼女からの申し出は願っても無いことだった。

 僕でよければと肯定し手を差し出す。彼女は頷き、僕の腕を掴み、引っ張る。そうじゃない。

「時間が惜しい、教官の前で無様な真似は出来んからな」

「わかった。わかったから、ころぶって」

 そういうとボーデヴィッヒさんはすぐさま手を離してくれた。オルコットさんに一言声を掛けて、彼女についていく。

「どこに行くの?」

「アリーナまで。貴様がどれだけ出来るのか直接みたい」

 と、ボーデヴィッヒさんは僕を振り返り好戦的な目をしてそういった。

 

 

 

 

 学年別トーナメントが急遽タッグトーナメントになってからいつもの訓練は一時的に無くなった。

 その間はパートナーとの連携を取るのに時間を使いたいと織斑くんが言い出しかたらだ。

 否定する要素は無かった。

 なにがなんでも優勝したい! とまでは言わないが、一応代表候補生の肩書きを持っているので一般生徒ペアに負けるようなことにならないようにはしたいところで、そのためにペアとの時間が必要なのだ。

 その時僕はまだボーデヴィッヒさんとのパートナーが決まっていなかったのでもろ手を挙げて賛成したが間違っていた。

 ボーデヴィッヒさんめっちゃ厳しい……。パートナーを決めるのをはまった。

 

 アリーナで行われたのはいつもやっているような生易しい訓練ではなく、一方的な蹂躙だった。

 ボーデヴィッヒさんは一切の手加減無く――最初だけ――もてる全力を出して僕を倒しにきた。

 そんなわけで、僕は一つのいいところもなく三回戦って都合十五分も持たずに惨敗した。

 

 当然彼女の実力もさることながら専用機も高い次元にある。

 遠距離では肩部のレールカノンが、中距離ではワイヤーブレード、近距離ではプラズマ手刀と武装面での隙が無い。

 その中でもAICがひどい。慣性停止能力。対象物の周辺空間に慣性を停止させる領域を展開するらしい。集中しなければならないという欠点があるがそれを補って余りある。

 銃弾を防ぐシールドにするだけでなく、僕自身の動きも止めてしまうのだ。とはいえ、動きを止められた状態からレールカノンやプラズマ手刀で攻撃されるということはなかった。手加減されているのではなく、AICに多大な集中力を使い他の行動が大きく阻害されるのだという。解除されても、解けたと理解する間もなくワイヤーブレードで捕縛されてしまったりと非常に難儀な代物である。

 AICを使ったのは最初の一試合目のみで、以降は使わないと明言してくれたのに、AICのことが頭にこびりついていて動きに精細がなくなり、また思い切りもなくなってしまった。

 一試合目が良かったかどうかはまた別の話だけど。

 

 

 休憩室。

「ミネラルウォーターでいいか」

 たったの十五分だが精神的にも肉体的にも疲れきって、げっそりしている僕を気遣ってか自販機から買ってきてくれた。

 礼をいい、半分ほど一気に飲む。

「貴様はアレだ、てんでダメダメだな」

 ぐさりとくる。分かってはいるがこうも直接的に言われるとそれはそれで辛い。

 ボーデヴィッヒさんはそのまま先ほどの試合の悪い点を一つ一つ挙げていって僕の心をえぐってくる。

 一通り言い終わったのか咳払いを一つし、

「だが、私は必死についてこようともがき、手を伸ばし続けるものにはこちらも手を差し出すぞ」

 と繋がっているのかそうでないのか良く分からないことを言い出す。

 しかも自分で言って照れてるのか顔が少し赤い。なんなんだよ。

 とりあえず、話をあわせて、お願いしますと頭を下げる。

 それに満足したのか、うむと目を輝かせて笑みを浮かべる。

 余計ボーデヴィッヒさんのことが分からなくなった。

 

「なんでパートナーを代表候補生から探してたの?」

 上機嫌になった彼女にそう聞いてみた。

 少し思案して、

「貴様には以前話したからいいか。その一環で織斑一夏と直接対峙するためだ。今のような模擬戦ではなく外来や教官の目のあるところで全力を尽くす奴とだ。無論奴と対峙するまで私一人でも勝ち抜く自信はあるがわざわざ重荷を負う必要もあるまい」

