東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第116話 居場所

 数分間、誰も喋らなかった。妹紅さんたちは驚愕で、私は戸惑いで。

(能力か……)

 今、思えば去年の夏。東方をほぼクリアした時だ。あの時もミスチーとの弾幕ごっこのように光が見えた。そして、そこに自機を移動させると簡単に弾を躱せるのだ。あれから時々、お兄ちゃんの言葉に違和感を覚えたり相手の嘘がわかったりもした。それも能力が原因らしい。

(そんなに前から能力、持ってたんだ……)

「すまない、取り乱してしまった。えっと、君は響とはどんな関係なんだ?」

 そこで慧音が正気に戻り、質問して来た。

「はい、妹です。名前は音無 望と言います」

「そうか……君が妹さんか。よく、響から話を聞いていたよ」

「そ、そうですか……」

 少し、恥ずかしくなって誤魔化すように味噌汁を啜る。

「丁度よかった。実は1週間ばかり響を見かけてなくて心配してたんだよ。今、あいつどうしてる?」

 そう言いながら妹紅さんが安堵の溜息を吐いた。

「え?」

「……まさか、望も響の居場所がわからないのか?」

 どうやら、妹の私ならお兄ちゃんが、どこにいるか知っていると思ったらしい。いや、それよりもだ。

「お兄ちゃん、ここに来てないんですか?」

「「お兄ちゃん?」」

 しかし、私の問いかけより何故か『お兄ちゃん』に反応する慧音さんと妹紅さん。

「い、いや、お姉ちゃんの間違いだろ?」

「は? お兄ちゃんは男ですよ? 本人から聞いてないんですか?」

「「……ないない」」

 何故かは知らないが女にしか見えない兄は2人の誤解を解いていないようだ。

(多分、紫に口止めされてるんだろうね……)

 幻想入りの原因はほぼ八雲 紫にある。ならば、外の世界と行き来させる代わりにここでは男である事を秘密にしろ、と言われたに違いない。理由は簡単。“そうした方が面白そうだから”。

「何言ってんの? 響は男だよ?」

「「「え?」」」

 てっきり、ミスチーもお兄ちゃんの事を女だと勘違いしていると思っていたので聞き返してしまった。

「響から聞いたもん」

「……因みにお兄ちゃんに会ったのっていつ?」

「そうだな……脱皮異変前だったと思う」

「脱皮異変?」

 ゲームに登場していない異変だ。

「ああ、私と妹紅が響と初めて会った時に起きた異変だな」

「そうそう。普通の人間だと思ってたのに強かったよ」

 その時の事を思い出しているのか妹紅さんが苦笑しながら呟く。

「へぇ~。お兄ちゃん、強いんですか?」

「異変を解決できるレベルだ。脱皮異変、狂気異変。そして、魂喰異変を解決して来た。まぁ、狂気異変は響自身が起こした異変だけど」

 慧音さんが丁寧に説明してくれた。

「お兄ちゃんが異変を?」

「ああ……何やら、紅魔館の悪魔の妹が原因らしいが詳しい話を聞かせてくれないんだ」

(フランが原因?)

 フランドール・スカーレット。私が一番、好きなキャラだ。ここに来たのなら一度は会ってみたい。

「まぁ。脱皮異変の時は自己紹介どころじゃなかったからな……」

「そうなんですか?」

「ああ、私なんか戦闘中に会ったし」

 なるほど、それならばお兄ちゃんは自分が男だって言えなかったのも頷ける。

「私からも一ついいかな?」

「あ、はい。どうぞ」

「その服は響と似ているけど何でなんだ?」

 慧音さんの言葉からしてお兄ちゃんは今でも高校の制服で幻想郷に来ているらしい。

「これ、外の世界の高校……寺子屋みたいな場所の制服なんです。お兄ちゃんと同じ学校なので制服も同じなんですよ」

「でも、響はズボンで望はスカートだよ?」

 ご飯を食べながらミスチー。

「お兄ちゃんのは男用。私が着ているのは女用なんです」

「服で区別、付けてるんだな」

「そんな感じですね」

「……で、響はどこに?」

 ミスチーが首を傾げながら皆に問いかける。

「「「あ……」」」

 世間話に夢中になっていてお兄ちゃんの事を忘れていた。

「望の所に帰って来ていない。そして、人里にも来ていない」

 慧音さんは顎に手を当てつつ、呟く。

「私もお兄ちゃんを見たのは1週間前が最後です」

「ふむ……時期も同じか」

「これは何かに巻き込まれたって考えていいかも」

「……あ」

 私、慧音さん、ミスチーが唸っていると妹紅さんが何か思い出したようだ。

「どうした、妹紅?」

「え? あ、いや……この1週間で変わった事がないか考えてたんだけど今日、輝夜に喧嘩を売りに行ったら輝夜本人に断られたなって」

「また、お前は殺し合いに行ったのか?」

「いや、暇だったから」

 妹紅さんの発言に溜息を吐く慧音さん。

「それより、いつもは輝夜さん以外の人が断るんですか?」

「ああ、普通なら兎やら薬師が出て来るんだけど……『今日は忙しい』って」

「……お兄ちゃんは永遠亭にいるんでしょうか?」

 もし、お兄ちゃんが事件に巻き込まれ、大けがを負っていたなら輝夜さんが断る理由になる。お兄ちゃんを治療するのに精いっぱいで永琳もウドンゲも出て来られないかもしれないのだ。

