東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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お詫びのもう一話です。
明日からはいつも通りの更新に戻ります。


第113話 夜雀

 森に入ってから10分ほどが過ぎた。そこでやっと、自分の行動に疑問を持つ。もし、このまま帰れなかったら雅ちゃんと奏楽ちゃんに心配をかけてしまうのだ。

 今更、冷静になった私は立ち止って先ほどの亀裂まで戻ろうとした。だが、その時上から誰かの声が聞こえる。声質的に女の子だ。

「おーい!!」

 その人にここら辺の事を聞こうと考えたので大声で呼びかけてみる。

「ん? 誰?」

 どうやら、私の声が届いたらしい。木の上から女の子が飛び降りて来た。

「……え?」

 その姿を見て目を見開く。茶色の服。特徴的な帽子。ピンクの髪。背中から生えた翼。そう、『東方project』に出て来るミスティア・ローレライそのものだった。

「あれ? この辺に人間がいるのは珍しいね?」

「あ、はい。外来人です」

 『幻想入り』と言う東方の2次創作で外の世界から幻想郷に迷い込んだ人間の事を『外来人』と呼ぶらしい。目の前に現れた女の子がミスティアによく似ていたのでそう答えてしまった。

「へぇ~? なら、あんたを食べても誰も文句言わないよね?」

「へ?」

「大人しく食べられてね?」

「――ッ!?」

 その時、本能的に右に飛び退く。それと同時に私がいた場所に穴が開いた。

「あー! 避けないでよ!」

(何!? 何が起きたの!?)

 あの穴を開けたのは女の子だ。文句を言っていたし。だが、どうやってやったのかわからない。あの子との距離はだいたい4メートル。腕を伸ばしても届かないだろう。

「ま、まさか……」

 だが、あの子が本物のミスティア・ローレライだったらどうだ。指先からエネルギー弾を撃つ事が出来るはずだ。この距離で地面に穴を開ける事なんて他愛もない。

(じゃあ、ここは!)

 東方ファンなら一度は考えた事があるだろう。『幻想郷に行ってみたい』。私が行きついた答えが本当ならば、ここは――

 

 

 

「幻想郷!?」

 

 

 

 私は幻想の楽園に迷い込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 どこだろう。体が動かない。声もでない。

 

 ――ここは貴方の魂の中です。

 

 あ、魂喰異変の時の……心にいた人。

 

 ――はい、心にいた人です。お久しぶりですね。

 

 ああ……てか、魂の中って言ったけど吸血鬼とかは?

 

 ――ここは私の部屋です。貴方の魂部屋は呪いに侵食されてしまったので。

 

 呪い?

 

 ――はい、貴方が飲んだあの薬に細工されていたらしいのです。

 

 マジか……外の状況はわかるか?

 

 ――紫と博麗の巫女、あと緑色の髪をした巫女さんが協力して呪いの効力を抑えています。

 

 霊夢と早苗か……紫は知ってるんだな。

 

 ――え? まぁ、はい。

 

 それにしても呪いか……薬を経由してかけたんだろうな。

 

 ――紫もそのような事を言ってました。そして、今のところどうする事も出来ないらしいです。

 

 ……だろうな。呪いの効果ってどんなんだ?

 

 ――内側から体を蝕むようです。今も少しずつですが……。

 

 そうか……後、何日ぐらいで死ぬ?

 

 ――そうですね。もって、3日。早くて明日には。

 

 うおっ……俺、ピンチじゃん。

 

 ――言葉の割には慌てている様子じゃありませんが?

 

 え? あ、ああ……何となくだけど誰かが助けてくれるような気がするんだ。

 

 ――……紫は無理だと言ったのに?

 

 いや、紫じゃない……ましてや、霊夢でも早苗でもない人に。

 

 ――勘ですか?

 

 まぁ、そんな所だ。

 

 ――私も……そう思います。

 

 え?

 

 ――ふふっ、私の勘って当たるんですよ?

 

 そうなの?

 

 ――はい。まぁ、それまで私とお話でもしましょうか?

 

 お話?

 

 ――男の娘と呼ばれてますがどう思いました?

 

 いきなり、変な事を聞くんじゃねーよ!!

 

 ――そうですか? なら、最近あったエッチな事は?

 

 ああ!! お前、あれだろ! 俺とまともな会話をするつもりないだろ!

 

 ――はい。

 

 誰かああああ! 早く、呪いを解いてくれええええええええ!!

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

「逃げないでよ!」

「そんな言ったって!?」

 ミスチーが撃つ弾幕が地面を抉り、砂埃が舞う。その中を無我夢中で走り抜ける。

(ど、どうしよう!)

