東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第97話 連携

「毒爪『ポイズンマーダー』!」

 俺の両手の爪から出た弾幕が妖怪たちを吹き飛ばす。

「動きにくっ!!」

 関節が曲がらない足でピョンピョンとジャンプする。どうやら、この衣装の持ち主はキョンシーらしい。まだ、直接会った事はないから断定出来ないがトールがそう言っていた。

『それにしても……増えたの』

「……ああ」

 気付けば、戦闘が始まってから1時間が経とうとしていた。その間に妖怪たちの数は200匹ほどにまで増えていたのだ。一方、こちらは3回ほど魔理沙になった。かぶり過ぎにもほどがある。

「月時計 ~ ルナ・ダイアル『十六夜 咲夜』!」

 曲が切り替わると同時に目の前に出現したスペルを唱える。素早く衣装チェンジし、またスペルを構えた。

「幻世『ザ・ワールド』!!」

 時が止まった世界で妖怪の額付近にナイフを設置。時間制限ぎりぎりまで作業を続け、時を動かす。

「――ッ!?」

 ナイフの餌食になった妖怪がバタバタと倒れて行く。しかし、数秒後には白い煙を噴出させ、生き返った。

「本当に……嫌になるよ。ラストリモート『東風谷 早苗』」

 世界の時間が止まっていてもPSPの時間は動き続けていたので時間切れ。早苗の衣装を着てスペルを唱えまくった。

 PSPは自由に変身出来ない代わりに俺の地力が水増しされる。例え、倒れそうになっていても変身すれば傷は残るが霊力や魔力はその衣装の持ち主が持っている地力に合わせるように復活するのだ。つまり、ガス欠が起きない。さすがに疲労は感じてしまうのでこのまま、妖怪たちの残機をなくすまで戦い続ける事は出来ないが。

『大丈夫か?』

「まぁね」

 さすがに1時間も戦い続けていると精神的にきつい。終わりのない戦い。

(あいつらもこれをやったんだよな……)

 霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢。俺みたいに地力が水増しされるわけでもなく戦い切ったのだ。俺が諦めるわけにはいかない。

