東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第100話 完全体

「シッ……」

 右足に重心を乗せ、下の鎌を操作。右にいた妖怪たちを刃が捉えた。

「デスボール!!」

 それと同時にこちらに背を向けて逃げる妖怪に黒い球体をぶつけて、土にする。

 妖怪の数もかなり、減って来た。しかし、まだ50はいる。

『響、そろそろ時間じゃ』

「マジかよ」

 足元の数字は『23』。さすがにこのまま、鎌の形を変えるわけには行かない。鎌から飛び降りてその時を待つ。

 だが、今がチャンスとばかりに妖怪たちが襲って来る。それを『死霊』で牽制。

「死神『フォース・デスサイズ』!」

 鎌は回転したまま、形が変わって行く。3枚だった刃が4枚に。だが、それ以上に目立つのが柄だ。柄と刃の幅が同じ。つまり、柄の役割を果たしていなかった。その代わり、刃が大きくそして今まで以上に鋭利になっている。まるで、風車のようだ。しかし、俺は戸惑っていた。持つ場所がないのだ。

『その輪っか、何かを固定できるようになってないかい?』

「輪っか?」

 小町のアドバイスで輪を観察すると輪の中にも輪が生まれていて4本の棒がそれを支えていた。まるで――。

「……よし」

 ふわふわと空中に漂っていた『死神』の輪に腕を突っ込んだ。すると、内側の輪が俺の手首の大きさにフィットするように小さくなる。そして、同時に4枚の鎌の刃が同じ方向――前を向いた。その姿はもう、鎌とは言えない。

「爪……」

 そう、刃の先が俺の右手に集まるような構図が出来ていた。これは爪としか言えなかった。

『前、来てるぞ!』

「――」

 トールの叫びに反応し、右腕を思い切り前に突き出す。その途端、急に鎌が回転し始めた。その螺旋に巻き込まれた妖怪は断末魔を上げながら土になる。

(これじゃ……もう、ドリルだよ)

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 呆れつつも俺は目の前の敵に集中する。

「うおおおおおおおおっ!!」

 今までで一番、速い。気付けば、6匹の妖怪を切り刻んでいた。

『なるほど……リーチが短くなった分、響の身体能力を上げる力を持っているようだね』

 小町が冷静に分析している間、更に11匹の妖怪を倒す。

『ふむ……どうやら、この形態が最後のようじゃの?』

(何でわかるんだ?)

 攻撃している時にトールがぼそっとそう、呟き問いかけた。

『見てみよ。どこにも数字がないじゃろ?』

「……ほんとだ」

 鎌のどこを見ても半透明のあの数字がない。

(……でも)

 俺はあまり、納得出来なかった。最後ならば『フォース』ではなく『ラスト』と付いてもおかしくないからだ。それ以上に俺の勘がこの形態が最後ではないと言っている。

(じゃあ、何で?)

 数字がないのだろうか。俺に力がないから? それとも、他に条件があるのか?

「おらっ!!」

 答えに辿り着けなかったが今は目の前の敵に集中しよう。そして、吠えながら妖怪を全滅させた。これで残すは本体のみ。しかし、本体は怒り狂ったり叫んだりせずにそこにじっとしている。

「……」

 おかしい。俺の頭には蟠りが残っていた。本体にではなく今まで倒して来た妖怪について。最後の方に倒した妖怪は最初に倒した妖怪より吐き出す幽霊が明らかに少なかったのだ。

(食べていた幽霊の数はそれぞれだ……でも、本当にそれが原因なのか?)

 確か本体は妖怪と見えない糸で繋がっていた。それを通して幽霊の行き来が出来たはず。それを使えば、幽霊の数を均等に出来る。

「見えない糸……そうか!」

 最後の方の妖怪が吐き出す幽霊の減少の原因は本体だ。妖怪で倒す事を諦めたあいつはわざと妖怪から幽霊を奪って自分の力にしたのだ。そして――。

(あいつは黙ってるんじゃない。力を自分の体に完全に取り込もうとしてるんだ!!)

 あんなに太っていては取り込んだと言うよりくっ付けたと言える。では、あれは取り込む前の準備段階だとしたらどうだ。

「くそったれが!!」

 トップスピードで本体に近づき右手のドリルを突き出した。その時、本体の口がニヤリと歪むのが見える。

「ッ!?」

 突然、本体が光り輝いて攻撃を俺の体ごと弾き飛ばした。あまりの衝撃に地面を何バウンドかする。

「がっ……」

 木に背中を叩き付けて何とか止まる事が出来た。しかし、ダメージ量が凄まじい。霊力で傷を治すが痛みなどはすぐに引いてくれない。フラフラしたまま、立ち上がって前に目を向ける。そして、目を見開いた。

