東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第102話 魂喰者

 ゆっくりと目を開く。体は上ではなく横を向いていたので襖から漏れる日差しで目が眩んだ。

「ん……」

 体がダルイ。昨日、無茶し過ぎたようだ。そんな体に鞭を打って布団から這い出た。

「おはよう」

 目をごしごし擦っていると俺が寝ていた布団から霊夢が顔を出して挨拶して来る。

「あ、れ? 霊夢?」

 そうか、ここは博麗神社だった。魂の中で気絶した俺を霊夢がここまで運んだ、と小町から教えて貰ったのだ。

「ほら、お寝坊さんのお昼ご飯なら居間に置いてあるから食べちゃって」

「あ、ああ……でも、何でお前はそこにいるんだ?」

「え? 魔理沙が私の布団を使っちゃってて」

「なら、そっちに入ればいいだろうに」

「魔理沙、寝相悪いのよ」

 だからって男である俺の寝ている布団に入って来なくてもいいだろうに。霊夢は俺が男だって知っているはずだし。

「もう、何も言うまい」

「ありがとう」

「いえいえ。じゃあ、行って来る」

「私も行くわ」

「はいはい……ん?」

 待て。俺のお昼ご飯を用意したのは誰だ? 今まで寝ていたはずの霊夢が何故、それを知っている?

(勘か……)

「勘よ」

「人の思考を読むな」

「あら、それは失礼」

 こいつは変わらないな、と呆れた。

 

 

 

 

 

 

 

「おう。元気になったみたいだな?」

「魔理沙? 何でここに?」

 居間で俺たちを迎えたのはご飯粒を口元に付けた魔理沙だった。普通なら昨日の段階で帰っているはずなのにわざわざ、遊びに来たのだろうか。疲れているのに。

「いや、泊まった」

「あ、霊夢が言ってたな」

 俺の疑問は一言で解決した。

「……てか、お前! それは俺の飯じゃねーか!!」

「おっと、少し借りてたぜ」

「消費する物は借りる事は出来ないぞ……仕方ない。霊夢、台所借りる」

「いいけど……ねぇ? 響」

 お腹が空いていたのですぐにでも作りたかったのだが、霊夢の方を見る。霊夢は少し、不思議そうに俺の腰を見て言った。

「それ、いつまで付けてるの?」

「それ?」

 下を見ると俺の腰に何かが巻き付いていた。いや、抱き着いていたと言うべきか。

「うおっ!?」

 気付かなかった。小さな手が俺の服をギュッと掴み、落ちないように頑張っている。

「え? 誰? くそ、後ろが見えない。霊夢、魔理沙。引き剥がすの手伝って!」

「えー? 面倒」「面倒ね」

 思い切り嫌な顔をする魔理沙とすまし顔で霊夢。

「魔理沙? それは誰の飯だ?」

「ん? 響のだぜ」

「よし。全く、反省していないようだから今からお前の家に行ってパチュリーに本を返すのを手伝っ「仕方ないな! 手伝ってやるぜ!」

 冷や汗を掻いたまま、魔理沙が立ち上がる。

「霊夢。何か喰いたい物はないか? 今まで泊めてくれたお礼に何か作ってやる」

「それは本当? そうね……美味しい物が食べたいわ」

「よし、来た……おっと、でもこいつがくっ付いたままだと作れないや。我慢してく「まぁ、偶にはこう言うのも悪くないわね。手伝ってあげるわ」

 ちょろいもんだ。

「いいか? 俺はこいつの手を何とかするから外れた瞬間に引っ張れ」

「「了解」」

「行くぞ……ぐぬぬぬ」

 外れない。かなり、力強く握っているようだ。しかし、手は見るからに子供。これほどまで握力があるとは思えない。

(まぁ、幻想郷に常識は通用しないんだけどな……)

「二人とも。構わず、引っ張れ。外れない」

 俺の言葉に頷いた霊夢と魔理沙は背中に手を伸ばし、抱き着いている子を引っ張った。

「こ、こいつ……強情な奴だな」「頑張れー」

「霊夢。お前が頑張れ」

「やってるわよ?」

「いや、ここからでもわかる。お前、その子の服を摘まんでいるだけだろ」

「あら? 急に鋭くなったのね」

 意外そうに言う霊夢。もう、こいつの事は放っておこう。

「魔理沙。同時に行くぞ」

「おう」

「「せーのっ!!」」

 同時に力を込める。すると、少しずつだが、手が離れて行く。

「もう、少し……」

「うおおおおおっ!!」

 魔理沙が大声を上げて力を込める。

「おっと」

 やっと、離す事に成功。振り返ると魔理沙の腕の中に眠っている【魂喰者】がいた。しかし、昨日と違う所がある。

「髪が……黒い?」

 そう、白髪だったあの長い髪が黒髪になっているのだ。

『どうやら、魂融合が解除されたのが原因らしいの』

(魂……融合? 魂同調と何か違うのか?)

