東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第11話 妖怪の特性

 姿勢を低くし妖怪たちに突っ込もうとした矢先、曲が終わってしまう。

(早すぎるだろっ!?)

 橙の曲は短かったらしい。すぐに次の曲が再生された。

 

 

 

 ~広有射怪鳥事 ~ Till When? ~

 

 

 

 服が輝き、今度は緑のワンピース。腰と背中に1本ずつ鞘を装備。頭には黒いリボンが飾られていた。近くに白い幽霊みたいなのが浮いている。

「これって……剣?」

 鞘は片方が長く、片方が短い。

「――ッ!」

 妖怪たちは目を見開く。そりゃそうだろう。変身したあげく剣まで持っているのだ。

(斬るつもりはないけど……)

 素人がこんな危ない物を振り回したら自分にも危害が及んでしまう。

「ばうっ!?」

 一匹の妖怪が突っ込んできた。殺れる前に殺やると言った感じか。

「くっ!?」

 剣を2本、所持しているから動きにくい。すぐに追いつかれてしまった。

(くそったれ!)

 何の考えもなしに腰の剣を鞘から抜き、横に振った。わかる人にはわかるだろう。居合いだ。

「――ッ?!」

 妖怪は無残にも真っ二つに斬られてしまった。俺の手によって。

「あ……」

 顔に返り血がべっとりと付着する。冷や汗が滝のように出た。

(俺が……やったのか?)

 目の前に佇む妖怪の亡骸。俺が持っている剣から血が垂れる。

「あ……ああ……」

 俺が殺ったのだ。自分を守るためとはいえ、自らの手でこの妖怪を殺めたのだ。

 手に力が入らず、剣を落としてしまう。

「っ!」

 チャンスと思ったのか妖怪が俺を目指して走り始める。

(に、逃げなきゃ……)

 頭ではわかっているはずだが、足が動かない。

 一匹の妖怪が大きく口を開ける。このままでは噛み殺されてしまう。先ほどとは別の汗が流れた。

「危ない!!!」

 その時、上から大声が聞こえ炎の弾が目の前の妖怪を吹き飛ばす。風圧でイヤホンが抜けてしまい、部屋着である半そで、短パンに戻った。

「大丈夫か!?」

 呆然としていると上から一人の少女が降りて来て、放心状態の俺の肩を揺さぶる。

「あ、ああ……」

「ったく……妖怪が攻めて来たら家の中に入ってなきゃダメだろ!」

(この服は……)

 下は赤いもんぺにサスペンダーが付いているズボンに上は白いシャツ。髪には白っぽいリボンが付いている。そう、さっきのコスプレだ。

「ん?」

 少女が辺りを見渡し、目を細める。目線の先には俺が倒した妖怪たちがいた。

「お前の他に誰かいたのか?」

「いや……いないけど」

「むぅ? じゃあ、誰が……? まぁ、いいか」

 自己解決したらしい少女はこちらに向き直る。

「ここは私が何とかするから早く逃げろ」

「え?」

「だから早く逃げろって!」

 叫んで俺に背を向ける。

(逃げろ?)

 嫌だと思った。炎を出せるからって女の子に戦わせたくない。戦わせるのだったら俺も一緒に戦いたい。そう思った。そう思っているのだがさっきの事で体が言う事を聞かない。

「来い! 妖怪!」

 少女が両手に炎を灯し、挑発する。妖怪たちは一瞬、戸惑っていたが一斉に少女に向かって走り出す。

「へっ! それじゃあ、私には勝てないよ!」

 そう言って少女は背中から炎の翼を出し、飛翔する。

「これでも食らえっ!!!」

 少女の手から大きな炎の弾を噴出し妖怪たちを燃やす。

(す、スゲー)

 何も出来ずにただ目の前に景色を見ていた俺の前で妖怪は黒こげになって地面に倒れた。

「ふぅ~」

 少女がため息を吐きながら降りて来る。

「まだいたのか? 逃げろって言ったのに」

 呆れた顔で少女が呟く。しかし、俺は何も答えない。少女の後ろでとんでもない事が起きているからだ。

 

 

 

 バリ……バリバリ……

 

 

 

 倒れている妖怪たちの背中が割れているのだ。そして、生き残った妖怪が牙を使って皮を剥いでいる。

(なんだ? あれ?)

 例えるなら脱皮か。

(脱皮?)