「……」

 女の子だ。5歳ほどの白髪の長い髪をした女の子がこちらを見ているではないか。しかし、あの場所には本体がいたはず。つまり――。

『『響!! 避けろっ!?』』

「え――ッ」

 気付くと俺は地面に倒れていた。痛みは感じない。いや、違う。痛みを感じる暇もなく倒されたのだ。

「う、あ、あぁ……あああああああああああああああああああああッ!?」

 遅れてやって来る激痛。体が言う事を聞かず、その場で痙攣を起こし始めた。

『あやつ……響の右肩、左膝、胸、腹に1発ずつパンチを入れたぞ』

『速すぎる。今の響じゃ太刀打ち出来ないほどに』

 頭の中で二人が冷静にそう呟いたがそれどころではなかった。右肩は脱臼を起こし、左膝は関節が外れている。更に胸――肋骨が折れ、肺に突き刺さっているし腹からは血が出ている。貫通はされていないが腹の皮膚が破けたに違いない。

【どうして……】

 悶え苦しんでいると直接、頭に届く女の子の声。それからすぐに衝撃。

「がッ……」

 後方に吹き飛び、また木に背中から叩き付けられた。

【どうして! 皆を……皆をどこにやったの!?】

「な、に……が」

 霊力を流して傷を癒そうとするがすぐに側頭部に蹴りを入れられる。今度は小さな雪山に頭から突っ込んだ。

【あんたが皆をどこかにやった!! その鎌で皆を吹き飛ばした!! せっかく、せっかく仲良くなれたのに!?】

 そう言えば、この戦闘中にも何度か聞いた声。

(どこかに? 皆?)

 雪山から何とか脱出し、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

「お前、が……捕まえた、んじゃない……のか?」

【違う! 私は皆を捕まえたんじゃない!! 皆が私に声をかけてくれたんだ!!】

「声?」

 前を見ると女の子は俯いていた。

【私はずっと、独りだった。寂しかった。そんな時、皆が私に近づいて来てくれたんだ!!】

 その悲鳴と同時に俺の魂に凄まじい量の感情が流れて来た。『寂しさ』、『悲しみ』、『孤独感』……そして、皆と仲良くなった『喜び』。

「だからって……」

 やっと、傷が治った。しかし、今までの戦闘で蓄積された疲労感や痛みで足がまともに動かない。でも、口は動く。それだけでも言いたい事は言える。

【何?】

「だからって!! 幽霊を手当たり次第に喰っていいわけじゃない!? 確かにお前に寄って来た魂もいたかもしれない。けど、他の魂が同じってわけじゃないんだ!!」

 立ち上がった俺を見て目を細める女の子。

【うるさい!! 私は皆とただ、お喋りがしたいだけなんだ!!】

 もっと、遊んでいたいと駄々をこねている子供のような言い方だ。まるで、本当の5歳児のようではないか。

「なら、俺が喋ってやる!!」

 気付けば、そんな事を言い放っていた。

【ッ!?】

「俺がお前の話し相手になってやるよ! 遊び相手にもなってやる! 他にもここにはたくさん、人がいる。生きた人だ! 幽霊だって確かに魂はある。けどな。幽霊はもう、死んだ人間――つまり、役目を終えて次の人生に向かっていく奴らなんだ!! だから、お喋りしたいからって引き止めちゃ可哀そうだろうが!!」

【う、うるさい! うるさいうるさい!! うるさああああああああい!!】

 女の子は首をぶんぶんと横に振って否定する。

「逃げるな!!」

 『死神』の力を利用して、一瞬で女の子の前まで移動し、立ち膝を付いてその肩を掴みながら俺も叫ぶ。

「お前の過去に何があったのかはわからない。人間にいじめられたのかもしれない。でもな? 生きている人間は全て、そう言う奴らじゃないんだよ! 優しい奴だっているんだ!! お前はすぐにでもその寂しさから抜け出せるんだ!!」

【……う、うぅ。あ、あああああああああああああああああああああああああああああッッ!!?】

 顔を歪ませたまま、女の子が苦しみ出す。見れば女の子の体が一瞬だが、ブレたような気がする。

『まずい! 響、その子から離れろ!』

「な、何で!?」

 小町の声に反論する。

『あんたの言葉でその子の魂が揺らいだ。そして、完全に取り込んだはずの魂をコントロール出来なくなって暴走しようとしているんだ!!』

「――ッ!?」

 目の前で胸を掴んで悶え続ける女の子。

【た、すけて……苦しい、よぉ。おねーちゃん……】

 涙を流しながら俺を見てそう女の子は呟いた。この顔、どこかで見た覚えがある。いや、この子じゃない。似たような状況で同じような感情を抱いた別の女の子が過去の俺に向けた顔。

 

 

 

 ――パチンッ

 

 

 

 その言葉を聞いて俺の中で何かが起きる。パズルの最後の1ピースをはめたような感じ。

「……俺は男だ。【魂喰者】」

 呟いた俺の背中に純白の翼が生えた。

 




ものすごくどうでもいいこと言いますが、今日私の誕生日だったりします。
二十歳になりました☆

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