『違うわよ。魂同調はお互いの力を足し算する事なの。で、魂融合は相手の魂を自分の魂に取り込んで自分の力にしてしまう』

「ふ~ん……ん?」

 よくわからなかったので適当に相槌を打つと【魂喰者】が目を覚ました。眠たそうに周りを観察し、俺の姿を捉える。

「ふ、ふぇ……」

「「「?」」」

 途端に口をわなわなさせた。俺と霊夢、魔理沙の3人は首を傾げて様子を伺う。

 

 

 

 

「びええええええええええええええん!!!」

 

 

 

 

「うおっ!?」「な、何よ! これ!?」「み、耳があああ!?」

 爆音とも言える大声で泣き出す【魂喰者】。たまらず、耳を塞ぐ俺と霊夢。しかし、魔理沙だけは【魂喰者】を抱き抱えている為に悶え苦しんでいた。

「こ、【魂喰者】! 俺はここにいるぞ!!」

「……」

 俺の叫びが聞こえたのか【魂喰者】は絶叫するのをやめて涙を流しながらこちらを見つめていた。

「お、おにーちゃ~ん……」

 そして、魔理沙の腕から脱出し、俺の胸に飛び込んで来る。そのまま、ギュッと俺に抱き着いた。しかし、力があまりにも強すぎて俺の背骨が簡単に折れてしまう。

「みぎゃああああああああああああッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ? 霊夢」

「何?」

「状況を説明してくれ」

「背骨が折られた貴方は気絶し、そのままその子も眠りについたのよ」

「いや、それは見ればわかる。でも、今度は腕の上から抱き着かれて身動きすら取れないんだけど……助けてください」

 博麗神社の居間で目を覚ました俺は後ろでお茶を啜っているであろう霊夢に助けを求めた。因みに魔理沙はもう、帰ったようでその姿を見つける事が出来ない。

「私には無理」

「じゃあ、誰が出来るんだよ!」

「貴方」

 俺を指さす霊夢。

「はぁ? 動けないって言ってんじゃん」

「動けなくても言葉があるでしょ?」

「……なるほど」

 早速、俺の胸に頬を当てすやすやと眠っている【魂喰者】に目を向ける。それにしても戦っていた時よりも幼く見えるのは気のせいだろうか。

「おい。起きろ」

「ん」

 少しだけ頭を動かしたが起きない。

「起きろって」

 仕方なくもう一度、声をかけると唸りながら【魂喰者】は目を開けた。

「にゅ……ん?」

「おはよう」

「お、はよう……」

 大きな欠伸をする幼女。本当に5歳児にしか見えない。

「そろそろ、離してくれるとありがたいんだけど?」

「や」

 一言ではなく一文字で断られた。

「このままじゃお兄ちゃん、動けないんだ」

「どこかに行くの?」

 急に目をうるうるさせて俺を見上げる。

「く……」

 凄まじい破壊力。何とか目を逸らさずに【魂喰者】に話しかけた。

「大丈夫。どこにも行かないから。少し、ご飯を作って来る」

「ごはん?」

「おう。お前も食べるか?」

「……うん!」

 元気よく頷いた5歳児は俺から離れる。安堵の溜息を吐いた後に立ち上がる。

「じゃあ、私も」

「……はいはい。食材、勝手に使うぞ」

「どうぞ」

 その前に望に連絡しておこう。やっと、帰られると思うと嬉しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい。あ~ん」

「あ~ん」

 食材の関係(ご飯と人参、玉ねぎ。後、椎茸のみ)から遅めのお昼はチャーハンになった。

「……あのさ?」

 ジト目で霊夢が俺を睨む。言いたい事は分かっている。

「皆まで言うな。これ以上、鼓膜にダメージを与えたくないだろ?」

「おにーちゃん」

 胡坐を掻く俺の上に座っている【魂喰者】が顔を上げて不満そうにそう呟く。

「はい、あ~ん」

「あ~ん」

 俺は幼女に餌を与えていた。食べようとしたら【魂喰者】がお願いして来たのだ。最初は断ったのだが、また泣きそうになったので慌てて頷いた結果である。

「私にもすれば許すわ」

「それぐらいなら……って、いやいや!!」

 幼女がチャーハンを一生懸命、食べている間に霊夢と会話していた。しかし、どんどん会話の方向が変な方へ向かっている。

「あ~ん」

「……あ~ん」

 前にいた霊夢が口を開けたので仕方なく、チャーハンを口に放り込んだ。

「あ! おにーちゃん!! 私にも!!」

 すぐに【魂喰者】が頬を膨らませる。何故かそれを見てニヤリと笑う霊夢。

「あああああ!! もう、何でこんな事になったんだよおおおおおおおおおお!!!

 俺の叫びは空しく博麗神社に響いただけだった。

 


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