 そもそも試合をする必要も無いんじゃないかとも思うが、茶々を入れることはしない。

 それに、と続け、

「パートナーが一般生徒ならともかくフランス代表候補生であり専用機こそ第二世代だがそれでも傑作ラファールだ。生半可な相手では足を止めることすら出来んだろう」

 デュノアさんか……一度やったけど強いというか巧い相手だった。

 武装の展開・収納が異常に早くてこちらの攻撃にあわせて動きや武装を合わせてきたり、突っ込もうとしたら牽制されて阻害されたり色々とボーデヴィッヒさんや織斑くんとはまた違った意味で戦いにくい相手だ。

 そうか、織斑くんと戦いたいって事は僕がデュノアさんと戦わないといけないってことになるのか。

 その事実は僕に重くのしかかった。

「あと十日あまりある。それまでにはシャルロット・デュノアを足止めできる程度には引き上げてやる」

「どうやって? 一夏との訓練をやめて僕と戦ってなんていっても断られるだけじゃ」

「一朝一夕にはどうしようもない、素直に地力を上げるだけだ。安心しろ私が相手をしてやる。シャルロット・デュノアは私よりも弱い」

 その言葉はまさしく不遜なものであったがそれ以上に僕を安心させる言葉でもあった。

「だけど、連携のほうはどうするの?」

「小手先の連携などもろく崩れ落ちるものだ。なに、いざとなったら私があわせてやる。今はとにかく実力をつけろ、ただそれだけだ」

 はい教官。とついノリで答えると凛々しい顔つきから一転ぱっと花が咲いたように緩む。

 さっきの妙な台詞のときもこんな雰囲気を出していたけど、今度はなにが切欠なんだ?

 教官に反応した? ボーデヴィッヒさんは織斑先生のことを教官と呼んでるし崇拝もしてる。

 もしかしてさっきのも織斑先生が言ったものをまねただけなのか?

 もしそうだとしたら思ってたほど怖い人じゃなさそう、というかむしろデュノアさんが評するとおり結構面白い子だ。

 なんとなくだけどボーデヴィッヒさんと仲良くなれる気がした。

 

 

 

 

 タッグマッチ当日。

 ボーデヴィッヒさんのお目当てである織斑くんとの対戦は、トーナメントをある程度勝ち抜いてからのものだとばかり考えていた。

 四人とも専用機持ちの代表候補生なのだ始まって早々当てるなんてことはしないだろうと高をくくっていたのだ。

 また、何回か戦って緊張を解きほぐしておきたかったという個人的な理由もある。

 そのため、トーナメント表を確認したときは驚きに絶望に満ち溢れてしまった。

 なんの因果か第一試合におこなわれるのだ。すでに驚きは消えただ緊張のみが体に残っている。

 

 アリーナ・ピットで最後の確認とばかりにボーデヴィッヒさんが声を掛けてkくれる。

「とにかくシャルロット・デュノアと止めてけ、ただし織斑一夏から意識をそらすな」

 奴の零落白夜が危険なのは貴様のほうが良く知っているな、と。

 頷く、彼の基本戦術は瞬時加速で近づいての零落白夜での一撃必殺なのだ、ボーデヴィッヒさんと対峙すると言ってもいつどこから近づいてくるのか十分に注意していないといけない。

 彼女は僕の肩を軽くたたいたと思ったらすぐさまISを展開して行くぞと言い残してアリーナに出て行き、それに遅れまじと僕も続いた。

 

 

 

「よう」

 相対する遥か先からオープン・チャンネルを通じて織斑くんが声を掛けてくれる。

「同じ部屋だし授業も受けてるのになんつーか久しぶりって感じがする」

「うん、僕もそう思ってたところ」

 タッグが決定し、お互いのパートナーとの訓練にばかり没頭してるうちに部屋でも会話らしい会話はなくなっていた。

 喧嘩とか仲違いをしたわけではないのだが結果的にそうなっていたのだ。

 食事の時も僕がボーデヴィッヒさんにあわせていたため、織斑くんらと一緒にとる機会もなかった。

 そのおかげかボーデヴィッヒさんとは多少なりとも打ち解けたとは思うから結果オーライって感じがする。

 僕もボーデヴィッヒさんも自分から話題を振っていくタイプではなかったのでプライベートな会話などめったになく、会話らしい会話は僕がISに関する質問をしたときに返ってくる答えばかりであった。

