「ちょ、ちょっと! お兄ちゃん!!」
俺の質問に反応したのは紫ではなく、望だった。
「何だ?」
「どうして!? 一番、聞くべきなのは呪いについてでしょ!」
「別に呪いの事は後で教えて貰えればいいし。呪いなんかよりずっと、能力の方が聞きたいから」
「だから、どうして!」
「そりゃお前が大事だからだよ」
思っている事を正直に言った。今の望には下手な嘘は通用しない。ならば、最初から喋った方が良いに決まっている。
「――ッ!?」
それを聞いた瞬間、望の顔が真っ赤に染まった。
「ぁ、え……も、もう! 恥ずかしい事、こんな所で言わないでよ!!」
そして、大声で文句を言いながらプイッとそっぽを向く。
「わ、悪い……」
「……全く、本当に仲が良いのね。まぁ、呪いの事もちゃんと教えてあげるから安心して」
溜息を吐いてから呆れた表情で紫が言う。
「サンキュ」
「それほどでも……いい? 今から言う事は全て本当の事よ」
何故、釘を刺すのかわからなかったが素直に頷いておいた。
「そうね……彼女の能力が少し、信じられないような能力だから」
「前置きはいいから早く教えてよ」
俺ではなく霊夢が紫に続きを促す。
「能力名は決めてあるわ。もう、これしか思いつかないほどピッタリな名前よ」
「で? その名前は?」
この中で一番、それを知りたいのは望だろう。その証拠に息を呑んでそう聞いていた。紫もクイズ番組で答えを発表する時のように数秒間、沈黙し口を開く。
「……『穴を見つける程度の能力』よ」
世界が凍った。ゆっくり、隣にいた望の様子を伺う。
「……」
もう、何も聞かなくても望が落ち込んでいるのがわかった。目に光を宿していない。
「まぁ、聞きなさいよ。まだ、説明は終わってないわ」
最初からこのような空気になるのを知っていたのか紫が少し、微笑みながら望を励ます。
「だって……穴を見つけるだけなんて」
それにしても望の落ち込みような異常だ。確かに幻想郷で生きて行こうと言うなら不安にもなるだろう。しかし例え、能力がクズでも外の世界で暮らすのならそこまで生活には困らないはず。先ほど、望も外で暮らしていくと言っていたではないか。
「順番に話すから顔を上げなさい。能力名が弱そうでも解釈によってはとても強力な能力になるのよ? 特に貴女の場合、『幻想郷で最も弾幕ごっこで有利に戦える能力』よ」
「弾幕ごっこで有利に?」
言っている意味がよくわからなかったので聞き返す。
「そうね……夜雀さん? 確か、望と弾幕ごっこしたわよね?」
「え? う、うん。そうだけど……」
話しかけられるとは思わなかったのか穴を塞いでいた手がビクッと震えてからそう答えるミスチー。だが、俺は紫の言葉が信じられなかった。
(望とミスチーが? でも……“どうして、両方共、怪我をしていないんだ?”)