「「「ない」」」

 だが、私以外の3人が同時に否定した。

「そ、そこまで言い切れるんですか?」

「言い切れる。多分、彼はお前を心配させないように何も言わなかったと思うが実は……響、怪我をしないんだ」

「怪我を……しない? それほど強いって事ですか?」

「いや、逆に多い方だ。1か月前、私と一緒に妖怪退治に行った時なんか左腕を食い千切られていたからな」

「なっ!?」

 慧音さんはお兄ちゃんの腕を食い千切られたと言った。でも、お兄ちゃんの左腕は普通にあったではないか。混乱する私に妹紅さんが説明してくれる。

「響には『超高速再生能力』があるんだ。怪我をした場所に霊力を流すと一瞬にして治っちまうんだ。どんな大きな怪我でもな」

「つまり、響は怪我をしないんじゃない。『怪我が残らない』。その場で治してしまうから永遠亭に行く必要がないんだ」

「だ、だったら! 何か病気が!」

「望、ここの事を知ってるんでしょ? あそこの薬師の能力は?」

 呆れ顔でミスチーに言われ、思い出した。

「『あらゆる薬を作る程度の能力』……」

「そう。だから2~3日はかかるとしても薬が出来上がるのに1週間は長すぎるんだよ」

 怪我でもなく病気でもない。もし、それが正しいのなら永遠亭にいるはずがないだろう。しかし――。

(お兄ちゃんは絶対、そこにいる)

 私の能力が発動したのか確信できた。

「……お願いします。永遠亭に連れて行ってください」

「いや、だから響はあそこにはいないって……」

 妹紅さんが少し困った顔をして言う。

 

 

 

 

「私の能力がそう言っています」

 

 

 

 

「……能力?」

 目を細めた慧音さん。少しだけ空気が重くなる。

「はい、ミスチーにはわかると思うけど私は弾幕の隙間を見つける事が出来ます。それに相手の嘘も見抜ける」

「私たちは嘘を言っているつもりはないけど?」

 ミスチーはムスッとしてしまった。言いがかりをつけられたと思ったのだろう。

「確かにミスチーたちは嘘を吐いてない。でも、他にもわかるんです。タイミングとか色々……ましてや、妹紅さん」

「何だ?」

 急に話を振られた事に吃驚しているようだが、すぐに聞く態勢に入ってくれた。

「私とミスチーがムカデに襲われていた時、妹紅さんはどこから来ました?」

「え? 永遠亭の帰りだったから迷いの竹林かな?」

「なら、私たちが向かっていた方角に何があったか思い出せます?」

「……人里」

「これは偶然じゃありません。私は能力に導かれて人里に向かっていました。そして、最後に慧音さんたちが疑問に思っていた事を言い当てました」

「「「……」」」

「ここまで言えばわかるんじゃないんですか? 私には何か能力があるって」

 その一言を聞いて息を呑む3人。一気に畳み掛ける。

「それも『察知』、『読心』というかなり強力な能力です。私もさっき、気付きました。なら、“他にも能力があってもおかしくない”。例えば……『探索』」

「……君の言った事が本当なら響は永遠亭にいるのか?」

「はい」

 正直言って根拠はない。ただの勘だ。でも、この勘だと思っている事が私の能力が導き出したのなられっきとした能力と言えよう。

「……わかった。永遠亭に行ってみよう。いなくてもまた、考えればいい」

 作戦、成功。言ってしまえば、私の発言に根拠などない。全ては私の考え。それも自分でもよくわかっていない事だ。

 しかし、私はわかっていた。『こう言えば、3人は納得してくれる』と。これも私の能力なのだろうか。

「じゃあ、行きましょう!」

 急いで立ち上がり、私は部屋を出た。

「おい! 出口は分かるのか!」

「はい! 分かります!」

 後ろからミスチー、妹紅さん、慧音さんの足音を聞きながら私は廊下を歩く。確かに私は出口の場所を知らない。だが――。

 

 

 

 

 私の行き先を示すように目の前で光が輝いていた。まるで、お兄ちゃんの居場所へと導くように。

 


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