 ただ、織斑先生に関しての話を振るととたんに饒舌になるのが、本当に先生のことを敬愛してるんだという気持ちが伝わってきて微笑ましいというか愛らしいというかそんな感覚を覚えた。

 

 

 そう笑いあっていると、織斑くんが話は変わるんだがと切り出し、

「なんで祐希はラウラと組んだんだ?」

 本人が隣にいるのにそんな質問を投げかけてくるな! 織斑くんって時々そういうデリカシーのないことするよね。

 オープン・チャンネルゆえに近くのデュノアさんやボーデヴィッヒさんにも聞こえているだろう、変なことはいえない。

 ちらりとボーデヴィッヒさんを覗き見る。ぱっと見は気にしていないように振舞っているが実際はどうなのかまったく分からない。

「優勝したかったからかな」

 悩んだ末に答えたのがコレだ。

 そもそも僕が選んだのではなく彼女が僕を選んだ――消去法で――のであって、その質問を僕に聞くのは間違いだし、その理由も不穏なものなのであまり言いたくはない。

 彼に直接危害をなすならともかく、僕が知っている限り彼女と一緒にいてそういう素振りは一切なく彼を観察しているにとどまっていた。

 無論ポーズもあるだろうが、それでもあの日彼女が言った光を曇らせるようなことはしないという言葉は、僕にとってこの上ない理由付けになっているのだ。

 

 

 これからずっとタッグを組むわけではないしこれで十分だろう。

 それに答えたのはデュノアさんのほうだった。いや、答えたと言うよりも、

「え、それって……えええ!」

 ただただ驚いて声を上げてしまったというほうが正しいように思える。

 僕が優勝を目指すことがそれほど驚愕に値するべきことなのか?

 たしかに普段ならそんな大それたこと口にすることもないが、今回はとても頼りになる相方がいるんだから話は違ってくるものだ。

 不審に重い問いただしてみようとするも、アナウンスに邪魔をされる。

 

 カウントダウンの開始のアナウンスだ。

 それと同時にアリーナ中央上空に投影されたカウントダウン表示が一つずつ数字を減らしていく。

 先ほどの雑事を頭から消し、両の手に展開したアサルトライフルを握りなおす。

 三、二、一。

 

 試合開始と同時に後方上空へと飛翔する。

 当然、織斑くんの瞬時加速と零落白夜に対する後退だ。先制の一撃必殺、当然警戒する。事実彼は雄叫びと共に瞬時加速を使用した爆発的な速度で僕に向かってきたのだ。

 彼との模擬戦は大抵開始と同時に突っ込んでくることがほとんどで、それこそ最初はこれだけで半壊していたのだが、そうなんども受けていればそのその速度も慣れてくるし、瞬時加速はその加速力から動きが直線的になることも分かれば避けるのだってそれほど難しくはない。

 それになにより開始位置はある程度離れている。これだけ分かっていれば僕にだって避けられる。

 

 先制攻撃を回避できたことにひとまずの安心を得る間もなく彼との間に影が割って入ってきた。

 ボーデヴィッヒさんか。

 しかし、恐怖のあまり思わず声を上げそうになる。だってそうだろういくらAICに自信があるからといって瞬時加速をした相手、ましてや零落白夜はエネルギー系のものであればなんであれ無効化できるというものだ。

 実際に止められたから良いものの、万が一にも無効化――後に、ISではなく彼自身の体を止めたのだと聞き納得は出来たものの、あらかじめ言っておいて欲しかった――されたらと思うとあまりにも心臓に悪い。

 AICのことを知らない彼は急に動けなくなったことを不気味に感じ声を上げている。なんとか抜け出そうと身じろぎをしてはいるが、そんなことでは抜けられないことは僕自身が確認済みだ。

 

 織斑くんの相手は彼女に任せることとなってはいるが、動きが止められているチャンスをむざむざと手放すこともない。

 彼女に流れ弾が当たらぬように回り込み、突き出したアサルトライフルのトリガーを引く。

 

 しかし、一秒二秒も経たずにそれを中止し移動する。

 ハイパーセンサーからの警告だ。

 僕のいた場所を弾丸が通過していく。奇しくもその先にはボーデヴィッヒさんがいる場所であり、それに気を取られたのか織斑くんを止めていたAICが解かれる。奇しくも? いや絶対に偶然じゃない。