弾幕ごっこは遊びだ。しかし、それは子供で言うチャンバラごっこと同じで多少、怪我をする。かすり傷や切傷、打撲など。俺だって被弾すれば数秒間、傷は残る。
望は幻想郷に来てまだ、3日ほどしか経っていない。それなのにミスチーと弾幕ごっこをして無傷でいられるはずがないのだ。
「その時、何かに気付かなかった?」
俺が困惑していると紫がミスチーにそう問いかけた。
「気付いた事? えっと……何か、最初から弾幕の隙間が見えてた感じがしたかな?」
「それって弾幕によってはわかるんじゃないですか?」
ミスチーの呟きに早苗が反応する。
「ううん。通常弾も含めて私の弾幕、全部見破られてたよ。しかも、弾幕の隙間を狙って石を投げて来たからね」
「い、石?」
我が妹は弾幕ごっこで石を投げたらしい。確かに反則(多分)ではないが、弾に当たれば消滅するか少なくとも弾かれてしまう。
「うん。弾に一回も当たらずに額にヒットさせられちゃって……」
あり得ない。通常やスペルカードの弾はほとんどが真っ直ぐ進むが前、右、左、上、下からと色々な方向から飛んで来る。それに曲がる弾もあるのだ。そんな中に石を投げ込めば当たらないわけがない。
そこまで考えてようやく、俺は気付いた。
「もしかして……弾幕の“穴”を見つける事が出来る?」
俺が放った言葉を聞いて紫と霊夢、永琳以外の人が目を見開いた。
「その通り。例え、弾幕が横に縦に前に後ろに変化してもその後の軌道を予測し、“穴”を見つける事が出来るの」
「あ! あの時の光……」
望も心当たりがあるようで、そう呟いた。
「ですが、それって本当に“穴”しか見つけられないのでは? さすがにそれだけでは最強とは……」
どうやら、藍も望の能力については知らないようで質問する。
「最初に解釈の問題って言ったでしょ? 他にも能力があるのよ」
「やっぱりですか……」
どうやら、望は何となく察していたようだ。
「能力名を聞いて変だと思ったんです。“穴”を見つけるだけだったら、『相手の嘘や疑問がわかる』なんて不可能だって……」
(相手の嘘や疑問がわかる?)
それには少しだけ覚えがある。食堂に来る前に『狂眼』について望に聞かれた時、誤魔化したら即座にばれたのだ。
「貴女は少し勘違いしているようね。私が言っているのは能力が複数あるって事じゃなくて『穴を見つける程度の能力』には主に3つの能力があるって意味よ」
「3つもあるの?」
さすがに霊夢もわからなかったようだ。
「なるほど……相手の嘘――つまり、弱みを見つける事が出来るのね」
永琳が補足してくれたが、あまり俺は納得できなかったので永琳に問いかけた。
「嘘や疑問が弱みなのか?」
「例え、嘘を吐く時っていつかわかる?」
「え? そうだな……相手に知られたくない事があった時か?」
質問に質問で返され、戸惑ってしまったが何とか自分の考えを口に出す事に成功する。それを聞いて永琳は頷いてくれた。
「だいだいはそうよね。それって弱みとは言えないのかしら?」
「う~ん、言えなくもない」
「じゃあ、その秘密がばれてしまってこちらが不利になるような事だったら?」
「それは弱みだな。弱点とか」
そこまで言って俺はハッとした。
「解釈の問題か……弱点を知られないように隠す。それって自分の本性を見せないって事だ。それを『嘘』と解釈する事で相手の嘘も弱点、下手したら本音さえもわかってしまう……そう言う事だな?」
「……そこの薬師。私の仕事を取らないで」
少しだけムスッとした紫が永琳に文句を言う。それを見て俺の推測が正しかったことが分かった。
「はいはい」
「でもよ? 疑問はどうなんだ?」
「自分にわからない事があるって弱みだと思うけど? 勉強とかでもテストでわからなければ減点でしょ?」
紫にそう言われ、納得する。
「すみません……次、私の疑問に答えて貰えませんか?」
紫に向かって早苗が申し訳なさそうにそう囁いた。
「ええ。いいわよ」
「少し、話が戻ってしまうんですが……穴を見つけるだけだったら石をぶつける事は不可能だと思います」
「え? 穴を見つけていれば石を投げられるんじゃないんですか?」
早苗の質問に反応したのは鈴仙だった。
「穴に石を投げても相手に届く前に穴が塞がって石が飲み込まれるじゃないかって……」
確かに弾は動き続けるので数秒間しか穴は発生しないはずだ。
「へぇ、なかなか頭がキレるのね。そこで3つ目よ」
「最後の能力ですね……」
望がごくりと唾を飲んだ。
(ん?)
何故だろう。俺はそんな望の様子を見て違和感を覚えた。
「勝利への道……そう、突破口を見つける事も出来るの」
それについて追究する前に紫が話を始めてしまう。違和感については後で聞く事にした。
「……突破口? まさか、どのように動けば勝てるかわかるとか言わないよな?」
自分で言っておきながら冷や汗を流してしまった。もし、本当ならばこの能力は――。
「ふふ。わかってるじゃない。ご名答よ」
――最強だ。
望の能力が判明しました。