東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第124話 音無 望

 望の能力。『穴を見つける程度の能力』。

 中身は“穴を見つける”。“相手の弱み(嘘や疑問、本音)を見つける”。“自分がどのように動けば勝てるかわかる――つまり、突破口がわかる”。

「強すぎるだろ……」

 例えばだ。俺と望が弾幕ごっこをするとしよう。俺はたくさん弾幕を放つが望に全て躱される。更に向こうからの攻撃は的確に俺の隙を突いて来るのだ。勝てるわけがない。

「ええ。確かに最強とも言えるわ。攻撃も防御も完璧なんだから」

「でも、その分、何かあるんですよね?」

 紫の言葉を否定したのは望本人だった。

「あら? どうしてそう思うのかしら?」

「誤魔化しても無駄ですよ? 今は“運良く”能力が発動してわかりましたから。私の能力にはムラがあるんですよね?」

 それを聞いて少し前に感じた違和感の原因がわかった。望の能力ならば紫の言いたい事は最初から分かっていたのではないのか。だが、望は何度か質問すらしている。つまり、能力が発動していないのだ。

「……そう、あまりにも強力すぎるのよ。常に能力は発動し続けていると貴女の頭はいつか耐えられなくなり、壊れてしまうわ」

「なので、能力自体がその危険を避ける為にわざとムラを作った」

「今も能力が?」

 紫が意外そうな表情を浮かべながら聞く。望の言った事は当たっているらしい。

「いえ……私の推測です」

 能力が強すぎるのも考え物だ。自分の体が耐えられなければ最強の能力などただの自殺する為の道具に過ぎない。

「他にもあるわよ。貴女、弾幕は放てる?」

 お茶を啜っていた霊夢が望に質問した。

「弾幕?」

 首を傾げてから望が俺を見る。どうやら、出し方を教えて欲しいようだ。

「ちょっと待ってろ。魔法『探知魔眼』」

 今は半吸血鬼化しているので魔力と霊力しか使えない。だが、『魔眼』は魔力を使う技なので発動する事が出来た。

 魔眼が発動した左目で望を見る。こうすれば、望の中に流れている力を見ながら望に弾幕の出し方を教えられるのだ。

「なっ……」

 だが、俺は望を見て唖然としてしまった。

「ど、どうしたの?」

 不安そうに妹が問いかけて来る。

「まぁ、魔眼を使わなくても他の皆もわかるわよ。その子、力がないの。まるっきり」

 霊夢がそう呟いたので他の人も望の中にある力を探ろうとしたが、全ての人が目を見開いてしまった。

「力がないって……弾幕を放つ事が出来ないって事ですか?」

「いや……それ以上だ。お前には霊力とかそう言った物が一切ない」

 霊力や魔力は実は人間、誰しもが持っている物だ。しかし、普通は微量しかないので気付かない人がほとんどなのだが、望にはない。霊力や魔力、神力、妖力と言った力がゼロ。

「正直言って生きているのが不思議なくらいね……」

 永琳のその呟きが望を更に不安にさせた。

「ねぇ? 紫さん、どういう事ですか?」

「貴女はもはや、死んだ人と同じって事よ」

「バカっ!? 変な言い方すんな!!」

 思わず、俺が叫んでしまったのでそれがトドメとなった。望の目が絶望の色に染まる。

「私……死んでるの?」

「……いいえ、死んではいないわ」

 望の手首を取って脈を測った永琳が教えてくれる。

「脈もあるし、血もちゃんと巡ってる。健康体そのものよ。だから、どうして力がないのか全く分からないわ」

「簡単よ」

 永琳でもわからなかった事を紫がバッサリと斬り捨てた。

「……能力ですか?」

 しかし、またもや能力が発動したようで望が先回りする。

「ええ。貴女の能力は強力ゆえ、大きすぎた。霊力があったら能力に目覚めなかった。だから、霊力を捨てた」

 パソコンで例えると容量が大きすぎて入らないソフトがあり、それを入れる為に他のソフトを消した、と言う事らしい。

「じゃあ、私は死んでるわけじゃないんだね……」

 安堵の溜息を吐きながら望。俺も最初は焦ったので安心する。

「でも、話を聞くとまるで能力に意志があるみたいだな……」

 そのせいかボソッと思った事を呟いてしまった。

 

 