 あれから私は逃げ続けていた。それをミスチーはしつこく追って来る。弾幕を撃ちながら。あれに当たれば痛みで動けなくなり、喰われてしまうだろう。それを阻止する為の策を逃げながら考えていた。

(このまま走って逃げる……のは体力的に無理。向こうは飛んでるし。迎え撃つ……のも駄目だ。攻撃手段がない。なら――)

「ミスチー!」

 走りながら私は飛んでいる夜雀の名を呼ぶ。

「なっ!? あんたもその名前で呼ぶの!?」

 どうやら、他の人にも『ミスチー』と呼ばれた事があるようだ。

「外の世界じゃこっちで呼ばれる方が多いの!」

「え!? 本当に!?」

 因みにこの会話中も向こうは弾幕を撃ち続けている。早くしないと撃ち殺されてしまう。

「弾幕ごっこで勝負しよう!」

「へ?」

 急に弾幕が止んだので振り返って見てみるとミスチーはキョトンとした表情を浮かべていた。

「こういう時は弾幕ごっこで決めるのが幻想郷ルールでしょ!? どうなの!?」

「なるほど……やっぱり、私の事を知ってるって事は幻想郷の事も知ってるんだね。いいよ! やってやろうじゃない!」

 まず、第一段階――弾幕ごっこに持ち込む事に成功する。

「じゃあ、スペル数は2枚。被弾もしくは全部のスペルをブレイクされたら負けでどう?」

「うん。オーケー! じゃあ、行くよ!」

 第二段階。ルールを決める。クリア。後は――。

(被弾せずにスペルをブレイクする!!)

 誰もが無謀だと思うだろう。相手は妖怪。こちらは人間。力の差がありすぎる。だが、私には一つ、誇れるものがあった。

 NNN(ノーミスノーボムノーショット)。東方でもかなりの技術がいる戦い方だ。それで『東方紅魔郷』のエクストラステージ以外をクリアしていた。紅魔郷のエクストラは途中でお兄ちゃんが部屋にやって来てから私は東方をやっていないのだ。それでもミスチー相手ならいけるはず。

 しかし、問題がある。向こうはゲーム。指だけで自機を動かせる。しかし、こっちは実際に自分の体を動かさなければいけない。それにゲームは平面だったが、今からやろうとしている弾幕ごっこは弾が三次元に展開される。果たして、どれほどゲームで培って来た技術を活かす事が出来るだろうか。

「勝負!」

「あんたが負けたら大人しく私のご飯になってね!」

「なら、私が勝ったら……聞きたい事があるから教えてね!」

 そう叫んだが、一撃でも喰らえば私の死が確定するのだ。プレッシャーが襲って来る。

「まずは通常で!」

 そう宣言したミスチーは再び、弾幕を放つ。

(落ち着け……大丈夫。集中)

 自分に言い聞かせるようにそう、頭の中で繰り返して前に――ミスチーがいる方に駆け出した。

「いいの? そんなに近づいたら当たりやすくなるよ?」

「いいの!」

 離れて躱そうとすれば弾の密度は薄いがその分、広範囲に弾幕が展開される。もし、通常弾が残っている状態でスペルを使われたら薄かった密度もグッと濃くなってしまうのだ。そうすればピチュる事、間違いなし。

 ならば、ミスチーに接近すればいいのだ。近くならば弾も一か所に集まっている事が多く、躱しやすい。それに危ないと感じたら後退して安全圏に逃げ込んだ後、また前に出る事も出来る。

「む……なかなか、やるね」

 少しムスッとした顔をしながらミスチー。返答する余裕がないのでスルー。

「そっちがその気なら!」

 来る。瞬間的にそう思った。その証拠に通常弾を撃つのをやめたミスチーの手に1枚のカードが握られている。スペルカードだ。確か、ミスチーのスペルは相手を鳥目にしてその隙に弾幕を撃ち込む技だったはず。しかし、鳥目と言うのは暗い所で見えにくい目の事だ。今の時刻は午後4時半。森の中とは言え木々の隙間から太陽の光が差し込んでいる。つまり、鳥目にならない。

 だが、さすがにミスチーとの距離が近すぎたのでバックステップで離れる。

「ん? なんか戦い慣れてる感じがする?」

 ミスチーは私の行動を見て手を止めてそう呟いた。

「まぁ、ね」

 『ゲームで』、だなんて誰が言えようか。

「それに人間なら息切れしてもおかしくないよね?」

「部活で鍛えたから」

 因みに私が所属しているのはソフトボール部である。中学の3年間、ずっとやっていたので高校でも入ったのだ。練習がきついので有名である。まぁ、そのおかげでこうやって戦えているのだが。

「早く使ったら?」

 あまり興味がなさそうにしていたミスチーに向かって催促する。

「……なら、お望み通り! 夜雀『真夜中のコーラスマスター』!」

 ミスチーがスペルを唱えると大量の弾幕が私を襲った。

 


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