 

 目の前にぶらさがっていたチャンスに目を取られすっかりデュノアさんのことを失念していた。

 横目で確認するとボーデヴィッヒさんは織斑くんを釘付けに出来ているようで、僕も予定通りデュノアさんを足止めすることにする。気が重い。

「僕のことも忘れないで欲しいな」

 そんな軽口がプライベート・チャンネル――オープンではなくプライベート? なぜ?――を通じて伝わってきて、答えに窮するも、そんなことはないとなんとか搾り出すことが出来た。だって本当に忘れていたんだから。

 

 そんな彼女との戦いだが予想通りというか意図的というか、とにかく彼女が攻勢で僕が防戦一方な展開であった。

 彼女の攻撃を避けることを主体として、反撃することは十分な余裕がなければしないといった、彼らを分断しボーデヴィッヒさんが織斑くんを倒そうとするのを邪魔させないという意図を隠しもしない戦い方だった。

 彼女の攻撃はそれこそ変則的ではあるが逃げるだけ――もちろん、すべてを避けられるわけではなくじわじわと削られている――ならなんとかなる。その上、織斑くんと対峙しているはずのボーデヴィッヒさんがワイヤーブレードでデュノアさんをかく乱してくれているのだ。

 僕の意図をデュノアさんもそれに気づき、合流しようとするがボーデヴィッヒさんのワイヤーブレードに阻まれそこを僕が攻撃して注意をひきつけるといった構図になっていた。とはいっても、デュノアさんが完全に抑えられているといわけでもなく、ボーデヴィッヒさんのワイヤーブレードを掻い潜り幾度となく織斑くんへのアシストもこなしている。

 一人では満足に押さえつけられることも出来ずボーデヴィッヒさんにおんぶにだっこだが仕方がない、これが実力なのだから。現状を甘んじて受け止めるほかはない。

 

 

 攻防……とは決していえない稚拙な動きの最中もデュノアさんは僕に何度となく語りかけてきていた。

「ところで」

 とデュノアさんは今までとはうってかわって固い声音で切り出した。また彼女の攻撃もゆるくなった。

「僕のことについて一夏から何か聞いてる?」

「ただデュノア社の令嬢とだけ」

 わざわざプライベート・チャンネルを開いて、意味のない会話を投げかけていたのはこのことを聞くためだったのか?

 その問いに素直に答える。別に違ったとしてもでたらめを答えるつもりもないが少々引っかかる質問だ。

「今度時間を作って欲しい。そのことについて言わなきゃいけないことがあるんだ」

 付き合い始めましたとかそんな軽い内容でないことは彼女の声音と表情を鑑みれば想像に難くない。以前、織斑くんがなにか言いかけたときのことだろうと予想は出来るが、しかしどんな内容かまでは想像が及ばない。

 それに首肯する。

「よかった。それでもう一つ」

 まだあるのかという思いよりも先に、彼女のいっそう険しくなった表情を見て今度は何を言われるんだと身構えた。

「祐希って同性愛者なの?」

 思いもよらぬ言葉に大きく咳き込み、また動きも止まってしまった。

 すぐに体勢を立て直し否定を返すも、困惑は胸中にくすぶり続けている。

「そもそもなんでそう思ったの?」

「だって優勝したいっていってたから」

 わけがわからないという顔をしていると、それに気づいたのか彼女は口を尖らせていたのが一転する。

「もしかして知らない? 優勝すると一夏と……付き合えるって」

 顔を赤らめながらそう答えたが、その言葉に僕はただただほうけることしか出来なかった。

 まあ勘違いした理由は分かった、けど何でそんなことになってるの?

 本人から言い出したのかとか、タッグだから二人になるけどどうするんだとか、どれだけそんなデマ(?)が広まっているんだとか、疑問は尽きない。

 

「そう、違ったんなら良かった」

 距離がありプライベート・チャンネル越しで話していたのにその言葉だけは二重に聞こえた。

 当然だ、デュノアさんは僕の目の前にいるんだから!

