東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

125 / 543
第121話 再会

「知ってるかどうかはわからないけど慧音の言った通り俺、満月の日、休むだろ?」

「そう言えばそうね」

 仕事がある日は必ず、立ち寄るのは博麗神社なので霊夢が頷いた。

「理由は簡単。満月の日は能力が使えないんだ」

「……響ちゃんの能力が変わるのは確か、種族が人間じゃない時ですよね?」

 早苗には魂喰異変の時に説明していたのを今、思い出す。少し、話しやすくなった。また、俺の能力について説明するのは大変だから。

「そうだ。俺は人間の時にしか今まで使って来た能力は使えない。もちろん、この指輪もだ」

「まるで、私みたいに満月の日だけ体が変化するみたいな言い方だな」

 慧音がぼそっと呟く。

「慧音も満月の日に何かあるのか?」

「慧音さんは『ワーハクタク』。満月の日だけ獣人になるんだよ」

 望が解説してくれた。

「ありゃ。俺と同じ感じか……」

「え? もしかして」

 妹紅が目を見開いた。

「少し違うけど俺は満月の日だけ半吸血鬼化する。まぁ、慧音風に言えば『ワーバンパイア』かな?」

 証拠を見せる為に服の下に隠してあった翼を外に晒した(もちろん、制服を破って)。制服はすぐに再生。

「ほら、こんな感じだ」

 俺の背中を呆然と眺める皆。普通にご飯を食べているのは紫、藍、永琳、望の4人だけだった。

「因みに……満月の日、胸も変化するのよ?」

「ひゃい!?」

 スキマに手を突っ込んで俺の胸を触り始める紫。あまり、急すぎて変な悲鳴を上げてしまった。

「このっ!?」

 すぐに手首を握って胸から遠ざける。

「……」

(……?)

 何だろう。一瞬だけ紫の目が細くなった気がする。

「……」

 隣に座っていた望もそれに気付いたらしい。

「無駄よ」

「あ!」

 しかし、すぐに振り払われてしまった。

「ほ、本当に胸がでかくなるんですね……」

 望から嘘を吹き込まれた早苗がそう呟く。もう、どうにでもなれ。

「とにかく! そう言う事だから!」

 そのまま、椅子に座ってご飯を食べ始める。

「なら、今日は帰れないって事?」

 望が味噌汁を飲み干してから問いかけて来た。

「そうなるな」

「そ、そんなぁ……」

 項垂れる望。

「そこまで落ち込むか?」

 逆に『幻想郷を案内しろ』と言って来ると思っていたので拍子抜けてしまう。

「だって、やっとお兄ちゃんと雅ちゃんたちが再会できると思って……」

「あ……」

 そうだ。俺が生きている事は雅と奏楽は知らないのだ。

(スキホで電話するのもいいがそれだと奏楽には連絡できないし……よし!)

「紫、協力してくれ」

「はいはい」

 丁度、ご飯も食べ終えた。スキホを見て時刻を確認。午前8時。

「まだ、間に合うか」

 再び、立ち上がって少しだけテーブルから離れる。十分、距離を取ってから懐からスペルを取り出して宣言。

「仮契約『尾ケ井 雅』!」

 その刹那、スペルから煙が発生し、その中に人影が現れた。

「きょおおおおおおおおおお!!」

「のわっ!?」

 煙が晴れる前に人影――雅が俺にタックル気味に跳び付いて来る。何となく予想できていたので倒れはしなかったが、あまりの勢いに驚愕してしまった。

「お前っ……」

「響……響……」

 文句を言おうとしたが、俺の胸に顔を押し付けながら泣いていた雅を見て留まる。

「本当に、生きてた……よかったよぉ」

「すまん。心配かけたな……」

「本当だよ!! 今まで何してたのさ!」

 ガバッと顔を上げる雅。台詞とは裏腹に口元が緩んでいた。

「少し、な。でも、もう大丈夫だ。明日には帰れるよ」

 俺の言葉の中にあった『明日』と言う単語に違和感を覚えたのか雅が怪訝な顔をする。

「え? あ、そうか。今日は満月だから……ん?」

「――ッ!?」

 首を傾げながら自然に手を伸ばして俺の胸を揉んだ。

「うわ……何これ。まるで、本物……あ」

「雅」

 俺の声が低くなったのに気付いたのか呆然としていた雅の背筋が伸びる。

「あ、あはは……いや、そのこれはですね?」

 雅は俺の殺気に怖気づいたのか数歩、後ずさった。

「そ、その~? 何で、私の主は両手をガッチリ組んで頭の上に持って行ってるんでしょう? あ、魔力まで込めてちゃって……」

「言い残す事は?」

「……一つだけ」

「何だ?」

「とても、柔らかかっ――」

 その後の言葉は雅の頭が床に減り込む音で掻き消された。

「こらこら。あまり、壊さないでよね?」

 溜息を吐きながら永琳が文句を言う。

「あ、すまん。後で直させるから」

「お兄ちゃん……とことん、雅ちゃんには厳しいんだね」

 望の発言を無視して紫の方を見る。

「お、おにーちゃん?」

 丁度、奏楽がスキマから出ていた所だった。雅には携帯に連絡出来たが、さすがに奏楽には携帯を持たせていなかったのだ。それに今日は平日。午前8時では二人とも学校に着いている。