 

「何言ってるの? 貴方が望に能力を与えたのよ?」

 

 

 

 俺の独り言に対し、紫が意見する。

「俺が?」

「考えてもみなさい。こんな強力な能力が自然にこの子に宿ると思う?」

 確かにおかしい。望が能力に目覚める可能性はなくもなかった。しかし、能力の方が明らかに強力過ぎる。まるで、神がイタズラで作ってしまったような能力だ。

「の、望……お前、能力に目覚めたのっていつ頃だ?」

 だが、俺は一つだけそれが起きる可能性を知っている。それを否定するために望に問いかけた。

「確か……東方やってた時が最初に発動したみたい。だから、去年の夏……お兄ちゃんとお母さんが失踪した辺りだと思う」

 ドンピシャだ。

「……その時、お前は何か願わなかったか?」

「願った?」

「ああ、『こうしておけばよかった』、とか」

「えっと……確か、『私にもっと力があったら、お兄ちゃんとお母さんを探しに行けるのに』って思ったかも」

 それを聞いて俺は戸惑った。そう、望の能力は俺が与えたも同然ではないか。

「すまん……お前の能力、きっと俺が作った物だ」

「つ、作った?」

「ああ……俺の能力が、な」

「能力を作る能力なの?」

 望の質問を受けて紫に目配せする。すると、紫は誰にも見られないように扇子を取り出して横に薙ぎ払った。きっと、望の能力を無効化させたのだろう。俺が誤魔化してもばれないように。

「すまん……口止めされてて」

「……もう、こういう時にどうして発動しないかな」

 紫の行動がばれていないようで望が落ち込んだ。

「でもな。これだけは言える。俺の能力はそんな、一言で説明できるような能力じゃないんだ」

「なんか、すごい能力っぽいね……」

 顔を引き攣らせて望。

「まぁ、その能力とこの名前があったからこそ幻想郷に来れたんだけどね」

「名前?」

「はい、そこまでよ」

 更に質問して来た望を紫が止める。

「え~……まぁ、いいや。それでお兄ちゃんの能力はどうやって私に能力を?」

 残念そうにした望だったが、すぐに切り替えて話を戻してくれた。

「詳しい事は言えないが……お前が『力を望んだ』。それに対して俺の能力が発動し、お前の“望”を叶えたんだ」

 だから、あり得ない能力が生まれた。バランスを考えず、使う本人の体を壊してしまうほど強力な能力。本来なら望は耐えられなかっただろう。しかし、それでは望の願いが叶った事にはならないはずだ。だからこそ、『俺の能力が望の力を捨てさせた』。その事を望に包み隠さず、明かした。

「お前の霊力は俺のせいで消えたんだ……ごめん」

 普通、謝っても許して貰えはしない。力とはそれほど人間――いや、生物には大事な物なのだ。

「……お兄ちゃん。一つ、質問いい?」

「何だ……?」

「去年の夏、お兄ちゃん……幻想郷に来たから失踪しちゃったの?」

「……ああ」

 今更、隠しても意味がない。紫はすでに望の能力を無効化するのをやめている。今、望の能力は活動しているのだ。嘘を言っても無駄なので素直に頷いた。

「そう……よかった。私の願い、叶ったよ?」

「え?」

「だって、私はお兄ちゃんを探す為に力を求めた。そして、今になって私の願いが叶ったの」

 望が微笑みながらそう教えてくれる。だが、俺は焦った。

(そんな言い方じゃまるで……“望も自分の力で幻想郷に来れるみたいじゃないか!”)

「その通りだよ。私、博麗大結界の亀裂を見つけてここに来たの」

 俺の穴(疑問)を見つけたのかとんでもない事を言い放つ妹。

「は、博麗大結界の亀裂!?」

 バッと霊夢の方を向いた。もしかして、結界に何か起きたのではないかと思ったのだ。

「大丈夫。たまに亀裂が入るのよ。それにほんの数分で塞がっちゃうから発見する事はほぼ、不可能だし亀裂が入っても外からじゃここの事なんて見えやしないわ。その子以外はね」

 どうやら、亀裂については心配する必要はないらしい。

「私……お兄ちゃんが失踪してからずっと、不安だったの」

 望が話し始めたので慌てて、前を向く。彼女を見ると少しだけ目に涙を溜めていた。

 


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