 瞬時加速! 使えたのかと驚くだけでおわらず事態は驚愕の連続であった。

 左手に構えていた実盾を前面に押し出しての突撃かと思うも、すぐにそれは覆される。

 いや、突撃そのものはされている。しかし、盾の装甲部分がパージされ現われ出たものをみて血の気が引いた。

 六九口径パイルバンカー。リボルバーの形状を持つそれはごく短時間に連続して杭を打ち出すことが出来る。

 敗北が頭をよぎる。瞬時加速の突撃で体ごと押し流され逃げられず、あわてて実盾をだそうとするも展開速度の問題で間に合わない。

 焼け石に水ではあるがアサルトライフルを接射しわずかでもシールドエネルギーを減らしておく。諦めの境地での行動であったが後に残されるボーデヴィッヒさんのためだ。

 

 轟と体を突き抜ける衝撃が走り、脂汗がにじみ思わず息が漏れまたアサルトライフルも手から零れ落ちてしまった。

 半ば閉じた目でシールドエネルギーを確認する。みるみる削られていくそれだがほんのわずかだけ残る。流れ弾一発いや、拳で殴られるだけでも尽き果てるほどのそれを見て絶望に襲われる。もう一発食らわないといけないのか!

 しかし二度目の衝撃が来る前に何かにISが下方部に引っ張られ、パイルバンカーとデュノアさんが頭上を通過する。

 ワイヤーブレードが左足の部分にまきついているのがわかった。

 オープン・チャンネルを開きボーデヴィッヒさんに伝えたありがとうという言葉は歓声とその後の悲鳴にかき消された。

 

 

 

 突如つい今しがた開いたオープン・チャンネルが切れ、すわ何事かと試合も忘れボーデヴィッヒさんを見る。

 電撃が走り、黒い靄のようなものに絡みつかれ絶叫を上げている姿が目に入った。そのすぐ近くでは二歩三歩と後ずさる織斑くんの姿もある。

 これが彼女の意図したものではないことはすぐに分かった。シールドエネルギーのことなど疾うに忘れ、飲み込まれようとする彼女を助けようと近づくも電撃に弾き飛ばされしりもちをつく。

 シールドエネルギーの残量がなくなり強制的にISが解除されていた。あっという言葉がむなしく響く。

 

 後ろからやってきたデュノアさんに助け起こされ、ISを失った僕はただただ彼女の苦しむ姿を見ていることしか出来なかった。

 ぐちゃぐちゃとうねりを上げていた黒い靄が彼女を飲み込むと、次第に膨れ上がり人の形を作り始める。

 しかしその姿は人の倍ほどはある高さでまた形がはっきりするとそれがISを纏っていることもわかる。

 

「雪片……」

 雪片? そうか! 織斑千冬だ!

 織斑くんから漏れ出た言葉でその姿が織斑先生とその専用機暮桜を模したものだと理解する。

 とその黒いISは雪片を手に織斑くんへと切りかかる。

 危ない! と声をあげるよりも先に急加速、右から左への一閃が決まる。彼は体勢を崩し、また持っていた雪片弐型は弾き飛ばされる。

 ISを失った僕をかばうようにたっているデュノアさんがけん制するも意に介した様子もなく、織斑くんに向かって上段の構えを取り……振り下ろす。

 

 思わず目を背けてしまいガキンという音だけが聞こえてくる。おそるおそる彼を見るとISが解除され、また左腕で体をかばったのだろう、血が流れ出している。

 ひいっと声を上げそうになる。

 それでも黒いISは止まらない。彼に一歩また一歩と近づいていく。

 しかもどうしたことか、彼はなにかをつぶやいた――織斑先生による緊急放送によってかき消されてしまった――と思ったら黒いISに向かって走り出したではないか!

 おもわず駆け寄って止めようとする僕を「まかせて」とデュノアさんが言葉で遮り織斑くんを捕まえに行ってくれた。

 

 なぜか暴れている彼を押さえつけデュノアさんが帰ってくる。

 黒いISは織斑くんが居なくなるとそのまま立っているだけでこちらに向かっては来ないようで一安心しなにか言い争っている二人に加わる。

 ――祐希からも言ってくれよ(あげてよ)。

 

 彼らの言い分を整理すると、デュノアさんが先の放送で聞こえたようにもうまもなく教師陣の助けが来るから逃げようと提案するも、織斑くんが黒いISを何とかしようと抗弁しているということだった。

「いや、逃げようよ」

 ボーデヴィッヒさんの苦悶の表情を見てしまったこともあり、一刻も早く助けたいものだ。そう、たしかに助けられるならそうしたいところだが、三人のうち二人がISのエネルギーが切れている。