「まずい!!!」

 急いでイヤホンを装着する。

「お、おい!? どうした?」

「後ろだ! バカッ!?」

 急に俺が行動を起こし始めたので少女が慌てていた。忠告するがその時には妖怪たちが抜け殻から飛び出し少女に襲いかかる。

「なっ!?」

 少女も気付いたがすでに遅かった。もう妖怪がそこまで来ているのだ。

(間に合え!)

 PSPを操作し音楽を再生した。

 

 

 

 ~春色小径 ~ Colorful Path ~

 

 

 

 服が輝き、霊夢の巫女服になった。本能的に懐からスペルカードを取り出す。

「夢符『封魔陣』!」

 俺の体から放出された衝撃波によって妖怪たちが吹き飛ばされた。だが、まだ向かって来る。

(もう1枚!)

「霊符『夢想封印』!!!」

 今度は八つの弾が出現し的確に妖怪にヒットした。追跡弾らしい。

「……」

 少女は信じられない物を見るかのように俺を見ていた。

「あ……体が」

 気付いた時には自由に動けるようになっている。

「お、お前! 今、何をした?」

 少女が詰め寄ってくる。

「普通にスペルを使っただけだけど……」

「そのスペルは霊夢のじゃないか! しかも、服装まで……一体、どうなってるんだ!?」

(俺だって知りたいよ)

「そう言う能力らしいぞ?」

 そう言いつつスぺルカードを取り出す。

「え?」

 少女が俺の行動を見て首を傾げる。

「霊符『夢想封印 散』!」

「キャウンっ!?」

 少女の後ろに迫っていた妖怪たちを弾が薙ぎ払った。

「今はこっちが優先だろ?」

「……それもそうだな」

 少女が俺に背を向ける。それと同時に俺も少女に背を向けた。

「藤原妹紅」

「え?」

「私の名前だ。お前は?」

「……音無響」

「そうか、よろしく。響」

「おう」

 妹紅は俺の背中を、俺は妹紅の背中を守る。

(この方が落ち着いて戦えるな)

 妹紅は強い。戦いを見ていてわかった。俺も足手まといにならないように気を付けなければならない。

「この妖怪たちの特性がわかった」

 妖怪が攻めて来ない事を確認し口にする。

「特性?」

「ああ、あいつらは倒されれば倒されるほど強くなる」

 さっき俺が真っ二つにした妖怪も復活している。それに妹紅に突進した妖怪たちはぐっとスピードが上っていたのだ。

「じゃあ、どうすれば……」

「復活しない方法がある……多分」

「どういう事だ?」

「復活するには他の妖怪が手伝わないといけないらしい。だから一度の攻撃で全ての妖怪を倒すしかない」

 ここまで話して妖怪が突っ込んできた。こちらの曲も終わり、次が再生される。

 

 

 

 ~東方妖々夢 ~ Ancient Temple ~

 

 

 

 緑のワンピース。腰と背中に一本ずつ鞘が差してあり、頭には黒いリボン。近くに白い幽霊がいる。

(またこれか!)

 倒しても復活するとわかっていても剣で攻撃する気になれない。仕方なく剣を抜かずに鞘に入ったままの状態で妖怪を殴る。

「厳しいな……」

 妹紅も炎を飛ばし妖怪を寄せ付けない。

「てか、普通に無理」

「全く、諦めるのが早すぎるだろ? あ、また服が変わった」

「こういう能力なんでね。もっと人がいれば何とかなるんだけど……」

「……よし!」

 妹紅は数秒間考えた後、右手の平を上に向けた。

(は?)

「いっけ!」

 するとどでかい炎の柱が飛び出す。

「うわっ!?」

 吃驚して声を上げてしまった。白い幽霊もビクッと震える。

「これでよし」

「何したんだよ」

 妖怪を殴りながら聞く。

「まぁ、見てなって」

「……」

 意味が分からず、肩を竦めると幽霊も動く。

(……)

 試しに幽霊に『前に行け』と命令してみた。

「おお!」

 すると幽霊は指示通り、前に進み妖怪にぶつかる。俺にも少し衝撃が来た。

(このコスプレか……)

 幽霊は俺の意のままに操れて、幽霊と神経が少しだけ繋がっているようだ。

(これなら……)

 ある事を思いつき、口元が緩んでしまった。

 


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