「秘術『忘却の祭儀』!!」

 気合を入れ直し、弾幕を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくち!」

 博麗神社の居間で寝っ転がっていた魔理沙が大きなくしゃみをした。

「早苗~。何か、かける物持って来てくれー」

「あ、はいはい。ただいま」

 慌てて早苗は縁側から外を眺めていた霊夢の所へ駆け寄る。

「霊夢さん、毛布とかどこかにありますか?」

「……」

「霊夢さん?」

 何も答えない霊夢。考え事をしているようだった。

「ねぇ? 早苗」

「はい、何ですか?」

「私たち、何か見逃していると思わない?」

「どういう事?」

 首を傾げたのは咲夜だった。どうやら、霊夢にお茶を持って来たので聞こえたらしい。

「いや……あの本体って響が一撃で妖怪を倒せるって知ってたのかなって」

「知ってたらどうなるんだよ?」

 何か様子がおかしい事に気付いた魔理沙も縁側に寄って来る。

「あなたならどう思う? あなたが本体だったら?」

「私が? あのデカブツ?」

 見るからに嫌そうな顔をした魔理沙だったが、すぐに首を振って考え始めた。

「そうだな……ずるいって思うな。折角、自分の能力で蘇生出来るようにしたのに掠っただけでも倒されるなんて、てな」

「じゃあ、どうする?」

「はぁ? どうするってそりゃ倒されない為に何か対策を……おい、まさか?」

 魔理沙の呟きを聞いて早苗や咲夜、少し遠い所にいた妖夢と小町も目を見開いた。

「そう、可能性はゼロじゃない。何か、対策を練ったかもしれないわ。そうね……私なら妖怪を増やし続けるわ。倒されるスピードよりも速くね」

「でも、待ってください! 小町さんの話では響ちゃんが妖怪を倒したら幽霊たちは逃げられたのでしょう? さすがに妖怪を増やし続ける事なんて出来ないんじゃ……」

「小町」

 早苗の発言を無視して霊夢は胡坐を掻いてお茶を啜っていた小町の名を呼ぶ。

「何だい?」

「響が妖怪を倒した時の状況を詳しく教えて」

「え? そうだね……鎌に触れた瞬間、体が土になって幽霊たちがバァー、と散ったかな? そのまま、幽霊たちはどこかに飛んで行ったよ」

「……こうは考えられない? 妖怪から逃げた幽霊をまた、食べる。そして、見えない糸を通じて本体に渡し、妖怪を作りだす」

 その言葉を聞いて全員が凍りついた。

「で、でもですよ? 響さんと戦いながら幽霊を食べるのは至難の業かと……」

「戦っているチームと幽霊を食べるチームに分ければ出来るわよ?」

 否定した妖夢を更に否定する咲夜。

「幽霊たちが逃げる方向がわかっていないと無理なんじゃないのか?」

「……私なら包囲するように配置します。それなら、どこに逃げたって必ず食べる事が出来ますから」

 今度は魔理沙。しかし、早苗がその発言を叩き壊した。

「上は? 幽霊たちが上に移動すれば妖怪たちも喰えないんじゃないのか?」

「あなたは鬼ごっこをしていて近くに鬼がいたらどうする? 上に逃げる? 普通なら真っ直ぐ走って逃げるわ」

 最後は小町だったが、霊夢の的確な指摘によって一蹴された。

「まぁ、可能性の話だから……でも、本当だったら響はもう気付いてる」

「そりゃあな? 減らしたはずなのに増えてたら不思議に思うし。あいつ、結構鋭いからな。なら、何とかしてんじゃないの?」

「出来ますでしょうか? 戦っていた私たちならわかるでしょ? 絶えず妖怪たちが襲って来るんです。しかも、自分一人を狙って」

 妖夢は少し、冷や汗を掻いて言った。先ほどの戦闘を思い出しているのだろう。

「対処している暇がないって事か……仕方ない。行くか」

 立ち上がろうとした魔理沙だったが、すぐにぺたっと尻餅を付いてしまった。

「だ、大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。やっぱり、フォワードはきつかったぜ……」

 妖怪との戦闘で魔理沙と妖夢は前に出て戦っていた。やはり、霊夢や咲夜よりは消耗が激しいのだろう。

「そうね……仕方ないわ。私と早苗で何とかしてくるから4人はお留守番を……待って」

 突然、目を鋭くした霊夢は小町を見る。

「小町、何か隠してない?」

「……さすが、博麗の巫女。響の言った通りだ」

 目を少し、細めてニヤリと笑った小町は立ち上がって他の5人を眺めた。

「少し……話がある。これを聞いてからでも動けるだろ? 巫女」

「そうね。響が死なない事を祈りましょう。咲夜、おかわり」

 霊夢がいつの間にか空にしていた湯呑を咲夜に差し出す。

「私だって疲れているのよ?」

 そう、ぼやいた咲夜であったがその手にはすでに急須があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ」

 空気が変わった。不意にそう、感じ取った俺は硬直してしまう。目の前に迫って来た4匹の妖怪がそれに合わせるように吠えた。

「くそっ! 創造『神力製造術』!」

 出来るだけ神力の消費を抑えたいところだが、仕方なく地面に両手を付けて一気に後方斜め上に向かって振り上げた。構図的に仰け反るような感じだ。イメージするのはゴム。巨大で伸縮性に優れた茶色い合成樹脂。すると、肩幅ほどのゴムが妖怪たちを包む。

「ヴㇽ!?」

 突然の事過ぎて妖怪たちはどうする事も出来ずにビヨーン、と弾き返されてしまった。

『どうしたんじゃ?』

「いや……」

 どうやら、トールはこの空気の変化に気付かなかったようだ。無理もない。彼は俺の魂にいるのだから。

(でも、どうして?)

 多分、この辺りで何かがあったのだろう。しかし誰が、何を、どうして、どのようにやったのか不明。少なくとも今は何も起きていない。

「もう歌しか聞こえない ~ Flower Mix『ミスティア・ローレライ』!」

 みすちーの衣装になった俺は一気に上まで飛翔。付いて来る妖怪たちを蹴落としながら周囲を見渡した。

「……さすがだな。霊夢、早苗」

 結界だ。俺と本体を囲むようにぐるりと円柱の結界が貼ってある。直径はたったの100メートル。だが、それと対象に高さが計り知れなかった。ここからでも一番上が見えない。きっと、本体の作戦に気付いた(もしくは感じ取った)霊夢が早苗の助けを借りて作ったのだ。今はコスプレをしているので『魔眼』は使えないが、あの結界の外に妖怪がいるはずだ。だが――

(これじゃ幽霊たちも逃げれないんじゃ?)

 今は小町の鎌をなくしているので幽霊は助け出せていないが、向こうは知らないはず。結界の範囲は結構、狭い。逃げようとして移動した幽霊たちが結界に気付き、すぐに別の方向に移動する。そして、また妖怪たちに喰われる。この可能性を考えなかったのだろうか。

(いや、霊夢の事だ。何か考えているはず……俺が信じなきゃいけないんだ)

 不思議な使命感を抱きつつ、俺は翼を使ってゆっくりと地面に降り立った。

「来いよ。デブ。お前のダイエットに付き合ってやる」

 曲が変わる気配を感じ取り、俺は胸の前に手を差し出す。すぐに光り輝くスペルが出現し、宣言。

「シンデレラケージ ~ Kagome-Kagome『因幡 てゐ』!!」

 その瞬間、世界が黄金に輝いた。

 


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