 三人が満足に動けるならともかくデュノアさん一人に任せるのは心苦しい。それに見る限り敵意(?)がなければ襲ってこないのだから待っているだけでいいのだ。わざわざ危険を冒す必要もない。

 賛同を得た彼女は満足げに頷き、一方彼は不満を述べた。

「なんで祐希まで! あれは千冬姉のデータなんだ! あれは千冬姉だけのものなんだよ……」

「それだけ?」

 ボーデヴィッヒさんを助けるためじゃないの? その言葉が彼女のためでなく織斑先生あるいは彼自身のために出た言葉であることに愕然とする。

 そう言ってうなだれる彼に自制することが出来ず言葉を投げかけてしまった。

「あいつのことも……ラウラのことも気にいらねえ。あんなわかんねえ力に振り回されるなんて!」

 さっと心がさめていくのがわかる。

 僕はあれがボーデヴィッヒさんの意思とはまったくの無関係だと思ったのだが、織斑くんはそうは思わなかったらしい。

「それっていまボーデヴィッヒさんに何がおきてるのか分かってるってこと?」

 そう問いただすと威勢が良かったのがなりを潜め、わからねえけどと言いよどむ。

 よく分かっていないのに、あれをボーデヴィッヒさんが自分から起こしているというような台詞を放ったのか!

 僕はきっとかなりボーデヴィッヒさんに入れ込んでいるのだろう。何も知らないくせに、と自分自身を棚に上げた言葉を吐き出しそうになる。

 ボーデヴィッヒさんに一人の女としての感情を持っているわけではない。

 ただ、僕がISに興味を持った切欠である一人の女性への感情と、ボーデヴィッヒさんが織斑先生に向ける感情とを同一視しているだけというつまらない理由からであった。

「それになんとかするといっても、一夏だって白式をつかえないじゃないか」

「それならなんとかなる。なあシャルロット」

 とまた元気が良くなりデュノアさんを見る。

「ああ、まあ一応コア・バイパスを使ってエネルギーを移せるとは思うけど、こっちもエネルギーがかつかつで零落白夜を使うつもりならたぶんものの数秒分しかないよ」

「それでいい十分だ!」

なんとか止めようと言葉を見繕う間もなく、デュノアさんに懇願する。

 

「まって、あれ!」

 その言葉に答えを返す前に事態が変化した。

 彼女の指差す先――黒いISをみると、手に持っていた雪片を落とし黒い靄に戻っていく。また本体も体全体を震わせている。

 そして。

 黒いISの腹部あたりから白く細い腕が一本突き出てきた!

 一体何が起きているのか誰も答えてはくれないが確かに分かることが一つだけある。

 今なら引きずり出せると。

 

 後ろから止める声と助けに来てくれた教師陣を尻目に、黒いISに向かって走り出す。

 すぐにデュノアさんに追いつかれる。

 止められると思いきや「届かないでしょ、僕がやるよ」と言われ、走る足を緩める。

 彼女は黒いISにおそるおそる近づくと今度はもう一方の腕が飛び出してきた。

 黒いISはただただ震えるだけで動きらしい動きもなく、いつのまにか教師陣がそれを囲みいつでも鎮圧できる状態になっている。

 それを確認した彼女はボーデヴィッヒさんの腕を掴みゆっくりとだが力強く引き抜く。

 するとどうしたことか、黒いISは最初のように黒い靄となり少しずつ消えていってしまい、ISコアだけが残った。

 

 ボーデヴィッヒさんを抱きしめたデュノアさんがこちらにやってきて彼女を渡してくる。

 教師陣と一緒に来た救護班がいるんだからそのまま渡してよ、と言いたかったが素直に抱きかかえる。軽いな。

 と起きていたのか――抜け出そうと腕を出していたんだから当然起きているに決まっているのにそれに気づかなかった――ボーデヴィッヒさんと目が合い驚きのあまりなさけない声を上げてしまい、張り詰めていた空気が和らぎ周りから笑いがこぼれる。くそう。

 ボーデヴィッヒさんのISコアが確保されるのを見て、僕は彼女を救護班のところへと運び出す。

 お願いしますと彼女を渡し二人の下へ戻ろうとすると、ボーデヴィッヒさんから声を掛けられる。

「すまない」

 こんなことになったことにだろうか? なにに対しての謝罪なのかよく分からなかった。それゆえ僕はただ手を振って答えるだけであった。

 