「ああ、おにーちゃんだ」

「ぁ、う……おにーちゃんだ。ホントにおにーちゃん……おに、ぇ、あ、ぐ」

 紫の胸に抱かれたまま、奏楽が泣き出してしまう。望や雅と違ってすぐに動けないようだ。

「ほら、おいで」

「ぅ、ん」

 紫の傍まで近づいて両腕を伸ばしながら促す。奏楽も頷いて俺と同じように両腕をこちらに差し出した。そして、ギュッと抱きしめる。

「おにーちゃん……あったかい」

「そりゃ生きてるからな」

「ホントに会えた……おにーちゃん、約束破らなかった……」

 奏楽との約束。『一緒にいる事』。俺はそれをたったの2か月ほどで危うく、破りそう――いや、もう破ってしまったのだ。少しの間でも、俺は離れてしまった。今は奏楽にとって不安になる時期。なんせ、初めて外の世界で暮らそうとしているのだ。不安にならないわけがない。そして、俺の失踪。

(しっかりしないと……な)

 俺の命は自分一人だけの物じゃない。望、雅、奏楽。もちろん、悟や今はどこにいるのかわからない母さん。あまり、深くは考えてなかったけど今回の事で思い知らされた。

「……おにーちゃん?」

「何だ――ッ!?」

 首を傾げながら奏楽が雅と同じように胸を弄り始める。

「や、め……ん」

 俺の意志とは裏腹にビクッと体が跳ねてしまった。

「あったかい……」

 どうやら、相当気に入ったらしくそれに顔を埋める奏楽。

「あ、こら……ったく」

 さすがに離れろとは言えず、苦笑する事で諦めた。

「私の時とは全く違う……」

 後ろで雅の嘆きが聞こえた気がしたが、スルー。

「はいはい……家族との再会で嬉しいのはわかるけど呆けている人もいるから説明してあげて」

 紫にそう言われて辺りを見渡すと妹紅と慧音、ミスチー。それに鈴仙とてゐに輝夜。それと何故か、橙もこちらを見て唖然としていた。

「ああ、悪い。そこで転がってるのが俺の式神(仮)でこいつが奏楽。この前の『魂喰異変』の首謀者だ」

「え? この子があの異変を起こしたのか!?」

 慧音が立ち上がって声を荒げる。早苗がトールの信仰を得る為に人里へ行ったので噂ではかなり、大きな異変になっていたようだ。慧音は人里を守る為に人並み以上に気にしていたのだろう。その異変を起こしたのがこんな小さな子なのだから驚くのも無理はない。

「まぁ、今は力を失ってるから危険じゃないよ」

「じゃあ、そこの式神は?」

 今度はミスチーがまだ床で倒れている仮式を指さして聞いて来た。

「ただの炭素だ」

「いや、本当に私の扱いひどいよね!?」

 狙い通り、俺の発言にツッコむ為に雅が起き上がる。

「あ! そうだ! 響、大変なの!」

 しかし、すぐに俺の両肩を掴んでそう叫ぶ雅。

「何が? お前の頭がか?」

「え!? どこか凹んだりしてないよね!? お願い、目を逸らさないで! はっきりと首を横に振ってよ! ねぇ!!」

 わざと目を逸らしていた俺を前後に揺らし始めた。

「まぁ、冗談は良いとして何があったんだ?」

「あ、冗談だったんだ……そうそう! 望がいなくなったの!」

「「へ?」」

 何を言っているんだ、この仮式は。望ならここにいるではないか。きっと、俺との再会から地面で伸びていたのでわかっていないのだろう。

「雅、雅!」

 俺の胸から顔を上げて奏楽が雅を呼ぶ。

「何? 奏楽、今はそれどころじゃ――」

「望おねーちゃんならそこにいるよ?」

「へ? あ……」

 雅が奏楽の視線の先を見て望を発見する。

「やっほー。雅ちゃん」

 望は硬直している雅に笑顔で手を振った。

「よ、よかった。望、幻想郷に来て……はっ!?」

 さっと自分の背中を見る雅。そこには6枚の翼があった。俺の仮式は望に妖怪である事を隠していたのでサーッと顔が青ざめてしまう。

 だが、最後の抵抗なのか翼を叩き落してから笑顔で(もちろん、引き攣っている)望を見やる。

「あ、雅ちゃんの翼、取り外し可能なんだね」

 雅はその場で崩れ落ちた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。