 

 

 

 夕方。保健室。

 

 あれから僕ら三人は今回起きた事件について緘口令を敷かれることをきき、他言せぬようきつく注意を受けまた書類も書かされた。

 織斑くんのことを無視して助けに行ってしまったことについて、本人がどう思っているのか戦々恐々としていたが、どこふくかぜか「助けられたんならそれでいいぜ」と気に留めていない様子であった。

 理由は想像がつく。僕とデュノアさんは書類にサインした後すぐに出て行ったが、織斑くんは織斑先生にあの黒いISが何か詰め寄っていたのだ。多分だが、聞き出すことに成功したのだろう。ボーデヴィッヒさんのことも「被害者」と言っていた。

 その言葉にほっと安堵の息を吐く。彼女が意図して起こした行動でないことはあくまでも想像であったため確信が持てなかったが説明を受けた彼がそういうのであればそうなのだろうという気持ちと、これで変な確執が生まれることはないだろうという二つのことにたいするものだ。

 

 そして今、僕とデュノアさんはボーデヴィッヒさんの見舞いに来ていた。

 しかしどうやら眠っているようで出直そうとするが、デュノアさんに引き止められる。

 ちょうど良いからタッグマッチの時の話を伝えたいといわれたのだ。

「一夏にはもう伝えてあるんだけど僕はデュノア社からのスパイです」

 その言葉を皮切りに彼女の告白がはじまる。

 ラファールという名機を生み出したデュノア社ではあるが次の第三世代では開発が遅々として進んでいないのであった。

 また現在欧州では時期主力のISを選定するイグニッション・プランが行われているが、開発が遅れているデュノア社は十分な結果をだせないことは明白であった。そのうえ、このままであればデュノア社への資金援助だけでなくISの開発許可そのものも剥奪されるほど切迫しているというのだ。

 そのため今注目を浴びている僕ら男と巧く接触するために男装してあわよくば各専用機および搭乗者のデータを盗み、また広告塔として転入してきたのだという。

 

「ちょっとまった、女だって最初に言ってたじゃないかあと趣味だって。男の制服着てたのだって初日だけだったし」

 憤るたり怒ったりするよりも先に彼女の説明と実態が食い違っており状況が巧くつかめず混乱する。

「そもそも思うところがあったんだけどなにより二人にはじめてあったときの喜びようを見て、ね」

 どのみち学園には最初からばれてたみたいだけど、と笑顔で話す彼女には一切の曇りがなかった。

 どんな言葉を掛けるべきなのか、素直に打ち明けてくれてありがとう? 親を裏切らせてしまってごめん? あるいは、ただ事実を受け止めるだけでそうかと頷く? どれも正しいようで間違ってもいるように思えしっくりこない。

 そんな僕がおかしいのか堰を切ったように笑い出す。

「ごめん。でも一夏が言ったように本当に百面相するんだもの」

 言われたことはないがそうなんだろうか? 顔に手を当ててみるが全然わからない。

「たしかに僕はやましい目的を持ってここに来た。信じられないかもしれないけど、そんなことは一切してないってことだけは誓える。多分、このことがばれたら本国に呼び戻されるだろうけど後悔はしてないよ。誰かに感化されたわけじゃない僕自身が考えて決めたことなんだもの」

 一夏はなんとかしてやるって言ってくれたけどと笑いながらそう付け加える、きっと期待していないのだろう。

 そして、ようやく肩の荷が下りたとでも言わんばかりに大きく背伸びをして、

「こんな自己満足につき合わせちゃってごめんね。ただ罪の意識から逃れたかっただけだと思うかもしれない。その気持ちも確かにあるよ、でも三人にはちゃんと話しておきたかったんだ。一夏と祐希とルームメイトのラウラには」

 背後からそうかと答える声が聞こえた。ボーデヴィッヒさんはまだ寝てるはずじゃ、と思い振り返ると上半身を起こした彼女が目に入る。

 いったいいつから? 聞かせたかったというからには実は最初から起きていたのか?

「体のほうは大丈夫?」

「問題はない、が念のため精密検査を行うので何日かは安静にしていろとのことだ」

 そうじゃあひとまずは安心だねと言い残し、デュノアさんは先に帰ってしまった。

 

 二人きりになってしまった。見舞いにきたは良いが何も話すことがない。

 決まり文句の体調はどうってのもデュノアさんに先に言われてしまったし、くそう自分のボキャブラリーのなさがうらめしい。

「結局タッグマッチは中止になったよ」

 となんとか搾り出す――そういえば、前回のイベントも中止になったなあ――も彼女からはそうかと淡白な反応しか返ってこなかった。

 失敗したデュノアさんと一緒に出て行けばよかった! かといって話しかけちゃったし今から出て行くのはあきらかにおかしい。

「貴様には悪いことをしたな」

「な、なにが?」

 あれこれ考えているさなかであったため、少しどもるったのが分かる。窓から夕日が射して来てくれるので顔が羞恥で赤くなったものとは判別できないだろう。きっとそうであってほしい。

「試合を中止にさせてしまったこと、結果的に優勝出来なかったことについてだ。優勝したい、シャルロット・デュノアにそう言っていただろう」

 さっきの言葉を彼女への非難と捕らえたのだろうか? そんなつもりは毛頭なかった。あわてて訂正しようとするも続けられた言葉に唖然とする。

「織斑一夏と付き合いたかったのだろう?」

 彼女とすごしたのはごく短い時間だが冗談なんて言ったこともなかった。これはつまり本気で行っているのだろうか?

「クラスの奴らが言っていた、タッグマッチで優勝すれば織斑一夏と付き合えると。貴様は同性愛者なのか?」

「色々と間違ってる! そもそもデュノアさんにそう説明したのは建前だってば。ボーデヴィッヒさんから誘ってくれたなんて言ったら理由も説明しなきゃいけなくなっちゃうかもしれないでしょ。そうしたらボーデヴィッヒさんが一夏のことをどう考えてるかってことも言わなきゃいけなくなる。それはまずいとおもったからそういったのであって、そういうのじゃないから」

 聞き終えた彼女はあからさまに残念な顔をする。もう、ないったいんなの?

「部下にそういうのが好きな奴がいてな、もしそうなら教えてやろうと思ったんだが……。そうか違うのか」

 そういうのやめてください。

 どっと疲れが出る。デュノアさんが言っていたのはこのことなのか?

 行動やら言葉やらいかにも軍人ですよという彼女――もちろんここが軍ではないのを理解しているのかかなりマイルドなものになっているが――、織斑先生のことを語る彼女とも幾分かけ離れていた。

 

「あー、それで一夏はどうだった?」

 このまま彼女の話にあわせていてはどうしようもなくなると、無理矢理話題を変える。

 ほんの十数分戦っただけで答えなんか出るはずもないとわかってはいるがこんな話題しか出なかった。

「あれか。それはもうどうでもよくなった。つい先ほどまで教官がいらしていて色々と話した。だからそれはもういいんだ」

 諦めたとかマイナス方面の結果ではないのだろう。そう語る彼女はあふれ出るほどの笑顔で、また熱を帯びた口調でそう答えた 。

 その色々とが気になり詳しく聞こうとするも、

「駄目だ」

 そうきっぱりと言い放った。

「あれは教官が私にだけ言ってくれた言葉だ。絶対に教えてやらんぞ」

 ぐぬぬ。そういわれると余計に知りたくなってくるじゃないか。

 とはいっても無理矢理聞きだすようなまねはしない。だって僕が彼女の立場でも同じように隠し通すんだから。

 そのやり取りを振り返っているのか恍惚とした表情になる。

 ちょうどいいと、別れの挨拶――聞こえているのかは分からなかった――をしそそくさと保健室から出て行く。

 

 

 ため息をつく。

 気になっていることが一つ。

 クラス代表戦の時のことだ。あの時僕は次があればなんて思ってしまった。

 だから今回あんなことが起きてしまったのか?

 僕の潜在的な願望が具現化してしまったなんて馬鹿なことを考えている。もしそうならもっと前からそういったことがおきているはずなんだからそんなことあるわけがない。

 つまるこれはただの偶然であって僕の自意識過剰なのだろう。むしろそうであってほしい、きっとそうだ。

 僕はわずかにこびりついている一抹の不安を吹き飛ばすかのように大きく頭を振って、偶然だ、と暗示のように何度も自分に言い聞かせた。

 

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